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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和6年(行ウ)第405号
日本貨物検数協会再審査申立棄却命令取消請求事件 
原告  X支部 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会(「中労委」))
 
被告補助参加人  Z法人 
判決年月日  令和8年4月15日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 X支部は、Z法人との間で、Z法人、C1法人、C2法人及びC3法人(「4協会」)に指定された事業体(「指定事業体」)からの職員採用に関し、「平成28年度から平成30年度まで、毎年度約120名の採用を実施するよう努力する」と記載された平成28年3月23日付け確認書(「28.3.23確認書」)を締結していたところ、Z法人に対し、①平成28年8月24日付けで指定事業体であるC7会社(「C7会社」)の職員であるX支部の組合員3名につき、②同年10月3日付けで指定事業体であるC8会社(「C8会社」)の職員であるX支部の組合員1名(①及び②の組合員の双方又は一方を「本件組合員」)につき、それぞれ、Z法人への転籍に関する団体交渉の申入れ(「本件団交申入れ」)をし、Z法人からこれを拒否された(「本件団交申入れ拒否」)。
 本件は、本件団交申入れ拒否につき、労働組合法(「労組法」)7条2号の不当労働行為に該当するとして、救済申立てがなされた事案である。
2 初審大阪府労働委員会は、X支部の申立てを棄却したところ(「本件初審命令」)、X支部は、これを不服として、再審査を申し立てた(「本件再審査申立て」)。
3 中労委は本件再審査申立てを棄却したところ(「本件命令」)、組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 同地裁は、組合の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 労組法7条の「使用者」の意義について
⑴ 労組法7条にいう「使用者」とは、一般に労働契約上の雇用主をいうものであるが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、上記事業主は同条の「使用者」に当たると解するのが相当である(最高裁平成7年2月28日第三小法廷判決・民集49巻2号559頁参照)。そして、このことを敷えんするならば、同条の使用者は、労働者と雇用関係のある使用者のほか、当該労働者の基本的な労働条件等に対し、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有している者や、近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある者など、雇用関係に近似し、又は隣接する関係を基盤とする者がこれに当たるものである。その上で、直接の雇用関係のない派遣先等が「使用者」として団体交渉義務を負うのは、①就労状況に照らし、雇用関係に近似した関係が成立していると認められる場合、すなわち、派遺先等が交渉事項について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的、具体的な支配をしていると認められる場合、又は、②雇用関係に隣接した関係が成立していると認められる場合、すなわち、近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある場合において、当該交渉事項に限って認められると解するべきである。

⑵ これに対し、X支部は、労組法7条の「使用者」とは、労働関係に対して、不当労働行為法の適用を必要とするほどの実質的な支配力ないし影響力を及ぼす地位にある者と広く解すべきである旨主張する。
 しかしながら、労組法7条の「使用者」は、労組法が助成する団体交渉を中心とした団体的労使関係の当事者としての使用者を意味する独自の概念ではあるものの、労使関係は雇用関係を基盤として成立するものであり、同条2号は、その文言上、「使用者が雇用する労働者」の代表者との団体交渉の拒絶を不当労働行為としている。加えて、同条の「使用者」に該当するとされた者は、誠実に団体交渉に対応することを求められ、これを拒否すれば救済命令(同法27条の12)の名宛人となり、不当労働行為の責任主体として不当労働行為によって生じた状態を回復すべき公法上の義務を負担し、確定した救済命令(同法27条の13)を履行しなければ過料の制裁(同法32条)を受ける立場におかれる。これらのことからすると、Ⅹ支部が主張する上記解釈は、雇用関係による限定を超え、「使用者」の外延を不明確にするものといわざるを得ないから、採用することができない。

