労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪地裁平成28年(行ウ)第198号
サンプラザ不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  株式会社X(会社) 
被告  大阪府(同代表者兼処分行政庁・大阪府労働委員会) 
被告補助参加人  Z1労働組合
Z2労働組合 
判決年月日  平成29年6月12日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要   平成26年12月3日、会社は、41名の従業員に対し、同日付けの配転命令で同月8日着任の配転(以下「26.12.3配転という。」)を命じた。会社は、当該配転の一環として、A1に対してD店のグロッサリー部門(一般食品(生鮮、青果、海産、精肉、惣菜、ベーカリー以外の食料品)、家庭用品、日用雑貨)のマネージャーからE店の海産部門の主任への配転命令を命じた(以下、A1のE店の海産部門主任への配転命令を「本件配転命令」という。)。
  本件は、本件配転命令が組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるとして申立てがあった事件で、大阪府労委は、会社に対して文書の手交を命じた。  
 これを不服として、会社は、大阪地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。    
判決主文   原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 本件配転が、A1に対する不利益取扱いといえるか否かという点について
 本件配転についてみると、確かに、本件配転に伴って、A1に係る給与その他の労働条件に差異が生じることを認めるに足りる的確な証拠は認められないこと、本件配転後の職務内容については、原告内部において、海産部門の業務がグロッサリー部門に比して特に過酷である等の認識があったことをうかがわせる証拠は見いだし難く、かえって、海産部門は、原告内部において最も多くの正社員が従事している業務であること、以上の点が認められる。しかしながら、①12年8か月間にわたってグロッサリー部門のみを担当していたA1からすれば、未経験の海産部門における業務に対応するためには相当な期間を費やして業務に必要な技術(例えば、包丁で魚類をさばくこと等)を習得する必要があること、②A1が新たな技術等を習得するに当たっては、他の従業員に質問等する必要があると考えられるところ、本件配転が年末という繁忙な時期であったことから、同質問等も容易にできない状況にあったとうかがわれること、③A1は、本件配転による異動後、正社員として海産部門におけるパート従業員を指導しなければならないところ、海産部門における業務経験がないA1にとって、経験者であるパート従業員を指導しなければならないことは、上記②の点も併せ鑑みると、それ自体、相当な精神的負担を伴うものといえること、④海産部門における業務に従事することによって、A1のアトピー性皮膚炎が悪化する可能性も否定できないこと、以上の諸事情を総合的に勘案すると、本件配転は、A1に対する不利益取扱いに該当すると認めるのが相当である。
 本件配転は、A1に対する実質的な降格とはいえないものの、上記認定説示した諸般の事情を総合的に勘案すると、労組法7条1号の「不利益取扱い」に該当すると認められる。
2 本件配転は、A1が、被告補助参加人の組合員であることを理由とする不利益取扱いであり、かつ、支配介入であるといえるか否かという点について
 原告は、店長や副店長等の店舗責任者には、生鮮部門や複数部門の経験があることが望ましいとの方針であるとして、本件配転が、グロッサリー部門での評価が低かったA1に評価を上げる機会を付与するためのジョブローテーションである旨主張する。
 この点、店舗の責任者として、店舗における全部門を統括するためには、特定の部門のみならず、複数の部門を経験している方が望ましいと考えられるところ、A1がこれまで高評価を受けていたとまではうかがえないこと、A1自身、上司に対し、他部門の経験をする必要があるのかどうかを尋ねるなど、このままグロッサリー部門のみで勤務していたのでは、副店長への昇進が難しいかもしれないことを自覚していたともうかがえること、原告の海産部門は正社員が中心である一方、グロッサリー部門は正社員の割合が少ないこと、原告は、生鮮センターにおける業務の拡大を指向しており、原告全体としてみれば、生鮮センターの業務対象である海産部門への人員シフトがみられることは否定し難いこと、就業規則において、配置転換を命じることができるとされていること、以上の点に鑑みれば、A1自身のキャリアアップや原告の業務上の必要性の観点から、A1に海産部門の経験を積ませること自体は、原告の経営判断として不合理であるとまではいえない。
