概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和2年(不)第40号・同3年(不)第27号
テイケイ不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合 |
被申立人 |
Y会社 |
命令年月日 |
令和4年6月21日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、①組合員Aに対して退職勧奨をしたこと、②組合が申し入れた団体交渉に応じなかったこと、③組合事務所、組合員の自宅、組合員の就業先等に文書を送付し、また、会社本社入口に掲示するなどしたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、②について労働組合法第7条第2号、③について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(i)組合が団体交渉を申し入れたときは、開催条件に固執することなく、誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)組合の方針及び行動並びに組合員を非難する内容の文書を、会社の社屋に掲示する、又は、組合、組合員、組合員の就業先及び組合の上部団体に対して送付する等の方法によって、組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅲ)文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 会社は、組合が団体交渉を申し入れたときは、団体交渉の開催条件に固執することなく、誠実に応じなければならない。
2 会社は、組合の方針及び行動並びに同組合の組合員を非難する内容の文書を、会社の社屋に掲示する、又は、組合、組合の組合員、組合の組合員の就業先及び組合の上部団体に対して送付する等の方法によって、組合の運営に支配介入してはならない。
3 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付しなければならない。
記
年 月 日
X組合
執行委員長 A1
Y会社
代表取締役 B
当社が行った下記の行為は、東京都労働委員会において、不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
記
1 貴組合からの令和2年4月30日、5月11日及び8月5日付団体交渉申入れを拒否したこと。
2 当社が貴組合や貴組合の組合員を非難する文書を会社の社屋に掲示し、又は、貴組合、貴組合の組合員、貴組合の組合員の就業先及び貴組合の上部団体に対して送付したこと。
4 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
5 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 会社が、令和元年5月9日、組合員A2に対して退職勧奨をした事実が認められるか。事実が認められる場合、会社の行為は、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)
会社が元年5月9日、組合員A2に対して退職勧奨を行った事実が認められ、同人の行為〔注遅刻を申告せず給与を受け取ったこと〕が犯罪であることや警察に通報する可能性を示唆した上で、従業員ではなくなった場合には警察沙汰にはしない、という一種の利益誘導を行って退職届の提出を求める退職勧奨の態様は、極めて問題であるといわざるを得ないが、かかる退職勧奨は、同人が組合員であることを理由として行われたものであるとまでは認められないことから、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらず、また、組合の運営に対する支配介入にも当たらない。
2 会社が、令和2年4月30日、5月11日及び8月5日付けで組合が申し入れた団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点2)
(1)組合が2年4月30日付けなどの団体交渉の申入れに際して提示していた協議事項は、従業員の就業環境に影響を及ぼす事項であることから義務的団交事項に当たり、正当な理由がない限り団体交渉を拒否することは不当労働行為に当たる。
(2)本件において、令和2年4月8日の団体交渉(以下「本件団体交渉」)において、会社警備員が着用しているマウスシールドについて「意味の無いプラスチック製の板」と述べるとともに、組合が会社側出席者の同意を得ずに同人らの様子を動画撮影したこと、及び4月11日に当該動画のうち1分30秒の映像(以下「本件動画」)をYoutube、組合ブログ等にアップロードしたことなどが認められる(以下、動画撮影行為とアップロード行為を合わせて「本件組合行為」)。
