事件番号・通称事件名 |
大阪高裁平成31年(行コ)第53号
高槻市救済命令取消請求控訴事件 |
控訴人 |
大阪府(同代表者・処分行政庁 大阪府労働委員会) |
控訴人補助参加人 |
Z労働組合(「組合」) |
被控訴人 |
高槻市 |
判決年月日 |
令和2年2月14日 |
判決区分 |
全部取消 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、市が、①組合員たる英語指導助手(AET)について雇
止めしたこと、②AETに対して指導等を行う組合員たるスーパーバイザー(SV)についても雇止めしたことなどが、それぞれ
不当労働行為に当たるとして救済申立てがあった事件である。
2 大阪府労委は、②の雇い止めは不当労働行為に該当すると認定し、市に対して、文書手交を命じ、その余の申立てを棄却し
た。
3 市は、これを不服として、大阪地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、市の請求を認容し、命令を取り消した。
4 大阪府労委は、これを不服として、大阪高裁に控訴したところ、同高裁は、原判決を取り消し、市の請求を棄却し
た。 |
判決主文 |
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。 |
判決の要旨 |
1 当裁判所は、市の請求は理由がないものと判断する。その理由
は、次のとおりである。
2 本件イメージ図の作成時期及び市が本件組合員に係る本件契約を更新しないことを決定した時期について
市は、本件イメージ図は平成26年8月26日に実施されたヒアリングの前に作成されたものであり、市が本件組合員に係る
本件契約を更新しないことを決定した時期は同年9月9日より前であったと主張するが、本件イメージ図は、大阪府労委が救済申
立ての審理をしていた当時、提出されていなかった。また、本件AETに係る取組みは、市の姉妹都市(T市)から受け入れてい
た国際交流員にAETを担当させていたような背景を有する施策を廃止する場合、関係先との友好・親善関係を悪化させることが
ないように、関係先と十分に協議を行うなどの配慮をすることにより、受入側が一方的に先行して意思決定しないように留意しな
がら事務を進めるのが通常である。ところが、市がT市長宛に、平成27年度の本件プログラムを休止したい旨の書面を送付した
のは、平成26年8月27日であり、T市長が一時休止に同意する旨の書面を送付したのは、同年9月8日であって、上記書面の
原本が国際便で市に到達したのは、9月9日より後であることが推認されるところ、同年8月26日に実施されたヒアリングで使
用したものとして提出された本件イメージ図には、T市と調整中である旨の記載が全くなく、不自然である。さらに、本件事業計
画調書には本件SVの廃止という、従前の施策の変更があったことをうかがわせる記載がないのに、本件イメージ図にその点に関
わる記載があることや、そのような記載のある本件イメージ図が正式な文書として保存されていなかったことも不自然である。加
えて、本件SVを廃止するときは、地方公務員の平均的な英語力をもってしても雇用に関する契約であることが分かる標題の付い
た本件合意書に基づき本件契約が締結され、10年以上にわたって業務を遂行してきた本件組合員との間の契約を打ち切ることに
なり、この点に関する法律上の問題点を事前に検討しておく必要があると考えられるにもかかわらず、市教委事務局の法務担当者
にそのような決定をすることの可否等について意見を求めるなどの形跡はうかがわれない。これらの事情に照らすと、本件イメー
ジ図が平成26年8月26日に実施されたヒアリングの前に作成されていたと認めるには合理的な疑問があるといわざるを得ず、
本件イメージ図の存在とその内容をもって、市が本件契約を更新しないことを決定した時期を推認等できない。
以上の点に、前記説示のとおり、T市長が平成27年度の本件プログラムを一時休止することに同意する旨の書面の原本が市に
到達したのは平成26年9月9日より後であること、組合からの同日の団体交渉申入れを契機に、法務を担当するB4が本件組合
員の処遇に関する検討に加わるようになったこと、同月29日及び同月30日に市議会において本件無断転居等に関する質疑がさ
れたのに、市当局側からは、本件プログラム及び本件SVの廃止を決定した旨の答弁も、本件プログラムについて包括的に検討す
る予定である旨の答弁もなかったことを考え合わせれば、本件SVの廃止が正式に決定されたのは、市教委が弁護士との協議の上
で、本件組合員が労組法上の労働者には該当するが労働基準法上の労働者には該当しないとの見解に基づき組合との団体交渉に応
じることを決断した同年10月以降であったと推認するのが相当である。
3 市が本件契約を更新しなかったことが不当労働行為に当たるかについて
(1) 不当労働行為意思の存在について
本件無断転居は、本件AETの一部が、本件組合員が市に指摘した本件宿舎の居住環境上の問題などに不満を抱き、組合及び
C2ユニオンの支援の下で敢行したものであるところ、市は、平成26年9月9日に組合から、本件組合員が組合に加入した旨の
