労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成27年(行ウ)第483号
ファルコホールディングス不当労働行為救済却下命令取消請求事件 
原告  X合同労働組合(「組合」) 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
補助参加人  株式会社Z(「会社」) 
判決年月日  平成28年7月14日 
判決区分  棄却  
重要度   
事件概要  1 特例財団法人C1(以下「財団」という。)は、企業・学校等の健康診断事業(以下「検診事業」という。)の廃止等を理由として、平成12年3月20日付けで、組合員A1を含む検診事業部所属の全職員を解雇した。組合は、組合員に対する解雇(以下「本件解雇」という。)が不当労働行為に当たるとして救済の申立てを行い、A1のほか組合員3名は財団に対し労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を請求する訴えを提起したが、いずれも棄却された。
2 その後、組合は、平成23年6月12日、会社に対し、本件解雇に深く関与していたことが判明したなどとして、A1の解雇等を協議事項とする団体交渉の申入れを行ったが、会社は、A1との間に労使関係がないとして団体交渉に応じなかった。
3 組合は、この団体交渉の拒否が不当労働行為に当たるとして、大阪府労働委員会に救済を申し立てたが、府労委は、会社がA1の「使用者」に当たらないなどとして、同申立てを棄却した。
4 組合は、これを不服として中央労働委員会に再審査を申し立てたが、中労委は同申立てを棄却した。
5 組合は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は組合の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は参加費用も含め原告の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
2 労組法7条に定める「使用者」の意義及び判断基準
  労組法7条に定める「使用者」の意義について検討すると、一般に使用者とは、労働契約上の雇用主をいうものであるが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除し、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることに鑑みると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主や労働者との具体的関係に照らして、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視することができる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、その事業主は同条の使用者に当たるものと解するのが相当である。
  本件において、会社とA1との間に労働契約関係が存在したことがなぃことについては、当事者間に争いがない。そして、組合が会社に対して団体交渉を求めた事項は、「組合員A1氏の解雇争議について、およびその関連事項」というものであり、その具体的な要望は必ずしも明確ではないものの、A1自身が、会社に雇ってもらうことは考えておらず、会社に団体交渉に応じてもらった場合には、真相を明らかにしてほしい旨述べていることに照らせば、会社による雇用まで求めるものではなく、財団がA1に対して行った本件解雇の正当性を争うことを目的とするものといえる。このような団体交渉事項との関係で使用者性を肯定するためには、少なくとも、A1に対する本件解雇について、会社が雇用主と部分的とはいえ同視することができる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったことが必要であると解するのが相当である。以下、会社がそうした地位にあったかについて検討する。
3 会社の労組法7条の「使用者」該当性について
(1) 組合は、会社が、財団との業務提携に当たって、その前提として、組合による組合活動が活発であった財団の主たる事業である検診事業を、組合を排除した上でC2に移すことを画策し、その一環として本件解雇を行ったと主張し、会社が本件解雇について支配力を有していたことを根拠付けるものとして、前記の各事実を主張している。
  本件で提出された証拠によれば、前記認定のとおり、組合主張の事実のうち、平成11年8月5日、会社の完全子会社であるC10が財団に対して3000万円の融資を行い、その頃、財団の顧問であったC4に対し、会社がC2買収のための資金を提供し、平成12年3月に財団が本件機材等をC2に売却した際には、売買代金とするための資金をC2に融資し、この売買代金によって財団が解雇した職員に対する退職金の支払を行ったことが認められ、これらの事実によれば、会社が財団に対して直接又は間接に資金を提供することにより、財団の運営に一定の影響力を有していたことが認められる。また、本件解雇がされた頃、会社は財団の理事長等からその運営状況について報告を受けるなどしており、財団の運営について一定の関心を有していたことがうかがわれる。しかしながら、これらの事実があったとしても、会社が、財団が雇用する労働者の採用、配置、労働条件の決定その他の人事・労務に関する事項を決定し、又はその決定に深く関与していたことを推認するに足りるものではない。
