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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和4年(行ウ)第444号
テイケイ労働委員会救済命令取消請求事件 
原告  X会社(「会社」) 
被告  東京都(代表者兼処分行政庁 東京都労働委員会) 
補助参加人  Z組合(「組合」) 
判決年月日  令和6年2月29日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、①組合員Aに対して退職勧奨をしたこと、②組合が申し入れた団体交渉に応じなかったこと(以下「本件団体交渉拒否」という。)、③組合事務所、組合員の自宅、組合員の就業先等に文書を送付し、また、会社本社入口に掲示するなどしたこと(以下「本件文書送付行為等」という。)が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。

2 都労委は、②について労組法7条2号、③について同条3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(i)組合が団体交渉を申し入れたときは、開催条件に固執することなく、誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)組合の方針及び行動並びに組合員を非難する内容の文書を、会社の社屋に掲示する、又は、組合、組合員、組合員の就業先及び組合の上部団体に対して送付する等の方法によって、組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅲ)文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。会社は、これを不服として、東京地裁に、行政訴訟を提起した。

3 東京地裁は、会社の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用(補助参加費用を含む。)は原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点⑴ 本件団体交渉拒否が不当労働行為に当たるといえるかについて

(1) 本件団体交渉拒否は、義務的団交事項に係る団体交渉の申入れに対するものであるから、正当な理由がない限り、労組法7条2号の不当労働行為に当たる。

(2) 組合は、令和2年4月8日開催の会社との団体交渉(以下「本件団体交渉」という。)の終盤において、会社の警備員が不織布等のマスクではなく、プラスチック製の板で口元や鼻を覆う形状のマウスシールドを着用していることを指摘し、マウスシールドについて「意味のないプラスチック製の板」と述べるとともに、会社側の出席者の同意を得ずに当該指摘に係るやり取りを撮影した。
 さらに、同月11日、本件団体交渉において撮影した映像を使用し、会社側の出席者の目元をモザイク処理するなどして作成した動画(以下「本件動画」という。)を、動画投稿サイトであるYouTube、組合作成のブログ、ツイッターにそれぞれアップロードした(以下、組合の上記撮影行為及び本件動画をインターネット上にアップロードした行為を併せて「本件投稿行為」という。)。
 会社は、令和2年4月14日、同月16日及び17日、組合に対し、本件投稿行為について強く抗議するとともに、会社に対する謝罪と動画の削除等を求める旨の書面をそれぞれ送付し、同日付け書面には、会社が求める対応が確認できない限り、今後一切の団体交渉に応じるつもりはない旨が記載されていた。
 組合は、会社に対し、令和2年4月30日、同年5月11日及び同年8月5日、組合員の賃金支払等を協議事項とする義務的団交事項について団体交渉の開催を求めたが、会社は、組合による謝罪等がないことを理由として、組合からの上記各団体交渉の開催の求めに応じていない(以下「本件団体交渉拒否」という。)。
 なお、組合は、マスクの着用に関する事項は組合員の労働条件に関わる事項であり、組合が本件動画を削除したと通知した時点において、ツイッター上に本件動画がアップロードされたままであったのは、故意に削除しなかったのではなく、ツイッター上にアップロードしていた動画が多数あったため、削除が漏れてしまったためであると主張している。

(3) 会社は、本件動画公開の意図、会社業務の妨害、不合理な弁解や虚偽の報告などの事情からすると、組合が本件各要求に誠実に応じない以上、本件投稿行為と同様の行為が行われる蓋然性が高く、本件団体交渉拒否には、正当な理由があると主張する。
 しかし、本件動画の内容は、従業員のマスク着用に関するものであって、会社がマスク着用に対する考え方について団体交渉の席上で意見を伺いたいとの書面を送付していたことを併せ考慮すると、本件投稿行為の主たる目的は、マスク着用に対する見解を表明し、組合員の就労環境の改善を図ることにあったと考えることができ、専ら会社を誹謗中傷する意図であったとまでは認められない。また、本件動画中の被撮影者の目元にはモザイク処理が施されており、第三者からみれば被撮影者を直ちに特定できるものではない。そして、本件動画の公開によって会社の業務が具体的に妨害されたことを認めるに足りる証拠はない。
 YouTube上の動画は、令和2年4月30日付けの団体交渉申入れに先立ち、運営会社によって削除され、ブログ上の動画については、同年8月5日付け団体交渉申入れに先立ち、組合が削除し、ツイッター上の動画についても、会社の指摘を受けてその頃組合が削除していることに加え、組合は、会社とのやり取りを通じ、会社に対して、今後無断でインターネット上にアップロードしない旨の意思を表明していることが認められる一方、本件投稿行為以前に組合が同様の行為を行っていたことを具体的に裏付ける主張も立証もない。
 そうすると、組合が団体交渉の申し込みをした同年4月30日以降において、本件動画の公開に会社が激しく抗議をする中、あえて本件投稿行為と同様の行為を行う蓋然性が高かったとは認められず、仮に、会社において、その危惧を払拭できなかったとしても、団体交渉の申入れに応じた上で、本件投稿行為と同様の行為を行わないよう求めることは十分に可能であり、会社の上記の危惧のみを根拠として、団体交渉の開催そのものを拒絶することに正当な理由があると認めることはできない。
 以上によれば、会社が、組合からの令和2年4月30日、同年5月11日及び同年8月5日付け団体交渉申入れに対し、本件投稿行為に対する謝罪がないこと等を理由にその開催にすら応じないことは、団体交渉を正当な理由なく拒んでいるものと認めるのが相当であるから、会社の上記主張を採用することはできない。

