概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
東京地裁令和5年(行ウ)第236号・令和5年(行ウ)第445号事件
旭生コン労働委員会救済命令取消請求事件(「第1事件」)、旭生コン労働委員会救済命令取消請求事件(「第2事件」) |
| 第1事件原告兼第2事件被告補助参加人 |
X1会社(「原告会社」または「会社」)
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| 第2事件原告兼第1事件被告補助参加人 |
X2組合(「原告組合」または「組合」)
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| 両事件被告 |
国 (処分行政庁 中央労働委員会(「中労委」)) |
| 判決年月日 |
令和7年9月29日 |
| 判決区分 |
棄却 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
1 会社は、生コンクリート(「生コン」)の製造、販売等を目的とする株式会社である。組合は、職業安定法45条に基づく許可を受けて労働者供給事業を運営しており、その事業運営のため、A1事業所等を設置している。
本件は、組合のA1事業所から日々雇用労働者の供給を受けていた会社が、①労働者供給の依頼を打ち切ったこと(「本件供給依頼停止」)、②供給依頼の回復等に関する団体交渉申入れ(「本件団交申入れ」)に応じなかったことが不当労働行為であるとして、救済申立てをした事案である。
2 初審大阪府労働委員会(「府労委」)は、会社の上記1①の行為は労働組合法(労組法)7条3号の不当労働行為に該当し、上記1②の行為は同条2号の不当労働行為に該当すると判断し、会社に文書交付を命じ、組合のその他の申立てを棄却した。(「本件初審命令」)
3 組合及び会社は、それぞれ再審査を申し立てたところ、中労委は、(1)会社の再審査申立てに対し、本件初審命令を上記1②に関する文書交付に変更、その余を棄却し、(2)組合の再審査申立てを棄却した。(「本件再審査命令」)
4 会社及び組合は、それぞれ東京地裁に対し、行政訴訟を提起した。第1事件は、会社が、第2事件は、組合が、本件再審査命令の取消しを求めたものであるが、同地裁は両者の請求を棄却した。 |
| 判決主文 |
1 原告会社及び原告組合の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、第1事件について生じたものは原告会社の負担とし、第2事件について生じたものは原告組合の負担とする。
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| 判決の要旨 |
1 争点1(会社が、A1事業所から供給されていた日々雇用労働者(「労供組合員」)との関係で、労組法7条の「使用者」に当たるか)について
(1)判断
ア 労組法7条の「使用者」は、労働関係が雇用を基盤として成立するものであり、「使用者を雇用する労働者」の代表者との団体交渉を拒絶することを不当労働行為としている(同条2号)ことなどから、一般に労働契約上の雇用主を意味するものであるが、雇用主以外の事業主であっても、団体的労使関係が労働契約又はそれに近似ないし隣接した関係を基盤として、労働者の労働関係上の諸利益についての交渉を中心に展開されることからすれば、基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有している者、近い将来において当該労働者と労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある者など、労働契約関係に近似ないし隣接する関係を基盤とする団体的労使関係の一方当事者もまた、「使用者」に該当するものと解するのが相当である。
そこで、会社が、労供組合員との間で、雇用主に隣接する関係(近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的可能性がある関係)にあるといえるかを以下検討する。
イ 本件供給依頼停止以降、会社は、A1事業所に対する労供組合員の供給依頼を行っておらず、原告組合の組合員の中に、会社と直接労働契約を締結している者はいなくなった。したがって平成30年4月2日以降、A1事業所に所属する労供組合員と会社との間に日々雇用の労働契約は存在せず、会社は、労供組合員の直接の雇用主ではない。
しかし、会社においては、平成5年以降、少なくとも約25年間にわたってA1事業所から労働者の供給を受けており、その労働者供給は、会社の需要に応じて人員を増減させながらも、全く供給されないという事態には至らないまま、絶えず継続してきたものであると認められる。そして、本件供給依頼停止の直前である平成29年4月から平成30年3月までの1年間についてみても、1か月当たり平均55.3人の労供組合員が供給されているから、C3支部が平成29年12月12日から実施し、A1事業所が協力したストライキ(「本件ゼネスト」)を契機とした本件供給依頼停止という事態に至らなければ、同年4月以降も、A1事業所から会社への労働者供給が引き続いて行われることは、相当に高い確実性をもって予定されていたということができる。