2 Z法人が本件組合員の労組法7条の「使用者」に該当するか否か(本件争点)について
⑴ ①就労状況に照らし、雇用関係に近似した関係が成立していると認められる場合、すなわち、派遣先等が交渉事項について現実的、具体的な支配をしていると認められる場合に該当するか否かについて
ア 本件団交申入れにおける交渉事項は、Z法人において、28.3.23確認書に基づき、C7会社又はC8会社で働く本件組合員をZ法人の正規労働者として無条件で移籍(転籍)させることであり、雇用関係の存在を前提としてその労働条件等を交渉しようとするものではなく、まさに雇用ないしその条件そのものを問題とするものといえる。そうすると、このような団交事項との関係でZ法人が雇用主と部分的とはいえ同視することができる程度に現実的かつ具体的に支配していたといえるためには、本件組合員を採用し、雇用を継続するか否かを中心とする雇用そのものについて、雇用主と同視できるような関係があったことが必要であると解すべきである。

イ これを本件についてみるに、C7会社はZ法人の指定事業体であること、同社の代表取締役はZ法人からの出向社員であること、別件地位確認訴訟判決において当時の同社の取締役全員がZ法人の職員であったと認定されていること、Z法人の職員がC7会社の職員に対して日常の業務内容についての指導や注意を行い、出勤時間等を通知していたことが認められる。
 しかし、これらをもってZ法人が、本件組合員を採用し、雇用を継続するか否かを中心とする雇用そのものについて、C7会社と同視できるような具体的な関与等をしたとはいえず、Z法人に雇用主と同視できるような関係があったとは認められない。

ウ(ア) Z法人がX支部との間で28.3.23確認書を締結し、その内容が、Z法人がX支部に対して「指定事業体からの職員採用に関しては、平成28年度から平成30年度まで、毎年度約120名の採用を実施するよう努力する。」ことを確認するものであったことが認められる。
 しかし、28.3.23確認書は、「努力する」との文言からすると、これをもってZ法人が本件組合員を雇用する義務を負うことを定めたものと解することはできない。また、28.3.23確認書が締結された当時の状況をみても、本件組合員のZ法人への移籍(転籍)に関しては、Ⅹ支部の上部団体であるA1組合が加盟するA8労連が、従前から、Z法人を含む4協会の指定事業体職員の直接雇用を求めており、Z法人に対し、地域職員制度につき、採用試験の実施や地域職員の賃金が正規職員よりも低いことなどを問題視して中止を申し入れ、B1法人に対しても、直接雇用に際して採用者の労働条件は正規職員と同一とするよう申入れをしていたところ、X支部も、そのような方針に沿って、Z法人に対し、一貫して無条件での移籍(転籍)を主張し、これに対し、Z法人は、地域職員制度による採用を主張していたのであるから、28.3.23確認書は、少なくとも、本件組合員がZ法人に移籍(転籍)する場合の採用条件について合意に達した上で締結されたものとは認められない。そして、このことは、28.3.23確認書において上記採用条件に関する記載が一切ないことからも裏付けられているといえる。
 そうすると、28.3.23確認書が締結された当時の状況からしても、Z法人が、28.3.23確認書の「努力する」との文言を超えて、X支部に対し、本件組合員を直接雇用する義務を負う旨の意思表示をしたと認めることはできず、28.3.23確認書は、その文言のとおり、Z法人が指定事業体から毎年度約120名の職員を採用することにつき努力することを確認したものにとどまるものと解される。
 したがって、28.3.23確認書が締結されたことをもって、Z法人が、本件組合員を採用し、雇用を継続するか否かを中心とする雇用そのものについて、C7会社と同視できるような具体的な関与等をしたとはいえず、Z法人に雇用主と同視できるような関係があったとは認められない。