(4) よって、本件団体交渉拒否が労組法7条2号の不当労働行為に該当するとした都労委の判断に違法はない。

2 争点⑵ 本件救済命令の主文第1項の内容に裁量の逸脱・濫用があるといえるかについて

 労組法27条に定める労働委員会の救済命令制度は、労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対し、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、これを命ずる権限を委ねる趣旨に出たものであり、訴訟において救済命令の内容の適法性が争われる場合においても、裁判所は、労働委員会の上記裁量権を尊重し、その行使が上記趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではないものと解するのが相当である(最大判昭52・2・23、最一小判平7・2・23参照)。
 会社は、本件救済命令の主文第1項について、無条件での団体交渉の開催を強いるもので、都労委において是認される裁量の範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたる旨主張する。
 しかし、本件救済命令は、上記1において説示したとおり、本件投稿行為に対する謝罪がないこと等を理由とする本件団体交渉拒否が不当労働行為に該当するというものであるから、主文第1項にいう「団体交渉の開催条件に固執することなく、誠実に応じなければならない」とは、会社が団体交渉の開催を拒む理由として主張する「本件投稿行為に対して謝罪すること等」に固執することなく、組合からの団体交渉の申入れに誠実に応じることで、会社と組合との間で正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図ることを命じる趣旨であって、無条件での団体交渉の開催を強いるものではない。
 そうすると、本件救済命令の主文第1項の内容は適法であるから、会社の上記主張は採用できない。

3 争点⑶ 本件文書送付行為等が不当労働行為(支配介入)に当たるといえるかについて

(1) 会社は、本件文書送付行為等が不当労働行為(支配介入)に当たらない旨主張するところ、以下、本件各文書については文書の名宛人に着目して分類し、検討する。

ア 組合のみを名宛人とする文書について
 上記各文書の内容は、組合が匿名掲示板「5ちゃんねる」の「板(スレッド)」を開設したと十分な根拠なく断定した上で、組合に対し、謝罪を要求し、情報開示請求や損害賠償請求を行うことを予告する旨威圧的に記載されており、威嚇的・萎縮的内容を含んでいるといえることからすると、組合の組織や運営に影響を及ぼすものということができる。
 したがって、上記各文書の送付行為はいずれも支配介入に当たる。

イ A4ユニオンのみを名宛人とする文書について
 上記各文書の内容は、組合が不法行為を繰り返しているとして、組合の上部団体であるA4ユニオンにおいて、「ことの理非を調べ、判断頂きたい」との記載、A4ユニオンの会長であるA5会長の責任を問う旨の記載や、組合による街宣活動について刑事告訴をするための証拠を準備しておりそれについて覚悟することを求める旨の記載がある。
 組合活動に対する抗議は、労使紛争の他方当事者である組合に対して行うべきであり、A4ユニオンに対して行う必要性は認められない上、上記のとおり、A4ユニオンが組合の上部団体であることを考慮すると、上記各文書の記載内容はA4ユニオンを介して組合の組合活動を萎縮させる効果を有していることは否定できず、組合の組織や運営に影響を及ぼすものということができる。
 したがって、上記各文書の送付行為は支配介入に当たる。

