労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  福岡県労委平成3年(不)12号
広緑会(第2)不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年11月8日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、組合からの①令和3年1月19日付け団体交渉申入事項及び②同年7月26日付け団体交渉申入事項のうち、それぞれ「休憩時間労働について」の事項に係る団交申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 福岡県労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、文書交付を命じた。
 
命令主文   法人は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、次の文書を組合に交付しなければならない。
令和 年 月 日
X組合 執行委員長
A1殿
Y法人      
理事長 B1
 当法人が行った下記の行為は、福岡県労働委員会によって労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為と認定されました。
 今後このような行為を行わないよう留意します。
1 貴組合からの令和3年1月19日付け団体交渉申入事項のうち、「休憩時間労働について」の事項に係る団体交渉申入れに、誠実に応じなかったこと。
2 貴組合からの令和3年7月26日付け団体交渉申入事項のうち、「休憩時間労働について」の事項に係る団体交渉申入れに、応じなかったこと。

 
判断の要旨  1 労働者A2〔注労働者派遣事業を営むD会社から法人の運営するC施設に派遣され、介護職として勤務していた〕の休憩時間労働について、A2と法人との間に未清算の労働関係上の問題があるか。あるとすれば、派遣中の労働者の派遣就業に関しては、派遣先の事業のみを、派遣中の労働者を使用する事業とみなす労働者派遣法44条2項にも照らして、法人は、組合の団交申入れに応ずべき使用者といえるか(争点1)

(1)休憩時間労働についての未清算の労働関係上の問題

ア まず、法人におけるD会社からの派遣労働者への時間外勤務手当支払手続をみると、①当該派遣労働者がタイムシートに勤務時間や休憩時間等を記入し、②タイムシートの内容を派遣先が承認し、③派遣先確認者の署名等の承認があるタイムシートを基に、D会社が当該派遣労働者へ時間外勤務手当を支払うこととなっている。
 A2は、特別養護老人ホームにおいて、利用者の食事や排せつの介助などの介護業務を行っていたところ、そのタイムシートをみると、令和2年10月分については150分の休憩時間が記載されているのに対し、同年11月分及び12月分については休憩が取れていない内容となっており、相違がある。そして、A2の就労期間を通じて、休憩時間に係るA2の勤務の実態に大きな変化があったと考えられるような特段の事情も認められない。
 この相違は、A2が、実際に休憩を取ったか否かにかかわらず、令和2年10月分は、すべての勤務において休憩を取ったとしてタイムシートを提出すると指示されていると思い込み、実際の休憩の取得の有無にかかわらず、すべての勤務において休憩を取ったものと記入して、法人の承認を受けた上でD会社へ提出したためであることが認められる。
 さらに、法人は、令和3年7月8日団交(以下「3.7.8団交」)で、休憩時間が取れないことについては「手待ち時間」の問題である旨を述べており、A2が休憩時間中に利用者からの呼び出しに対応することがあったことを認めている。
 このような状況から、A2の未払いの賃金が生じたものであり、これを解決するためには、タイムシート訂正が必要不可欠であったことが認められる。

イ これらから、組合は、「休憩時間労働について」の団交申入事項により、令和2年10月分の時間外勤務手当を受給することを目的に、A2の休憩時間労働に伴う賃金問題等の労働時間の管理に関する具体的問題として、タイムシート訂正を求めていることが認められる。
 そして、法人は、3.7.8団交で、休憩時間が取れないことについては手待ち時間の問題である旨を述べているが、3.7.8団交では組合の求めるタイムシート訂正には至っていない。
 なお、法人は、D会社に対し、令和4年6月1日に、A2の2年10月分の休憩時間に対応する賃金額等をD会社からA2へ支払うよう申し入れている。よって、少なくとも当該申入れがなされる以前においては、A2の休憩時間労働について、A2と法人との間に未清算の労働関係上の問題があったといえる。

(2)法人が組合の団交申入れに応ずべき使用者であるか否かについて

ア 雇用主以外の者であっても、例えば、当該労働者の基本的な労働条件等に対して、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有しているといえる者もまた雇用主と同視できる者であり、労組法7条の「使用者」と解すべきである。