(イ) この点、X支部は、28.3.23確認書について、①X支部は交渉過程でZ法人の主張する地域職員制度を前提とした採用を拒否しており、採用試験を実施するなどの条件が何ら付されていないため、地域職員制度を前提としない無条件での採用を確認したものであり、②Z法人との間で締結されたため採用対象者には本件組合員が当然に含まれ、③「努力」の文言は実行することを意味する上、採用を前提として採用条件や労働条件は別途協議すれば足りるところ、当該協議の成立も見込まれ、④具体的な採用の時期、人数の合意もあるから、Z法人がX支部に対し、具体的に本件組合員の直接雇用を約束するものであったと主張する。
 しかし、上記①については、平成26年12月から平成28年3月3日の時点までの約1年3か月もの間一貫して地域職員制度(地域限定職員制度)に基づく採用を主張していたZ法人が、28.3.23確認書の締結前のわずか約3週間という短期間で従前の方針を撤回し、賃金等の経済的負担が増加すると考えられる無条件での移籍(転籍)に合意したとは考え難いし、仮にZ法人がそのような合意をしたのであれば、雇用条件の重要性や双方が激しく対立していたことからすると、28.3.23確認書において当該合意の存在を明文化することが自然かつ合理的と考えられるが、前記(ア)のとおり、そのような記載は見当たらない。
 上記②についても、仮に本件組合員を採用対象者とすることについて合意していたのであれば、28.3.23確認書においてその旨を明記すれば足り、そのことにつき特段支障も見当たらないが、28.3.23確認書にはその旨の記載がないことからすると、本件組合員を採用対象者とすることについての合意があったとは認めることができない。
 上記③のうち、採用条件の合意の見込みがあったとの主張については、前記(ア)のとおり本件組合員のZ法人への移籍(転籍)に係る採用条件に関してX支部とZ法人との間で激しく主張が対立していたことと整合しないし、その余の主張は、X支部の独自の見解に基づくものというほかない。
 上記④については、Z法人が採用を「努力する」ものとしているにすぎない以上、「平成28年度から平成30年度まで、毎年度約120名」の特定のみをもって、Z法人が具体的な雇用義務を負うことを認めたものと解することはできない。
 したがって、28.3.23確認書は、Z法人がX支部に対し本件組合員の直接雇用を約束するものとはいえない。
 また、X支部は、28.3.23確認書について、仮にZ法人が雇用の努力義務を負うにとどまるとしても、文書で約束している以上はいかなる努力をしたかや採用の具体的結果、採用人員が確認書記載のとおり達成できなかった理由等につきZ法人が団体交渉を拒否することは禁反言の法理に照らして許されない旨主張する。
 X支部の主張は、組合との間でその組合員を採用することにつき努力義務を定めた文書を作成した当事者は当然に団体交渉に応じる義務を負うとの趣旨と解されるが、前記1⑵のとおり、そのような解釈は、雇用関係による限定を超え、「使用者」の外延を不明確にするものといわざるを得ない。
 よって、X支部の主張をいずれも採用することはできない。

エ Z法人は、X支部との間で、28.3.23確認書の締結と同じ日付で、両者が「C7会社の労働問題について、金壱億円の「解決金」をもって和解する。」と記載された和解書(「28.3.23和解書」)を締結した上、同日、X支部に対して1億円を解決金として支払ったこと、X支部らは、Z法人がその指定事業体であるC7会社の労働者の労働条件について雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配しており、同社の職員に対する配置転換等やC7会社に対する労働基準監督署からの是正勧告に関するZ法人の団体交渉申入れ拒否などが不当労働行為であるとして、Z法人及びC7会社を被申立人とする救済申立てをしていたが、28.3.23和解書の締結及びこれに基づく解決金の支払から間もなく同申立てを取り下げたことが認められる。
 これらのことからすると、Z法人は、少なくとも、上記救済申立ての取下げに関し、別法人であるC7会社の労働問題に関し、1億円もの相当高額といえる和解金をX支部に支払うなどしたことが認められるが、28.3.23和解書において、Z法人が本件組合員の労組法上の使用者に該当することを確認する記載はなく、上記「C7会社の労働問題」の具体的な内容についても、28.3.23和解書に記載がなく、その文言自体からは明らかといえない。
 また、28.3.23和解書の締結及びこれに基づく解決金の支払に関する経過をみても、Z法人は、本件組合員とは労使関係にないことを理由として、X支部側から求められたⅩ支部とC7会社との面会への同席や本件組合員のZ法人への移籍に関する直接の団体交渉、労働基準監督署からC7会社に対する是正勧告に関する直接の団体交渉及びⅩ支部とC7会社との労使紛争において指導的役割を果たすことをいずれも拒否し、Z法人名古屋支部の担当者がX支部とC7会社との団体交渉に出席しているものの、Z法人が派遣先としてなすべき回答をした後は速やかに退席したことが認められ、これらを踏まえると、Z法人は、一貫して、自らが本件組合員の労組法上の使用者には該当しないことを前提とする対応をしていたといえる。
 そうすると、Z法人が、28.3.23和解書の記載内容を超えて、自らを労組法7条の「使用者」と認識し、当該地位に基づいて28.3.23確認書の締結及びこれに基づく解決金の支払をしたとは考え難く、これをもってZ法人が、本件組合員の雇用そのものについて、雇用主であるC7会社と同視することができるような関係にあったと認めることはできない。

