労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪地裁平成26年(行ウ)第2号
大阪運輸振興/大阪市地方労働委員会命令取消請求事件 
原告  X1労働組合大阪合同支部(「組合」) 
被告  大阪府(同代表者兼処分行政庁・大阪府労働委員会) 
被告補助参加人  Z株式会社(「会社」) 
被告補助参加人  大阪市(同代表者・大阪市交通局長)(「市」) 
判決年月日  平成28年2月8日 
判決区分  棄却  
重要度   
事件概要  1 市から委託を受けて市バスの運行管理業務を行っている会社は、平成23年8月、市から組合掲示板の設置のための施設使用の許可を得て、組合に対し、4つの営業所の施設につき同年9月1日から24年3月31日までを対象期間として、組合掲示板の設置を認めた。本件は、①その後、市が会社に対し、上記の施設使用の許可を期間満了後更新しない旨通知したことを受け、会社が組合に対し、組合掲示板を期間満了の日までに撤去するよう一方的に通知したこと、②市が組合掲示板に関する施設使用を議題とする団交の申入れに応じないことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
2 大阪府労委は市に対する申立てを却下し、会社に対する申立てを棄却した。
3 これを不服として、組合は、大阪地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、組合の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、参加によって生じたものを含め、すべて原告の負担とする。  
判決の要旨  第4 当裁判所の判断
2 争点1(市が組合との関係で労組法7条2号の「使用者」に当たるか)について
(1)ア 一般に、使用者とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、労組法7条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、 是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることに鑑みると、雇用主以外の事業主であっても、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、 右事業主は、同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である(最高裁平成7年2月28日第三小法廷判決・民集49巻2号559頁〔朝日放送事件判決〕参照)。
イ この点、組合は、本件のような業務委託関係が問題となる事案には、上記アの規範は妥当しない旨主張する。
  しかしながら、労組法7条は、団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除・是正することにより正常な労使関係を回復することを目的としていること、救済命令において使用者とされた者が同命令に違反した場合には刑罰の対象ともなること(労組法28条)からすれば、同条において不当労働行為を禁じられる「使用者」とは、労働者との関係で実質的にも労使関係にあるとみ得る者であることを要すると解すべきであり、このことは、使用者性が問題とされる者と労働者との間の形式的な法律関係のいかんを問わず妥当するものと解するのが相当である。したがって、組合の上記主張は、独自の見解を述べるものであって、採用することができない。
(2) 以上の点を踏まえて、市が労組法7条の「使用者」に該当するか否かについて検討する。
ア 本件掲示板の設置及び撤去等への関与について
(ア) 確かに、上記認定事実記載のとおり、組合掲示板の設置については、委託業務に関連しない目的での施設使用として、あらかじめ交通局の許諾を得る必要があり(上記1(2)イ)、交通局による本件不更新により、結果として、会社が本件掲示板設置スペースを組合に継続使用させることができなくなったものと認められる。
(イ) しかしながら、そもそも、本件掲示板は、会社が、組合との労使協議に基づき、便宜供与の一環としてその使用を許可したものであり、掲示板設置スペースを貸与するか否か、貸与する場合の条件等は専ら会社の判断によるものであって、これらの点について市は、一切関与していない(上記1(5)イ)。
  また、市は、会社からの施設使用許可申請を前提に、行政財産について、施設管理権の行使の観点からその許諾を判断したにすぎない。この点、組合は、市が不当労働行為意思をもって本件不更新を行ったことは明らかである旨主張するが、そのような事実を認めるに足りる的確な証拠は認められない。
