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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和6年(行コ)第95号
テイケイ労働委員会救済命令取消請求控訴事件
 
控訴人  X会社(「会社」)
 
被控訴人  東京都 (処分行政庁 東京都労働委員会(「都労委」) 
被控訴人補助参加人  Z組合(「組合」) 
判決年月日  令和7年9月24日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、①組合員1名に対して退職勧奨をしたこと、②組合が申し入れた団体交渉に応じなかったこと(「本件団体交渉拒否」)、③組合事務所、組合員の自宅、組合員の就業先等に文書を送付し、また、会社本社入口に掲示するなどしたこと(「本件文書送付行為等」)が不当労働行為に当たるとして救済申立てがなされた事案である。

2 都労委は、②について労働組合法(「労組法」)7条2号、③について同条3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(i)組合が団体交渉を申し入れたときは、開催条件に固執することなく、誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)組合の方針及び行動並びに組合員を非難する内容の文書を、会社の社屋に掲示する、又は、組合、組合員、組合員の就業先及び組合の上部団体に対して送付する等の方法によって、組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅲ)文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。会社は、これを不服として、東京地裁に、行政訴訟を提起した。

3 東京地裁は、会社の請求を棄却したところ、会社は、これを不服として、東京高裁に控訴した。

4 東京高裁は、会社の控訴を棄却した。
 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用(補助参加費用を含む。)は控訴人の負担とする。
 
判決の要旨  1 以下の争点⑴~⑶は原審以来の争点であり、争点⑷及び⑸は、別件訴訟の判決を踏まえた当審における新たな争点である。
⑴ 本件団体交渉拒否が不当労働行為に当たるといえるか。
⑵ 本件救済命令の主文第1項の内容に裁量の逸脱・濫用があるといえるか。
⑶ 本件文書送付行為等が不当労働行為(支配介入)に当たるといえるか。
⑷ 組合が労組法に定める労働組合に該当しないことを前提とする本件救済命令の違法の有無
⑸ 会社は、本件救済命令につき代表権を有しない者の申立てに基づき発せられた違法があることを理由として、本件救済命令の取消しを求めることができるか。

2 争点⑴~⑶について
 以下のとおり、当審における会社の主張を踏まえて補足的な判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」第3の1~3に記載のとおりであるから、これを引用する。

⑴ 争点⑴に関する会社の主張について
 会社は、①組合が、4月11日にアップロードした動画(「本件動画」)の撮影時期やツイッターのアカウントから動画を削除したか否かについて客観的な事実に反する報告等をし、受忍限度を超える街宣活動をしていたことからすれば、組合が令和2年4月8日の団体交渉における無断撮影及び本件動画のアップロード(「本件投稿行為」)と同様の行為を行う蓋然性が高かった、②本件動画の被撮影者の目元に小さくモザイク処理がされているとはいえ、顔の形、髪型、背丈、体形、声等から、容易に個人が特定できるものであって、本件投稿行為によって会社側の参加者の権利が侵害されることは明らかであると主張し、このような状況下における本件団体交渉拒否には正当な理由があったと主張する。

 しかしながら、会社の上記①の主張については、上記引用の原判決が認定説示した事情に照らせば、組合が本件投稿行為と同様の行為を行う蓋然性が高かったと認めることは困難であり、仮にその危惧が払しょくできなかったとしても、その危惧のみを理由として、本件団体交渉拒否に正当な理由があったと認めることはできない。
 また、会社の上記②の主張については、本件動画を見ても、被撮影者の目元のモザイク処理の状況に照らせば、被撮影者と面識のない第三者が被撮影者を特定することは困難であるから、本件動画の被撮影者を特定することが容易であることを根拠として本件団体交渉拒否に正当な理由があったと認めることもできない。
 よって、会社の上記主張は、採用することができない。

⑵ 争点⑶に関する会社の主張について
 会社は、組合が異常な態様の街宣活動等を行ったことに対する正当な抗議として、本件文書送付行為等を行ったものであり、組合嫌悪の意思に基づいてこれを行ったものではないから、本件文書送付行為等は不当労働行為(支配介入)に該当しないと主張する。

 確かに、組合が、会社の本社前において最大100デシベルを超える音量で街宣活動を行った結果、会社が一般の通行人等から苦情を受けるなど、その業務に一定の支障が生じたことがうかがわれるのであって、組合のこのような行為に相当性が欠ける面があったこと自体は否定できない。しかしながら、本件文書送付行為等は、組合の組織や運営に影響を及ぼすものであるといわざるを得ず、組合による街宣活動等に対する抗議として行われた側面があったことを考慮しても、正当な抗議の範囲を逸脱しており、本件文書送付行為等が労組法7条3号に掲げる不当労働行為(支配介入)に該当するとの判断が左右されるものではない。
 よって、会社の上記主張は、採用することができない。

