労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委令和4年(不再)第40号
広緑会不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  Y法人(「法人」) 
再審査被申立人  X組合(「組合」) 
命令年月日  令和6年10月2日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、法人が、組合からの①令和3年1月19日付け団交申入事項のうち「休憩時間労働について」の事項に係る団交申入れに誠実に応じなかったこと、②同年7月26日付け団交申入事項のうち「休憩時間労働について」の事項に係る団交申入れに応じなかったことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 なお、「休憩時間労働」とは、休憩時間を取ることなく労働することや休憩時間に労働することをいう。

2 初審福岡県労委は、文書交付を命じたところ、法人は、これを不服として再審査を申し立てた。
 
命令主文  本件再審査申立てを棄却する。 
判断の要旨  (1) 争点1(派遣労働者の休憩時間労働について、派遣労働者と派遣先法人との間に未清算の労働関係上の問題があるか。あるとされた場合、当該法人は、労働組合法(「労組法」)第7条第2号の使用者に当たるか。)について
 派遣労働者である組合員の時間外勤務手当を含む賃金の支払手続をみると、①組合員がタイムシートに勤務時間や休憩時間等を記入し、②タイムシートの内容の正確性を派遣先である法人が確認・承認し、③組合員が法人の承認のあるタイムシートを派遣元に提出して、これを基に、派遣元が組合員に時間外勤務手当を含む賃金を支払うこととなっているが、法人の施設では、夜間勤務時に交代の要員はおらず、呼出があればその都度対応する必要があり、休憩時間がとれなかった。
 また、タイムシート修正の承認ないしこれを代替する措置をとることはなく、後日、派遣元事業者から組合員の時間外勤務手当の支払いの申入れがなされるまでは、組合員と派遣先法人の間に未精算の労働関係上の問題があったといえる。
 派遣労働者である組合員の休憩時間労働について、組合員と派遣先法人との間に未精算の労働関係上の問題があったことから、派遣先法人は労組法第7条第2号の使用者に当たる。

(2) 争点2(組合が3年1月19日に申し入れた団交の議題である「休憩時間労働について」は義務的団交事項か等)について
 「義務的団交事項」とは、使用者が団交に応じることを労組法によって義務づけられている事項であり、一般的には、組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該労働組合と使用者との間の団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものをいう。ここでいう「労働条件その他の待遇」とは、労働者が労働をなす上での契約条件ないし労働者に関する取扱いをいい、労働者の賃金、労働時間や休憩時間などに関する事項が含まれる。
 組合が3年1月19日に「休憩時間労働について」を議題とする団交を申し入れたのは、2年10月分の時間外勤務手当を受給することを目的に、法人に対し、休憩時間労働があったことを確認してタイムシート訂正の承認をすることを要求するためであったことから、「休憩時間労働について」との議題は、当該組合員の賃金(時間外勤務手当)や労働時間ないし休憩時間に関する事項であって、法人において処分可能なものであるから、義務的団交事項に当たる。

(3) 争点3(「休憩時間労働について」の議題に係る3年7月8日に行われた団交(「7月8日団交」)における法人の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。)について
 使用者は、団体交渉において、自己の主張を労働組合が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団交に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したりするなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべきであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、このような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務(誠実交渉義務)を負うものと解すべきである。
 7月8日団交において、法人は、組合に対して派遣元との協議を求め、労働時間管理を把握していない派遣元から請求されれば時間外勤務分の派遣料を支払うとしか回答していないなど、このような対応は不適切であるといわざるを得ない。また、法人は、組合の求めるタイムシート訂正の承認にも応じていないことからすれば、7月8日団交における法人の対応は不誠実であったと認められるから、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

(4) 争点4(法人が、組合の3年7月26日付け「休憩時間労働について」の議題に係る団体交渉申入れに応じなかったことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。)について
 争点1のとおり、法人は、「休憩時間労働」の議題について、労組法上の使用者に当たり、また、争点2のとおり、「休憩時間労働」の議題は義務的団交事項に当たる。
 しかるに、法人は、7月8日団交で当該議題について組合と協議しているが、その対応は不誠実であり、組合が求めた代替する措置もとられなかったのであるから、当該議題の協議が尽くされたとはいえない。そうすると、法人が、組合の3年7月26日付け「休憩時間労働について」の議題に係る団交申入れに応じなかったことに正当な理由はないことから、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

(5) 争点5(救済の利益は存在するか。)について
 上記の争点に該当する不当労働行為は、組合の交渉能力や問題解決能力に疑念を生じさせるおそれのあるものであり、これらの行為により組合の団結権等は侵害されたものといえる。
 そして、組合員に対して2年10月分の時間外勤務手当が支払われたものの、その実現に組合が関与していなかったことを考慮すれば、上記支払いがされたことによって当然に組合の交渉能力や問題解決能力に対する疑念が払拭されたとは認められないから、いったん侵害された組合の団結権等が回復したということはできない。
 したがって、救済の利益がなくなったということはできない。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
福岡県労委令和3年(不)第12号 全部救済 令和4年11月8日
 
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