※ 組合は、C2労組の地方組織であり、同組合C3支部等の組織加盟及び個人加盟の労働者により構成される労働組合である。
また、供給される労供組合員の人選について、会社は、A1事業所から供給された労供組合員を原則としてそのまま受け入れ、労働契約を締結することとしていたと認められる。
さらに、会社は、問題がある労供組合員について、以後供給の対象としないよう申し入れたことがあり、その後当該組合員が再度供給の対象とされることがなく、会社が当該組合員を採用しないという事態にまでは至らなかったことが認められ、このことは、会社と組合(A1事業所)の双方において、A1事業所の人選に沿った労働者供給を安定的、継続的に行っていく意思を有していたことの発現と評価することができる。
これらを踏まえると、会社とA1事業所の労供組合員らとの間では、近い将来においても、継続して労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性があったということができる。
ウ 加えて、会社と組合の間で、労働者供給に関する契約書や労使協定書等の文書が作成された事実はないものの、会社は、労働者供給が開始された平成5年の時点において、組合員の意向を踏まえ、賃金を1日当たり1万7500円とすることとし、これを前提に労働者供給が開始され、以後、それと別異の合意が個別に成立することなく、労供組合員の基本的な労働条件として、長期間、広く共有されていたものと評価することができる。
このような労働条件の決定の実態に照らせば、本件再審査命令が想定するような黙示的かつ継続的な労働者供給契約の成立が認められるか否かは措くとしても、会社が、労供組合員の労働条件に関し、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったことは否定されず、この点も「使用者」該当性を基礎付ける事実であるということができる。
エ 以上によれば、会社は、A1事業所の労供組合員との関係で、労組法7条の「使用者」に当たる。
(2)会社の主張について
会社は、本件再審査命令が、継続的な労働者供給契約の黙示的な成立を認定したことの誤りを主張するが、上記(1)等の認定判断に照らし、同契約が成立したか否かを措くとしても、会社が労組法7条の「使用者」に当たるということができるから、同主張は結論を左右しない。
また、会社は、会社とA1事業所の間で、労供組合員の労働条件を決めることは想定されておらず、労供組合員との間で個別に労働条件を協議・決定する余地は排除されていなかったと主張する。しかし、上記(1)ウのとおり、現実には、会社と労供組合員とが個別に労働条件を合意することはなく、平成5年頃に元組合員の意向を踏まえて決められた賃金額が長期間にわたり広く共有されていたのであって、個別に労働条件を協議・決定する余地が排除されていなかったとしても、上記判断は左右されない。
会社は、労働契約の成立可能性を具体的な組合員について検討することが必要であり、どの組合員との関係でみても近い将来に労働契約関係が成立する可能性はなかったと主張する。しかし、少なくとも、平成29年4月ないし平成30年3月に会社に供給されたことがある14名の労供組合員のうち本件団交申入れ時(同年4月25日)までに脱退したと認められる者を除く5名との関係においては、近い将来に労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性があったというべきであり、上記主張は採用することができない。
会社は、本件再審査命令が、本件供給依頼停止には相応の合理性があると判断したことは、会社と労供組合員との間に近い将来の労働契約成立の可能性を肯定することと矛盾する旨主張する。しかし、労働契約の成立可能性は、長期間にわたる労働者供給の実態を総合して検討すべきものであり、平成29年12月に至って発生した本件ゼネストに端を発する本件供給依頼停止という一事をもって直ちに否定されるものではないから、上記主張は理由がない。
また、会社は、本件再審査命令は採用の自由を等閑視して組合の期待を過度に保護していると主張するが、上記(1)イのような労供組合員の人選や契約締結の実態は、会社に採用の自由があることを前提としたものであって、本件再審査命令の判断が会社の採用の自由に容喙するものであるとはいえない。
一方、A1事業所から会社に供給されることがあった労供組合員においては、会社から供給依頼がされれば、いずれかの労供組合員が労働者として供給されることが合理的に期待されていたということができ、このような観点からは、組合の期待を過度に保護しているという主張も採用することができない。
(3)小括
以上によれば、会社がA1事業所の労供組合員との関係で労組法7条の「使用者」に当たるとした本件再審査命令の判断に誤りはなく、会社の主張はいずれも採用することができない。
2 争点2(本件供給依頼停止が労組法7条1号又は同条3号の不当労働行為に当たるか)について
(1)判断