オ X支部のA9委員長又はA11副委員長が、Z法人のB3労務部長に対し、㋐C7会社が名古屋南労働基準監督署から是正勧告を受けた未払割増賃金に係る提案には応じられない旨を伝え、㋑C7会社による未払割増賃金に関する説明には誤りがあると主張し、㋒C7会社の団体交渉における未払割増賃金に関する計算書や新賃金体系の提案に係る対応について不満を述べたこと、また、B3労務部長がX支部のA11副委員長に対してC7会社の未払割増賃金の遡及払に関する提案を伝えたことが認められるが、他方で、上記未払割増賃金の問題については、X支部とZ法人との間で締結された28.3.23和解書とは別に、X支部とC7会社との間で、割増賃金の不足額の支払方法などにつき協議することなどを内容とする平成28年3月23日付けの確認書(「28.3.23C7確認書」)が締結され、労使協議の上誠意をもって対応することが確認されていたことや、B3労務部長からの上記連絡の後は、X支部とC7会社との間で団体交渉が行われるなどした結果、未払割増賃金の問題は解決に至っていることも認められる。
 これらの各事情を踏まえると、C7会社による未払割増賃金の問題は、X支部とC7会社との間で、交渉により解決されるべきものと合意された上、団体交渉等によって合意に至り、解決したものといえる。Z法人のB3労務部長は、飽くまでも、当該交渉当初の段階で、X支部側からの不満等の連絡に応対したため、やむを得ず、C7会社側からの提案を伝える取次役を果たしたにすぎない。そうすると、B3労務部長の上記対応をもって、Z法人がC7会社を現実的かつ具体的な支配をし、上記問題に積極的に介入したものと評価することはできない。

カ その他、本件において、Z法人が、本件組合員を採用し、雇用を継続するか否かを中心とする雇用そのものにつき、雇用主と部分的とはいえ同視できるような関係があったことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、Z法人について、C7会社又はC8会社で働く本件組合員をZ法人の正規労働者として無条件で移籍(転籍)させるという本件団交申入れにおける交渉事項に関し、雇用主と部分的とはいえ同視することができる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたと認めることはできない。

