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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和6年(行ウ)第495号
広緑会不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  X法人(「法人」)
 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会(「中労委」)
 
被告補助参加人  Z組合(「組合」) 
判決年月日  令和8年2月25日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、法人が、組合からの①令和3年1月19日付け団交申入れ(「1月19日団交申入れ」)事項のうち「休憩時間労働について」の事項に係る申入れに誠実に応じなかったこと、②同年7月26日付け団交申入れ(「7月26日団交申入れ」)事項のうち「休憩時間労働について」の事項に係る申入れに応じなかったことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事案である。なお、「休憩時間労働」とは、休憩時間を取ることなく労働することや休憩時間に労働することをいう。

2 初審福岡県労委は、上記1①②の各行為はいずれも不当労働行為であるとして、文書交付を命じたところ、法人は、これを不服として再審査を申し立てた。

3 中労委は、本件再審査申立てを棄却したところ(「本件命令」)、法人は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起した。

4 同地裁は、法人の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、原告の負担とする。
 
判決要旨  1 未清算の労働関係上の問題の存否、原告の「使用者」該当性(争点1)
⑴ 組合員A1・法人間の未清算の労働関係上の問題の存否
ア A1は、人材派遣業を営むC2会社に入社し、法人の運営する本件施設で介護職の派遣労働者として勤務していた者である。A1は、出勤の都度、勤務日、始業時刻、終業時刻をタイムシートに記入し、記入が絡わったタイムシートをユニットリーダー等法人の職員に提出し、提出を受けた法人の職員は、タイムシートの記入内容が正確であるかどうかを確認して承認していたこと、A1は、月初めから月末まで一月分の記入が終了したタイムシートをC2会社に提出し、C2会社は、タイムシートの記入内容に基づき、A1に対して賃金を支払っていたことが認められる。また、C2会社は、勤務実態とタイムシートの記載が整合しているか気づくことは困難であることが認められるところ、C2会社は、令和2年11月4日のC1地方本部(「地本」)(※)との団体交渉においてA1の休憩時間労働分の賃金の支払を求められたことに対し、同月11日、本件施設に確認したところ、A1は休憩時間が取れているということ及びタイムシートに休憩時間の記載があることを理由として、支払を拒絶したことが認められる。
 ※組合は、地本の支部の一つの組合員らが、地本を脱退して設立した個人加盟方式の地域合同労働組合である。

 これらの事実からすれば、A1がC2会社から令和2年10月分の休憩時間とされている時間に対する給与の支払を受けるためには、法人によるタイムシート訂正の承認ないしこれに代替する措置が必要であったと認められる。そして、法人のB2アドバイザーは、令和3年7月8日団交(「7月8日団交」)において、休憩時間が取れていないとして令和2年10月分の給与支払を求め、タイムシートの訂正や写しの訂正に対する承認を求めるA1及び組合に対し、「タイムシートに上がってないでしょ。タイムシートでお金を払うことになるので。」などとして、タイムシートの記載に基づき賃金の支払が行われるものであり、タイムシートの記載がないため休憩時間と記載された時間に対する支払根拠がない旨、また、A1の実際の休憩取得についても、「基本寝るようになってますんで、交代要員とかつのはありません。」、「コールが無いかぎりは、休憩は取ってますので。」と休憩を取得できていた旨述べていること、法人は、タイムシートの写しを訂正したい旨の組合等の申し出にも応じていないことが認められるのであるから、タイムシートの訂正の承認やこれに代替する措置を講じていなかったといえる。

 したがって、少なくとも令和4年6月1日に法人がC2会社に対してA1の未払賃金の支払をするよう申し入れるまでは、法人とA1の間に未清算の労働関係上の問題が存在していたと認められる。

イ これに対し、法人は、同人が、7月8日団交において、令和2年10月分の休憩時間がいわゆる手待ち時間であり、賃金算定上はその全部が労働時間であることを明確に認めたとして、これをもって、組合ないしA1の目的は達成されていると主張する。

 しかし、法人が主張するやりとりは、組合が法人に対して休憩時間が取れる就労環境を整備しておらず労基法違反の職場である旨の発言をしたことに対して、法人代理人が「ただ手待ち時間の問題でしょ。」と同法違反に対する反論として述べたものであり、手待ち時間が労働時間に当たることを認めたのも、組合から「手待ち時間というのは労働時間なんですよ。」と指摘されたことに対して「労働時間ですよ。」と回答したものであって、前記ア記載のB2アドバイザーの発言を撤回するなどしていない。そして、C2会社はA1の休憩時間の実態を直接把握することが困難であり、法人の承認を受けたタイムシートに基づいて賃金支払をする仕組みとしていること、法人が令和2年11月のC2会社からの確認に対してA1は休憩を取れていると回答したために、C2会社がA1に対する時間外勤務手当の支払を拒んだこと、7月8日団交においても、B2アドバイザーはA1が休憩を取れていた旨の発言をし、タイムシートの記載がないので賃金支払の根拠がないなどとしながら、タイムシートの写しの訂正の承認にも応じていないことからすれば、組合及びA1がC2会社に賃金請求をすればC2会社が法人の請求を受け入れることが見込まれる状況であったとは言い難いため、法人の7月8日団交における発言をもって、法人とA1間の未清算の労働関係上の問題が消滅していたとはいえない。

