労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪地裁令和3年(行ウ)第65号
不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  株式会社X(「会社)」 
被告  大阪府(代表者兼処分行政庁 大阪府労働委員会) 
被告補助参加人  Z組合「(組合)」 
判決年月日  令和5年2月22日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合が組合員A1の解雇について団体交渉を申し入れたところ、会社が、同組合員は取締役であって労働者ではないとしてこれに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがあった事案である。
2 大阪府労委は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、団交応諾及び文書手交を命じた。
3 会社は、これを不服として、大阪地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 A1が労組法3条所定の労働者に該当するかについて
(1)判断枠組み
 労組法3条所定の労働者に該当するか否かは、①労務供給者が相手方の事業遂行に不可欠又は枢要な労働力として組織内に確保されているか(事業組織への組入れ)、②契約の締結の態様から労働条件や提供する労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているか(契約内容の一方的・定型的決定)、③労務供給者の報酬が労務供給に対する対価又はそれに類するものとしての性格を有するか(報酬の労務対価性)、④労務供給者が、相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあるか(業務の依頼に応ずべき関係又は諾否の自由)、⑤労務供給者が、労務の提供に当たり、日時や場所等について一定の拘束を受けているか(業務遂行への指揮監督)などの事情を総合考慮し、一定の従属性の有無を基準として判断するのが相当である。

(2) 本件における検討
ア 事業組織への組入れ
 A1は、会社への入社以降、加工手配図面の作成を含む生産管理業務、切削作業、NC旋盤及びNCフライスを使用しての切削作業、TiC炉まわり業務等の現場業務にも従事しており、会社の事業遂行に不可欠又は枢要な労働力として会社の組織内に確保されていたということができる。
 また、A1は、現場業務の責任者であるから、その立場から現場において指示をしていたとみるのが自然であり、これらの現場作業が会社経営に関するものというのは困難であって、これが取締役の業務執行としてなされたものということはできない。

イ 契約内容の一方的・定型的決定
(ア) A1の入社後、A1が提供すべき労務の内容は、創業者であり代表取締役を務めていたB1から一方的に決定されていたといえる。そして、B1は、会社に出社しなくなり、B3が代表取締役に就任した後も、経営に関する重要事項についての決定権を保持しており、平取締役であるA1との関係では、A1を指揮命令する立場にあったもので、平成29年5月のB1を含む役員の報酬額の決定や勤怠管理の厳格化についてもB1の指示があったものとみるのが相当であり、平成31年4月1日付けでA1を社外取締役(非常勤取締役の趣旨)にする、同日以降は出社不要であり無報酬となる、その他現場業務に関する指示等が記載された書面の交付による本件通知についても、B1の意向が強く働いたものということができる。
 そうすると、B1は、A1の担当業務やA1を含む会社の役員の報酬額についても、一方的に決定する権限を有しており、実際にかかる権限を行使してA1の業務や報酬額を決めていたものと推認できるのであり、A1は、会社との労働契約の中核となる対価の額を一方的に決定されていたということができる。

(イ) B3は、A1の他の従業員に対する言動に問題があったものとして、本件通知を発出し、その内容も、一方的に、A1の常勤取締役の地位を失わせるとともに、A1の出社を停止して無給とし、それまでに現場業務を完遂するよう求めたというのであるから、本件通知当時、B3がA1に対する業務上の指揮命令を有していたものとみることができる。
 本件通知は、その内容に照らすと、飽くまで現場業務に関するもので、取締役としての業務の執行に関する指示であることはうかがわれない。

ウ 報酬の労務対価性
(ア) A1が会社に入社した後に支払われた報酬額は大きく変動しており、最高額は月額184万円程度に上るのに対し、月額25万円から29万円程度の月もあって、これらの支給状況によれば、A1の報酬額は会社の業績によって左右される部分が相当程度占めているということができる。一方で、リーマンショックの影響により臨時休業を余儀なくされていた平成21年2月から平成22年12月までの報酬額が50万円程度であり、その後の平成23年から休業明けの平成25年にかけてはさらにこれより低額の月額25万円から34万円程度の報酬が支払われているのであり、この間、A1が現場加工業務にも従事していたことに照らすと、A1に支払われた報酬の一部は労務提供に対する対価としての性格を含むものということができる。

