労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和4年(行コ)第45号
工学院大学不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人  学校法人X(「法人」) 
被控訴人  東京都(代表者兼処分行政庁 東京都労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Z組合(「組合」) 
判決年月日  令和5年2月8日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 平成27年7月23日、法人は、組合に対し、大学及び同大学附属学校の新教員人事制度の導入を提案した。組合と法人とは、新教員人事制度の導入について、12月24日から28年2月23日まで計4回団体交渉を行った。その後に、法人は、組合に対して「『教員新人事制度労使交渉』論点についての法人見解」(以下「法人見解」という。)と題する資料を提示した。更に、28年3月17日、4月15日及び5月16日に団体交渉を行ったが、妥結に至らなかった。
 6月15日、法人は、組合に対し、「教員新人事制度導入手続の開始について」と題する通知書を送付した上、8月1日に新教員人事制度を導入した。
 本件は、上記のうち、28年3月17日、4月15日及び5月16日に行われた団体交渉における法人の対応が不誠実な団体交渉に当たるか否かが争われた事案である。
2 東京都労委は、法人に対し、不誠実な団体交渉に当たるとして、誠実な団交応諾とともに、文書の掲示を命じた。
3 法人は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は法人の請求を棄却した。
4 法人は、これを不服として、東京高裁に控訴したところ、同高裁は、法人の控訴を棄却した。
 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、被控訴人補助参加人に生じた費用を含め、控訴人の負担とする。 
判決の要旨  1 当裁判所も、法人の請求は理由がないと判断する。その理由は、以下のとおり原判決を補正し(略)、当審における補充説示を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるからこれを引用する。

2 当審における補充説示

(1) 法人は、法人の組合に対する対応が誠実交渉義務違反には当たらないとし、その理由として、①人事評価制度を始めとした使用者の経営裁量に係る事項については、詳細な説明が本質的に困難である以上、個別具体的な事案を離れて抽象的に説明することは不可能であるところ、人事評価制度の合理性の判断において中核であり、使用者にとって評価基準そのものよりも一定程度説明がしやすい公正性の担保措置こそが説明部分の中核となるべきであり、法人はそれを説明して説明義務を尽くした旨、②人事評価結果に対応する処遇の変動幅に関して、組合は、C評価になった場合の教員の処遇の反映幅の設定根拠を抽象的に漫然と質問するなど具体的な要求や主張を行わない状況にあるところ、説明困難な経営裁量事項である以上、法人が、組合に対し、「組織的な教育活動の強化のために必要であり、その程度は経営裁量で定めた。」などと抽象的な回答をするのもやむを得ない旨を主張する。


(2) 新たな人事評価制度の運用が公正にされるための担保措置をどうするかは、法人が組合に対して説明すべきものの一部にすぎない上、上記制度を導入することが前提となる検討事項であるから、上記担保措置の在り方を中核とした説明をすれば足りるとする法人の上記主張は、合意達成への真摯な交渉をしない不誠実な交渉態度といわざるを得ず、最も重要な労働条件の一つである人事評価制度について、その制度の在り方や導入を巡る労使交渉における誠実交渉義務の趣旨を蔑ろにするものであるから、法人の上記①の主張は理由がない。
 また、上記②について検討するに、評価基準や格付け基準は本件における労働者の労働条件のうち最も重要なものの一つであるから、組合に新制度に対する理解を求める立場にある法人としては、組合の質問が抽象的であるからといって、抽象的に回答すれば足りるというものではなく、むしろ、組合の理解に資するように具体的な事例を活用するなどして、丁寧な説明に努めるべきである。法人の回答内容は、質問を真摯に受け止めることなくはぐらかし、新たな人事評価制度を無条件で受け入れるように求める対応であり、合意達成の意思のないことを最初から明確にした交渉態度にほかならないことを踏まえると、上記同様、労働条件を巡る労使交渉における誠実交渉義務の趣旨を理解しない法人の上記②の主張は、理由がないことが明らかである。


(3) 法人の上記主張はいずれも理由がないから採用することができない。

3 結論

 以上によれば、法人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成29年(不)第18号 全部救済 令和2年3月3日
東京地裁令和2年(行ウ)第177号 棄却 令和4年1月26日
最高裁令和5年(行ツ)第203号・令和5年(行ヒ)第221号 上告棄却・上告不受理 令和5年9月20日
 
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