労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  黒川乳業(13年労働協約改定等)  
事件番号  東京地裁平成23年(行ウ)第70-1号  
原告   関西単一労働組合  
被告   国(処分行政庁:中央労働委員会)  
判決年月日  平成24年10月11日  
判決区分  棄却  
重要度   
事件概要  1 会社が、①労働協約改定等の提案に際し、X1分会組合員の生理休暇取得日がわかる資料を組合及び別労組に配付したこと、②分会のビラ配布及びストライキ時の集会開催を妨害したこと、 ③ 労働協約改定に係る団交(以下「協約改定団交」という。)に誠実に対応せず、 団交を打ち切り、 その後の団交に応じなかったこと、 ④ 前記①及び② に関する謝罪を求める団交(以下「謝罪要求団交」という。)に誠実に対応せず、 団交を打ち切り、その後の団交に応じなかったこと、⑤前記①に係る労働協約の解約等をしたこと、⑥前記⑤に伴い、就業規則を改定した上、分会組合員に適用したこと、⑦分会組合員2名に対し、遅刻届の不提出を理由に始末書の提出を命じ、始末書を提出しないことを理由に懲戒処分としたこと、⑧前記⑤に伴い、組合事務所の貸与を中止して明渡しを求めたこと及び代替組合事務所の貸与に係る団交に応じなかったこと、⑨X2分会組合員の担当業務を一部変更し、その後全面的に変更した上、これらに係る団交に応じなかったことが、不当労働行為に当たるとして、大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪府労委は、前記①の資料配付、②のうちビラ配布妨害、⑧のうち代替組合事務所貸与に係る団交拒否、⑨のうち担当業務の全面的変更及び同問題に係る団交拒否について、それぞれ不当労働行為に該当するとして、(1)ビラ配布妨害の禁止、(2)代替組合事務所貸与に係る団交応諾、(3)X2を従前担当していた業務(一部業務を除く。)に従事させること、(4)文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。
 組合及び会社は、これを不服として、それぞれ再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令を一部変更した(代替組合事務所貸与に係る団交応諾について取り消すとともに、組合事務所貸与に関する労働協約の解約及び組合事務所明渡請求に係る救済申立てを棄却した部分を取り消す等)。
 本件は、これを不服として、組合が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、組合の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 生理休暇取得一覧表作成・配布に係る不当労働行為の救済方法(争点1)
 組合は、本件命令において、生理休暇取得一覧表の回収等の措置が命ぜられるべきであったとして、生理休暇取得一覧表作成・配布に係る不当労働行為の救済方法を争う。
 しかし、上記一覧表は、生理休暇無給化提案に際して会社から組合及び別組合に対して資料として添付し配布され、その後10余年を経ており、文書自体に散逸しているものがあることも窺われる。本件命令も、かかる見地から、一覧表の回収を命令することは相当ではなく、文書手交の方法による救済がなされるべき旨を命じたと解され、相応の合理性を認めることができ、その判断に裁量権を逸脱する違法があるとはいえない。
2 分会のストライキ時の集会開催の妨害に関する不当労働行為該当性(争点2)
(1) 組合は、構内集会を開催することについて、組合と会社間にその旨の労使慣行があった旨主張する。
 しかし、中労委は上記組合の主張を否定し、組合主張の労使慣行などなく組合らが会社の制止を振り切って構内集会を強行したこともあるとの庶務課長及び専務の反対趣旨の供述もあるところ、組合主張に係る労使慣行の存在を証し、あるいは会社がこれを容認していたとみることができる的確な証拠はない。
 かえって、会社は工場正門に「許可なく工場施設内への立ち入りを禁ずる」旨の立看板を設置していたが、組合のストライキでは、分会組合員のみならず、組合員ら外部の支援者も工場構内に入構して集会を行い、会社から車の出入りの邪魔になる旨の申入れがされたり、平成6年のストライキに際しては、会社が組合員や支援者の工場構内への立入りを制限ないし禁止し、構内集会を阻止したこともあったことが認められる。
