事件名 |
湘南工科大学 |
事件番号 |
中労委 平成 7年(不再)第52号
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再審査申立人 |
学校法人湘南工科大学 |
再審査被申立人 |
個人3名 |
再審査被申立人 |
湘南工科大学教職員組合 |
命令年月日 |
平成12年 2月16日 |
命令区分 |
一部変更(初審命令を一部取消し) |
重要度 |
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事件概要 |
大学が、(1)教授会から教授昇任候補者として推薦された者のう
ち、同大学助教授で組合員であるX1、X2、及びX3の3名のみを教授に任用しなかったこと、(2)教授会をして同人らに係
る教授昇任の推薦取下げを決議させたこと、(3)組合員に対して脱退慫慂を行ったこと及び(4)不当労働行為救済申立てに関
し、申立人らを誹謗中傷したことが不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件で、申立人X1ら3名を教授に任用したも
のとしての取扱い及びその間のバックペイ並びに文書掲示を命じた初審命令中、文書掲示を命じた主文第三項を一部変更し、その
余の再審査申立てを棄却した。 |
命令主文 |
I 初審命令主文第三項を次のとおり改める。
3 再審査申立人、本命令交付後、速やかに下記の文書を縦1メートル、横
1.5メートルの白色木版にかい書で明瞭に墨書し、再審査申立人の1号館
の見やすい場所に、き損することなく10日間掲示しなければならない。
記
去る平成 年 月 日、中央労働委員会において、当法人が、教授会から
教授昇任候補者として推認された貴殿らを教授に任用しなかったことは労働
組合法第七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為であり、当法人のか
かる行為に対して貴組合及び貴殿らが不当労働行為救済申立てを行ったこと
を非難する等の内容の理事会見解を教職員に送付し、掲示したことは、労働
組合法第七条三号及び第四号に該当する不当労働行為であり、教授会をして
上記推薦の取下げを決議せしめたことは、労働組合法第七条第一号及び第三
号に該当する不当労働行為であり、また、当法人の学長が、貴殿らに貴組合
からの脱退と上記救済申立ての取下げを迫ったことは、労働組合法第七条第
三号に該当する不当労働行為であると認められました。
今後、このような行為を繰り返さないよういたします。
平成 年 月 日
湘南工科大学教職員組合
執行委員長 X1 殿
同組合員 X1 殿
同組合員 X2 殿
同組合員 X3 殿
学校法人湘南工科大学
理事長 Y1
II その余の本件再審査申立てを棄却する。 |
判定の要旨 |
1200 降格・不昇格
X1ら3名の教授不任用は、法人が自らの意に反する言動をなす組合を嫌悪し、また、「教授は管理職であり非組合員であって、
組合員は教授に任用しない」との方針の下に教授任用に当たっていたところ、X1ら3名が組合結成以来、組合員であって、組合
の中心的な活動を担ってきており、Y1学長の脱退慫慂にも翻意することなく組合員であり続けようとしたことから、X1ら3名
に教授に任用しない不利益を与えることによって、組合の活動に介入し、その弱体化を企図したことにあったものと判断せざるを
得ない。したがって、X1ら3名の教授不任用を不当労働行為に当たるとした初審判断は、結論において相当である。
2610 職制上の地位にある者の言動
法人は、理事会見解の掲示等は、組合の教宣活動に対抗する適正妥当な手段であり、言論の自由の範囲内にあると主張する。しか
し、その表現と文書構成からすると、理事会見解は組合らに対する悪印象を与えることを企図し、組合らが申立てを行ったことそ
のものを非難することにより組合の運営に介入するとともに、教職員各位に協力を要請する反面協力しない場合には不利益を被り
かねないことを示唆するなど、X1ら3名を孤立化させることを企図したものと言わざるを得ない。したがって、理事会見解を不
当労働行為に当たるとした初審判断は、結論において相当である。
3422 その他の者の言動
法人は、法人から独立性を有する教授会が推薦取下げ決議を行ったのであるから、申立てはその前提を欠き却下されるべきものと
主張する。しかし、推薦取下げ決議は、教授会当日になって議題として追加されたものである等手続的に不自然な点があること、
法人の最大の功労者であるY1学長が「組合員を教授にしたときは自分は学長を辞めさせてもらう」旨を発言していること、理事
会見解により教授会としても見解を出すよう迫られていたこと、その内容も「教授は管理職であり、非組合員であるべきである」
とのY1学長や理事会の考え方と軌を一にしていること等から、実質的には、法人が教授会をしてなさしめたものと判断せざるを
得ない。したがって、推薦取下げ決議を不当労働行為に当たるとした初審判断は、結論において相当である。
5004 管理職への登用の請求
法人は、大学における教授の任用等の人事事項は、憲法上「大学の自治」が保障されていること等から、行政審査の対象にならず
行政権力の介入は許されないと主張する。しかし、不当労働行為救済制度の趣旨は、使用者による団結権侵害行為を禁止するとと
もに、その実効性を担保するために労働委員会に救済命令の権限を与え、当該労使間における正常な労使関係秩序を回復するため
に必要な範囲において、労働委員会に広範な裁量を認めている。本件においても、そこに労使関係があり、労働委員会が不当労働
行為の成立を認めた場合には、当該労使関係にとって最も適切な救済命令を発し得ることは当然である。そして本件は、X1ら3
名が法人の不当労働行為によって教授に任用されなかったのであり、推薦取下げ決議自体が法人の不当労働行為であったのである
から、その救済としては、かかる不当労働行為がなかったならば昇任したであろう教授へ任用されたものとして取り扱うよう命じ
ることが最も適切妥当な救済であり、不当労働行為制度の趣旨に適い、かつ労働委員会に許された裁量の範囲内にあるものであ
る。
5200 除斥期間
初審命令は、X1ら3名以外の組合員に対し脱退勧奨があったとして、文書掲示を命じている。しかしながら、脱退勧奨の有無等
初審認定事実の有無はともかくとして、いずれもその時期は、申立ての日である平成3年7月1日以前1年以上前のことであるこ
とから、当該部分にかかる初審命令は取り消さざるを得ず、初審命令主文第三項の文中、これら脱退勧奨にかかる部分を削除す
る。
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業種・規模 |
教育(自動車教習所を含む) |
掲載文献 |
不当労働行為事件命令集116集834頁 |
評釈等情報 |
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