  また、本件解雇当時の財団の理事の構成についてみると、組合が主張するとおり、平成11年9月17日からC5理事が、平成12年1月26日からC6理事及びC7理事が財団の理事に就任していたことが認められ、C5理事は有限会社C27の取締役であり、同社は会社の運営する「C28」の所在地に本店の登録をしていたことがうかがわれ、会社と何らかの関係を有していたことが疑われるものの、会社の影響力がC5理事を通じて具体的に財団に及んでいた事実までは認めるに足りない。C6理事及びC7理事についても、C4からの紹介で理事に就任した事実はあるにせよ、それによって会社がこれらの者に対し影響力を及ぼすことができる地位にあったとは直ちに推認できない。その他、本件解雇時において、理事会を構成する他の理事が会社の関係者で占められていたという事実も認められず、会社が財団の理事会を掌握していたとも評価できないのであって、財団の理事の構成から、本件解雇について会社が支配力を有していた事実を推認することはできない。
  次に、会社とC2との関係及び財団からC2への検診事業の委譲についてみても、組合主張の事実のうち、会社が、C2の買収に当たってC4に対し資金援助を行い、C2の理事に会社の関係者を就任させ、その後も財団から本件機材等を買い取るための資金援助を行っていることなどを認めることができ、これらによれば、会社がC2の運営に相当の影響力を有する地位にあったことは認められる。しかしながら、この事実自体は本件解雇について会社が支配力を有していた事実を推認させるものであるとはいえない。
  また、財団の一部の職員が財団を退職してC2に就職したことや、本件機材等が財団からC2に譲渡されたことが認められ、かつ、同年2月末には、C2が当時の財団の顧客から引き続き業務を受注できるかどうかが検討されたことがうかがわれるものの、顧客が引き継がれるかどうかについては、飽くまで顧客の意向によるものであるし、実際に財団からC2に対してその顧客の多くが引き継がれることとなったなどの事実も認められないところである。そうすると、上記認定の事実のみでは、そもそも財団の検診事業が事業体としてC2に委譲されることが画策されたという事実を認めることはできないし、上記のとおり認定できる職員や本件機材等の移転についても、それが会社の主導によって行われたことを推認させる事情までは見当たらないから、結局本件解雇について会社が支配力を有していたことを推認するに足りない。
  その他、本件解雇について会社が財団に対し何らかの指示を行った事実や、財団の理事会及び評議員会の構成員の多くを会社の関係者が占めていたなどの事実を認めるに足りる証拠はないのであって、本件解雇の判断に会社が主体的に関与した事実は認められない。
  そうすると、組合が主張し、証拠により認定できる各事実から、会社がA1の解雇について、雇用主と部分的とはいえ同視することができる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったことを認めるには足りないというべきである。
(2) かえって、本件においては、次のとおり、財団がその経営状況の悪化という外的要因に基づき、主体的に本件解雇を決定した事実を認めることができる。
  すなわち、上記認定した事実によれば、財団は、検診事業について、顧客の減少により収入が前年度の約7割まで減少することが見込まれていた平成11年12月に、理事会において、検診事業の継続の可否について検討を行い、診療所を閉鎖する方針を決議している。その後も、評議員会や理事会等において、診療所の閉鎖そのものを白紙撤回する方針を含め複数の選択肢が検討されたものの、財団のほぼ全ての顧客に対して、組合がスト権の確立を通知するなどの行動に及んだ影響もあって、顧客の一部が検診業務の委託を継続することに難色を示し、次年度以降の顧客の確保がいよいよ困難となっていたところ、主要な顧客の一つであるC18株式会社から次年度に業務を受託できない見込みとなったことから、平成12年2月には、検診事業を廃止せざるを得ないとの判断に至ったものということができる。本件解雇は、このような顧客減少による財団の経営状況の悪化という外的要因に基づき、その経営判断として行われたものと認めるのが相当である。
