労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  テーエス運輸 
事件番号  大阪高裁平成26年(行コ)第189号  
控訴人(原告)  全日本建設交運一般労働組合テーエス支部(「組合」) 
控訴人(原告)  A1 
被控訴人(被告)  兵庫県(同代表者兼処分行政庁・兵庫県労働委員会) 
被控訴人補助参加人(被告補助参加人)  テーエス運輸株式会社(「会社) 
判決年月日  平成27年7月10日 
判決区分  原判決一部取消  
重要度   
事件概要  1 会社が、①平成20年度の年末一時金における収支改善協力金の支給、②同一時金の支給、③平成21年度の夏季一時金の支給について、それぞれ、組合員に対し、他組合の組合員及び未組織従業員との間に差額をつけて支給したこと、④組合員A1に対してけん責処分を行ったこと等が、不当労働行為に当たるとして救済申立てがあった。
2 兵庫県労委は、申立ての一部を認容(7条2号)し、その余を棄却した。
3 組合は、これを不服として神戸地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、組合の訴えを棄却した。
4 これを不服として、組合が大阪高裁に控訴をした事件の控訴審判決である。  
判決主文  1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 兵庫県労働委員会が兵庫県労委平成21年(不)第14号不当労働行為救済申立事件について平成24年1月26日付けでした命令のうち、別紙「救済申立て」第1項に係る申立てを棄却した部分を取り消す。
(2) 控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用のうち、補助参加によって生じた費用は第1、2審を通じてこれを5分し、その4を控訴人らの、その余を補助参加人の負担とし、その余の費用は第1、2審を通じてこれを5分し、その4を控訴人らの、その余を被控訴人の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 認定事実
ア 会社の業務は、配送先の高圧ガスタンクにタンクローリー車で液化ガスを運び込んで注入するというものであり、組合員と交通労連組合員は、いずれも全てその業務に従事する乗務員である。
イ 会社は、平成20年12月19日、組合に対し、本件年末一時金支給の提案に際し、各営業所において協力要請した業務に対する協力等を業務評価し、収益改善協力金として加算支給する旨の提案を行った。
 上記提案に対し、組合が同月20日、収益改善の範囲を明らかにした上で双方認識の一致の下で業務評価として行う旨回答したところ、会社は、同月21日、今年度の会社運営や業務の向上、安全推進等に功績があった業務係を対象に収益改善協力金として別途業務評価により上限5万円を個別支給すること、評価基準は別途案内すること等を提案した。
 組合は、同月22日、会社に対し、収益改善協力金については同月20日付けの見解のとおりである旨回答し、同月22日の団体交渉において、収益改善協力金については労使で話し合っていくこととされた。
 会社と組合は、平成21年1月22日、本件年末一時金について協定書を取り交わしたが、そこでは、収益改善協力金に関する条項は妥結未了のため記載されなかった。
 他方、会社と交通労連は、平成20年12月23日、本件年末一時金に関する協定書において、別途業務評価により収益改善協力金として上限5万円(契約社員は同3万円)を支給する旨の条項で妥結した。また、交通労連は、会社との交渉の過程において、「収益改善協力金¥50、000(契約社員を除く全組合員)」と記載されたビラを張り出した。
ウ B1社長は、平成21年1月13日、各営業所長に対して、「評価書ガイドライン①」という件名で、1次評価の指針となるべきS評価~D評価までの評価基準やC・D評価でも減点査定はしない旨記載されたメールを送信し、20項目の評価項目について自己評価と管理職評価という2つの評価欄並びに会社に対して貢献したこと、会社に対する要望及び管理職から従業員に期待することなどを記載する欄が設けられた評価シートを送付した。同日、会社総務課長B2(以下「B2」という。)は、組合に業績評価案を電話で説明した。なお、同評価シートには、評価の対象期間が「2008年(平成20年)1月乃至10月」と記載されていたが、会社は、同年5月から同年10月までを対象期間とする旨各営業所長に伝えた。会社は、各営業所長に対し、上記メールを送信したほか、評価に関する各営業所長からの質問に電話で回答するなどして評価方法を伝えた。
 B1社長は、平成21年2月4日、各営業所長に対し、提出された業績評価を見て気付いた点を指摘し、S評価の基準を示す旨のメールを送信した。