ア 生コンは、製造後短時間で固まり、時間が経過してしまうと品質上の問題が生じるなどの特質を有しているから、生コンの製造事業者にとって、需要者への安定的な供給体制を確保することは重要な課題といえる。会社は、生コンの輸送等のためにミキサー車を6台保有していたところ、その運転は、自社の従業員1名及び個人事業主1名を除くほか、A1事業所から供給を受ける労供組合員に行わせていたから、労供組合員の供給を確保することは、生コン製造事業者としての会社の経営に直結する極めて重要な要素であるということができる。そうすると、会社が、労働者供給事業所を選択する際、必要なときに必要なだけミキサー車の運転手を安定的に確保できるかどうかを重視することは、何ら不合理なものではない。
イ 本件ゼネストに伴う労働者供給の停止により、平成29年12月における会社の生コンの出荷量は、前年及び翌年の同月と比較して大幅に低下し、適正出荷量を下回った。このように、本件ゼネストという会社が制御できない事情によって、労働者の供給が2日間とはいえ全面的に停止した事実は、会社にとって、A1事業所による安定的な労働者供給に重大な不安を抱かせるに足りるものといえる。そうすると、会社として、再度、同様の事態が発生して生コンの出荷量の低下等の打撃を受けることがないよう、安定的に労働者供給を受け得る供給先への依頼の変更を検討することは、経営上の判断として合理性を有する。
ウ また、会社のB1社長において、一度はA1事業所のA2代表から再度の労働者供給停止に至ることはない旨の説明を受けたにもかかわらず、再度のC3支部によるストライキの可能性を認識し、さらには、組合の元組合員C5が立ち上げた労働者供給事業を行うC6とはとは別に、A2代表自身が組合を脱退し、労働者供給事業所を立ち上げるとするA2代表の説明やその行動に不信感を抱いた上、会社に供給されることが多かった元組合員3名がC6に移籍することを聞いた結果、C6への依頼先の変更を本格的に決断したと認められる。このようなB1社長の判断は、労供組合員の供給について、相手方への信頼の有無や程度に応じ取引先を選択、変更するという合理的な判断というべきものである。
他方で、本件供給依頼停止は、A1事務所に所属する組合員の日々の雇用の可能性を喪失させるものであり、組合からの組合員の脱退など組合に少なからず不利益をもたらすものであったともいえる。
しかしながら、本件供給依頼停止に至った経緯は上記のとおりであり、A2代表自ら組合を脱退し、別に労働者供給事業を立ち上げるなどと説明していたり、元組合員3名も組合を脱退するなどとしている中で、会社において、A2代表の対応が信頼に値しないなどと考え、労働者供給事業にかかる相手方としての組合の信用性に疑いをもったこともやむを得ないものであったといえ、上記不利益も組合自ら招いたところがあったことも否定できない。このような組合の状況などの事情をも踏まえると、本件供給依頼停止が組合の支配に介入し弱体化させるなどの不当労働行為意思に基づくものと評価することもできない。
エ 以上によれば、本件供給依頼停止には相応の合理性があり、組合の弱体化を意図して行われたものではないという本件再審査命令の判断は相当であり、本件供給依頼停止が労組法7条3号の不当労働行為(支配介入)に該当するということはできない。
また、本件供給依頼停止は、上記のとおり合理的な理由によるものであり、本件供給依頼停止によって供給されないこととなる労供組合員らが労働組合の組合員であることの故をもってされた不利益取扱いであることを認めるに足りる証拠もないから、これと同旨の本件再審査命令の判断は相当であり、労組法7条1号の不当労働行為(不利益取扱い)にも該当しない。
(2)組合の主張について
組合は、本件供給依頼停止が支配介入に該当しないとすれば、労働者供給依頼が継続するための条件として争議権の不行使や団結権の侵害が前提となり、実質的に黄犬契約と異ならないと主張する。
しかし、上記(1)アないしウのとおり、本件供給依頼停止は、生コンの特質や会社の事業の在り方、組合の状況等を踏まえた経営上の判断に基づき決定されたものであって、これを不当労働行為として是正しなければ組合又はC3支部の争議権又は団結権が侵害されるという関係にはない。
組合は、労働者供給事業を行い得る主体が労働組合に限られているといった労働者供給事業の特殊性等を援用して、本件供給依頼停止が信義則に反し、組合の弱体化を目的としたものであるなどと主張する。
しかしながら、本件供給依頼停止に至った経緯等に照らし、それが組合の信頼性の問題にもよるものであったことは前記のとおりであって、会社と組合との労働者供給事業における関係性が25年にわたるものであり、また、上記特殊性を踏まえたとしても、本件供給依頼停止が信義則に反するとはいえないし、組合の弱体化を目的としたものとも認められない。
(3)小括
以上によれば、本件供給依頼停止が労組法7条の不当労働行為に当たらないとした本件再審査命令の判断に誤りはなく、組合の主張はいずれも採用することができない。
3 結論
以上の次第で、本件再審査命令は適法であり、会社及び組合の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 |
| その他 |
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