⑵ 28.3.23確認書に基づき、②雇用関係に隣接した関係が成立していると認められる場合、すなわち、近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある場合に該当するといえるか否かについて
ア Z法人は、X支部との間で、Z法人がX支部に対して「指定事業体からの職員採用に関しては、平成28年度から平成30年度まで、毎年度約120名の採用を実施するよう努力する。」ことを確認する28.3.23確認書を締結している。
 しかし、前記⑴ウ(ア)のとおり、28.3.23確認書は、Z法人が指定事業体から毎年度約120名の職員を採用することにつき努力することを確認したものにとどまるものと解される。加えて、平成27年10月頃の指定事業体の人員数は、944名とされており、28.3.23確認書のとおり、平成28年度から平成30年度までの3年間に毎年度指定事業体から約120名の職員採用が実施されたとしても、その合計人数(約360名)を遥かに上回っていることからすると、28.3.23確認書が本件組合員を上記指定事業体からの職員採用対象者に含むことを確認したものと認めることはできない。そうすると、Z法人は、28.3.23確認書によって、X支部に対し、平成28年度から平成30年度までに指定事業体から毎年度一定人数の職員を採用することについて努力するべき立場におかれたにすぎず、仮に当該職員の採用を実施するとしても、本件組合員を採用するか否かについては、その裁量に基づき決定することができたというべきである。
 よって、28.3.23確認書は、Z法人がX支部に対して本件組合員の直接の雇用関係締結を約束したものとはいえず、近い将来において、Z法人が本件組合員を雇用することによってZ法人と本件組合員との間に雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性があったとは認められない。

イ なお、X支部は、A8労連が指定事業体の職員を4協会で直接雇用するよう運動を展開する中で、X支部とZ法人が交渉を重ね、28.3.23確認書を締結するに至ったという業界全体なX支部とZ法人との間における労使関係の一連の展開に着目すれば、指定事業体を巡る問題は労使自治に基づいて解決に近づいていたとみることができるから、Z法人は、本件組合員との間に「近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存する者」といえる旨主張する。

(ア) しかし、前記⑴ウ(ア)のとおり、28.3.23確認書が締結された当時の状況をみても、28.3.23確認書は、少なくとも、本件組合員がZ法人に移籍(転籍)する場合の採用条件について合意に達した上で締結されたものとは認められない。
そうすると、前記⑴ウ(イ)(③)で述べたところと同様に、28.3.23確認書が締結された当時、上記採用条件に関するX支部とZ法人との間の主張の対立が解決に近づいていたとは認められないから、これを前提とするX支部の主張を採用することはできない。

(イ) したがって、X支部のその余の主張を踏まえても、X支部とZ法人が28.3.23確認書を締結したことにより、X支部とZ法人との間に雇用関係に隣接した関係が成立していると認められる場合、すなわち、近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある場合に該当するとは認められない。

