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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪高裁令和4年(行コ)第134号
枚方市救済命令取消請求控訴事件 
控訴人(第1審原告)  枚方市(「市」) 
被控訴人(第1審被告)  大阪府(代表者兼処分行政庁 大阪府労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Z組合(「組合」) 
判決年月日  令和5年6月16日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、市が、①組合が発行する機関紙について、特定の記事を掲載しないよう求め、記事の内容を理由に組合事務所(以下「本件物件」という。)の明渡しを求めたこと(以下「本件通知」という。)、②組合事務所の使用許可に関する平成31年1月4日付け団体交渉申入れ(以下「本件申入れ」という。)に応じなかったこと(以下「本件不応答」という。)、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 大阪府労委は、市に対し、①について支配介入及び②について正当な理由のない団体交渉の拒否に当たる不当労働行為であるとして、団交応諾とともに、文書の手交を命じた。
3 市は、これを不服として大阪地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、市の請求を棄却した。
4 市は、これを不服として大阪高裁に控訴したところ、同高裁は、市の控訴を棄却した。
 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。
 
判決の要旨  1 当裁判所も市の請求には理由がないものと判断する。その理由は、下記のとおり補正し(略)、後記2のとおり当審における市の補充的主張に対する判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の1ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。

2 当審における市の補充的主張に対する判断

(1) 争点⑴ 組合に本件各申立ての申立人適格があるか

ア 市は、以下のとおり主張する。
(ア) 「いわゆる混合組合」の論理は、適用法規(国公法・地公法・労組法等)を異にする労働者や労働組合が加入して形成するような労働者団体の労働法制上の法律上の地位を論じる中で用いられる概念であり、「いわゆる混合組合」としてその存在が認められることをもって、「いわゆる混合組合」自体が各適用法規における労働者団体になり得るものではない。
 「いわゆる混合組合」は、各適用法規における労働団体が内在することによって、自らが団体交渉等の当事者となり得るのであり、「いわゆる混合組合」であることによって、地公法に基づきその構成員が定められている職員団体に、他法である労組法の適用を受ける職員の加入が認められるものではない。

(イ) 地公法52条1項の職員団体である組合には不当労働行為救済命令の申立人適格は認められていない。もし、申立人適格を認めようとするのであれば、職員団体である組合とは別個の存在として、組合を包含する組織の存在を認め、これに申立人適格を認めるべきである。


イ(ア) そこで検討するに、労組法は、同法に基づく不当労働行為救済命令の申立人適格を有する労働組合について、「この法律で『労働組合』とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。」(同法2条)と定めるとともに、労働者について、「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。」(同法3条)と定めている。
 労組法が「労働者が主体となって」という上記要件を設けている趣旨は、労働者において外部からの不当な干渉を受けないで自らが労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図るための組合を組織することが、使用者との交渉において対等の立場に立ち、ひいてはその地位を向上させることに資するからであると解される(同法1条1項参照)。


(イ) 一般職の地方公務員は、地公法58条1項により労組法の適用が除外されているから、労組法上の「労働者」に該当しないが、憲法28条の労働基本権の保障が及ぶ「勤労者」であることは明らかであり、その実質は「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(労組法3条)であって労組法上の労働者と異ならないのであるから、一般職の地方公務員が当該団体の主たる地位を占めている混合組合に対し、労組法適用組合員に関する事項について、労組法上の労働組合としての権能を与えたとしても、同組合の構成員となっている労組法適用組合員に対する不当な干渉を招くとか使用者との交渉において対等の立場に立ち、ひいてはその地位を向上させることに支障が生ずるとは考え難い。
 また、地公法52条1項は、職員団体について、「この法律において『職員団体』とは、職員がその勤務条件の維持改善を図ることを目的として組織する団体又はその連合体をいう。」と規定しているところ、同法53条4項において、職員団体が登録を受けるためには、同一の地方公共団体に属する警察職員及び消防職員以外の職員のみをもって組織されていることを必要とすると規定しているから、これらの規定からすると、地公法上の職員団体は、労組法の適用を受けない職員のみによって組織されていなければならないものではないことは明らかであり、組合のような混合組合も、地公法上、許容されているものというべきである。


(ウ) これらのことからすると、現行の法体系において、組合のような混合組合について、地公法適用組合員と労組法適用組合員のいずれが主たる地位を占めているかによって、地公法上の職員団体と労組法上の労働組合のいずれかと解すべき理由に乏しく、地公法適用組合員に関する問題については、職員団体として、地公法上の権利を行使することができ、労組法適用組合員に関する問題については、労働組合として、労組法上の権利を行使することができるものと解することができる。
 上記のように解さないと、組合のような混合組合は、地公法適用組合員と労組法適用組合員のいずれが主たる地位を占めているかによって、地公法又は労組法のいずれかの権利を行使することができなくなり、権利を行使することができない組合員(主たる地位を占めていない組合員)の保護に欠けることになる。