 これらによれば、会社が、構内集会を容認していたとみることはできず、むしろ阻止すべきと認識していたとみることができる。したがって、組合主張の労使慣行が成立していたとまでは認めるに足りない。
(2) しかるところ、会社は、労働協約改定提案後に行われた組合のストライキの際に、構内集会は禁止し出て行くよう求め、今後構内集会を行わないよう文書で申し入れるなど、こうした会社の措置は、構内集会等が分会組合員以外の組合員や部外者が構内へ立ち入ることを踏まえ、施設管理の必要上行われたとみることができる。
 してみると、会社が組合の行う構内集会につき上記措置をとったからといって、支配介入の不当労働行為(労組法7条3号)に該当するということはできない。
3 協約改定団交拒否等の不当労働行為該当性(争点3)
(1) 組合は、会社が、協約改定団交において、不誠実で形式的な対応に終始し、未交渉の事項が残っていたのに、団交を打ち切ったことは、労組法7条2号、3号の不当労働行為に該当すると主張する。
 組合と会社間には、深刻な対立があったが、会社は協約改定団交についてねばり強く開催申入れをし、また、労働協約改定内容についても、組合に資料・根拠は示して、交渉条件等について尋ねるなどもしている。
 他方、組合は、労働協約改定内容が労働者に不利な内容を含むものであったにしても、団交の開催に前向きな姿勢を示すことに乏しく、限られた時間の中で、対案・条件を示したりするなどの形跡も窺われず、議論を積み重ねて理解を深めようとする姿勢にも乏しかった。
 組合は、会社の提案当初から労働協約改定に反対の姿勢を示して白紙撤回を求める旨を表明し、その後の団交では、歩み寄りの余地がなく、検討を行う意思もないことを表明するなど、団交を行っても合意形成の可能性がなく、このような対応を今後もとり続けると解されてもやむを得ないものである。
 以上に照らすと、労働協約改定問題に関する団交を十分に行う時間がなかったとしても、その責任を会社のみに求めることはできず、さらに議論を重ねても、平行線のままで推移し、合意形成の可能性を想定できない状態であったから、会社が不誠実であったということはできず、また、会社が団交を打ち切ったことが労組法7条2号、3号所定の不当労働行為に該当するということはできない。
(2) 組合は、労働協約解約予告後に行われた団交に、会社が応じなかったことについても、不当労働行為が成立すると主張する。
 しかし、組合は、それまでの団交で、新たに労働協約締結のためとの会社の主張を撤回しなければ団交は進められないとし、他方で、具体的な条件や対案を示すなど従前と異なる変化を見せてもおらず、実質的協議が進展する見込みはなく、同団交についても、会社が不誠実な対応であったとか、正当な理由なく拒否したということはできず、労組法7条2号、3号所定の不当労働行為に該当するということはできない。
4 謝罪要求団交拒否の不当労働行為該当性(争点4)
 第1回から第4回までの謝罪要求団交では、会社として一定の回答やその根拠等の説明を行ったものの、議論は平行線をたどり、それ以上の交渉により合意を形成するのは困難な状態になっていた。また、以上の団交での会社の回答や説明に、不誠実な点は見当たらない。
 そして、第5回から第7回までの謝罪要求団交で、組合の求めにより他の問題を議題とする団交が行われることとなり、この結果、謝罪要求団交は約11か月間行われず、組合も求めることがなかったから、会社が、組合にとって、同団交をそれ以上進展させる必要性の低いものとなったとみたことにも相応の理由はある。
 また、会社は、組合が労働協約解約予告後に改めて申し入れた謝罪要求団交に応じなかったが、同団交は、第4回目の時点には合意形成が困難な状態に至っていた上、仮に交渉の余地があったとしても、会社が、組合にとって同団交をそれ以上進展させる必要性の低いものとなったと考えるにつき相応の理由ある状況にあったから、会社が以後の団交に応じなかったとしても、正当な理由がないとはいえない。
 すると、謝罪要求団交における会社の対応が不誠実であったとは認められず、また、組合が改めて申し入れた謝罪要求団交に応じなかったことにも正当な理由がないとはいえないから、不当労働行為が成立するという組合の主張は採用できない。
5 労働協約解約(争点5)