  これに対し、組合は、団体交渉において入手した診療所収支によれば事業収入は増加しており、財務状況は悪化していないこと、たとえ事業収入が減少したとしても財団においては変動経費が多いことから収支の悪化に直結しないことなどを指摘する。しかしながら、財団全体の事業収入が前年度の約7割まで減少することが見込まれていたことは収支計算書に記載されており、この収支計算書には、顧客ごとに月別の入金額を記載した表が添付されており、これを見ると大口の顧客であるC23関連の収入が前年度から8176万8937円、高槻市関連の収入が前年度から5405万5692円、その他の顧客と合わせると前年度から総額1億6429万0819円の減収となる見込みであることが記載されており、事業収入減少の見込みについては具体的な裏付けが伴っていたものとみることができる。組合が指摘する診療所収支は、確かに事業収入欄に記載されている数字が平成8年度から平成10年度にかけて増加はしているものの、人件費や委託費等の経費を差し引いた収支は同期間を通じて毎年2000万円以上の赤字となっており、経営状態が良好であることを示しておらず、前記のとおり認定できる財団における財務状況の悪化の事実を覆すものではない。また、事業収入の減少が収支の悪化に直結しないという指摘については、収入の大幅な減少は通常財務状況の悪化を招くものであって、収支計算書によれば、平成11年度の経費を前年度より少なく見積もってもなお支出が大幅に上回る状況を回避できないとの見通しが示されており、財団の当時の具体的状況に照らせば、事業収入の減少が財務状況の悪化を招くことは避け難いところであるから、上記の組合の指摘は当たらない。
  したがって、組合の指摘する事実によっては、本件解雇が顧客減少による財団の経営状況の悪化という外的要因に基づきされたという認定を覆すことはできない。
(3) その他の組合の主張についての検討
ア 組合は、会社が、財団と業務提携を行うに当たり、組合による組合活動が活発であった財団の主たる事業である検診事業を、組合を排除した上でC2に移すことを画策し、その一環として本件解雇を行ったものであると主張する。
  組合のかかる主張は、会社がC2の運営について買収段階から資金援助を行うなど積極的な関与をしており、不当労働行為を行ったと判決でも認定されるなど、組合と対立関係にあったC4が中心的な役割を担っていたこと、財団ではかねてから組合活動が活発で、係争案件も多く発生しており、会社としても財団と業務提携を行うに当たってこれを排除したい意向を有していたことが疑われること、結果的に解雇の対象となった職員のうち非組合員のみがC2に再就職していることなどを根拠にするものと考えられる。確かに、前記認定のとおり、財団と組合との間には、平成7年頃から係争案件が度々発生し、判決において不当労働行為が認定されるなど、激しい対立関係にあったことが認められる。
イ しかしながら、財団が本件解雇を行うに至った理由は、前記のとおり、経営状況の急激な悪化という外的な要因に基づくものと認めることができる。そして、非組合員のみがC2に再就職したという点についても、本件解雇後、A1ら組合員に対しても再就職のあっせんを財団から申し入れたが、A1らがこれを拒否したという経過に照らすと、組合を排除する意思の存在が推認されるとはいえないのであって、財団が組合を殊更に嫌悪する意思をもって本件解雇を行ったものとは認められないし、会社がC2の運営に一定の影響力を有する地位にあったことを考慮しても、そのことから本件解雇について会社が支配力を有していた事実を推認することができないことは前記のとおりである。
ウ 判決において、C4が財団運営に関与するようになった目的が組合活動の弱体化にあったとされ、C4が過去の財団による不当労働行為の主体となっていたという認定がされており、その後C4が財団の理事に就任したなどの経過があったとしても、C4が会社から指示を受けるような関係にあった事実や、実際にC4が会社の指示の下で動いていた事実が認められない以上、本件解雇に対する会社の支配力を裏付けているとはいえない。
  その他、組合の上記主張については、C19がこれに沿う供述をしているものの、C19の供述は、客観的な裏付けがあるものではなく、推測を含むものである上、その内容も、C2が財団の検診事業を引き継ぎ、それによって会社が利益を得ることを企図していたことを述べるにとどまり、組合を排除する目的のために会社が主体的に本件解雇に関与した事実について具体的に言及するところはないのであって、組合の上記主張を裏付けるものとはいえない。
エ 組合は、会社が財団に対して支配力を有していた事実を裏付けるものとして、会社が財団と業務提携をするに当たって、財団の再建に協力する旨の覚書を結んだ事実を指摘する。
  しかし、そうした覚書の存在に言及するC19の供述及び平成12年7月24日付けでC19が作成した「業務報告」と題する文書に「C3Gが昨年8月の覚え書について、不履行の訴え又は組合A2へ渡さない為の保証」との記載があり、組合の執行委員長であったA2作成の報告書において、同人がC4から、C4と会社との間で覚書を交わした事実があると聞いた旨の記載もあるものの、そのような覚書が存在したことについて確かな裏付けがあるとまではいえず、仮に何らかの覚書があったとしても、その内容は定かではないのであって、この点も会社が本件解雇に支配力を及ぼしたとの事実を裏付けるものとはいえない。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成23年(不)第57号 棄却 平成25年4月26日
中労委平成25年(不再)第36号 棄却 平成27年1月28日
 
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