会社は、組合からの4月30日付けなどの団体交渉の申入れに対し、①本件組合行為が団体交渉に出席した会社側出席者の肖像権・プライバシー権を侵害し、ひいては会社の業務を妨害するものであったこと、②会社は再三にわたり本件動画等の削除及び公開停止、本件組合行為に対する謝罪、同様の行為を二度と行わないことの誓約を要求したにもかかわらず、組合において誠実な回答や対応を行わなかったこと、③本件組合行為及び会社の上記要求に対する組合の姿勢は不誠実なもので、本件団体交渉以降、会社と組合との問で団体交渉を行うことが可能な程度の信頼関係を構築することは困難な状態になっていたとして団体交渉に応じることを拒否している。
(3)確かに、組合による本件組合行為には会社側出席者に対する権利侵害の点や、将来にわたる団体交渉の円滑な運営の観点等から、責められるべき点がないとはいえない。
しかし、①新型コロナウイルス感染症対策の観点から、従業員が着用するマスクの問題は、従業員の就業環境に影響を及ぼす事項であるといえ、本件組合行為の目的は必すしも殊更に会社の社会的地位を低下させ、円滑な業務を妨害するものであったとまでは認められないこと、②組合は過去の団体交渉においては動画撮影を行っておらず、本件団体交渉において本件組合行為が行われたとしても、本件団体交渉以降の団体交渉において、再度本件組合行為と同様の行為が行われる蓋然性が高かったとまではいえないこと、③会社が要求する本件組合行為に対する謝罪や本件動画及び画像の削除について団体交渉の席上で協議を行う上での支障は認められないこと、④本件動画はアップロードに際して一定のプライバシー保護が図られており、会社側担当者が容易に特定できるものであるとまでは評価できないこと、⑤Youtubeにアップロードされた本件動画は組合による団体交渉申入れに先立つ4月19日には削除されていたこと等の事情を勘案すると、本件組合行為及ひこれに対する組合の対応に責められるべき点がないとはいえないとしても、会社において団体交渉を拒否する正当な理由とはならないとするのが相当である。
(4)以上のとおり、令和2年4月30日付けなどで組合が申し入れた団体交渉を拒否した会社の対応は、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たる。
3 会社による別紙一覧表1記載の本件文書送付行為等が、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)
(1)次の会社による行為については、組合員の間に精神的動揺を引き起こし、組合の組織や運営に影響を及ぼす危険があるとまでは認められないことなどから、支配介入に当たらない。
① 組合代理人事務所宛ての文書の送付行為(5通全て)
②-3 組合事務所及びC組合事務所宛の文書の送付のうち、組合員を送付対象に含む文書の送付行為(32通のうち1通)
(2)次の会社による行為については、組合員の間に精神的動揺を引き起こし、組合の組織や運営に影響を及ぼす危険があることなどから、支配介入に当たる。
②組合事務所及びC組合事務所宛の文書の送付のうち、
-1 組合のみを対象とした文書の送付行為(4通全て)
-2 C組合のみを送付対象とした文書の送付行為(2通全て)
-3 組合員を送付対象に含む文書の送付行為(32通のうち31通)
③組合員の就業先への文書の送付行為(2通全て)
④組合員宅への文書の送付行為(22通全て)
⑤本件掲示行為〔注 令和2年8月31日、組合の街宣活動の間、会社が本社入口に文書を掲示した行為〕
(3)なお、〔会社は、労働組合の組織、運営に影響を及ぼすような、強制、威圧ないし利益誘導が含まれなければ不当労働行為とはならない旨主張するところ、〕表現内容に威嚇、報復、利益の約束の要素があれば、支配介入に該当し不当労働行為と認定されやすいことは否めないものの、当該事情は必ずしも不可欠な要件ではなく、本件において、支配介入に当たると認定した各文書の記載内容はいずれも威圧的なものであり、これにより組合活動が一定の制約を受けたことは優に認められるものであって、会社の主張は採用することができない。
また、〔会社は、本件文書送付行為等は正当な抗議活動として行ったものであり、憲法21条に基づく言論の自由として保障されるべき旨主張するところ、〕組合の街宣活動に必ずしも適当とはいえない点があったとしても、それは、適法な形式による組合との交渉や組合の抗議、会社が組合の街宣活動に関して提起した損害賠償請求訴訟などの手段を通じて解決を図るべきものであって、組合の街宣活動の正当性の有無を問わず、組合の街宣活動の対抗手段として支配介入行為が許されるものではなく、会社の主張は採用することができない。 |
掲載文献 |
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