⑶ 労働者派遣法40条の6が定める労働契約の申込みみなし制度に基づき、②雇用関係に隣接した関係が成立していると認められる場合、すなわち、近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある場合に該当するといえるか否かについて
ア 本件団交申入れの時点において、Z法人は、本件組合員のうちC7会社の職員に対し、労働者派遣法40条の6第1項5号及び本文に基づき、労働契約の申込みをしていたものとみなされ、その効力が存続しており、派遣労働者である当該職員がこれに対する承諾の意思表示をすれば両者の間に雇用関係が成立する状態にあったことが認められる。
 ところで、上記の労働者派遣法40条の6が定める労働契約の申込みみなし制度は、違法な労働者派遣の是正に当たって、派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定が図られるようにするため、同条1項各号に該当する行為が行われた場合、当該行為を行った時点において、労働者派遣の役務の提供を受ける者が派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなす制度であり、その趣旨は、善意無過失の場合を除き、違法な労働者派遣を受け入れた者にも責任があり、そのような者に民事的な制裁を科すことにより、労働者派遣法の規制の実効性を確保することにあるものと解するのが相当であり、労働者の希望を的確に反映するために、当該行為が行われた場合に労働者派遣の役務の提供を受けた者との間に直ちに労働契約を成立させるのではなく、その成立を労働者の承諾の意思表示に係らしめることで、労働者に対して派遣元との従前の労働契約の維持と派遣先との新たな労働契約の成立との選択権を付与したものであるといえる。そして、労働者派遣法40条の6第1項に基づくみなし申込みに対する承諾の意思表示は、このような選択権の行使の結果として派遣先との間に新たな労働契約を成立させるものであるから、通常の労働契約締結における承諾の意思表示と基本的には異なるものではないというべきである。
 そうすると、労働者派遣法40条の6第1項5号及び本文に基づき、労働契約の申込みをしていたものとみなされ、その効力が存続している場合においては、派遣労働者が、これに対する承諾の意思表示をすれば、両者の間に雇用関係が成立する状態にはあるが、将来における労働者による選択権の行使の結果によっては、派遣先との間に新たな労働契約が成立しないこととなる可能性も存することになる。
 もっとも、派遣元との従前の労働契約の維持と派遣先との新たな労働契約の成立との選択権を付与された労働者が組合に所属している場合において、当該組合が、派遣先に対し、そのような新たな労働契約の成立を前提として、その労働条件を交渉事項とする団体交渉の申入れをしたときには、通常は、当該労働者が、近い将来において派遣先との間に新たな労働契約を成立させることを想定しつつも、派遣労働者がみなし申込みを承諾することにより成立する派遣先との間の労働契約は、派遣先が当該みなし申込みに係る行為を行った「その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件」(同法40条の6第1項柱書。派遣元における労働条件と同一の労働条件)を内容とする労働契約であることから、その労働条件について団体交渉をしようとしているものと解するのが自然かつ合理的といえる。そして、このような場合には、近い将来において労働者による承諾の意思表示がされ、労働契約が成立する現実的かつ具体的な可能性の存在が推認され、Z法人は、近い将来において雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある場合に該当するものとして、労組法7条の「使用者」に該当するというべきである。
 これを本件についてみるに、本件団交申入れにおける交渉事項は、Z法人において、28.3.23確認書に基づき、C7会社又はC8会社で働く本件組合員をZ法人の正規労働者として無条件で移籍(転籍)させることとされている。その内容は、雇用条件につき、新規採用によらず移籍(転籍)とする点において、上記の労働契約のみなし申込みに対する承諾がされた場合とは相違している。現に、X支部は、本件組合員がZ法人に雇用された場合、移籍(転籍)を前提として、指定事業体において取得した有給休暇が引き継がれることを求めている。また、労働条件についてみても、前記⑴ウ(ア)のとおり、X支部の上部団体であるA1組合が加盟するA8労連は、B1法人に対し、4協会の指定事業体職員の直接雇用を求め、直接雇用に際して採用者の労働条件は正規職員と同一とするよう申入れをし、X支部も、そのような方針に沿って、Z法人に対し、一貫して、本件組合員につき、Z法人の正規職員と同一の労働条件による雇用を求めていたところ、本件団交申入れの交渉事項も、これと同趣旨の無条件での移籍(転籍)とされていることからすると、派遣元における労働条件と同一の内容とはしていない点において、上記の労働契約のみなし申込みに対する承諾がされた場合とは異なる(なお、A11副委員長は、本件団交申入れ以前に、指定事業体の職員のZ法人への移籍(転籍)につき、当初からZ法人の労働条件によることができなくても協議の余地がある旨述べているが、本件団交申入れにおいて、交渉事項にはそのような記載がない以上、X支部がZ法人に求めた労働条件は上記のとおりであったというべきである。)。
 これらのことからすると、本件団交申入れに係る交渉事項については、派遣先であるZ法人との間に、派遣元であるC7会社におけるのと同一の労働条件を内容とする労働契約を新たに成立させることを前提とするものと解することはおよそ困難であり、むしろ、そのような労働契約の成立を否定するものと解することが合理的といえる。よって、本件団交申入れについては、本件労働契約のみなし申込みを承諾することにより新たに成立する労働契約を前提とし、その労働条件について団体交渉をしようとするものと解することはできない。そうすると、本件団交申入れの時点において、近い将来において、本件組合員のうちC7会社の職員により、労働者派遣法40条の6第1項5号及び本文に基づくZ法人による本件労働契約のみなし申込みに対して承諾の意思表示がされ、Z法人との間で労働契約が成立する現実的かつ具体的な可能性があったとは認められない。