ウ 組合員も名宛人に含む文書
 上記各文書の内容は、A4ユニオンやA5会長に関し、①組合が不法行為を繰り返しているとしてA4ユニオン会長であるA5会長に対しその責任を問う旨の記載や、組合の活動に関し、A4ユニオンやA6事務局長が「威力業務妨害・共同正犯及び損害賠償請求・共同不法行為責任の対象者」である旨の記載、組合や組合員に関し、②「ゆすり、たかりの集団!」、「恐カツの“プロ集団”」、「社会の敵だ!」、「ゴミは消えろ!!」等誹謗中傷する記載や反社会的勢力に資金を提供している、組合員から拠出金を搾取している旨の記載、個々の組合員に関し、③例えば、A1執行委員長について、「オイA1お前のやっていることは企業の脅し上げ“恐喝”と組合員からの搾取」等誹謗中傷する記載のいずれかが含まれている。
 ①の記載については、上記イのとおり組合の上部団体であるA4ユニオンを介して組合の組合活動を萎縮させる効果を有していることは否定できず、組合の組織や運営に影響を及ぼすものということができる。そして、②及び③の記載については、組合や、個々の組合員を誹謗中傷するものであったり、組合の活動の正当性に疑問を生じさせる内容であることから、組合員の間に精神的動揺を引き起こすものであって、組合の組織や運営に影響を及ぼすものということができる。
 したがって、上記各文書の送付行為はいずれも支配介入に当たる。

エ 組合員の就業先を名宛人とする文書
 上記各文書の内容は、組合員であるA7の就業先に対し、A7の組合における活動が大変迷惑であるとして指導を求める旨の記載や、就業先においてそのような対応がとられない場合には、その元請会社に対しても抗議をすることを示唆する旨の記載がある。
 上記各文書の記載内容は、組合活動とは全く関係のない就業先において、就業先における社会的地位をいたずらに毀損するもので、A7をはじめとする組合員において、組合での組合活動を著しく委縮させ、また、著しい精神的動揺を引き起こす効果を有しているといえ、組合の組織や運営に影響を及ぼすものということができる。
 したがって、上記各文書の送付行為は支配介入に当たる。

オ 組合員個人のみを名宛人とする文書
 上記各文書の内容は、組合や組合員個人を誹謗中傷する記載、組合による活動について、「恐カツ」、「相変わらず『嘘八百』を並べ立てている。」などと誹謗中傷する記載、組合が組合員を安くこき使った上で「『お払い箱』にしてきた」、「組合に利用されている」など組合活動をやめるよう促す趣旨の記載、組合員個人の自宅に抗議のために訪問することを予告する旨の記載のいずれかが含まれている。
 これらの記載内容は、名宛人となった組合員をはじめ組合員に対し、精神的動揺を引き起こすものといえることに加え、送付先となった組合員の中には、会社に対して自宅の住所を知らせていない者も含まれていることからすれば、組合員に与える精神的動揺の程度は著しいということができる。
 したがって、上記各文書の送付行為は、組合の組織や運営に影響を及ぼすものといえ、支配介入に当たる。

カ 文書掲示行為
 本件文書には、「反社にカンパブラックユニオン」、「半グレ→反社」といった記載があり、これらの記載は組合を誹謗中傷するものといえる。
 そして、当該文書は会社の本社入口のガラス扉に掲示されており、通行人等不特定多数の者に閲覧することが可能な状態であったことからすれば、文書掲示行為は不特定多数の者において、組合に対する社会的評価を低下させるものであったということができる。
 したがって、文書掲示行為は、組合員の間に精神的動揺を引き起こすものであったといえ、支配介入に当たる。

キ 会社の主張について
 会社は、本件文書送付行為等について組合による異常な態様の街宣活動に対する正当な抗議として行ったものであり、組合嫌悪の意思に基づいて行われたものではなく、支配介入に当たらない旨主張する。
 確かに、会社は、会社本社前における街宣活動により、その業務に一定の支障が生じ、会社本社ビルに入居する他の企業から街宣活動の音量に関する苦情等を受けたことがあるが、本件各文書には「ゆすり、たかりの集団!」、「社会の敵だ!」、「ゴミは消えろ!!」などの明らかに組合を敵視する趣旨の記載が随所に含まれており、本件文書送付行為等が組合嫌悪の意思に基づいてされたことは明らかであり、正当な抗議の範囲を超えるものというべきである。よって、会社の上記主張は採用できない。

(2) したがって、本件文書送付行為等が労組法7条3号の不当労働行為(支配介入)に該当すると判断した都労委の判断に違法はない。

4 総括

 以上のとおり、本件団体交渉拒否及び本件文書送付行為等が不当労働行為に当たるとした都労委の判断は正当であり、また、本件救済命令の主文第1項の内容にも裁量権の逸脱・濫用はないから、本件救済命令に取り消すべき違法はない。



 
5 結論

 よって、会社の請求は理由がないからこれを棄却する。
 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委令和2年(不)第40号・同3年(不)第27号 一部救済 令和4年6月21日
 
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