労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  横浜地裁平成30年(行ウ)第82号
社会福祉法人ハートフル記念会不当労働行為救済命令取消請求事件
  
原告  社会福祉法人X(「法人」) 
被告  神奈川県(同代表者兼処分行政庁 神奈川県労働委員会) 
被告補助参加人  Z分会(「組合」) 
判決年月日  令和3年1月20日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、法人が、①組合のA分会長を偽造有印私文書行使罪で告発したこと、②法人施設内で配布されたビラについて、法人の最終調査報告書において、A分会長が作成を指示したものと結論づけたこと、③法人施設内等で配布されたビラへの関与について、A分会長及びB組合員に対して出勤停止等を命じたこと、④別の日に法人施設内等で配布されたビラへの関与について、組合の副分会長及び書記長に対して繰り返し質問をし、文書回答を求めたこと、⑤組合からの③の出勤停止の撤回等に係る団交申入れに対してとった対応、⑥A分会長に対して法人施設への立入りの禁止等を命じたことが、不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件である。
2 神奈川県労働委員会は、上記③及び⑥のAに対する業務命令がなかったものとしての取扱い、誠実団交、③~⑥について文書掲示を命じ、その余の申立てを却下又は棄却した。
3 法人は、これを不服として横浜地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、法人の請求を棄却した。
4 なお、組合は、神奈川県労委命令を不服として、再審査を申し立てている。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用及び参加費用は原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 組合の救済申立資格について
 労組法5条の立法趣旨は、労働組合が、同法2条及び5条2項の要件を具備するように促進する点にあり、申立資格を欠くものによる救済申立てを拒否することによって使用者の法的利益を保障しようとする点にあるものではない(最高裁昭和32年12月24日第三小法廷判決参照)。組合の救済申立資格の不備を問題とする法人の主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として本件命令部分の取消しを求めるものにほかならず(行訴法10条1項)、主張自体失当であり、採用できない。
2 平成28年5月16日付け業務命令と不当労働行為の成否について
(1)労組法7条1号の不当労働行為の成否について
ア 不利益性の有無
 A分会長への担当業務の停止、出勤の停止、役職員への連絡禁止を命じた平成28年5月16日付け業務命令(28年5月業務命令)は、A分会長を法人施設から物理的に排除して、更に法人の職員等との接触を許さないものであり、A分会長に就労できないことによる介護職としての技能低下を余儀なくさせ、職業上の不利益を与え、また、A分会長に対し、事実上、他の組合員との接触を禁ずる効果を持つから、A分会長の組合活動にも制約を与えるものであり、A分会長を不利益に取り扱うものである。
イ 不当労働行為意思の有無
 28年5月業務命令は、組合員との接触禁止の効果を持ち、A分会長の組合活動に制約を与え、このことは、A分会長が、組合の代表者で、その活動の中心的役割を担っていたこと及び業務命令の内容に鑑みれば、当然、法人も十分に認識していたというべき。また、①法人は、組合から、業務命令の撤回等を内容とする「団交申入書」を受け取って以降、A分会長の処遇について通知することなく、かえって、平成29年4月1日付け業務命令(29年4月業務命令)によって新たにA分会長の法人施設への立入り禁止を命じたこと、②上記業務命令は、A分会長の生活相談員の責任者への復帰を命じた初審命令、再審査命令、再審査命令に係る緊急命令、緊急命令違反を理由とする過料決定、1審判決、控訴審判決を経て、法人が控訴審判決に対し上告及び上告受理申立てをした直後にされていることが認められる。これらからすると、法人は、初審命令に係る救済命令申立事件やその取消請求訴訟が係属し、法人と組合の対立が続く中で、28年5月業務命令のA分会長に対する不利益性を十分認識しながら、同業務命令をしたものと認められ、上記業務命令は、組合の分会長としてその活動の中心的役割を担っていたA分会長を敵視し、同人を法人の職場から排除するためにされたもので、不当労働行為意思によるものであると推認できる。このことは、法人が、上告審決定によって再審査命令が確定した後、A分会長を主任生活相談員に任命しながら、28年10月11日付け連絡文書(28年10月連絡文書)によって、上記任命後も28年5月業務命令を維持することを表明し、A分会長の実質的な復職を実現しようとしていないことからも裏付けられる。
ウ 法人が、A分会長に対し、28年5月業務命令により出勤停止等を命じたことは、不当労働行為意思をもって、A分会長が組合員であることを理由とした不利益取扱い(労組法7条1号)に当たる。
(2)労組法7条3号の不当労働行為の成否について
 28年5月業務命令は、組合の活動の中心的役割を担っていたA分会長の組合活動を制約する効果があると認められ、ひいては組合の組合運営を制約・妨害する効果を有し、上記業務命令の内容及び対象者に鑑みれば、当然に法人も認識していたにもかかわらず、法人は、合理的な根拠・理由に基づかずに上記業務命令をしている。加えて、上記業務命令の発令時点で既に法人の従業員ではなかったB組合員に対しても、A分会長に対する上記業務命令と同一内容の業務命令をしていることも併せ考慮すれば、上記業務命令は、組合員であることに着目して発令されたもので、法人の職場から組合員を排除することで、組合運営に対して妨害・干渉するものとして発令されたものというべきである。したがって、法人が、A分会長及びB組合員に対し、28年5月業務命令により出勤停止等を命じたことは、組合の運営に対する支配介入(労組法7条3号)に当たる。

