労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委令和2年(不再)第41号・第42号
旭生コン不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  X組合(「組合」)(41号)、Y会社(「会社」)(42号) 
再審査被申立人  Y会社(「会社」)(41号)、X組合(「組合」)(42号) 
命令年月日  令和5年2月1日 
命令区分  棄却・一部変更 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合のA事業所から日々雇用労働者の供給を受けていた会社が、①労働者供給の依頼を打ち切ったこと(本件供給依頼停止)、②供給依頼の回復等に関する団体交渉申入れ(本件団交申入れ)に応じなかったことが不当労働行為であるとして、組合が大阪府労働委員会に救済申立てをした事件である。
2 大阪府労働委員会は、会社の上記1①の行為は労働組合法(労組法)第7条第3号の不当労働行為に該当し、上記1②の行為は同条第2号の不当労働行為に該当すると判断し、会社に文書交付を命じ、組合のその他の申立てを棄却したところ、組合及び会社は、それぞれ再審査を申し立てた。 
命令主文  (1) 会社の再審査申立てに基づき、初審命令を次のとおり変更する。
ア 上記1②に関する文書交付
イ その余の救済申立てを棄却
(2) 組合の再審査申立てを棄却する。 
判断の要旨  (1) 会社は労供組合員らの労組法上の使用者に当たるか
ア 労組法第7条の使用者は、原則として、労働契約上の雇用主であるが、労働契約成立前であっても、近い将来において労働契約関係が成立する可能性が現実的かつ具体的に存する者も含まれる。また、組合員と雇用主との間に近い過去に労働契約関係が存在し、組合若しくは組合員又はその両者がその労働契約の終了を争っている場合にも、当該雇用主は労組法第7条の使用者に該当し得る。
イ 組合と会社は、遅くとも平成5年以降、25 年間にわたって労働者供給を継続していることからみて、労働者供給に関する契約書を取り交わしていないものの、遅くとも平成5年には継続的な労働者供給契約が黙示的に成立したものと認められる。
 この労働者供給契約は、会社が組合のA事業所に対し、日々、労働者の供給を依頼した場合に、A事業所において対応可能な限りで労働者を選定して、会社に対し必要なときに必要なだけ労働力を供給することを内容とする無償の契約である。また、労働者供給契約の一方当事者である組合は日々雇用労働者が所属する労働組合であることからみて、同契約では、供給先である会社が供給元である組合との間で、日々雇用した組合員に支払う賃金その他の労働条件を取り決めることが想定されていると解される。実際に、日々雇用労働者の賃金その他の労働条件は、平成5年に労働者供給を開始した時にA事業所と会社との間で決定しており、以来その時に決定された賃金が会社から日々雇用労働者に支払われている。他方、労働者供給契約上、労働者供給が必要な場合に、A事業所にのみ依頼することを会社に義務付けるような合意は存しない。
 A事業所から供給された組合員は、上記のように会社に日々雇用されるのであるが、これは、会社が、A事業所において選定して供給した日々雇用労働者との間で日々雇用の労働契約を締結して日々雇用し、当日に同契約が終了するというものである。
 この日々雇用の労働者供給の実態についてみると、組合に所属してA事業所からの供給によって会社に日々雇用される労供組合員の集団は、遅くとも平成5年以降、25 年間にわたり、そのうちのだれかが会社の依頼に応じて会社に日々雇用されていたものである。平成 29 年4月以降平成 30 年3月までの供給実績では、月の延べ供給人員の合計平均は 55.3 人であり、会社の依頼に応じて1日当たり1名ないし4名程度、労供組合員 14 名のうちのだれかがA事業所からの供給によって会社に日々雇用されていた。これを労供組合員についてみると、A事業所からの供給によってだれかの日々雇用が短い間隔を置きつつ断続的に行われており、日々雇用された労供組合員を集団としてみると、この集団に属することによって日々雇用がA事業所からの供給により継続していたものということができる。
 このような実態に鑑みると、組合に所属してA事業所からの供給によって会社に日々雇用されたことのある労供組合員の集団(労供組合員集団)は、これまでと同様、近い将来においても、そのうちのだれかと会社との間で日々雇用の労働契約が短い間隔を置きつつも成立することにより、継続して就労ができる現実的かつ具体的な可能性を有しているということができる。したがって、会社は労供組合員集団に属する労供組合員との関係において労組法第7条の使用者に当たると解するのが相当である。
