事件番号・通称事件名 |
福島地裁平成31年(行ウ)第2号
アルファクラブ株式会社外1社救済命令取消請求事件 |
原告 |
X1株式会社(「会社X1」)
X2株式会社(「会社X2」,会社X1と併せて「会社ら」) |
被告 |
福島県(同代表者兼処分行政庁 福島県労働委員会) |
被告補助参加人 |
Z労働組合(「組合」) |
判決年月日 |
令和元年12月17日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、会社X2の完全親会社の会社X1及び会社X2が、組合
から申入れのあった会社X2に雇用される組合員Aの時間外労働に対する賃金支払い等を交渉事項とする団体交渉について、交渉
事項が裁判で係争中であることを理由に拒否したことが、不当労働行為に当たるとして救済申立てがあった事件である。
2 福島県労働委員会は、不当労働行為に当たるとして、会社らに対し、誠実に団体交渉に応じることなどを命じた。
3 会社らは、これを不服として、福島地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、会社らの請求を棄却した。 |
判決主文 |
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告らの負担とする。 |
判決の要旨 |
1 会社X1が労組法7条の「使用者」に該当するか否か
労組法7条に定める「使用者」は,労働契約上の雇用主がこれに該当するのはもちろんであるが,雇用主以外の事業主であって
も,その労働者の基本的な労働条件等について,雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定するこ
とができる地位にある場合には,その限りにおいて,その事業主は同条の使用者に当たるものと解するのが相当である。
現在の会社X1はAの労働契約上の雇用主ではないが,もともと,Aは,会社X1の従業員として採用され,同社の調理部門で
勤務していたところ,同社の調理部門が分社化されて会社X2が設立されると同社に転籍したものであり,当初から現在まで勤務
場所・業務内容は同じであること,現在でも,会社X1は会社X2の完全親会社であること,会社X2の従業員の給料は,同社が
労働時間を集計するものの,それを会社X1の総務課のBの確認を経て支給される仕組みになっていたこと,遅くとも平成27年
9月以降は,BがAの賃金や労働時間についての相談に対応していること,Aの懲戒解雇等に関して5回にわたり団体交渉が開催
され,この間,会社X1は団体交渉の相手方として申し込まれても,使用者ではないとして異議を述べた形跡はなく,むしろ,同
社総務課のBを全会に出席させ,同人は,会社X2の社長よりも積極的に発言し,組合の要求に対しても自ら返答するなど,実質
的な交渉を行っていること,会社X2を含めて団体交渉の開催,交渉継続の拒否は会社X1の役員が決定していることに鑑みれ
ば,会社X1は,Aの労働契約上の雇用主ではないものの,団体交渉の要求事項であるAの解雇,長時間労働,未払賃金の支払等
のいずれの関係においても,雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にあ
るといえ,その限りにおいて,労組法7条の使用者に当たるものといえる。
2 会社らによる団体交渉の拒否に「正当な理由」(労組法7条2号)があるか否か
会社らは,会社X2とAとの間に労働関係の民事訴訟が係属しているところ,組合が団体交渉を求めている事項は,上記民事訴
訟において真向から主張が対立する争点と重なるものであり,もはや団体交渉を行う余地がない程度にまで紛争が発展している状
況にあるため,団体交渉の拒否には正当な理由がある旨主張する。
しかしながら,上記団体交渉の経緯をみると,第1回及び第2回の団体交渉では主として懲戒解雇の撤回や未払賃金等について
交渉され,第3回以降は長時間労働や残業代の関係の交渉が中心であり,労災認定後にこれを踏まえての交渉は第5回が初めてで
あるところ,特に第5回の団体交渉では,組合の求める協議事項については,未払賃金や残業時間に関する紛争等,義務的団交事
項が含まれているにもかかわらず,これに対して会社らが明確な回答をしないなど,充分な交渉はされておらず,到底誠実な対応
をしているとはいいがたい。また,団体交渉中に労働者個人を相手方として民事調停や個別的労使関係調整を申し立てるなどして
いる。そして,民事訴訟が係属し,そこでの中心的争点が共通であるとしても,これを理由に正当な理由を肯定すれば,使用者は
いつでも提訴すれば団体交渉を拒否する理由を生成できることになり,団体交渉の意義を失わせてしまう。
以上に鑑みれば,会社らの団体交渉の拒否には正当な理由はなく,本件救済命令に違法性はない。 |
その他 |
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