労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  黒川乳業(13年労働協約改定等) 
事件番号  中労委平成18年(不再)第25号・第27号 
再審査申立人  黒川乳業株式会社 
再審査申立人  関西単一労働組合 
再審査被申立人  黒川乳業株式会社 
再審査被申立人  関西単一労働組合 
命令年月日  平成22年4月7日 
命令区分  一部変更 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、①労働協約改定等の提案(以下「協約改定提案」)に際し、X1分会員の生理休暇取得日がわかる資料を組合及び別労組に配付したこと、②分会のビラ配布及びストライキ時の集会開催を妨害したこと、 ③ 労働協約改定提案に係る団交(以下「協約改定団交」)に誠実に対応せず、 団交を打ち切り、 その後の団交に応じなかったこと、 ④ 前記①及び② に関する謝罪を求める団交(以下「謝罪要求団交」)に誠実に対応せず、 団交を打ち切り、その後の団交に応じなかったこと、⑤前記①に係る労働協約の解約等をしたこと(以下「労働協約解約」)、⑥前記⑤に伴い、就業規則を改定した上、分会員に適用したこと、⑦分会員2名に対し、遅刻届の不提出を理由に始末書の提出を命じ、始末書を提出しないことを理由に懲戒処分としたこと、⑧前記⑤に伴い、組合事務所の貸与を中止して明渡しを求めたこと及び代替組合事務所の貸与に係る団交に応じなかったこと、⑨X2分会員の担当業務を一部変更し、その後全面的に変更した上、これらに係る団交に応じなかったこと、が不当労働行為に当たるとして申し立てられた事件である。
2 初審大阪府労委は、前記①の資料配付、②のうちビラ配布妨害、⑧のうち代替組合事務所貸与に係る団交拒否、⑨のうち担当業務の全面的変更及び同問題に係る団交拒否について、それぞれ不当労働行為に該当するとして、(i)ビラ配布妨害の禁止、(ii)代替組合事務所貸与に係る団交応諾、(iii)X2を従前担当していた業務(ただし、一部変更に係る業務を除く)に従事させること、(ⅳ)文書手交、を命じ、その余の申立てを棄却したところ、組合及び会社は、いずれもこれを一部不服として再審査を申し立てた。
命令主文  1 初審命令主文第2項及び第4項の(3)を取り消し、これらに係る救済申立てを棄却する。
2 初審命令主文第5項中、組合事務所貸与に関する労働協約の解約及び組合事務所明渡請求に係る救済申立てを棄却した部分を取り消す。
3 初審命令主文第4項に次のとおり加える。なお、同項中、「A」を「X3」と、「B」を「Y」と、「大阪府労働委員会」を「中央労働委員会」と改める。
   (3)組合事務所貸与に関する協約を解約し、 組合事務所明渡しを求めたこと。
4 その余の本件各再審査申立てを棄却する。
判断の要旨  1 生理休暇取得状況一覧表作成・配布(争点①)について
 会社は、他の従業員からの批判等が生理休暇取得者であるX1に向けられ、精神的打撃を受けることを予測しつつ団交資料として本件資料を配付したものと推認できるから、資料の配付は、同人が会社と対立関係にある組合に所属していたこと及び同人の組合活動を理由として精神的な不利益を与えたものといえ、同時に、組合の運営に対する支配介入にも該当する。
2 ビラ配布妨害(争点②-ア)について
 会社がそれまで容認してきたビラ配布を禁止するようになったのは、労働協約改定提案以降、組合がこれに強く反対する機関紙を配布し始めたことから、組合の同提案に反対する組合活動を牽制しあるいは抑制することを企図したものとみることができ、この会社の行為は、組合の活動に対して干渉を加えるものであるから、組合の運営に対する支配介入に該当する。
3 ストライキ時の構内集会妨害(争点②-イ)について
 会社が組合の行うストライキ時の構内集会を容認していたとは認められず、当該集会を行うことにつき労使慣行が成立していたとはいえない。そして、本件ストライキ時の構内集会に対する工場正門封鎖等の会社の措置は、施設管理上行われたと認めることができるので、不当労働行為の成立を認めることはできない。
4 労働協約改定団交(争点③)について
 会社は、協約改定団交が進展しない状況の中で十数回にわたり改定実施を延期し、団交による決着をみて改定するとの態度を示していたほか、組合が求める謝罪要求団交との交互開催の提案など、協約改定団交開催のために譲歩する姿勢を示していたのに対し、組合は、改定に反対であり、団交を行っても合意形成の可能性が全くなく、 今後もこのような姿勢をとり続けることを表明していた。これらのことからすると、団交を十分に行う時間がなかったとしても、その責任を会社のみに求めることはできず、また、団交は8回行われ、さらに協議を重ねても合意が形成される可能性は全くなくなっていたことから、団交について会社が不誠実であったとはいえず、このような状況に至って会社が団交を打ち切ったことは不当労働行為には該当しない。
 また、労働協約解約予告後に行われた団交については、その位置付けをめぐる対立により実質的協議が行えなかったものであるから、同団交についても、会社が不誠実な対応であったとか、正当な理由なく拒否したということはできない。
5 謝罪要求団交(争点④)について
 謝罪要求団交の議題に関する合意後、第4回まで団交が行われており、それ以上の交渉による合意形成は困難な状態であると認められ、団交における会社の回答等につき、特段不誠実な点は見当たらない。そして、第5回から第7回の団交では、組合の要求により上記議題以外の団交が行われていること等から、会社が、組合にとって謝罪要求団交を進展させる必要性は低いものとなったとみたとしても無理からぬものといえる。
 会社は、労働協約解約予告後は謝罪要求団交に応じなかったが、上記の事情からすれば、会社が団交に応じなかったことに正当な理由がないとはいえない。