 また、会社の本件供給依頼停止によって労供組合員の日々雇用が行われなくなったが、これは、労供組合員集団との関係でみると、同集団に属する労供組合員と会社との間に近い過去に存在していた日々雇用の労働契約関係の終了とみることができるところ、組合はその終了を争っているのであるから、この点からも、会社は労供組合員集団に属する労供組合員との関係において労組法第7条の使用者に該当するということができる。
(2) 本件供給依頼停止は労組法第7条第1号及び同条第3号の不当労働行為に当たるか
ア 本件供給依頼停止は労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるか
(ア) 本件供給依頼停止に至る経緯として、①平成 29 年 12 月 12 日からC支部が正当性のない業務妨害行為を伴い、かつ広範な事業者に影響を及ぼす争議行為を行った際、A事業所もC支部から要請を受け、これに協力して会社への労働者供給を停止したこと、②この供給停止により、会社は生コンクリートを出荷するミキサー車の一部が稼働できず、出荷量が大幅に減少するという被害を受けたこと、③会社は平成 30 年1月頃、C支部が再度のストライキに及ぶかもしれないとの話を聞いていたこと、④組合から独立することに関するA事業所の代表の言動は生コンクリートの安定供給の観点から同事業所との信頼関係を維持できないものであったこと等の事情があったものである。このような事情の下で、会社は、C支部が再度のストライキを行うことになれば、A事業所はC支部との関係性から労働者供給を停止する可能性が高く、労働者の安定供給が損なわれる不安が大きく、そうなれば、会社の事業遂行に重大な支障が生じることになると考え、本件供給依頼停止を行ったものといえる。
(イ) 会社は、上記(ア)の理由に加え、会社での稼動経験が豊富な組合員3名が組合を脱退して平成 30 年3月中に他の労働組合に移籍することから、上記3名が移籍する先に供給依頼をすれば、その者たちの供給を受けられる可能性が高まると考え、同年4月から供給依頼先をA事業所から上記3名の移籍先に変更したものといえる。
(ウ) 以上のとおり、会社が本件供給依頼停止をして供給依頼先を変更したのは、A事業所では労働者の安定供給への不安があることから、より安定性の期待できる他の方法で労働力の調達を図ろうとしたもので、このような判断には相応の合理性が認められる。
(エ) 本件供給依頼停止は、組合の弱体化を意図して行われたものではなく、労組法第7条第3号の不当労働行為に当たらない。
イ 本件供給依頼停止は労組法第7条第1号の不当労働行為に当たるか
 上記アのとおり、会社が行った本件供給依頼停止には相応の合理性があり、組合の弱体化を意図して行われたものではなく、労供組合員集団に属する労供組合員が組合の組合員であることを理由に行われたものとはいえない。
 したがって、本件供給依頼停止は、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たらない。
(3) 本件団交申入れに対する会社の対応は労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか
 上記(1)のとおり、本件において会社は労組法上の使用者に当たる。また、本件団交申入れ時において組合は労組法第7条第2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」に当たる。
 組合が申し入れた団体交渉の議題(①労働者供給依頼を打ち切った経緯の説明、②労働者供給依頼停止を解除し速やかに回復すること)は、労供組合員の労働条件その他の待遇に関する事項で、かつ、会社に処分や説明が可能なものであるから、義務的団交事項に当たる。
 しかるに、本件団体交渉申入れに対し会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否であり、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たる。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成30年(不)第37号 一部救済 令和2年9月25日
 
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