エ 会社は、平成21年1月14日から業績評価を開始し、同月15日、従業員に対し、自己評価を提出するよう求めたが、組合員は自己評価を行わず、営業所管理職との面談も拒否した。
 会社は、自己評価を提出しない従業員に対しては、管理職の評価をもって1次評価とし、自己評価を提出しなかったことを評価上マイナスに考慮しなかった。
 以上の1次評価は、評価シートの20項目に付されたスコアに、それぞれ会社の定めた係数を乗じた上、各項目を合計して1000倍した数値を支払原資で比例按分することで評価額が算定された。
オ 2次評価は、B1社長が管理職からの報告等を踏まえて行ったものであるところ、2次評価の結果、次のような評価の逆転現象等が見られた。①尼崎営業所では、1次評価が同営業所で最も低かった従業員に対し、2次評価において、「業務協力」を理由に同営業所で最も高い評価がされた結果、同人の査定が同営業所で最上位となり、上限額の5万円が支給された。
 ② 倉敷営業所では、1次評価が他の従業員7名と同程度であった者に対し、2次評価において、「整備協力」を理由に高い評価がされ、他の従業員は0円か1000円の評価しかされなかった結果、同営業所の中で上記の者だけが上限額の5万円を支給された。
 これら2次評価で評価が向上した従業員は、いずれも交通労連組合員であった。
カ 組合員は、42名全員が収益改善協力金の支給額の上限5万円の対象者であるところ、このうち上限である5万円を支給された組合員は4名であり、組合員に対する支給額の平均は2万8857円であった。組合員のうち5万円を支給された4名は、A4、A5、A6及びA7であるが、A7は、平成21年2月12日、組合に対し、支給日(同月20日)後である同月28日をもって脱退する旨届け出ていた。
 これに対し、交通労連組合員については、収益改善協力金の支給額の上限5万円の対象者である16名のうち14名に、上限である5万円が支給された。交通労連組合員のうち5万円が支給されなかった2名は、業務係として勤務している時に事故を起こしたことにより、支給当時、運送業務から外れていた者である。
キ 会社の四日市営業所においては、神奈川県川崎市所在の日本触媒からアルゴンガスを運搬する業務(以下、これを「日触運行」という。)が存在するところ、この日触運行は他の業務に比べて労働時間が長いものの、1台当たりの運行収入が通常の倍額に当たるものである。組合員は、日触運行は、平成13年8月20日国土交通大臣告示第1365号(改善基準告示)に違反する可能性が高いと主張し、半年間の協定が終了した後は、同業務に従事しなかった。しかし、会社は、日触運行に従事した者について、会社の収益増加に貢献したなどとして高く評価した。
ク B3所長は、平成21年1月9日、B1社長に対し、「私からの提案として、建交労はあくまでも平等が大好きなので、建交労組合員(一律)2万円か3万円でよろしいかと思いますが。本音は支給する価値はないと思いますけど。組合員達にも本当にこれで良いのかと思うぐらい、建交労の主張している拘束時間や仕事内容で、業務をさせる事により、給料やボーナスで交通労や非組合員と大きな比較ができる様に追い込みましょう。」と記載したメールを送信した。同日、B1社長は、各営業所長に対し、「皆さんは組合を離れ、よくやってくれた人に良い点をつけてください。最終調整は本社でします。いらない人は交通遺児育英基金等寄付先を案内します。」などと付言した上で、B3所長の上記メールを転送した。
(2) 本件命令における認定判断
 地労委は、収益改善協力金における評価項目や評価方法に不合理な点は見当たらず、組合員と交通労連組合員や未組織従業員との間で収益改善協力金の上限額を支給された者の比率が組合員の方が明らかに低いものの、会社が組合員を恣意的に低く評価しているとまでは認められず、個々の従業員に対して行われた評価を反映した結果であるとして、労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為には該当しないと判断した。
(3) 収益改善協力金の支給が不当労働行為に該当するかについて
ア 前記(1)で認定したとおり、組合員42名のうち収益改善協力金を支給額の上限である5万円支給された者は、A4、A5、A6及びA7の4名であり、このうちA7は、収益改善協力金の支給時において、近く組合を脱退することが予定されていた。そして、組合員に支給された収益改善協力金の平均額は2万8857円であった。
 これに対し、交通労連組合員については、収益改善協力金の支給額の上限5万円の対象者である16名のうち、事故を起こしたことにより支給当時運送業務に従事していなかった2名を除く14名に上限の5万円が支給された。
 上記の事実によれば、収益改善協力金の支給において、交通労連組合員は、高い評価を受けられないことが客観的に明らかと思われる少数の者を除いては、全員が上限額を支給されているのに対し、組合員のうちで上限額を支給されている者は同組合員の1割にも満たず、交通労連組合員と比較して支給額に顕著な差があり、全体として相当に低く評価されていたものといわざるを得ない。