⑵ 法人の労組法7条2号の「使用者」該当性
 労組法27条の不当労働行為の救済手続の被申立人及び名宛人とされる「使用者」とは、同法7条に規定する「使用者」をいうところ、一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうが、労組法7条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることに鑑みると、雇用主以外の事業主であっても、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、当該事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である(最高裁平成7年2月28日第三小法廷判決・民集49巻2号559頁参照)。

 法人は、前記⑴ア記載のとおり、タイムシートの承認等を通じてA1の基本的な労働条件である労働時間の管理につき、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度の現実的かつ具体的な支配力を有していたといえるから、「使用者」に該当する。

2 「休憩時間労働について」の義務的団交事項該当性(争点2)
⑴ 1月19日団交申入れ
ア 1月19日団交申入れは、A1が拘束時間から契約時間を差し引いた2時間30分についても休憩なく労働させられていたことなどを団交申入れの理由とし、議題として「2、休憩時間労働について」が記載されていたことが認められる。当該休憩時間労働についての申入れは、労働時間や休憩時間という組合に所属する労働者であるA1の労働条件その他の待遇に関する事項であるといえ、前記1記載のとおり、法人が処分可能なものといえるから、義務的団交事項に当たる。

イ 法人は、A1の派遣期間が同月で終了していたことから、組合が求める令和2年10月の休憩時間に関する事項は、単なる過去の事実関係の確認にすぎないと主張する。しかし、前記1⑴記載のとおり、1月19日団交申入れ時点において、A1と法人との間には未清算の労働関係上の問題が存在していたと認められるから、前記団交事項は単なる過去の事実関係の確認とはいえず、この点に関する法人の主張を採用することはできない。

⑵ 7月26日団交申入れ
 7月26日団交申入れの事項として「令和3年5月26日協約書の1の項目について」が記載されているところ、前記協約書の1の項目には「令和3年1月19日付全労発第013号記載の議題について、…団交応諾義務があることを認める」とされているところ、令和3年1月19日付全労発第013号記載の議題には「2、休憩時間労働について」との記載があることが認められる。そうすると、7月26日団交申入れの事項としても、A1の休憩時間労働に関する事項が含まれているといえる。そして、前記⑴記載のとおり、当該休憩時間労働についての申入れは、労働時間や休憩時間という組合に所属する労働者であるA1の労働条件その他の待遇に関する事項であり、法人が処分可能なものといえるから、義務的団交事項に当たる。

 法人は、組合は、7月8日団交後、専ら解雇等の不法行為に基づく損害賠償を求めることに関心を有しており、A1の休憩時間については同日以降の団交事項でないと主張する。確かに、組合は、7月8日団交の終盤でB3弁護士から団交の趣旨の確認が行われた際、A1の雇用契約終了及び団交拒否に対する220万円の損害賠償は求めたいと思うと述べていること、前記220万円の損害賠償額の根拠としてA1の月収25万円の6か月分150万円、団交等拒否の不法行為に対する70万円であると内訳を明らかにした上で、当該請求に対する団交を求めていたことが認められ、組合は当該損害賠償請求について強い関心を有していたといえる。しかし、不法行為と賃金支払請求はその請求の根拠を異にするものであるところ、7月26日団交申入れ時点において、A1の令和2年10月の休憩時間分の時間外労働賃金請求について未清算の状況は解消されていなかったこと、前記のとおり、申入書の内容にはA1の休憩時間労働に関する事項が含まれていたといえることからすれば、当該時点においても、A1の休憩時間労働が団体交渉事項でなくなっていたとはいえないから、この点に関する法人の主張を採用することはできない。

3 7月8日団交における法人の対応の不当労働行為該当性(争点3)
⑴ 1月19日団交申入れの内容及び7月8日団交の状況からすれば、組合が法人との7月8日団交に臨んだ目的の一つは、A1がタイムシートに休憩時間各日150分と記載した令和2年10月分の時間外勤務手当を受給するために、法人に対し、休憩時間労働があったことを確認してタイムシート訂正の承認をすることを要求することにあったことが認められる。