  さらに、上記認定事実記載のとおり、一般乗合旅客自動車運送事業の管理の受委託にかかる営業所の管理業務等に関する覚書において、会社における労務管理については、会社の責任において行うものと規定されており(上記1(4)ア)、実際に、市は、組合掲示板だけでなく、組合事務所の設置、チエックオフ等に関する便宜供与について一切関与していない(組合が市に対して協議を申し入れた事実も認められない。)。
(ウ) なお、組合は、市から複数の職員が会社へ派遣され、本件団体交渉においても、会社側担当者4名のうち3名が市からの派遣職員であったことを問題視するが、かかる事実があったとしても、上記(イ)及び下記イ(イ)で認定説示した点を併せ鑑みれば、本件掲示板の設置や撤去等について、市が実質的に関与・決定しているということはできない。
イ 会社の労働者の労働条件等への関与について
(ア) 前記前提事実及び上記認定事実によれば、①会社は、市が出資比率100パーセントを占める市の監理団体であり、会社の代表者は交通局出身者が務め、複数の交通局職員が派遣されていること(前提事実(1)ア、上記1(1)イウ)、②市は、会社の事業計画や執行状況等を把握し、経営、組織、人事、給与等に関して指導・調整等の管理業務を行い、定款等の変更、組織、人事、給与に関する基本的制度等の管理業務の処理についても、調整会議を通じて関与していること(上記1(1)ウ)、③市の売上の98パーセント以上を市からの委託料が占めること(上記1(1)ア)、以上の点が認められ、これらの点によれば、市が会社の労働者の労働条件等について一定の影響を及ぼし得る地位にあることがうかがえる。
(イ) しかしながら、①市は、会社の職員の労務管理には関与しておらず、給与等の労働条件も会社の責任において決定すべきものであるとされていること、②実際に、市が給与や勤務時間などといった会社の職員の労働条件の決定や同職員の労務管理には関与しておらず、また、給与や勤務時間等の労働条件に関して、組合と協議を行ったことはなかったこと、さらには、③市が会社に対して労務管理に関する改善勧告をおこなったこともないことをも併せ鑑みれば、会社の労働者の労働条件等については、独立の経営主体たる会社が、その判断で決定しているものと認められる。
(ウ) なお、組合は、市と会社との関係等を踏まえ、市は、会社の労使関係を注視し、会社内で公正な労使関係秩序を構築・維持すべき義務を負っていた旨主張する。しかしながら、市バス運行業務委託契約においては、会社が、委託業務の遂行に必要な人員の確保及びその労務管理につき、受託者としてその責任において行うこととされていたものと認めるのが相当であり、市の有する権限は、飽くまでも、会社がその労務管理を主体的に決定することを前提に、公金を原資として設立された会社に対する出資者としての立場から、その設立趣旨・目的に外れるような事態が生じないようにするための指導・調整を可能とするにすぎないもの、あるいは、市バス業務の委託者としての立場から、労務管理に起因して委託業務の円滑な遂行に問題が生じるような場合に、その改善の勧告を可能とするにすぎないものであると解するのが相当である。そして、これらの点に上記(イ)で認定説示した点をも併せ鑑みれば、市が、指導、調整等の監理業務を超え、会社内で公正な労使関係秩序を構築・維持すべき義務まで負っていると解することはできない。したがって、組合の同主張は理由がないといわざるを得ない。
ウ 会社の業務関係への関与について
(ア) 上記1(1)ア、同(3)記載のとおり、市の市バス事業の約4割が会社に委託され、①市バス運行業務が、交通局の定める諸規定や運行計画等に準じて行われ、提供されるサービス内容や水準についても交通局が定めていたこと、②相互連絡体制の整備が規定されていること、③実際に交通局が会社に対して改善計画書の策定、提出を求めたことがあることなどの事情に照らせば、市による会社の業務への一定程度の関与が認められる。
(イ) しかしながら、上記のうち①②は、委託の対象となる市バス業務の内容を、委託者である市が決定しているということであり、③も、委託された市バス運行業務が安全かつ円滑に遂行されることを目的とするものであって、市が会社の職員に対し、直接、指示や指導をするものではなく、具体的な施策や人員配置等については、会社において自主的に決定していたことは、先に認定説示したとおりである。
(ウ) これらによれば、市の市バス事業の約4割が会社に委託されていたとしても、市の関与は限定的なものといえる。
(3)ア 以上検討したところによれば、市による本件不更新により、結果として、組合が本件掲示板を使用することが事実上不可能となったと認められるものの、それは、市が行政財産の目的外使用を認めなかったことに付随するものにすぎないこと、市は、会社からの施設使用許可申請に基づき、掲示板設置スペースの使用を許可しただけで、組合掲示板を含めた便宜供与について、組合と協議を行ってきたような事情も認められないこと、これらの事情に鑑みれば、本件掲示板の設置を含む会社から組合への便宜供与について、市が現実的かつ具体的に支配、決定していたとは認め難い。
