労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪高裁令和3年(行コ)第103号
不当労働行為救済命令取消請求控訴事件
控訴人  大阪市(「市」) 
被控訴人  大阪府(同代表者兼処分行政庁 大阪府労委員会) 
被控訴人補助参加人  Z組合(以下「組合」) 
判決年月日  令和4年2月4日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合が、平成29年3月3日、市に対し、組合事務所の供与等を求めて団体交渉を申し入れたところ、市が、管理運営事項に当たる等として、これに応じなかったことが不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件で、大阪府労働委員会は、市に対し、団交応諾及び文書手交を命じた。
2 市は、これを不服として、大阪地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、市の請求を棄却した。
3 市は、これを不服として、大阪高裁に控訴したが、同高裁は、市の控訴を棄却した。 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。 
判決の要旨  1 争点1(組合に本件救済命令の申立人適格が認められるか)について
 組合は、市の職員によって組織される労働団体であって、地公法52条所定の職員団体として地公法所定の登録を受けているところ、その構成員には地公法適用職員と労組法適用職員の双方が含まれている。
 地公法適用職員と労組法適用職員の双方によって構成されるいわゆる混合組合については、その構成員に対し適用される法律の区別に従い、地公法上の職員団体と労組法上の労働組合の複合的な性格を有しており、労組法適用職員に関する事項に関しては労組法上の労働組合に該当するものと解することが相当であり、その限りにおいて、混合組合は不当労働行為救済命令の申立人適格を有する。
 以上によれば、組合の不当労働行為救済命令の申立人適格を争う旨の市の主張はいずれも採用することはできず、組合に本件救済命令の申立人適格が認められる。

2 争点2(団体交渉拒否の有無)及び争点3(団交交渉拒否に関する正当な理由の有無)について
(1)本件申入れには労組法適用職員による組合事務所の利用の問題という側面もあることから、組合に不当労働行為救済命令の申立人適格が認められるところである。このような労組法適用職員に関するものである以上、本件申入事項に関する団体交渉について、地公法のみならず、地公労法も適用されることになる。
 以上によれば、地公法の適用があることを理由として本件申入れに係る団体交渉を拒否することに正当な理由があるということはできず、これに反する市の主張は採用できない。

(2)憲法28条及び労組法は、勤労者ないし労働者が労働条件の維持向上を図るために団体交渉権を保障しているところ、これらの者の労働条件等に関して団体交渉が行われるべきことに併せて、労働条件等に関する団体交渉を円滑に行うための基盤となる事項についても、団体交渉権の保障の趣旨が及び得るというべきである。かかる趣旨に照らせば、労働条件そのものではない交渉事項であっても、義務的団交事項となり得ると解される。

ア 当組合に組合事務所を供与しない具体的理由の説明等を求める本件申入事項②(以下「本件申入事項②」という。)には、組合事務所を供与しないことによって組合らが被る不利益の回避や代替措置の存否・条件の検討状況といった広範な事項が含まれており、これらの中には組合事務所を移転することに伴い組合員に生ずる負担ないし不利益を回避ないし軽減するための代替措置として、例えば勤務と組合活動の両立を図る観点からの勤務時間帯の変更の可否や有給休暇の取り方(地公労法7条参照)といった事項など、団体交渉を円滑に行うための基盤となる事項であって団体交渉権の保障の趣旨が及び、かつ、管理運営事項ではないもの等が含まれ得ると解される。
 しかるところ、本件申入れに際し、市が組合に対し、上記事項が協議事項に含まれているか否かについて十分に交渉ないし確認する機会が持たれたことは本件全証拠によっても認められない。

イ 市は、本件申入れがされて以降、組合関係者と本件申入れに関してやり取りないし面談をする機会があったものの、管理運営事項そのものではなく、団体交渉の対象となし得る可能性のある事項を具体的に挙げて確認するなどの方法を取ることなく、議論がかみ合わないまま面談を終了させ、その後、本件回答書において、本件申入事項に関し、「管理運営事項に該当しない事項が含まれているか否かについて確認することが必要となります。」、「本件申入れ事項に管理運営事項に該当しない事項が含まれているか否か、明確になっておりません。」、「本件申入れ事項に管理運営事項に該当しない事項が含まれているか否かについて、再度確認をさせていただくことが必要であると考えております。その上で、本市として交渉又は説明をすべき事項がありましたら適切に対応をさせていただきます。」としたまま、それ以降、交渉スケジュール等には何ら言及せず、本件申入れに係る団体交渉に応じていない。
 市の上記対応は、管理運営事項に該当せず、団体交渉に応ずべき事項につき具体的に確認すべき立場にあるにも関わらず、その点について十分に確認することのないまま、団体交渉に応じないものというほかなく、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たると認められる。

