労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和元年(行ウ)第238号
神奈川歯科大学不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  学校法人X大学(「法人」) 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被告補助参加人  ユニオンZ(「組合」) 
判決年月日  令和2年6月26日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、法人が、①平成25年4月10日付けの休職命令(25年休職命令)によって休職中であった組合員Aに対し、(a)Aから就労可能であるとの診断書が提出された後も復職を認めなかったこと(本件復職拒否)、(b)休職を理由に賃金を減額し、同年6月支給分の賞与を支給しなかったこと、(c)休職期間満了後、出向や自宅待機を命じたこと、②休職命令の撤回等に関する団体交渉に誠実に応じなかったこと(本件団交対応)が不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
2 神奈川県労委は、上記①(a)(b)及び②は不当労働行為に当たるとして、法人に休職期間中の賃金差額及び賞与に係るバックペイ並びに文書手交を命じたところ、法人は、これを不服として、再審査を申し立てた。
3 中労委は、初審命令を変更し、文書交付のみを命じ、その余の申立てを棄却した。
4 法人は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、法人の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含め、原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点1(本件復職拒否は労組法7条1号〔不利益取扱い〕及び3号〔支配介入〕所定の不当労働行為に当たるか否か)について
 労組法7条1号所定の「不利益な取扱い」は人事上の不利益取扱いを広く含むと解されるところ、休職となっていた労働者について復職を拒否することは、それによって労働者が種々の不利益を被ることは明らかであるから、本件復職拒否は、同号所定の「不利益な取扱い」に当たると解される。
 本件復職拒否に至る具体的経緯などを併せ考えると、本件復職拒否は、法人がAや組合を嫌悪し、Aの休職を継続させることで、職場からAや組合の影響力を排除しようとしてしたものとみることができる。また、本件復職拒否には、①看護師業務の性格上、Aの症状の原因が解明されないと患者の生命、身体の安全などの安全性確保が困難である、②医療職の他の部署に配置転換することは困難であった、という合理的理由に基づくものであるから、不当労働行為意思に基づくものとはいえないと法人が主張するところは、いずれも、本件復職拒否を正当化する合理的理由ということはできない。結局、本件復職拒否は、Aが組合の組合員であることの「故をもつて」されたものであるとみることができる。
 以上からすれば、本件復職拒否は、Aが組合の組合員であることの「故をもつて」した「不利益な取扱い」をしたものということができ、また、組合の弱体化を招来する機能を有する行為であるといえるから、組合の弱体化を図るものとして、労働組合の「運営すること」に対する「支配介入」であるということができる。よって、本件復職拒否は、労組法7条1号(不利益取扱い)及び3号の不当労働行為(支配介入)に当たる。
2 争点2(本件団交対応は労組法7条2号〔団交拒否〕及び3号〔支配介入〕所定の不当労働行為に当たるか否か)について
 第5回団体交渉における交渉事項は①平成25年休職命令の撤回、②Aの健康管理室への配置転換などであって、いずれも組合員の労働条件に関わる事項として、義務的団交事項に当たる。団体交渉とは、労働組合が代表者を通じて使用者の代表者と労働者の待遇又は労使関係のルールについて合意を達成することを主たる目的とする交渉であるところ、労組法7条2号は「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」を不当労働行為として禁止することで、円滑な団体交渉関係を樹立しようとしているものと解される。そのような同号の趣旨に照らせば、同号の成立要件としては、文字通り「団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」のみに限らず、形の上では団体交渉に応じながら合意達成への真摯な交渉をしない不誠実な交渉態度もまた実質的な団体交渉拒否として含まれると解するのが相当である。これを交渉当事者間の義務としてみると、団体交渉は合意達成を目的とするものであるから、交渉当事者は、合意の達成に向け、その可能性を誠実に模索すべきであり、これを使用者においてみるならば、使用者は、単に労働組合の要求や主張を聴くだけではなく、その要求や主張の具体性や要求の程度に応じた回答や主張をし、また必要に応じ、その根拠を示したり資料を提示したりして合意達成に向けた誠実な対応をすべき義務を負うというべきである。かような観点から、本件においても、法人は、組合との団体交渉において誠実に交渉すべき義務を負うものと解するのが相当である。
 法人は、団体交渉冒頭において、交渉事項について訴訟において回答する旨を述べたり、実質的な説明を行わなかったりするような法人の交渉態度は、交渉事項につき最初から合意達成の意思がないことを明確にしているといえ、その後のやり取りをみてもその姿勢は一貫していて、基本的には、当時係属していた平成25年休職命令無効訴訟を根拠として、団体交渉においては実質的な合意をすることはしないとの対応であるとみることができる。このような対応は、合意達成に向けた誠実な対応とはいい難いものであるといわざるを得ない。また、法人が訴訟係属中であることを理由として具体的な回答や説明をしないことなども誠実な対応とは認められない。
 以上によれば、本件団交対応は、誠実交渉義務に反し、実質的な団体交渉拒否に当たり、また、労使間の対立が深まる中で、本件復職拒否と一連のものとして行われたものであり、Aの復職に向けた組合の活動を妨害するものであると認められるから、支配介入に当たる。
3 救済方法について
 以上、認定説示してきたところからすれば、文書交付を命じた本件命令は相当なものであり、本件命令の救済方法に関する判断に取り消すべき違法はない。
4 結論
 以上によれば、本件命令の認定判断に違法はなく、本件命令の取消しを求める法人の請求は理由がないから、これらを棄却する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神労委平成26年(不)第7号 一部救済 平成29年6月13日
中労委平成29年(不再)第33号 変更、棄却 平成31年2月8日
 
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