6 労働協約解約(争点⑤)について
 会社は、協約改定団交が行き詰まり、合意成立の見込みがないと判断して労働協約解約に踏み切ったもので、その手続も労組法の定めに従っている。そして、労働協約改定等の提案及び解約について、会社が組合と別労組を差別的に取り扱った事情はないことからすれば、労働協約解約は、組合弱体化の意図等の不当労働行為意思に基づくものと認めることはできず、不当労働行為に当たるということはできない。
7 就業規則改定、 改定就業規則の分会員への適用(争点⑥)について
(1) 就業規則の変更は、組合の弱体化を意図したものとは認められない上、別労組とことさら差別的に取り扱ったということもできず、その手続、内容ともに相当なものであり、不当労働行為意思に基づくものとはいえない。また、分会員への就業規則適用自体が不当労働行為に当たるとは認められない。
(2) 改定就業規則の現実の適用のうち、組合活動による欠勤をマイナス評価の対象とし、分会員の一時金を減額したことについては、有効な組合活動協約に反するものであり、組合活動を理由に、これまでの取扱いを変更して一時金査定につき不利益に取り扱ったものであるから、不当労働行為に当たるが、分会員が既に減額分の支払を受けたことにより不利益が回復し、今後会社が同様の行為を繰り返すおそれがあるとは認められないから救済利益が失われた。
8 分会員に対する懲戒処分(争点⑦)について
 会社は、分会員2名の遅刻に対して遅刻届の提出を命じ、督促したが従わなかったとして訓戒処分に付し始末書の提出を求めたが、これも拒んだため発した警告書に従わなかったので、両名を出勤停止処分(1日)を付した。
 会社による就業規則の変更、 分会員への適用は不当労働行為に当たらず( 上記7の(1))、 遅刻届の提出は新就業規則に基づくものであり、 処分には合理的理由があると認められ、他方で、処分が組合の組合員であるがゆえになされたものであるとか、組合の弱体化を企図して行われたものと認めるに足る証拠はない。よって、本件懲戒処分は不当労働行為に該当しない。
9 組合事務所貸与中止等(争点⑧-ア)について
 組合が組合事務所を老朽化等によりしばらく使用しなかったところ、会社が障害物を置いて出入りを困難にし、組合の撤去要求等に対応しなかった経過に加え、代替組合事務所の提供等を申し出ていないこと、別労組に対しては協約の解約を申し出ず貸与したままであることを総合すると、会社が組合事務所貸与の協約を解約し、明け渡 しを求めたことは、組合の運営に支配介入したものといわざるを得ない。なお、会社が既に分会に組合事務所を貸与している本件においては、改めて団交を命じる必要性は失われた。
10 代替組合事務所貸与に関する団交拒否(争点⑧-イ)について
 会社は、組合が求めた代替組合事務所貸与等に関する団交について、労働協約改定をめぐる団交は時間切れであるとして拒否した。
 組合事務所が利用できない状態となったことについては会社に主たる原因があり(前記9)、組合は、 組合事務所貸与の協約が解約された後、代替組合事務所に関する団交を求めており、また、別労組には組合事務所が継続して貸与されているのであるから、当該団交については、協約改定団交の行き詰まりや時間切れをもって団交拒否の正当な理由とすることはできず、会社が、当該団交を拒否したことは不当労働行為に該当する。
 ただし、前記9のとおり、 既に代替事務所が貸与されているので、 団交拒否についての救済を行う利益は失われているから、本件に係る救済申立ては棄却する。
11 X2の担当業務の一部変更等(争点⑨-ア)について
 分会員X2は、従業員の個人的な情報を知りうる立場にあることを利用して、これを漏洩したと推認できるから、会社が、情報管理の必要上、同人を当該担当業務の一部から外したことには相応の理由があるといえ、他方で、分会員であることが理由であると認めるに足りる証拠はないから、不当労働行為に当たるということはできない。
12 X2の担当業務の全面変更等(争点⑨-イ)について
 担当業務の一部変更以降、X2に業務上の重大なミスや情報漏洩の事実は認められず、業務の遂行能力を欠いていると認めるべき事情等はなく、同人を担当業務のほとんどから外したことに合理的理由はない。このことに、当時会社と組合は紛争状態にあり、同人も活発な組合活動をしていたこと等を考え合わせると、会社が同人の担当業務を全面的に変更し、ほとんど業務に就かせないものとしたことは、同人に仕事上の不利益を含む精神的な不利益をもたらしたものとして労組法7条1号に該当し、同時に、不利益な取扱いを従業員に示すことにより、組合の運営に支配介入したものとして、同条3号の不当労働行為に当たる。
 また、組合員の担当業務やその変更等はその労働条件に関わるものであるから、労組が団交を求めた場合には使用者は応諾義務があり、会社が同問題に係る団交を拒否したことには正当な理由がなく、同条2号の不当労働行為に当たる。
13 結論
 以上のとおりであるので、初審命令中、(i)組合事務所貸与に関する労働協約を解約し、組合事務所の明け渡しを求めたこと(争点⑧-ア)に係る救済申立てを棄却した部分、及び(ii)代替組合事務所貸与に関する団交拒否(争点⑧-イ)に係る救済を行った部分を取り消し、(i)については主文第3項のとおり命じ、その余の部分については、本件各再審査申立てを棄却する。
掲載文献  

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成11年(不)第107号・平成12年(不)第43号・平成14年(不)第19号・平成14年(不)第57号 一部救済 平成18年 4月 7日
東京地裁平成23年(行ウ)第70-1号 棄却 平成24年10月11日
 
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