イ 前記認定事実によれば、収益改善協力金に係る1次評価の評価項目は、各従業員の業務に対する従業員と管理職それぞれの認識を明らかにし、それらを踏まえて会社が全体的な見地から従業員の会社に対する貢献度等を評価するものと認めることができるから、それ自体不合理であるとは認められない。
 しかしながら、2次評価は会社のB1社長が行ったものであるところ、2次評価の具体的基準は本件全証拠によっても明らかでなく、B1社長自身も尋問において、2次評価における個々の従業員に対する評価の理由、根拠につき合理的な説明はできていない。一般的に、個々の従業員の勤務実績や日頃の仕事ぶりに関しては、B1社長よりも、日常的に各従業員と接している現場の管理職の方が正確に把握しているものと考えられるから、管理職が行った1次評価を2次評価で修正するには、それなりの合理的な理由、根拠があったはずであると推察される。それにもかかわらず、B1社長がこの点につき首肯できる説明をすることができていないことは、2次評価における評価内容の修正が、従業員の勤務実績や日頃の仕事ぶり以外の理由に基づくものではないかとの疑いを抱かせる事情であるというべきである。そして、2次評価において、同一営業所内で他の従業員より1次評価における評価が低かったり、他の従業員と評価が同程度であった交通労連組合員に対して、不自然に高い評価がされたと考えられる例が見られることは、前記(1)で認定したとおりである。
ウ また、前記認定事実のとおり、B1社長は、収益改善協力金の評価に当たり、各営業所長に対してメールを送信し、B3所長から来た「給料やボーナスで交通労(交通労連組合員を指すと認められる。)や非組合員と大きな比較ができる様に追い込みましょう。」などという内容のメールを転送するとともに、これに「皆さんは組合を離れ、よくやってくれた人に良い点をつけてください。」と付記している。
 B1社長自身が付記した上記の文言については、それ自体を見ると一義的に解釈することが困難なものといわさざるを得ないが、B3所長から来た上記の内容を含むメールを併せて転送していることからすると、B1社長の行為は、B3所長のB1社長に対する個人的な発言を紹介する形をとりながらも、収益改善協力金の支給に係る評価に当たり、各営業所長に対して、暗に組合員の評価を低くするよう促す一方、組合を離脱した者には高い評価を付ける方向で調整を図ろうとするものであったとみるほかはなく、たとえそうでないとしても、少なくとも、内容を閲読した各営業所長の側でそのような指示をされたものと理解することを予期してメール送信がされたものとみるのが相当である。
 そうすると、2次評価を行ったB1社長には、収益改善協力金の支給に当たり、組合を嫌悪し、組合員に対する支給額を低くして交通労連組合員及び未組織従業員との間に明らかな差異を設けようとする意図があったことが窺える。
エ 上記アないしウの各事情を考慮すると、組合員と交通労連組合員との間に生じた収益改善協力金の支給額の格差は、会社の組合に対する不利益取扱いによって生じたものと推認するのが相当である。
 そして、前記認定事実のとおり、組合員と交通労連組合員とは従事する業務において同質性が認められるところ、本件全証拠によっても、組合員の勤務実績や成績あるいは日頃の仕事ぶりが、交通労連組合員と比較して全体的に劣っていたなど、上記推認を左右するに足りる事情があるとは認められない。
 なお、前記認定事実のとおり、会社の四日市営業所においては、日触運行が存在し、交通労連組合員がこの業務に従事していることから、四日市営業所所属の交通労連組合員が会社から高い評価を得ていることについては合理性が認められる。しかしながら、四日市営業所以外の営業所に所属する交通労連組合員に対しても、組合員と比較して高い評価が与えられているのであって、このことに照らせば、四日市営業所所属の交通労連組合員が日触運行に従事していることで高い評価を得ていることは、上記判断を左右するものではない。
(4) 小括
 以上によれば、会社が、多くの組合員に対して支給額の上限である5万円を大きく下回る額の収益改善協力金を支給したことは、組合員を組合に所属することを理由として不利益に取り扱ったものと認めるのが相当であって、労働組合法7条1号の不当労働行為に該当するというべきである。また、そのことによって、組合の組合活動等の弱体化を意図して支配介入を行ったものとして、同条3号の不当労働行為にも該当するというべきである。
2 争点(2)について
(2) 当審における組合らの補充主張に対する判断
ア 組合らは、ワンマン運行協定の改定に関する前提条件を付せば組合が拒むことは明白であったこと、ワンマン運行協定の改定の内容自体に合理性がないこと等からすると、ワンマン運行協定の改定を本件年末一時金の支給の前提条件として付することに合理性があるとはいえないなどと主張する。
