概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪地裁令和2年(行ウ)第174号
枚方市救済命令取消請求事件 |
原告 |
枚方市(「市」) |
被告 |
大阪府(代表者兼処分行政庁 大阪府労働委員会) |
被告補助参加人 |
Z組合(「組合」) |
判決年月日 |
令和4年9月7日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、市が、①組合が発行する機関紙について、特定の記事を掲載しないよう求め、記事の内容を理由に組合事務所の明渡しを求めたこと、②組合事務所の使用許可に関する平成31年1月4日付け団体交渉申入れに応じなかったこと、がそれぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事件である。
2 大阪府労委は、市に対し、①について支配介入及び②について正当な理由のない団体交渉の拒否に当たる不当労働行為であるとして、団交応諾とともに、文書の手交を命じた。
3 市は、これを不服として大阪地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、市の請求を棄却した。 |
判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。 |
判決の要旨 |
1 争点1(組合に本件各申立ての申立人適格があるか)について
組合は、市の職員によって組織される労働団体であって、地公法52条1項所定の職員団体であるところ、その構成員には地公法適用職員と労組法適用職員の双方が含まれている。
そして、地公法適用職員と労組法適用職員の双方によって構成されるいわゆる混合組合については、その構成員に対して適用される法律の区別に従い、地公法上の職員団体と労組法上の労働組合の複合的な性格を有しており、労組法適用職員に関する事項に関しては労組法上の労働組合に該当するものと解するのが相当であり、その限りにおいて、混合組合は、不当労働行為救済命令の申立人適格を有するというべきである。
そうすると、組合は、本件各申立ての申立人適格を有する。
2 争点2(本件不応答が正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか(労組法7条2号関係))について
憲法28条及び労組法7条2号によって労働者に団体交渉権が保障された目的やその趣旨に照らすと、労働者の労働条件その他の待遇に関して団体交渉のほか、これを円滑に行うための基盤となる事項についてもその保障の趣旨が及び得るというべきであり、労組法により、使用者が団体交渉を行うことを義務づけられている義務的団交事項とは、団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものをいうと解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件各申入事項は、いずれも組合が便宜供与の一種として市から目的外使用許可を受けて使用していた組合事務所である本件物件の使用に関するものであり、このような組合活動に関する便宜供与やそのルールに関する事項も団体的労使関係の運営に関する事項に当たるというべきである。
そして、本件申入事項は、本件使用目的制限を付した理由、本件使用目的制限に関する市の基準や運用、市が組合に本件使用目的制限違反があると判断した理由、本件通知をするに至った理由、組合に対してのみ本件通知をした理由、組合事務所を供与しない場合の善後策等について具体的な説明や協議を求めるものであって、いずれも本件使用目的制限や目的外使用許可の取消しという行政処分(又はその方針)の撤回自体を求めるものではなく、地方公共団体の当局が自らの責任と権限によって執行すべき行政上の管理運営事項について協議を求めるものではない。
そうすると、本件各申入事項はいずれも義務的団交事項に当たり、市が本件申入れを拒否したことに正当な理由はなかったというべきであるから、本件不応答は、正当な理由のない団体交渉の拒否(労組法7条2号)に当たる。
3 争点3(市が組合に対して本件物件の明渡しを求めたことが支配介入に当たるか(労組法7条3号関係))について
市は、昭和46年2月以降、40年以上にわたり、組合に対し、職員会館の一部を貸与し又は目的外使用許可をすることによって組合事務所としての使用を認めている。これは、市の組合に対する便宜供与の一種であり、これに応じるか否かは、原則として市の裁量に委ねられている。
もっとも、いったんかかる便宜供与がされた以上、これを前提に組合の活動や運営が行われることになるのであり、組合事務所が組合活動の基盤であって、その明渡しを求めることが組合の活動や運営に重大な影響を及ぼすと考えられることに照らすと、市が組合に対して目的外使用許可を取り消して本件物件の明渡しを求めるに当たっては、組合に対して組合事務所の退去による不利益を与えてもなお明渡しを求めざるを得ない相当な理由があることが必要であり、かつ、明渡しを求めるに当たっては、組合に対してその理由を説明し、その代替措置等について協議し、十分な猶予期間を設けるなどの手続的配慮をすることが必要と解するのが相当である。
これを本件についてみると、市は、組合が平成30年4月12日、同年8月15日及び同年9月12日に発行した組合ニュースの記事が本件使用目的制限に違反するとして、組合に対して本件物件の明渡しを求める旨の本件通知をしたことが認められる。これらの組合ニュースの内容は、当時の政権を批判するものであり、かかる記事内容は職員の勤務条件や職員の福利厚生との関連性が乏しく、直ちに職員の勤務条件の維持改善及び職員の福利厚生の活動に当たるとはいい難く、これらの組合ニュースが本件物件内で作成等されたものであるとすると、本件使用目的制限に違反したとみる余地がないではない。
もっとも、混合組合である組合において、組合活動に関連して、表現の自由の範囲において、一定の政治的意見を表明することが全く許容されないわけではなく、上記の各記事が各組合ニュースにおいて占める割合が必ずしも大きくないこと、組合事務所の明渡しが組合活動に与える影響は極めて大きく、組合活動に直接的な支障を生じさせるおそれがあることに鑑みれば、組合が平成30年4月12日、同年8月15日及び同年9月12日に発行した組合ニュースを本件物件内で作成等したことを理由として、直ちに組合に対し、本件物件の明渡しを求め得るというのは、組合の不利益が余りにも大きいというべきであって、市が組合に対して組合事務所退去による不利益を与えてもなお本件物件の明渡しを求めざるを得ない相当な理由があったとはいい難い。
また、手続的配慮についてみても、市は、即刻退去を求めるものの、本件各申入事項が義務的団交事項に当たるにもかかわらず、本件申入れに係る団体交渉を拒否した上、本件各申入事項と同様の要求事項についても、簡潔に回答したのみであり、市が組合に対して本件物件の明渡しを求める理由について具体的な説明をしないばかりか、代替措置等についても協議していないことからすれば、市の組合に対する手続的配慮は極めて不十分なものであったといわざるを得ない。
さらに、別組合は、組合と同様、市から目的外使用許可を受けて、職員会館の一部を組合事務所として使用しているところ、市は、平成28年から平成30年までの間に別組合が発行した組合ニュースの記事内容(8件)が本件使用目的制限違反であると判断しながら、別組合に対しては現在に至るまで組合事務所の明渡しを求めていないことからすると、組合と別組合との間で本件使用目的制限違反があった場合の取扱いに差異があることも否定し難い。
これらの事情に加え、組合が、昭和46年2月以降、40年以上にわたって職員会館の一部を組合事務所として使用してきたことをも考慮すると、市が組合に対して本件物件の明渡しを求めることは、組合の弱体化やその運営・活動に対する妨害の効果を持つものといえ、市はそのことを認識し又は容易に認識し得たというべきであるから、かかる行為は、組合に対する支配介入(労組法7条3号)に当たる。
4 結論
以上より、市の請求は理由がないからこれを棄却する。
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その他 |
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