(エ) したがって、組合は、不当労働行為救済命令の申立人適格を有すると解することができるから、市の上記主張は採用することができない。


(2) 争点⑵ 本件不応答が正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか

ア 市は、以下のとおり主張する。
(ア) 本件各申入事項には、「行政処分(又はその方針)の撤回自体を求める」旨の記載はないが、組合が、この申入れに基づく団体交渉において、「行政処分(又はその方針)の撤回」を求めることは、ここに至る経緯、労働組合と使用者との団体交渉であることを踏まえれば、経験則上、明らかである。


(イ) 行政処分を取り消す(撤回する)には、それに先立って行政手続法等に基づく聴聞手続があり、さらに、その聴聞手続に先立って、行政庁から行政処分の相手方に対して、注意を促し、警告を発する等の行為が行なわれるのが通例である。
 本件通知書も、その性質は、本件物件の使用に際して目的外使用許可の条件である本件目的制限事項に違反する行為があった組合に対して自主的な退去を促すものであり、市から組合に対する注意喚起あるいは警告文書である。
 行政処分の取消しに至る手続は、注意喚起あるいは警告文書の発出も含めて一連のものとして行なわれるものであるから、これらの一連の手続を切り分けて、ある手続は管理運営事項には当たらないということにはならず、また、これら一連の手続全てが「地方公共団体の当局が自らの責任と権限」によって執行されているのであるから、これら一連の手続が全て「行政上の管理運営事項」に当たる。


(ウ) そうすると、本件各申入事項が、「行政上の管理運営事項」に該当し、「義務的団交事項」に該当しないことも明らかである。市は、「管理運営事項」については団体交渉に応じなければならない義務はないのであるから、管理運営事項について団体交渉を求められた場合、これを拒否することは法的に許される。
 仮に、団体交渉を求められた事項が義務的団交事項と管理運営事項の両面を有するとしても、これを義務的団交事項であると解すれば、管理運営事項について団体交渉に応じる義務がないことを没却することになる。


イ(ア) そこで検討するに、組合事務所は、労働組合活動の基盤となるものであり、従前から利用していた事務所が利用できなくなることにより組合の運営に大きな影響が及ぶところ、約50年もの長期間にわたって市が組合に対して組合事務所として本件物件の供与を継続してきた中で、市は、組合に対し、本件物件からの即時の退去を求める旨の通知をしたものである。そして、市は、組合からの本件申入れに対し、管理運営事項に該当することを理由に団体交渉に応じていない。


(イ) しかし、本件各申入事項には、組合活動にとって重要な事項であって団体交渉権の保障の趣旨が及び、かつ、必ずしも管理運営事項に当たらないと考えられる義務的団交事項が含まれているのに対し、市が組合との間で、本件各申入事項のうちのどの部分が管理運営事項に当たるかについて十分に交渉ないし確認する機会を設けた形跡は見当たらない。


(ウ) 一般に、行政処分の取消しに至る過程で、注意喚起あるいは警告文書の発出が行われるとしても、本件通知が行政手続法等に定められた手続のいずれに当たるのか明らかではない。また、現に目的外使用許可の取消しがされていないことに照らすと、本件通知による本件物件の即時明渡請求が、目的外使用許可の取消し手続として行われたものとも認めることはできない。


(エ) したがって、本件不応答による団体交渉の拒否に正当な理由がないと認められるから、市の上記主張は採用することができない。


(3) 争点⑶ 市が組合に対して本件物件の明渡しを求めたことが支配介入に当たるか

ア 市は、以下のとおり主張する。
(ア) 本件物件における組合の継続的な活動を過度に重視することは、組合が、本件物件についての目的外使用許可条件に違反する行為を行った場合に、市が組合に明渡しを求めることを不当に制限することになる。
 行政財産の目的外使用許可において付された許可条件に違反した場合において、当該許可を受けた者が注意や警告を受けてもこれを受け入れなかったときには、当該目的外使用許可を取り消すことは、行政財産の管理者の当然の責務である。
 市が組合に対して本件物件の明渡しを求めたことが支配介入に当たるというのであれば、行政財産の管理権の行使は、どこまでが支配介入に当たらない適法なものなのか、どこからが支配介入に当たるのか、明確にすべきである。