イ なお、X支部は、労働契約申込みみなし制度が、偽装請負などの「法違反の是正方法として派遣先で雇用させることが、派遣先の法違反への関与実態等からしても妥当であるもの」を対象に申込みをみなすものとした制度であることからしても、みなし申込みが存在する場合には、直接雇用の原則に回帰すべき派遣先が直接雇用をすべき立場にあり、直接雇用後の労働条件等についての団交申入れについて応ずべき立場にある旨主張する。

 しかし、前記アのとおり、労働者派遣法40条の6が定める労働契約の申込みみなし制度は、違法な労働者派遣の是正に当たり、派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定が図られるようにするとの趣旨に基づき、労働者に対して派遣元との従前の労働契約の維持と派遣先との新たな労働契約の成立との選択権を付与したものである。本件のように、派遣先との間に派遣元におけるのと同一の労働条件を内容とする労働契約を新たに成立させることを前提とするものと解することはおよそ困難であり、むしろ、そのような労働契約の成立を否定するものと解されるような場合については、当該選択権の行使としての承諾の意思表示がされないことが明らかである以上、これにより近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性があるとはいえず、このような場合についてまで、派遣先が、労組法7条の「使用者」に該当するとして、直接雇用後の労働条件等につき、団体交渉応諾義務を負うということはできないというべきである。

ウ また、X支部は、①客観的に近い将来において派遣労働者との間に雇用関係が成立する可能性が現実的かつ具体的に存し、かつ採用後の労働条件等に関する申入れであるにもかかわらず、みなし申込みを前提にした申入れについては使用者性が認められ、そうでない団交申入れについては使用者性が否定されるのは、不合理であり、②X支部が偽装請負状態にあり申込みがみなされている状態にあることを認識できないまま本件団交申入れをしたのは、Z法人が、労働者が知り得ないZ法人とC7会社との間の契約形式について偽装請負を隠蔽するという労使間の信義に悖る行為をしたためであり、これによりZ法人団体交渉に応ずべき立場を免れることになるのは不当である旨主張する。
 しかしながら、上記①については、みなし申込みを前提としない団交申入れについては、雇用関係が成立する余地がないのであるから、みなし申込みを前提とした団交申入れと異なり、使用者であることを認められないとしても、不合理とはいえない。
 また、上記②については、X支部が、Z法人の労働契約のみなし申込みの効力が存続していたさ中(後記⑸のとおり平成29年4月1日の到来まで存続している。)、本件初審命令に係る審理において、平成29年3月17日付け主張書面により、労働者派遣法40条の6が定める労働契約のみなし申込みの発生可能性に言及していることからすれば、少なくとも、本件組合員の代理人であったと主張するX支部において、申込みみなし制度や偽装請負の存在を認識し意識していたと認められる(平成29年法律第44号による改正前の民法101条1項参照)。したがって、X支部の主張は前提を欠き、採用することができない。

⑷ 直接雇用の要求が、労働者派遣法40条の6が定める本件労働契約のみなし申込みに対する承諾の意思表示に該当し、これに基づき雇用契約が成立したといえるか否かについて
ア X支部は、本件団交申入れ等においてX支部が本件組合員を代表して行った要求の本質は直接雇用であり、本件組合員は直接雇用後の労働条件を採用時の絶対条件とせず、これを直接雇用の実現後に交渉する意思を有していたとし、Z法人と本件組合員との間において労務提供及び賃金支払の点で意思表示が合致して雇用契約が成立しており、直接雇用の要求を承諾の意思表示と評価することができる旨主張する。

イ しかしながら、前記⑶アのとおり、本件団交申入れに係る交渉事項は、本件労働契約のみなし申込みを承諾することにより新たに成立する労働契約を前提とし、その労働条件について団体交渉しようとするものではないから、本件団交申入れ等を本件労働契約のみなし申込みに対する承諾の意思表示と評価することはできない。
 よって、X支部の前記アの主張を採用することはできない。