3 争点⑷について
⑴ 会社は、①組合は、労組法2条柱書本文及び同法5条2項5号の要件を満たさないから、労組法に定める労働組合に該当しない、②本件救済申立ては、労働組合に該当しない者による申立てであるから不適法であり、却下されるべきであったにもかかわらず、都労委は本件救済命令を発したものであるから、本件救済命令は違法であると主張する。

 しかしながら、使用者は、不当労働行為の救済命令が労組法2条及び5条2項の要件を欠く組合の申立てに基づき発せられたことのみを理由として、同命令の取消しを求めることはできない(最高裁昭和32年12月24日第三小法廷判決・民集11巻14号2336頁、最高裁昭和62年2月26日第一小法廷判決・裁判集民事150号263頁参照)。
 この点を措くとしても、Z組合規約(「規約」)の定める組合の組合員及び目的等によれば、組合は、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体」(労組法2条柱書本文)であると認められ、また、規約には、組合の役員が組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票により選挙される旨の規定(労組法5条2項5号)が含まれることからすれば、組合の規約は、労組法5条2項5号の要件を満たしているといえ、組合は、労組法に定める労働組合に該当するものと認められる。会社は、組合が会社の取引先に対して会社との取引をやめるよう呼び掛けていることから、組合は、「主として政治運動又は社会運動を目的とするもの」(労組法2条ただし書4号)であって労組法上の労働組合ではないとも主張するが、組合が、その組合員である、会社が雇用する労働者の労働条件の維持改善等のために会社と団体交渉をしていた等の活動実態に照らし、会社の同主張を採用することはできない。仮に、A1執行委員長を初めとする組合の組合役員が、組合員の直接無記名投票により選出された代議員の直接無記名投票により選出されていなかったとしても、以上の認定判断が左右されるものではない。
 よって、会社の上記主張は、採用することができない。

⑵ 会社は、団体交渉を行う権限を有する「代表者又は労働組合の委任を受けた者」(労組法6条)が存在せず、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体」(労組法2条柱書本文)に該当しない組合との団体交渉は不可能であるから、組合との団体交渉に応じることを命じた本件救済命令は違法であると主張する。

 しかしながら、上記⑴のとおり、組合が「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体」(労組法2条柱書本文)に該当しないとの会社の主張は、採用することができない。
 また、A1執行委員長が組合の大会において有効に選出されておらず、団体交渉を行う権限を有する「労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者」(労組法6条)がいなかったとしても、組合が会社に対して団体交渉の開催を求めた令和2年4月30日、同年5月11日及び同年8月5日の時点で、A1執行委員長が、少なくとも外形的には、組合の代表者として行動していたのであり、一件記録を精査しても、A1執行委員長を代表者とする組合と団体交渉をすることが不可能であったと解される事情は見当たらない。現に、会社は、平成31年4月19日、令和元年5月24日及び令和2年4月8日の3回にわたり、A1執行委員長を代表者とする組合と団体交渉を行っている。そうすると、A1執行委員長が組合の大会において有効に執行委員長に選出されていなかったからといって、会社が労組法に定める労働組合である組合との団体交渉を拒むことは許されないといわざるを得ず、組合との団体交渉に応じることを命じた本件救済命令が違法であるということもできない。
 よって、会社の上記主張は、採用することができない。

⑶ 会社は、本件文書送付行為等は、労働組合に該当しない組合による令和2年4月8日の団体交渉における無断撮影及び同月11日の本件投稿行為や不当な街宣活動に対する正当な抗議として行われたものであるから、不当労働行為(支配介入)に該当せず、そうであるにもかかわらず、本件文書送付行為等が不当労働行為(支配介入)に該当すると判断した本件救済命令は、違法であると主張する

 しかしながら、組合が労組法に定める労働組合に該当しないとの会社の上記主張を採用することができないことは、上記⑴のとおりであり、また、本件文書送付行為等が不当労働行為(支配介入)に該当しないとの会社の上記主張を採用することができないことは、上記2⑵のとおりである。