 そして、前記1⑴記載のとおり、法人は、7月8日団交において、組合の上記要求に応じないことにつき、A1は休憩を取ることができていた、タイムシートの記載がないので賃金支払の根拠がないなどと述べながら、A1の現実の勤務状況やタイムシートの作成状況等について調査して回答することもなかったのであり、タイムシート訂正の承認ないしこれに代替する措置を講じないことに関する自己の主張につきその根拠となる何らかの資料を示すことや対案を示すこともなかったのであるから、誠実に団体交渉に応じる義務に反したといえ、これは、法人の不当労働行為(労組法7条2号)に当たる。なお、法人側の出席者は、労基法違反の指摘に対する応答の中で最終的に休憩時間は手待ち時間であり労働時間である旨の発言をしているものの、この発言に即して組合の要求に応じるとか何らかの対案を示すとかしたわけでもなく、かつ、労働時間であることを認めていながら組合の要求に応じるなどしない理由についても何ら説明をしていないことからすれば、この発言があるからといって誠実に団体交渉に応じたといえるものではない。

⑵ 法人は、団体交渉における誠実交渉義務違反の該当性を判断するに際して、労働組合側の態度も考慮されるべきであるところ、組合側の出席者は、7月8日団交において、B2アドバイザーに対する侮辱、嘲笑を繰り返し、不誠実極まりない交渉態度をとったのであり、このことも考慮すれば法人の対応が不誠実であったとはいえないと主張する。

 確かに、組合側の出席者は、B2アドバイザーが仮シフト表はただのらくがきにすぎないと答えたことを契機に、笑いながら「らくがきなんやー」などと法人側の出席者を繰り返し嘲笑したこと、「労働基準法まで教えてやったったですよ。」「コンサル料ば貰わないかんですね。」などと法人側の出席者を嘲笑するような発言をしたことが認められるところ、組合のこれらの発言や態度には適切とは言い難い面がある。しかし、これらの表現は、組合及びA1が雇用契約継続の根拠として主張した仮シフト表について、B2アドバイザーがただの落書きに過ぎないと発言したことを契機に行われたものであることなどを考慮すれば、表現方法として必ずしも適切でないものであるとしても、これらの発言等によって、前記認定が左右されるものとはいえない。したがって、この点に関する法人の主張を採用することはできない。

4 令和3年7月26日付け「休憩時間労働について」の議題に係る団交申入れに応じなかったことの不当労働行為該当性(争点4)
 前記2⑵記載のとおり、令和3年7月26日付け議題に係る団交申入れにおけるA1の休憩時間労働に関する事項は義務的団交事項であるところ、法人は、団交に応じていないのであるから、組合と「団体交渉を正当な理由がなくて拒」んだものであり、不当労働行為(労組法7条2号)に当たる。

5 救済の利益の存否、救済方法の裁量権逸脱の有無(争点5)
⑴ 労働委員会は、救済命令を発するに当たり、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るという救済命令制度の本来の趣旨、目的に由来する限界を逸脱することは許されないが、その内容の決定について広い裁量権を有するのであり、救済命令の内容の適法性が争われる場合、裁判所は、労働委員会の上記裁量権を尊重し、その行使が上記の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではない(最高裁令和4年3月18日第二小法廷判決・民集76巻3号283頁参照)。

⑵ア 救済の利益
 前記3記載のとおり、組合は、法人の正当な理由のない団交拒否ないし誠実交渉義務違反という不当労働行為によって、適切な交渉の機会を喪失し、また、交渉力が低下させられていたといえるところ、本件命令発令時においても、組合の交渉力低下の改善が図られるようなことはなかったのであるから、なお救済の利益は肯定される。
 法人は、7月8日団交で休憩時間が手待ち時間に当たると認めたこと及びその後令和4年にC2会社からA1に対して令和2年10月分の休憩時間に対応する賃金等が支払われたことにより、組合の目的が達成され救済の利益が失われたと主張する。しかし、C2会社からA1に対する上記支払が行われたことによって、組合と法人が団体交渉を実施する必要性はなくなったものの、不当労働行為による組合の交渉力低下が事後的に支払によって回復されたということはできないから、この点に関する法人の主張を採用することはできない。

イ 救済方法
 前記ア記載のとおり、本件命令発令時においても、法人の不当労働行為による組合の交渉力低下等の改善が図られていなかったところ、現実に生じている不当労働行為の効果を解消するために、文書交付を命じることは不合理とはいえない。
 なお、法人は、組合の組合員が今後法人に加入し法人と組合が関わる可能性がほぼ皆無であると主張するが、法人で派遣従業員として稼働していたA1は現に組合に加入しているのであり、法人の主張は推測に過ぎないし、仮に法人において稼働する者が組合に加入する可能性は低いとしても、現実に生じている組合に対する不当労働行為の効果の解消のために文書交付を命じることが許容されないとはいえない。

⑶ 以上のとおり、救済の利益が失われたとはいえないとした上で、文書交付を命じる旨の中労委の判断が、救済命令制度の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるとは認められない。

6 結論
 以上によれば、法人の請求は理由がないから棄却する。 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
福岡県労委令和3年(不)第12号 全部救済 令和4年11月8日
中労委令和4年(不再)第40号 棄却 令和6年10月2日
 
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