 会社は、労働協約の改定をめぐる団交については、行き詰まり状態となり、合意成立の見込みがないと判断して、労働協約解約に踏み切ったとみることができる。そして、労働協約の改定提案及び解約は、組合事務所の返還要求及び組合事務所貸与協約等の解約を除き、別労組にも同様に行われており、組合と別労組を差別的に取り扱った事情もないから、会社が差別的意図をもっていたということもできず、解約手続も労組法15条3項の定めに従っている。
 してみると、会社による労働協約解約は、組合弱体化の意図等の不当労働行為意思に基づくとは認められないから、不当労働行為に当たるということはできない。
6 就業規則改定、改定就業規則の分会組合員への適用(争点6)
(1) 組合は、会社が就業規則を変更し、適用したことにつき、労組法7条2号、3号の不当労働行為が成立する旨主張する。
 ア 〔就業規則改定〕のうち、遅刻に関する取扱いの変更が就業規則の不利益な変更に当たるが、本来仕事に従事するものに賃金が発生することに照らすと、遅刻をしても賃金の減額を受けないという利益は、労使間に特段の合意のない限りは法的保護に値する程度が大きいとはいえず、また、遅刻した労働者に遅刻届を提出させたり、賃金を減額することは、遅刻防止という合理的な目的に沿うともいえる。してみると、旧就業規則の変更の必要性は肯認でき、新就業規則の内容も、相当な範囲にとどまるということができる。
 そして、会社が、組合に労働協約改定を提案し、2年余にわたり団交を行ったが、平行線のまま行き詰まり状態となり、労働協約を解約したこと及びこの会社の対応が不当労働行為に該当しないことは前記5で判断したとおりである。してみると、就業規則の改定が不当労働行為意思に基づくということはできない。
 したがって、この点につき労組法7条3号の不当労働行為があるということはできない。
 イ また、組合は、会社が、組合との団交を行わないまま就業規則の変更を行った点に労組法7条2号の不当労働行為が認められるとも主張する。
 しかし、就業規則の改正内容は労働協約改定提案とほぼ同一内容であり、組合と会社の対立の下、労働協約改定に関する団交が打ち切られた経過に照らすと、就業規則の変更に際して団交を行わなかったことが正当な理由のない団交拒否に当たるとはいえない。
(2) また、組合は、変更された就業規則の条項を現実に適用した措置についても労組法7条1号の差別的取扱い及び同条3号の支配介入に該当する不当労働行為がある旨主張する。
 ア 病休無給化に関する部分の変更後の就業規則は、分会組合員には適用されないから、この賃金カットは根拠なく行われ、現実に賃金を失っているから、不利益に取り扱われたと一応いえる。また、一時金査定における〔組合活動による欠勤の〕マイナス評価も不利益に取り扱われたことになる。
 もっとも、賃金カットについては、会社が行った労働協約の解約が有効であり、変更した就業規則がすべての従業員に適用になると誤信して行ったとみられるので、組合員であることや分会組合員の組合活動を理由として賃金カットを行ったと認めることはできず、また、別労組組合員とことさらに差別的な取扱いを行ったということもできない。
 したがって、この点に関する新就業規則の分会組合員への適用が不当労働行為ということはできない。
 イ 次に、新賃金規則13条の査定に関する規定は、従業員に不利益に変更されたとはいえないものの、組合活動を理由とする欠勤については、過去、不利益な取扱いをしないこととされており、労働協約改定案や労働協約解約の対象に含まれてもおらず、組合活動による欠勤を一時金の査定においてマイナス評価の対象とすることは、なお効力を有する労働協約のもとでの取扱いに反し、分会組合員を従来に比べ不利益に取り扱うものである。
 しかるところ、分会長ら3名は、組合活動による欠勤を理由に一時金査定におけるマイナス評価を受け、一時金を減額されており、これは、組合活動を理由に、これまでの取扱いを変更して一時金査定につき不利益に取り扱ったから、不当労働行為が成立する。
 ウ しかして、分会組合員は、病欠を理由とする賃金カット分及び一時金のマイナス査定分については、別件判決確定後間もなく会社から任意に支払を受けており、この部分に関する不利益は既に回復されていると認められる。そして、今後、会社が同様の行為を繰り返すおそれがあると認めるに足りる証拠もない。
 すると、組合が求める救済利益は失われ、この点についての救済申立ては棄却すべきである。
7 分会組合員に対する懲戒処分(争点7)