4 争点⑸について
⑴ 労組法27条1項は、労働委員会は、使用者が同法7条の規定に違反した旨の申立てを受けたときは、遅滞なく調査を行い、必要があると認めたときは、当該申立てが理由があるかどうかについて審問を行わなければならない旨を定め、同法27条の12第1項は、労働委員会は、事件が命令を発するのに熟したときは、申立人の請求に係る救済の全部若しくは一部を認容し、又は申立てを棄却する命令(救済命令等)を発しなければならない旨を定めている。これらは、不当労働行為の審査は、申立てによって開始され、救済命令等は、申立てに基づき発せられる必要がある趣旨を定めるものと解される。

 また、労組法26条1項に基づいて制定された労働委員会規則32条2項1号は、使用者が労組法7条の規定に違反した旨の申立書には、申立人が労働組合である場合には、代表者の氏名を記載しなければならない旨を定め、同規則33条1項1号は、申立てが同規則32条に定める要件を欠き補正されないときは、都道府県労働委員会は、公益委員会議の決定により、その申立てを却下することができる旨を定め、同条4項は、審査を開始した後に申立てを却下すべき事由があることが判明したときには、同条1項の規定を適用する旨を定めている。これらは、労働組合による救済申立てが、当該労働組合の代表権を有する代表者により行われる必要がある趣旨を定めるものと解される。

 以上によれば、労働組合の代表権を有しない者が、当該労働組合を代表して救済申立てをした場合、都道府県労働委員会は、労働委員会規則の上記各定めの趣旨に鑑み、当該労働組合に対して補正を促し、補正されないとき又は補正の余地がないときは当該申立てを不適法であるとして却下すべきであり、補正されないまま発せられた救済命令は違法というべきである。

⑵ もっとも、労組法27条に定める労働委員会の救済命令制度は、労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし、これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止した同法7条の規定の実効性を担保するために設けられたものであるところ、同法が、同禁止規定の実効性を担保するために、使用者の同規定違反行為に対して労働委員会という行政機関による救済命令の方法を採用したのは、使用者による組合活動侵害行為によって生じた状態を救済命令によって直接是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図る趣旨に出たものと解される(最高裁昭和52年2月23日大法廷判決・民集31巻1号93頁参照)。
 そして、労組法5条2項5号が労働組合の規約において組合役員の選挙について直接無記名投票制度の定めを置くことを要求した趣旨は、投票者の意思が直接最終的なものとして表明されること及び投票の秘密が守られることを確保し、これによって、労働組合の自主的・民主的運営を保障することにあると解される。
 以上に鑑みれば、労働組合において労組法5条2項5号所定の直接無記名投票制度により有効に選出された代表権を有する者の申立てに基づき救済命令等の発令を受けるという法律上の利益は、申立人である労働組合のみが有するものであって、相手方である使用者が有するものではないと解するべきである。
 仮に、労働組合の代表権を有しない者の申立てに基づき救済命令が発せられた場合に、申立人である当該労働組合がその違法を主張しないにもかかわらず、相手方である使用者がその違法を主張して当該救済命令の取消しを求めることができるとすれば、労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とする救済命令制度の趣旨が損なわれるのみならず、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図ることも困難になるのであって、このような解釈を採用することはできない。

 この点につき、会社は、使用者は、労組法27条2項が定める1年の申立期間内に労働組合等から適法な申立てがされない限り、救済命令を受けることがないという法律上の利益を有すると主張する。しかし、同項は、不当労働行為から長期間が経過した場合、事実関係の解明や救済命令の実効性の確保が困難となり、他方において、救済命令を発することによりかえって労使関係の安定性に悪影響が生じかねないことから、1年の申立期間を定めたものと解されるのであって、同項が、会社の主張するような使用者の法律上の利益を保障するものとは解されない。
 以上によれば、救済命令を受けた使用者は、行政事件訴訟法10条1項により、当該救済命令につき、労働組合の代表権を有しない者の申立てに基づき発せられた違法があることを理由として、当該救済命令の取消しを求めることができないというべきである。

⑶ したがって、会社は、本件救済命令につき、組合の代表権を有しない者の申立てに基づき発せられた違法があることを理由として、本件救済命令の取消しを求めることができない。

5 小括
 以上のとおり、争点⑴~⑷については、本件救済命令に会社の主張する違法を認めることはできない。また、争点⑸については、会社の主張する違法は、自己の法律上の利益に関係のない違法(行政事件訴訟法10条1項)であるから、会社は、これを理由として本件救済命令の取消しを求めることはできない。

6 結論
 以上によれば、会社の請求は理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委令和2年(不)第40号・同3年(不)第27号 一部救済 令和4年6月21日
東京地裁令和4年(行ウ)第444号 棄却 令和6年2月29日
 
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