(イ) A1の報酬は、時期によっては相当高額であり、時期によって変動が大きく、従業員の給与水準よりも高いことがうかがわれるが、会社が同族会社であることを考慮すると、その報酬が高額であったとしても不自然ではない。上記で説示したA1の担当業務や会社の経営への関与の程度等に照らすと、その報酬の全てが取締役の業務の執行の報酬ということはできない。

エ 諾否の自由等
 A1は、会社に入社した後、一貫して現場加工業務にも従事し、欠勤控除までされることはなかったものの、平成30年4月8日の役員会議において、B1から綱紀粛正を図る趣旨で出勤率を向上させるよう求められるとともに、タイムカードの打刻を命じられ、その意に従い、同年7月以降、外出する際には、打刻理由説明書に公用か私用か、私用の場合にはその理由を記入することとされるなど、厳格な勤怠管理がされるようになったことが認められる。加えて、A1は、本件通知において、会社から業務従事を命じられ、加工品等を放置したり、他の従業員が代わりに加工した場合には減給することをも告知されている。これらの事情にも照らすと、A1は会社からの業務指示に対してこれに応じるべき関係にあったものということができる。

オ 業務遂行への指揮監督・時間的場所的拘束の有無
(ア) 前記イ説示のとおり、A1は、本件通知によって、現場加工業務の遂行方法について一定の指示を受けているほか、A1は、会社から勤怠管理について厳格な指示を受け、外出の理由を明示するよう求められるなど、労働時間や勤務場所についても一定の管理を受けていたということができる。

(イ) 会社ではA1を含む常勤役員でも勤怠管理がされていたが、次第にこれが疎かになり、経営に支障を来すようになったため、平成30年4月以降、その厳格化が図られたというのであって、A1が業務遂行に当たって時間的拘束を受けていないわけではないから、当該事実をもって、上記(ア)の説示を左右しない。

カ 業務執行への関与の状況
 前記イ説示のとおり、会社の経営は、創業者であるB1の意向が大きく反映されており、これに加えて、平成23年4月に代表取締役に就任し、会社の人事等の最終決定権を有していたB3によって基本的に行われていたものと推認できる。一方で、A1は、会社に入社後、一貫して現場加工業務を担当していたことが認められ、会社の経営や人事等に積極的に関与していたことはうかがわれないことも考慮すると、少なくとも本件通知がされた時点において、A1が労働者性を完全に失い、経営者である役員のみの地位にあったものと評価するのは困難である。

キ 総合評価
 以上の諸事情を総合評価すると、A1は、本件通知を受けた時点で、少なくとも労組法3条所定の労働者としての地位を併有する使用人兼務取締役であったというべきであり、この判断を左右するに足りる的確な証拠はない。
 したがって、A1が労組法3条の労働者に当たらないとの会社の主張は採用できない。

2 本件団交拒否の不当労働行為該当性について
(1) 前記1で判断したとおり、A1は、会社の労働者に当たるから、会社による本件通知又はA1の取締役からの解任には、労働者であるA1に対する解雇の意思表示も含まれているというべきである。
 そうすると、A1の解雇が義務的団体交渉事項に当たることは明らかであって、会社は、組合との間で、この点に関して団体交渉義務を負うところ、A1が会社の労働者でないとの本件団交拒否の理由が、労組法7条2号所定の正当な理由に当たるということはできない。
 したがって、会社による組合との団体交渉の拒否は、労組法7条2号の不当労働行為に当たるというべきである。

(2) また、A1が会社の役員であり、労働者でないとして、会社が団体交渉を拒否することは、本件支部の運営を支配し、又は介入するものというべきであるから、本件団交拒否は、労組法7条3号の支配介入にも当たるというべきである。

3 結論
 以上によれば、組合との団体交渉を命じた本件救済命令主文第1項、並びに府労委において本件団交拒否が労組法7条2号及び3号に該当する不当労働行為であると認められたこと並びに今後同様の行為を繰り返さない旨を約束する旨が記載された文書の手交を命じた同命令主文第2項に、府労委の裁量権を逸脱又は濫用した違法があるとはいえない。
 以上の次第で、会社の請求は理由がないから棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委令和元年(不)第27号 全部救済 令和3年5月7日
大阪高裁令和5年(行コ)第46号 棄却 令和5年9月1日
 
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