通知とともに団体交渉の申入れを受け、同29日及び同月30日には市議会において、本件無断転居等に関する質問を受けたこと
を契機に、同年5月11日の本件無断転居以降市教委を始めとする関係部局の頭を悩ませてきた一連の問題は組合を含む労働組合
の主導によるものと考え、組合に加入した本件組合員との本件契約を更新しないことを決定したものと推認するのが相当である。
そして、本件組合員がSVとして特段の問題なく10年以上にわたって業務を遂行し、平成26年度には年約500万円の報償金
の支払を受ける程度の業務を遂行してきたにもかかわらず、市とT市との間で本件プログラムを含めた本件国際交流員の受入れの
在り方を検討する予定の平成27年度において、本件組合員の業務内容や報酬額を縮小するなどして暫定的に本件契約を継続する
などの代替策を検討することもなく、唐突に本件組合員との契約関係の打切りを決めたことも併せ考慮すると、市は、本件組合員
が組合に加入したことの故をもって、本件組合員に対して不利益な取扱いをしたものであり、本件契約を更新しないことを決定し
た当時不当労働行為意思を有していたものと認めることができる。
(2) 本件SVの廃止に合理的な理由が認められるかについて
市が本件組合員の組合への加入とは無関係に本件契約を更新しないことを決定したとの主張を採用することができないこと
は、前記(1)で認定・説示したとおりである。もっとも、使用者に不当労働行為意思があると認められる一方で、労働組合員に
対する不利益な取扱いに正当な理由があると認められる場合には、組合加入又は組合活動の事実がなければ当該取扱いがされな
かったであろうと認められるときに限り、当該取扱いが不当労働行為に該当すると解する余地がある。
そこで、更に進んで、本件プログラム及び本件SVを廃止することに合理的な理由があったと認められるかについて検討する
と、市の小中学校における英語教育に関する方針として本件プログラムないし本件AETを廃止すること自体はやむを得ないもの
であったと認められるとしても、市は、前記説示のとおり、特段の問題なく10年以上にわたって業務を遂行するなどしてきた本
件組合員について、暫定的に本件契約を継続するなどの代替策を検討することもなく、本件組合員に対して唐突に本件契約を更新
しないことを決定した旨を通告したものであって、これらの事情に照らせば、本件SVを廃止することとして本件契約を更新しな
かったことに合理的な理由があったと認めるには足りないというべきである。
これに対し、市は、本件組合員が教育センターに提出した月報(本件月報)の記載内容に照らしても、本件SVの業務のうち本
件AETに関係しない職務は10パーセント程度しかなく、中学校に配置される業者派遣AETが小学校のAETをも担うことと
して学校のAETが業者派遣AETに一元化されれば、本件SVが不要になる旨主張する。しかしながら、本件組合員は、AET
に対する指導以外にも、パイロット校での授業支援、市教研への助言等にも従事していたものであり、本件プログラムを廃止した
場合に本件SVとしての職務が全く不要になるとまで認めるには足りない。また、市長とT市長が平成26年9月8日頃に合意し
た内容は、本件国際交流員に係る交流プログラムについて再検討するため、平成27年度の本件プログラムの一時休止のみであ
り、本件プログラムの将来にわたった廃止まで両者が合意していたとは認めるに足りないから、上記の時点で本件SVの業務が将
来にわたって一切不要になったとまでいうことはできない。さらに、中学校に業者派遣AETを配置する場合であっても、本件
SVを活用することで、従前の研修方針との継続性が保たれた内容による研修を継続するなどの方法により均一な教育サービスの
提供を可能にすることも合理性があり、業者派遣AETを活用すれば市教委の教育主事による指導や研修で足り、本件SVによる
研修等が不要になるとまではいえない。加えて、本件月報の記載内容から本件AETの指導以外の本件SVの業務の割合を的確に
算出することができるかは必ずしも明らかでないし、上記業務の重要性についてどのように評価するのが適切であるのかも必ずし
も明らかではない。これらの諸事情に照らせば、本件SVの廃止に合理的な理由があったということはできず、本件契約を更新し
ないことに正当な理由があったと認めることはできない。
(3) 支配介入について
弁論の全趣旨によれば、市が本件組合員との本件契約を更新しなかったことにより市の設置する小中学校から組合の組合員が
いなくなったことが認められるから、市が本件契約を更新しなかったことは労働組合の弱体化を招く支配介入に該当する。
4 以上によれば、市が本件契約を更新しなかったことは、労組法7条1号及び3号の不当労働行為に当たり、市の請求を認容し
た原判決は不当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消した上、市の請求を棄却する。 |
その他 |
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