(1) 会社が労働協約の解約等をしたこと及び就業規則を変更し、分会組合員に適用したこと自体は、不当労働行為に当たるということはできない。そして、会社が、〔組合員2名に〕遅刻届の提出を求めたのは、新就業規則に基づくものであり、会社が分会組合員の遅刻を奇貨としてことさらに遅刻届の提出を求めたと認めるべき的確な証拠はなく、遅刻届の提出命令が、組合員であるがゆえになされたとか、組合の弱体化を企図して行われたということはできない。〔30分未満の遅刻をした場合〕遅刻届の提出を免れるとの労使慣行の存在を認めるべき的確な証拠はなく、就業規則の変更及びその適用が不当労働行為に当たるということができず、全従業員に等しく適用される以上は、遅刻届等を提出させようとしたからといって、組合員であるが故になされたとか、組合の弱体化を企図して行われたとみることはできない。
 そして、訓戒処分は、分会組合員両名が、会社の督促にもかかわらず、遅刻届を提出しなかったことに対して、就業規則に基づき行われたもので、就業規則に違反して行われたとの事情は存しない。
 したがって、訓戒処分は合理的理由があると認められ、他方で、同処分が組合員であるが故になされたとか、組合の弱体化を企図して行われたと認めるに足らない。
(2) また、出勤停止処分は、分会組合員両名が、訓戒処分により提出を命じられた始末書を提出しないことに対して、就業規則に基づき行われたもので、訓戒処分が合理的理由のあるものとして不当労働行為に該当するものではないから、出勤停止処分を合理的理由のないものとすることはできず、また、同処分が組合員であるがゆえになされたとか、組合の弱体化を企図して行われたとも認めるに足りない。
(3) 以上のとおりであるから、会社の上記行為が労組法7条1号の不利益取扱い又は同条3号の支配介入に該当するということはできない。
8 代替組合事務所貸与の団交拒否に係る救済方法(争点8)
 一般に、団交拒否の不当労働行為が成立する場合でも、当該団交における団交事項が当事者間で解決済みとなった場合には、同種の紛争の再発のおそれがあるなど特段の事情が認められる場合を除き、被救済利益は失われると解される。本件命令は、会社の代替事務所貸与がなされたことを踏まえ、交渉事項は既に解決済みとなったとし、同種の紛争が再発するおそれがあるとは認められないと判断して、改めて代替組合事務所の貸与に関する団交拒否についての救済を行う利益は失ったとしており、その判断は首肯できる。
 そして、その他特段の事情があるとも認められないから、本件命令に裁量権の逸脱があったとして違法があるということはできない。
9 X2組合員の担当業務の一部変更等の不当労働行為該当性(争点9)
 X2組合員は、総務部で出欠勤一覧表作成などの業務を担当するなど従業員の個人的な情報に接する立場にあったところ、分会長に対し、他の従業員に係る病気欠勤についての情報を提供するなど、従業員の個人的な情報を知りうる立場にあることを利用して、情報を漏洩したと推認できるから、会社が、情報管理を適切に行う必要上、X2組合員を出欠勤一覧表作成担当から外したことには相応の理由がある。他方、会社と組合の関係を考慮しても、会社が、X2組合員が分会組合員であることを理由に当該担当業務の変更を行ったと認めるに足りる的確な証拠もない。
 以上のとおりであるから、X2組合員の担当業務の一部変更が、労組法7条1号の不利益取扱い、同条3号の支配介入及び同条4号に該当するということはできない。
10 X2組合員の担当業務の全面的変更等の不当労働行為の救済方法(争点10)
 組合は、初審命令の救済方法では不十分であり、出欠勤一覧表作成業務をX2組合員に戻すべきである旨主張する。
 しかし、上記9によれば、X2組合員の担当業務の一部変更は不当労働行為に当たらないから、初審命令の限りで救済を命じた本件命令は相当である。その判断に裁量権を逸脱する違法があるということはできない。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成11年(不)第107号・平成12年(不)第43号・平成14年(不)第19号・平成14年(不)第57号 一部救済 平成18年 4月 7日
中労委平成18年(不再)第25号・第27号 一部変更 平成22年4月7日
 
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