イ 本件について法人が組合の団交申入れに応ずべき使用者であるか否かを検討するに、A2と法人との関係やA2の勤務実態等について、以下の事実が認められる。

①A2に対し時間外勤務手当がD会社から支払われる手続は、上記のとおりであり、法人は、A2に対し休憩時間労働を含む時間外勤務を命令し同人の労働時間を管理する立場にあり、かつ、A2のタイムシートの内容は法人が承認する必要があった。
 また、法人は、派遣先事業主としてA2の業務について直接指揮命令を行う立場にあり、さらに、介護業務スケジュール表で、勤務時間中に処理すべき業務内容とその手順等を示すことによって、現実にも労働時間の管理の方法についても、具体的な指示も行っていた。
 加えて、前記のとおり、法人は、D会社に対し、A2の令和2年10月分の休憩時間に対応する賃金額等をD会社からA2へ支払うよう申し入れている。

② 3.7.8団交以前にA2は、〔当時加入していた〕C組合を通じて、D会社から、A2の令和2年10月分の時間外勤務はなく休憩は取れていると法人が答えた旨の回答を得ており、派遣元であるD会社は派遣先である法人に照会しなければA2の時間外勤務については把握できない立場にあった。

 上記①及び②の事実を考慮すると、タイムシート訂正のためにA2の時間外勤務手当の算定の基礎となる休憩時間労働を確認することは、派遣元であるD会社で行うことはできず、法人が対応すべきものであり、かつ対応可能な事項であるといえる。
 さらに、上記の事実等と、労働者派遣法44条2項により、派遣中の労働者の派遣就業に関しては、派遣先の事業のみを、派遣中の労働者を使用する事業とみなして、労基法32条(労働時間)、同法36条1項(時間外及び休日の労働)等が適用されることを併せ考えれば、法人は、タイムシート訂正のための休憩時間労働の確認を行う責任があり、その限りにおいて、法人はA2との関係で、基本的な労働条件等に対して派遣元と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったということができる。
 よって、法人は、「休憩時間労働について」の議題について団交に応ずべき使用者に当たる。

ウ 法人は、A2が法人に派遣されている状況で現在又は将来の労働条件等(休憩時間)について団交を求めるというのであれば、法人は労組法7条の「使用者」に該当するであろうが、A2に係る派遣契約は、令和2年12月末をもって終了しているから、組合が団交において協議を求めている事項はあくまでも過去の休憩時間に関するものであると主張する。しかしながら、労働関係が存在した間に発生した事実を原因とする争いがあり、当該紛争が顕在化した時点で労働者との労働関係が終了していたとしても、未清算の労働関係上の問題がなお残存している場合には、当該問題を解決し得る立場にある者は労組法7条2号にいう使用者に当たると解するのが相当である。
 本件についてこれをみると、3.7.8団交時点では、未払賃金の存否等労働関係の清算を巡る問題がなお残存しており、法人は、当該問題を解決し得る立場にあるから、法人は労組法上の使用者に当たる。これに加えて、令和3年5月26日締結の協約書(以下「3.5.26協約書」)では、法人は、3年1月19日付け団交申入れの「休憩時間労働について」の議題について、労働者派遣法及び労組法における使用者として団交応諾義務があることを認めている。
 したがって、法人の主張は採用できない。

2 法人が、組合の団交申入れに応ずべき使用者であるとして、組合が3年1月19日及び同年7月26日に申し入れた「休憩時間労働について」は義務的団交事項か(争点2)

 組合が令和3年1月19日及び同年7月26日に申し入れた「休憩時間労働について」は、2年10月分の時間外勤務手当を受給することを目的に、タイムシート訂正のための休憩時間労働の確認を法人に要求するものである。したがって、A2の労働条件に関する事項に当たるとともに、A2に対する時間外勤務の命令権者でもある法人のみが処分可能な事項であるので、義務的団交事項に当たる。
 法人は、単なる過去の事実関係の確認は、労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項には該当せず、義務的団交事項ではない旨を主張する。
 しかしながら、過去の事実関係の確認により、かつて存続した労働関係から生じた労働条件をめぐる紛争を適正に処理することが可能である場合には、その過去の事実関係の確認は義務的団交事項に当たる。これを本件についてみると、上記のとおり、派遣労働者の休憩時間労働を含む時間外勤務は、派遣先である法人において命令、指揮、管理するものであって、A2の休憩時間労働については未清算の労働関係上の問題であり、法人は当該紛争を適正に処理することが可能であることから、タイムシート訂正のための休憩時間労働の確認は義務的団交事項に当たり、法人の主張は採用できない。
 以上のことから、法人が、組合の団交申入れに応ずべき使用者であるとして、組合が令和3年1月19日及び同年7月26日に申し入れた「休憩時間労働について」は義務的団交事項に当たる。