3 副分会長らに対する業務命令等と不当労働行為の成否について
 ①法人は、法人を非難する内容のビラの作成・配布について、組合員がその作成及び配布に関与している疑いがあるとして、副分会長らに対する業務命令等を出したものであること、②副分会長らは、28年5月業務命令を受け、法人に対し、同業務命令については組合の団交事項としているとして、組合を通じてこれを行うよう求めたこと、③法人は、副分会長らに対し、同年6月15日付けのビラへの質問に係る業務指示を行い、これに対して副分会長ら及び組合は、団交事項として組合を通じて行うことを求めたこと、④法人は、この求めにも応じず、更に同年7月13日付けビラへの質問に係る業務指示をしたことが認められる。以上の事実に加え、法人が、ビラの作成及び配布に組合が関与したとの疑いを持っていたことを併せ考慮すると、副分会長らに対する業務命令等は、組合員である同人らに対し、組合活動であるビラ配布への関与等について、団交の求めに応ずることなく、同人らに執拗に問いただし続けたものであり、組合の組織・運営に介入する行為である。よって、法人が、副分会長らに対し、各業務命令(指示)をしたことは、組合の運営に対する支配介入(労組法7条3号)に当たる。
4 29年4月業務命令と不当労働行為の成否について
(1) 労組法7条1号の不当労働行為の成否について
ア 不利益性の有無
 A分会長は、29年4月業務命令により、法人施設への立入りの禁止及び在宅勤務を命じられているところ、これは、28年5月業務命令と同様、A分会長に職業上の不利益及び組合活動上の不利益を生じさせるものである。
イ 不当労働行為意思の有無
 平成28年5月業務命令は、A分会長が組合員であることを理由に、同人を法人の職場から排除するためにされた不当労働行為意思によるものである。法人は、再審査命令が確定した後、A分会長を主任生活相談員に任命しながらも、28年10月連絡文書によって、上記の任命後も平成28年5月業務命令を維持することを表明して、A分会長の実質的な復職を実現しようとしていないことが認められる。さらに、その後、29年4月業務命令によって、A分会長に対し、法人施設への立入りの禁止及び在宅勤務を命じている。そうすると、29年4月業務命令は、A分会長が組合の組合員であることを理由に、A分会長を法人の職場から排除するという不当労働行為意思によるものであることは明らかである。
ウ よって、法人が、A分会長に対し、29年4月業務命令により法人施設への立入りの禁止等を命じたことは、不当労働行為意思をもって、A分会長が組合員であることを理由とした不利益取扱い(労組法7条1号)に当たる。
(2) 労組法7条3号の不当労働行為の成否について
ア 28年5月業務命令と同様、29年4月業務命令は、A分会長に対し、法人施設への立入り等を禁止するものであり、上記業務命令が、組合の活動の中心的役割を担っていたA分会長の組合活動に及ぼす影響、ひいては組合の活動及び運営に及ぼす影響は大きく、そのことは、法人も十分認識していたといえる。A分会長がB組合員に対し、パワハラをしたことの合理的根拠はないこと、他方、A分会長は、組合を代表して、B組合員に対し弁明の機会を与えた上で、分会規約に規定された手続を経て、B組合員を除名処分としていることに鑑みれば、B組合員に対するパワハラを理由としてA分会長を不利益に取り扱えば、組合の組合運営に萎縮効果を及ぼすというべきである。そうすると、法人が、29年4月業務命令が組合の活動や運営に重大な影響を及ぼすことを認識しながら、合理的な理由なく、組合の組合員に対し委縮効果を及ぼす上記業務命令を発令することは、組合の組織運営に干渉する行為に当たる。
イ よって、法人が、A分会長に対し、29年4月業務命令により法人施設への立入りの禁止等を命じたことは、組合の運営に対する支配介入(労組法7条3号)に当たる。

5 組合が行った団交申入れに対する法人の対応と不当労働行為の成否について
 組合は、平成28年5月28日から同年12月6日までの間、法人に対し、28年5月業務命令の撤回や、救済命令の履行について団交を申し入れていた。法人は、平成28年5月28日から平成29年3月9日までの間、組合からの団交の申入れに一切応じていなかった。使用者は、労働組合からの団交申入れのうち、組合員である労働者の労働条件等や団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものについては、誠実に団交に応じる義務を負っていると解されている(義務的団交事項)。本件で、①28年5月業務命令は、A分会長への出勤停止だけでなく、一切の業務停止及び法人の役職員への連絡禁止を命じるものであるから、その撤回は、A分会長の労働条件に関するものであり、②救済命令の履行は、労使関係の正常な秩序を回復しようとするものであるから、団体的労使関係の運営に関するものであって、義務的団交事項であり、法人はこれに応じていなかった。また、法人には、団交を拒否することに、正当な理由があるとはいえない。よって、組合が行った団交申入れに対し、法人が応じなかったことは、正当な理由のない団交の拒否(労組法7条2号)に当たる。
6 結論
 以上の検討によれば、処分行政庁が、これと同様の判断をして、命令の主文第2項ないし第4項において、救済命令を発令したことに、処分行政庁の裁量権の逸脱又は濫用に当たる点があるとは認められず、本件命令部分は、適法であって、その取消しを求める法人の請求は理由がないからこれを棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委平成28年(不)第22号 一部救済 平成30年9月27日
中労委平成30年(不再)第48号 一部変更 令和2年11月18日
 
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