イ 労働組合と使用者との間の団体交渉は、双方の自由意思に基づいで行われることが原則であるところ、団体交渉において、使用者が労働組合が受け入れないと認識している条件を他の労働条件の前提として付した場合それだけで直ちに不当労働行為が成立すると解するときは、使用者としては労働組合が受け入れないと表明した条件を団体交渉の場に持ち出すことを封じられる結果となりかねないから、そのような解釈が相当であるとはいえない。
 そして、本件におけるワンマン運行協定の改定が経済的合理性を欠いたものでないことは、原判決を引用して既に認定・説示したとおりである。そうすると、会社が、専ら組合や組合員を不利益に取り扱う目的の下に、会社にとって必要性や合理性のないワンマン運行協定の改定を条件として提示したとは認められないから、会社が本件年末一時金の支給交渉の際にワンマン運行協定の改定を条件としたことが不当労働行為に当たるとはいえない。
 組合らの上記主張は採用することができない。
3 争点(3)について
(2) 当審における組合らの補充主張に対する判断
ア 組合らは、会社が交通労連との間で合意した内容に係る前提条件を付せば組合が拒むことは明白であったこと、会社の付した上記前提条件の内容自体に合理性がないことからすると、本件夏季一時金の支給に前提条件を付することに合理性があるとは認められないと主張する。
イ しかしながら、団体交渉において、使用者が労働組合が受け入れないと認識している条件を他の労働条件の前提として付した場合それだけで直ちに不当労働行為が成立すると解することが相当でないことは、前記のとおりである。
 そして、会社が交通労連との間で取り交わした協定書に含まれている7つの条件が不合理であるとはいえないことは、原判決を引用して既に認定・説示したとおりである。そうすると、本件夏季一時金の支給に前提条件を付することに合理性が認められないとはいえないから、会社が本件夏季一時金の支給交渉の際に条件を付したことが不当労働行為に当たるとはいえない。
 組合らの上記主張は採用することができない。
4 争点(4)について
(2) 当審における組合らの補充主張に対する判断
ア 組合らは、A1に対するけん責処分はA1が組合員であることを理由としたものであるから、不当労働行為が成立すると主張する。
イ しかしながら、原判決を引用して既に認定・説示したとおり、A1は、液化ガスという危険物を取り扱う業務に従事していながら、会社で定められたマニュアル・指示書の記載内容を認識していたにもかかわらず、自らの判断であえてこれに従わなかったものである。このように、A1の行為が、故意に基づく職務規範への違反行為であった以上、非難に値するものであったことは明らかであり、組合らが主張するような形式的なマニュアル違反行為としてこれを軽視することは許されないものというべきである。したがって、A1に対するけん責処分当時、会社がA1に対する処分の必要性がないことを認識しながら、あえて上記処分を行ったと認めることはできない。このことは、仮に会社が新潟こばり病院の安全弁が作動したことをもA1に対するけん責処分の理由としていたとしても同様である。
 また、組合らは、重大な事故を発生させたA2やA3が懲戒処分を受けていないことと比較しても、A1に対するけん責処分は組合員であることを理由としたものと認められると主張する。しかし、懲戒処分の当否やその内容を決するに当たっては、当該行為の結果だけではなく、当該行為が故意によるものであるか否かを含む行為態様も重要な考慮要素となるというべきであり、A2やA3が懲戒処分を受けていないとしても、同人らの行為が過失による事故である以上、両者を比較して直ちに、A1に対する処分が合理性を欠くとか、会社の不当労働行為意思によるものであると認められるなどということはできない。
 そうすると、組合らの指摘する諸点から、A1に対するけん責処分が組合員であることを理由としたものであると認めることはできないから、組合らの上記主張は採用することができない。
5 謝罪文の掲示について
 組合らは、本件命令のうち,別紙「救済申立て」第5項に係る申立て(謝罪文の掲示)を棄却した部分の取消しをも求めている。
 既に説示したとおり、会社が組合員と交通労連組合員との間に差額を設けて収益改善協力金を支給したことは違法であるが、支給額の差額がそれほど高額ではないこと等の事情からすれば、会社に謝罪文の掲示まで命ずる必要があるとは認められない。  
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
兵庫県労委平成21年(不)第14号 一部救済 平成24年1月26日
神戸地裁平成24年(行ウ)第54号 棄却 平成26年11月17日
最高裁平成27年(行ツ)第416号・417号、平成27年(行ヒ)第453号・454号 上告棄却・却下・上告不受理 平成28年7月5日
 
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