  そして、労働条件等の決定や業務関係などについてみても、市は、会社の人事や経営、職員の給与等の基本的な労働条件等について、一定の影響を及ぼし得る地位にあったことは認められるものの、その態様及び程度をみると、出資者あるいは業務委託者としての指導・調整の域を超えるものとはいい難く、また、市バス運行管理業務への関与も、市の責任によって行われる市バス事業が円滑、安全に行われるための指導・連絡等にとどまるものである。
  そうすると、組合主張の各事情を踏まえても、市が、本件当時、直接に雇用関係のない会社の労働者の基本的な労働条件等につき、業務委託者としての地位を超えて、雇用契約の当事者である会社がその労働者の基本的な労働条件等を直接支配決定するのと同視し得る程度に、現実的かつ具体的に支配や決定できる地位にあったとみることはできない。
イ よって、市は、組合との関係で、労組法7条の「使用者」に当たるということはできない。
(4) したがって、市に対する申立てを却下した本件命令は正当である。
3 争点3(会社の交渉態度等が労組法7条2、3号の不当労働行為に当たるか)について
(1)ア 会社が本件掲示板の撤去を求めたことが支配介入に該当するか否かについて
  会社が本件掲示板の撤去を求めた理由は、交通局から使用許可期間(平成24年3月31日)満了後の施設利用許可を更新しない旨の本件不更新の通知を受けたことにあるところ(前提事実(3)エ)、本件各営業所施設を組合掲示板の設置スペースとして使用することは、本件市バス運行業務委託契約の目的外使用に当たり、会社において使用権限を有するものでなく、交通局によるあらかじめの許諾が必要であること(上記1(2)イ)、交通局から平成24年4月1日以降の掲示板の設置スペースの使用を認めない旨の本件不更新の通知がなされていたこと(上記1(6)イ)などといった事情に照らせば、会社が本件掲示板設置スペースの使用許可を得て、組合に同スペースを貸与することは事実上不可能であったといえる。
  かかる状況下において、会社が本件掲示板の撤去を求めることには合理的な理由が認められ、組合に対する支配介入に該当するとはいえない。したがって、この点に関する組合の主張には理由がない。
イ 会社が、市(交通局)に許可申請を行わなかったことが支配介入に該当するか否かについて
(ア) 会社は、組合から平成24年3月9日付けで本件掲示板スペースの使用許可申請がなされたにもかかわらず、交通局に対して施設使用許可申請を行っていない(上記1(6)エ)。
  そして、会社が本件掲示板の設置を許可するためには、交通局の施設利用許可が必要であるところ、許可申請を行わないことは、組合掲示板の設置という便宜供与の実質的な中止といえる。
(イ) しかしながら、上記ア記載のとおり、交通局からの本件不更新により、会社が交通局から本件掲示板設置スペースの使用許可を得ることが不可能であることは明らかとなっており、そのことは、本件団体交渉を通じて組合も把握していたはずであって、そのような状況下において、会社が交通局に対して施設利用許可申請を行わなかったことが直ちに不当労働行為(支配介入)になると解することはできない。したがって、この点に関する組合の主張は理由がない。
(2) 本件団体交渉における対応が不当労働行為に該当するか否かについて
ア 上記1(6)ウのとおり、会社は、本件団体交渉等において、組合の求めに応じて本件不更新通知がなされた状況や組合におけるルール違反の有無、本件各営業所の契約状況、今後の本件掲示板を撤去しなかった場合の措置などについて返答しており、一定の説明をしていたことが認められ、会社の対応が形式的なものであったとはいえない。
  また、代替措置について具体的な協議がなされた事実はうかがえないものの、これは、組合が本件掲示板の撤去を拒否することを前提に協議に臨んでいたことによるものと解され、代替措置の検討がなされていないことのみをもって、会社の対応が形式的であったと解することはできない。
イ 以上によれば、本件団体交渉における会社の対応が不当労働行為に当たるとする組合の主張は理由がない。
(3) なお、組合は、市の不当労働行為意思を忖度して、本件掲示板の撒去を通知したもので、市とともに不当労働行為を完遂する目的を有していた旨主張するが、本件全証拠を精査しても、同事実を認めるに足りる的確な証拠は認められない。
(4) 以上のほか、会社の交渉態度等が組合に対する不当労働行為であると認めるに足りる的確な事情は見出せない。
  したがって、会社に対する申立てを棄却した本件命令は正当である。  
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成24年(不)第14号 棄却 平成25年8月20日
大阪高裁平成28年(行コ)第66号 棄却 平成28年7月21日
 
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