(イ) 市が本件物件の明渡しを求めることが、組合の弱体化やその運営・活動に対する妨害の効果を持つとしても、組合が、長年、本件物件を組合事務所として使用してきたことを理由として、市がそのことを認識し又は容易に認識し得たというのは、論理に飛躍があるし、たとえ市が、そのことを認識し又は容易に認職し得たとしても、本件物件の使用について組合に許可条件に対する違反行為があった場合における行政財産の管理者としての権限行使を妨げるものとはなり得ない。
 別組合にも本件使用制限違反行為があったとしても、そのことによって、組合が本件使用制限違反行為を行なった事実がなくなるものでもない。


(ウ) 行政財産の目的外使用許可を受けた者が当該許可に際して付された条件に違反した場合において、当該行政財産の管理者が当該目的外使用許可の取消権を有していることは、地自法238条の4の9項によって法文上明らかである。このように適法になされた市の行為についても、労組法上は許されない行為であるとして、不当労働行為救済命令が発せられるのは、法律の根拠なく、労組法の規定を地自法の規定に優先して適用するものであり、許されない。


イ(ア) そこで検討するに、組合活動における組合事務所の重要性に鑑みると、使用者がほしいままにその供与を終了してその明渡しを求めることは、不当労働行為に当たり、また、使用者が民間企業にあれば権利濫用に、地方公共団体であっても裁量権の逸脱・濫用の問題になり得る。
 しかるところ、供与終了(解約)の定めがあればその定めによるべきであり、本件物件において、本件使用目的制限に違反した場合の供与終了の手続は、地自法238条の4の9項に定めのあることから、これに従うべきである。


(イ) ところが、市は、地自法238条の4に基づく目的外使用許可の取消しがないまま、本件通知をした。
 地方公共団体が労働組合に行政財産を組合事務所として使用するために貸与する場合にあっては、民間企業においてその私有財産を労働組合に使用させる場合と異なり、それが住民の負担する税金等によって賄われる公共財産であることから、手続において行政財産の目的外使用許可によることとなるとともに、使用実態においても公共財産の用法としての社会的公正を損なうものであってはならず、そのために地方公共団体は、組合事務所の使用について、適正な利用目的の制限を定め、労働組合がこれに違反した場合、その目的外使用許可を取り消すべき責務があることから、これに付随して必要な調査や是正のための警告をすることには一定の正当性があるということができる。
 しかし、本件通知による本件物件の即時明渡請求が地自法238条の4に基づくものであると認められない以上、そのような事実行為を処分行政庁が不当労働行為と評価したことは、地自法の規定に抵触するものではないし、市の行政財産の管理者としての権限行使を妨げるものでもない。


(ウ) そして、使用者が労働組合に対して組合事務所の明渡しを求めるときは、明渡しによる不利益を与えてもなお明渡しを求めざるを得ない相当な理由が必要であるという枠組みは、使用者による恣意的な組合事務所の供与の終了を抑止する趣旨に出るものであって、これが、市において想定している枚方市長による地自法238条の4に基づく目的外使用許可の取消しの前提要件になるということはできない(なお、目的外使用許可の取消しの適法性を判断するに際しては、比例原則や平等原則等の適用が問題となり得る。)。
 しかし、枚方市長が地自法238条の4に基づく目的外使用許可の取消しをせず、そのため組合において行政上の不服申立ての手続的保障のない状況において、いまだ本件物件の使用権原を失っていない組合に対し、市が即時の本件物件の明渡しを求めるのであれば、市において上記枠組みに則った対応が必要となると解するのが相当である。
 処分行政庁が、本件救済命令主文2項によって、市に対し、平成30年12月27日付けで組合事務所の明渡しを求めたような行為を繰り返さないようにする旨のポストノーティスを命じたことは、このような文脈において是認できるのであり、市が地自法238条の4に基づく目的外使用許可を取り消した上で、本件物件の明渡しを求めることまで抑止したものとは解されないから、処分行政庁が労組法の規定を地自法の規定に優先して適用したという市の非難は当たらない。


(エ) したがって、市が地自法238条の4に基づく目的外使用許可の取消しを行わないまま本件通知をした行為は不当労働行為に当たるとの評価を免れないから、市の上記主張を採用することはできない。


3 結論

 以上のとおり、市の請求には理由がないので、棄却すべきである。よって、これと結論を同じくする原判決は正当であるから、本件控訴を棄却する。
 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成31年(不)第2号・令和元年(不)18号 全部救済 令和2年11月30日
大阪地裁令和2年(行ウ)第174号 棄却 令和4年9月7日
 
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