3 組合からの令和3年1月19日付け団交申入事項のうち「休憩時間労働について」の事項について、3.7.8団交における法人の対応は、不誠実であったといえるか。いえるとすれば、労組法7条2号に該当するか(争点3)

 3.7.8団交における法人の対応が不誠実であったか否かを検討するに、3.5.26協約書で法人は、令和3年1月19日付け団交申入れの「休憩時間労働について」の議題について、労働者派遣法及び労組法における使用者として団交応諾義務があることを認めているにもかかわらず、法人の団交における姿勢は真摯な対応とはいい難く、法人は、組合の要求に対し、納得のいくような合理的な説明をしていないといわざるを得ない。また、3.7.8団交において、「休憩時間労働について」の事項について協議が尽くされたとはいえない。
 したがって、3.7.8団交における法人の対応は不誠実であったといえ、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。

4 法人が、組合からの令和3年7月26日付け団交申入事項のうち、「休憩時間労働について」の事項に係る団交申入れに応じなかったことは、労組法7条2号に該当するか(争点4)
 法人は、労組法上の使用者に当たり、組合の申し入れた事項は義務的団交事項に当たる。法人は、3.7.8団交で協議に応じているが、この団交で議論が尽きていなければ、引き続き団交に応じなければならない。
 3.5.26協約書で団交応諾義務を認めているにもかかわらず、3.7.8団交における法人の対応は、不誠実であったことから、当該団交における「休憩時間労働について」の交渉は尽くされているといえず、法人が、組合からの令和3年7月26日付け団交申入事項のうち、「休憩時間労働について」の事項に係る団交申入れに応じなかったことに、正当な理由はなく、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。

5 救済利益の有無及び救済方法について

(1)救済利益の有無
 令和4年6月に、法人は、D会社に対しA2の2年10月における休憩時間労働に対する賃金等をA2へ支払うよう要請し、D会社は、A2へ法人が要請した金額を支払ったことが認められ、そうすると、組合が求めていた、タイムシート訂正といった「休憩時間労働について」の問題は解消し、組合は法人へ団交開催を求める必要性はなくなったといえる。
 しかしながら、組合と法人との間で唯一開催された3.7.8団交での法人の対応は不誠実であり、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。更に、令和3年7月26日付けの団交申入事項のうち、「休憩時間労働について」の事項に係る団交申入れに応じなかったことも、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。これらの不当労働行為によって、組合の団結権は侵害されたものといえる。
 このような法人の行為は、組合の交渉能力や問題解決能力に疑念を生じさせるおそれのある行為であり、A2に令和2年10月分の時間外勤務手当が支払われたことをもって当然に組合の交渉能力や問題解決能力に対する信頼が回復されたとは認められないから、侵害された組合の団結権は、いまだ回復したということはできない。
 また、A2は、令和2年12月31日をもって、本件施設勤務から離れており、その後は組合と法人との間に労使関係はない。しかしながら、今後も、法人が直接雇用したあるいは派遣会社から派遣を受けた労働者を、組合員として組合が獲得する可能性が全くないということはできず、その獲得に伴い、組合と法人との間に集団的労使関係が生じ、その正常な秩序の回復、確保を図ることが可能となる場合もあり得るものと考えられることから、本件において、組合を救済する意義を失ったとまではいうことができない。
 したがって、救済の利益がなくなったということはできない。

(2)救済方法について
 以上のとおりであるので、団交応諾を命ずる必要はないが、救済利益がなくなっているとみることはできないため、主文のとおり命じるのが相当と思料する。 

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