⑸ 本件組合員から改めて労働者派遣法40条の6が定める労働契約のみなし申込みに対する承諾の意思表示がなされ、その時点においても同規定の適用があり、これに基づき雇用契約が成立したといえるか否かについて
ア 労働者派遣法40条の6が定める労働契約の申込みみなし制度は、善意無過失の場合を除き、違法な労働者派遣を受け入れた者にも責任があり、そのような者に民事的な制裁を科すことにより、労働派遣法の規制の実効性を確保することにあるから、同条2項が定める承諾期間の始期である「同項に規定する行為が終了した日」の「同項に規定する行為」とは、労働者派遣の役務の提供を受ける者が民事的な制裁をもってその責任を問われる原因となる自らの違反行為をいうものと解される。
 Z法人は、平成28年4月1日、C7会社との間で労働者派遣契約を締結し、従前の業務委託契約を終了させて、いわゆる偽装請負の状態を解消しており、その後、みなし申込みは発生しておらず、Z法人による最後のみなし申込みは、平成28年3月31日にされたことになるから、その効力は、同日から1年を経過した平成29年4月1日の到来をもって消滅したことになる(労働者派遣法40条の6第2項)。

イ X支部は、偽装請負を適法な派遣に変更することは、それまで派遣労働者ではなかったものを新たに労働者派遣の対象とするのであるから、派遣労働者の同意を得なければならず、派遣労働者の同意は、指揮命令権の譲渡に対するものであるため、当該同意なくして、派遣先は、派遣労働者に対する指揮命令権を取得し、行使することはできず、派遣労働者の同意を欠くために適法かつ有効な労働者派遣とならない以上、なお偽装請負の労働者派遣法違反は終了しておらず、みなし申込みは、契約形式を労働者派遣に変更した平成28年4月1日以降も継続しており、本件組合員が改めて承諾の意思表示をした平成29年10月31日の時点においても、Z法人から本件組合員に対する直接雇用の申込みがみなされている状態にあったため、同時点でZ法人と本件組合員との間に雇用契約が成立している旨主張する。
 しかしながら、労働者派遣法上、派遣労働者の承諾を得なければならないとされているのは、派遣元であって(同法32条、34条)、派遣先ではなく、この点をとらえて派遣先の責任を問うことができるとはいえないから、派遣労働者の承諾がないことはみなし申込みの継続を認める根拠とはならない上、労働者派遣法における「労働者派遣」には同法に違反する労働者派遣も含まれるものと解され、同法40条の6第1項5号の「労働者派遣」のみについてこれと異なる意味に解すべき理由もないから、労働者派遣に契約形式が変更された平成28年4月1日以降は、同号の要件を満たさず、みなし申込みは発生していないというべきである。
 したがって、本件組合員が承諾の意思表示をした平成29年10月31日の時点では、みなし申込みの効力は消滅しているから、同時点で、Z法人と本件組合員との間に雇用契約は成立しない。

⑹ Z法人が本件組合員の労組法7条の「使用者」に該当するか否かについて
 以上のとおり、Z法人は、①就労状況に照らし、雇用関係に近似した関係が成立していると認められる場合、すなわち、派遺先等が交渉事項について現実的、具体的な支配をしていると認められる場合に該当するとはいえず、また、②雇用関係に隣接した関係が成立していると認められる場合、すなわち、近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある場合に該当するともいえないから、Z法人が本件組合員の労組法7条の「使用者」に該当するとは認められない。
 したがって、Z法人は本件組合員の労組法上の使用者ということはできないとして本件再審査申立てを棄却した本件命令は相当である。

3 結論
 以上によれば、X支部の請求は理由がないからこれを棄却する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成28年(不)第59号 棄却 平成31年2月12日
中労委平成31年(不再)第8号 棄却 令和6年5月8日
 
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