 しかしながら、上記認定事実等によれば、①原告の主張によれば、平成21年冬からA1に対する人事評価は「c」評価が継続し、平成25年夏からは「d」評価になっていたこと、その間、A1の配属先店舗は3回変わっているにもかかわらず、A1は、いずれの店舗においてもグロッサリー部門に配属されていること(上記認定事実(1)ア)、②原告において、10年以上同一部門で勤務していたマネージャーが、その後未経験部門に異動となった前例はなかったこと(上記認定事実(2)イ)、③原告において、グロッサリー部門しか経験していない店長も複数名いたこと、④本件配転は、12月3日配転の中でも、新店舗の開店とは関係のない追加配置としてなされたものであること(上記認定事実(4)イ)、以上の点が認められ、⑤E店には、既に海産部門の社員が2名おり、これらの社員が、海産部門の未経験者であるA1に対して、海産部門における仕事内容や技術等を指導することが想定されていたと推認できるところ、本件配転は、スーパーマーケットにおいて、繁忙な時期になされたと認められること(この点は、原告も認めるところである。)をも併せ鑑みると、A1をそれまでのグロッサリー部門から未経験の他部門(海産部門)に異動させる必要性は、さほど高いものであったとは認められず、かえって、そのような時期にあえて未経験者であるA1を海産部門に配転する必要性は乏しかったと評価せざるを得ない。
 そして、①上記認定事実(3)のとおり、被告補助参加人は、平成26年3月以降、原告に対し、賃金引上げ等を求めるとともに、原告がユニオンの設立に関与しているとして、不当労働行為救済申立てを行うなど対立していたこと、平成26年7月以降、原告が組合脱退勧奨やユニオンへの勧誘を店長らに行わせている旨の主張や、A2ら3名の配置転換が不当であるとの主張がなされ、これらについては不当労働行為に当たるとして、処分行政庁に対する救済申立てがされたこと、A1ら被告補助参加人の組合員は、残業代が未払であるとして、各労働基準監督署に申告し、原告が同各労働基準監督署長から是正勧告を受けて、協議未了であるにもかかわらず、一方的に休憩時間を2時間として計算した未払残業代の支払をするなど対立関係は更に深化していたこと、以上の事実が認められ、更には、②原告は、A2ら3名の配置転換について、被告補助参加人から、事前の協議等がなく労働条件が変更されたことの抗議や、配置転換の必要性がなく不当労働行為に当たるとの救済申立てをされていたことに鑑みれば、A2ら3名の配置転換が不当労働行為に該当するか否かにかかわらず、異例ともいうべき本件配転を実施するに当たっては、事前又は直後にその目的及び必要性をA1に十分説明するのが相当であったというべきところ、原告は、事前の説明等もなく本件配転を命令し、2日後の団体交渉の場においても、「仕事ができていないから誰かの下でもう一度やってもらう。」旨の説明をするのみで、それがA1のキャリアアップのためであるとの説明を何ら行っていないこと、③原告は、A1がアトピー性皮膚炎により海産部門の業務に制眼が必要である旨の医師の診断書が提出された後も、これに対する具体的な対策案を提示することもなく、解決に向けたあっせんも拒否し、譲歩の姿勢を見せなかったこと(結局、A1は退職するに至った。)、以上の事実が認められる。
 以上認定説示した点を総合的に勘案すると、本件配転は、A1ら10名の組合員から合計2100万円以上もの残業代の請求がなされるなど、被告補助参加人との対立が深刻化している状況でなされたものである一方で、年未の繁忙な時期に、あえてA1をそれまで長年継続して従事してきたグロッサリー部門からそれまで経験したことがない海産部門に異動させたというものであって、本件配転の必要性は乏しいといわざるを得ないことを併せ鑑みると、原告は、被告補助参加人との対立関係を嫌悪し、A1が組合員であることを理由として、あえて同人が望まない不利益な本件配転を実施したと認めるのが相当である。
 なお、原告は、A1が組合員として積極的に活動していた認識がない旨主張するが、仮に、原告の同主張を前提としたとしても、原告は、A1らから残業代請求をされたことにより、少なくともA1ら10名が、組合員として、残業代の請求をしたことを承知していたと認められるから、同主張をもって、上記認定説示した点を覆すには足りない。
 以上のとおり、本件配転は、組合員であるが故の不利益取扱い(労組法7条1号)に該当する上、これにより組合員であったA1が退職するに至るなど、組合員の組合活動を萎縮させる支配介入(同条3号)にも該当すると認められるから、本件配転が不当労働行為に当たるとした処分行政庁の判断に違法があるとはいえない。また、同不当労働行為を是正するための救済方法として、原告に対し、本件文書の手交を命じた本件命令に、裁量権の逸脱、濫用の違法があるともいえない。
 よって、原告の本件請求は理由がないから棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成27年(不)第7号
不当労働行為審査事件
全部救済 平成28年7月1日
大阪高裁平成29年(行コ)第145号 棄却 平成29年12月20日
 
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