概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京地裁令和5年(行ウ)第33号
北川建材工業労働委員会救済命令取消請求事件 |
原告 |
X支部(「組合」) |
被告 |
国(処分行政庁 中央労働委員会) |
被告補助参加人 |
Z会社(「会社」) |
判決年月日 |
令和6年10月28日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、会社が、組合員A2に対し、刑事事件の共犯者として逮捕及び起訴されたことを理由として解雇したこと(本件解雇)が不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事案である。
2 初審大阪府労委は、本件申立てを棄却したところ、組合はこれを不服として再審査を申し立てた。
3 中労委は組合の再審査申立てを棄却したところ、組合は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起した。同地裁は組合の請求を棄却した。 |
判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
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判決の要旨 |
1 争点に対する判断
(1) 会社は、就業規則上の規定「刑事上の罪に問われた者で懲戒解雇をするのが適当と認めたとき」に当たることを理由として本件解雇に至ったと認められるが、同規定には有罪判決が確定したこと等を要件とする文言はない。
会社において、前代表取締役B1がC2工事に関して逮捕及び起訴されるまでは、組合と会社は一種の協力関係にあったことがうかがわれること及びB1に係る刑事事件の推移をもとに、A2がB1の共犯者として恐喝未遂事件で逮捕・起訴されたことを受けて、A2のコンプライアンス活動が違法なB1の恐喝未遂と共謀関係にあると判断し、就業規則に反社会勢力との関係を遮断する旨の定めを追加した趣旨を踏まえ、A2が上記の刑事上の罪で訴追を受けたことをもって、その企業秩序を維持し、社会的な信用・評価を維持するために懲戒処分を行う必要があるとして本件解雇に及んだことが直ちに上記懲戒解雇規定に反し、不合理であるとまではいえず、単にA2が組合員であること又は正当な労働組合活動に参加したことをもって本件解雇に至ったとまでは認められない。
(2)会社は、平成31年3月27日及び4月3日、組合との団体交渉において、金融機関から組合の組合員が勤務しているか否かについて確認を受けていること及びC2工事に関する刑事事件によって、大変迷惑している旨を述べており、A2を含めた組合員によるC2工事に関する一連の刑事事件が会社の経営等に与えた影響は少なくなかったといえる。
しかしながら、会社は、既に同年2月19日にはA2の解雇を検討していることを明らかにし、3月2日付けで懲戒解雇の解雇予告を行っていたところ、現代表取締役B2は、同月下旬頃になって金融機関から問合せを受け、4月頃、車両リース契約の締結を拒否されたと認められるのであって、金融機関の融資を受けるべく本件解雇に至ったという経緯を認めることはできない。
また、会社が各団体交渉において金融機関からの融資について協議したことをもって、金融機関からの融資を受けるために本件解雇に至ったとまでは認められない。
(3)就業規則には、懲戒処分の決定までの手続に係る規定はなく、懲戒処分に当たり、被懲戒者に弁明の機会を与えることを義務付けた定めはなく、弁明ないし弁明の機会を与えるという慣行があったとも認めるに足りないことからすると、その機会を欠いた本件解雇が直ちに無効であるとはいえない。
むしろ、会社は、組合員の地位、身分等について事前に協議する旨を定めた「2018年春闘基本合意協定書」に沿って、A2が逮捕された後の団体交渉において、A2に対する解雇について言及していたと認められる。そして、会社は、組合の申入れに応じて、身柄拘束中の期間を有給休暇扱いとし、賃金を代理者に支払い、懲戒解雇の解雇予告通知をA2の刑事事件の弁護人に送付していたと認められる。
このように、会社は、本件解雇の前後を通じて組合の意向に沿った対応をとっていたことをも考慮すると、会社が組合を嫌悪し、A2が組合員であること、若しくは組合の正当な労働組合活動に参加したことをもって、本件解雇に至ったとまでは認められない。
(4)このほか、組合は、会社が救済の申立て後に団体交渉を拒絶していること、A1分会の事務所を取り壊したことなどから、本件解雇も組合に対する嫌悪によるものであると主張するところ、会社において、組合の要望に対して回答せず、団体交渉の日程にも遅延が見られることは否定できないが、会社が団体交渉に応じなかったことはないのであって、これらの事情をもって本件解雇が不当労働行為に当たることを直ちに推認する事情とはいえない。
2 まとめ
以上のとおり、会社が本件解雇に至った事情を踏まえると、会社が組合を嫌悪していたとまではいえず、労働契約法の観点から本件解雇の効力がいかに判断されるべきは措くとしても、A2が組合員であることや労働組合の正当な行為をしたことの故をもって本件解雇に至ったとまでは認めることができない。
したがって、中労委が組合の再審査申立てを棄却した命令は、その事実認定及び法律判断に誤りはなく、適法であり、組合の請求は理由がない。 |
その他 |
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