(3) 小括
  以上によれば、少なくとも本件申入事項②に関し、市は正当な理由なく、団体交渉を拒否したものと認められるから、労組法7条2号に該当する事由があるといえる。

3 争点4(支配介入の有無)について
 市は、組合に対し、平成2年に組合が結成されて以降、長期間にわたり、双方の合意に基づき、民間賃貸物件の一部を供与し、その後は市庁舎について行政財産目的外使用許可を付与する形式によって現に組合事務所スペースの供与をしていたところ、平成24年1月に本庁舎を対象とした組合事務所スペースの供与を取り消すこと等を内容とする通知をし、同年2月に平成24年度不許可処分をした。その後、本件申入れがされるまでの間、組合から、組合事務所スペースの供与に関する事項を交渉事項とする団体交渉の申入れを受けたが、実際に団体交渉が行われることのないまま事態が推移していた。
 組合は、平成29年度の行政財産使用許可申請を行っておらず、本件申入れの内容とそれ以前の団体交渉申入れの内容には、例えば、本件申入事項②について、「組合らが被る不利益の回避や代替措置の存否・条件の検討状況、退去をめぐる条件についての具体的な説明、協議を行うこと」とされるなど、より具体的な事項が付加されるなどの違いがあったほか、本件申入れは、平成29年2月1日に至って、平成24年度不許可処分をめぐる別件救済命令に係る不当労働行為救済命令申立て及び取消訴訟手続が決着(平成24年度不許可処分が違法である旨判示等)した後になされた最初のものである。
 本件申入れがされた時期や内容、これに対する市の対応の時期・内容、本件申入事項には、管理運営事項そのものではなく、団体交渉の対象となし得る可能性のある事項が含まれていると解されること、市の対応は、誠実な交渉態度といえないのみならず、客観的にみて労働組合を軽視し、これを弱体化させる行為といい得ること等本件に現れた諸事情を総合勘案すると、市の上記対応は、労組法7条3号にいう労働組合を運営することを支配し、若しくはこれに介入すること(支配介入)に該当すると認められる。

4 争点5(救済方法の選択に関する違法の有無等)について
 組合の構成員である労組法適用職員については、労組法の適用があるところ、本件申入れに対する市の対応につき、団体交渉拒否及び支配介入に該当する事由があると判断されることは、既に認定・説示したとおりである。そして、市が、管理運営事項ではない事項か否かを適時(団体交渉時を含む。)かつ適切な方法で確認しつつ、管理運営事項ではない事項について団体交渉をすることは、特段不可能を強いるものとは解されず(団体交渉中に管理運営事項そのものを問題としていることが判明した時点で、それを交渉対象から除外することも可能である。)、また、そのように対応することは、地公法55条3項をはじめとする法令に反するものでもない。
 そして、本件申入事項を巡って団体交渉が当事者間でどのように展開するのかを労働委員会が予測することは困難であり、当事者双方の対応は団体交渉の現場において臨機応変になされるものであることからすると、大阪府労委において、労働委員会として適当と認める交渉事項の整理のあり方を示し、それによらない形での団体交渉拒否を禁じたり、管理運営事項に当たらず交渉事項となり得るものの有無・内容を確認しない形での団体交渉拒否を禁じるという救済方法を明示しなかったことをもって救済方法の選択に関する裁量の範囲を逸脱し、またはこれを濫用したものということもできない。
 以上によれば、大阪府労委が、市に対し、本件救済命令として、①本件申入れに係る団体交渉に応ずべきこと、②団体交渉拒否が労組法7条2号及び3号に該当する不当労働行為であると認められたことを前提とする謝罪文言を含む文書の手交を、その救済方法として選択したことについて、裁量権の逸脱・濫用がある旨の控訴人の主張はいずれも採用できない。

5 結論
 以上によれば、市の請求は理由がないからこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴を棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成29年(不)第38号 全部救済 平成31年1月28日
大阪地裁平成31年(行ウ)第28号 棄却 令和3年7月29日
 
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