労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る]  [顛末情報]
概要情報
事件名  ソクハイ 
事件番号  東京地裁平成26年(行ウ)第165号  
原告  株式会社ソクハイ(「会社」) 
被告  東京都(処分行政庁・東京都労働委員会) 
被告補助参加人  連合ユニオン東京ソクハイユニオン(「組合」) 
判決年月日  平成27年9月28日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 ①団交における会社の対応、及び会社が②メッセンジャー(自転車による即配便業務に従事する会社の配送員)として就労していた組合員A1に対し、業務委託契約を解除したこと、③同じくメッセンジャーとして就労していた組合員A2及び同A3との業務委託契約を不更新としたこと、④営業所に防犯監視カメラを設置したことが不当労働行為に当たるか否かが争われた事案である。
2 東京都労委は会社に対し、1 団交への誠実な対応、2 上記②の業務委託契約に係る解約予告通知をなかったものとして取り扱うこと等、3 文書の交付・掲示、4 履行報告を命じ、その余の申立てを棄却した。
3 会社は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、会社の訴えを棄却した。  
判決主文  1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、 補助参加によって生じた費用も含め、 原告の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
1 会社の本件各団体交渉における言動が不誠実な団体交渉に当たるかについて
(1) 上記争いのない事実等(第2の1)に記載した各事実に加え、 当事者間に争いのない事実、 証拠及び弁論の全趣旨によれば、 以下の各事実が認められる。 この認定に反する証拠は、その限度で採用できない。
(2) 本件各団体交渉においては、 特定のメッセンジャーとの間の契約の解除又は契約期間満了後の雇止めについて協議事項とされていたものというべきところ、 かかる個別人事に係る事項も、 特段の事情のない限り、 使用者が団体交渉の事項として取り上げるべき義務を負う事項(いわゆる義務的団交事項)に当たるところ、 上記特段の事情を基礎づける主張・証拠は見当たらない。
 そうすると、 会社は、 本件各団体交渉で協議事項とされていた特定のメッセンジャーとの契約の解除又は契約期間満了後の雇止めについても、 誠実に交渉に当たるべき義務を負っていたものというべきである。
(3)ア(ア) しかるに、 本件団体交渉1においては、 組合側が会社と平成22年2月解約対象者との間の各契約の解約の理由や会社が上記解約を行う際の基準を数次にわたって問い、 かつ、 勤務態度、 出勤率といった具体的な事由を示して上記解約の個別的な理由を繰り返し質問していたにもかかわらず、 会社側は、 会社がメッセンジャーを削減しようとする一般的な理由及び必要性については説明したものの、 平成22年2月解約対象者との各契約を解約することとした理由については、 総合的に判断したなどの説明に終始するのみならず、 そもそも平成22年2月解約対象者に対して解約の理由自体を明らかにしておらず、 かつ、 その意思もなく、 ひいては、 組合にその理由を明らかにする必要性はないと考えていたものというべきである。 かかる会社の対応は、 上述の労働組合の納得を得るために具体的な論拠を示した上で合理的と考えられる説明を行うこと自体を拒否するものというべきであって、 誠実に交渉に当たるべき義務の履行としては不十分なものといわざるを得ない。
(イ) この点、 会社は、 平成22年2月解約対象者が組合の組合員であることが会社に示されておらず、 そのような中で会社が解約の理由を説明するのはプライバシーの面からも問題がある旨を主張する。
 しかし 会社は、 平成22年2月5日付けの解約予告通知書によって平成22年2月解約対象者に自ら通知を行い、 平成22年2月解約対象者から全員の氏名が記載された同月20日付けの通知書を受領した上で本件団体交渉1に臨んだこと、 B1取締役は、 本件団体交渉1において、 会社が上記各通知をした者について「この三名」と自ら特定し、 さらには、 A1から平成22年2月解約対象者は全部で4人という認識でいいかと問われた際には、 平成22年2月解約対象者は全部で4人である旨を回答したことが認められる。 これらの事実に照らせば、 会社において、 本件団体交渉1で協議された契約の解約が問題とされた4人については、 本件団体交渉1の時点で特定できていたものというべきである。
 また、 本件団体交渉1の当時、 平成22年2月解約対象者が組合の組合員ではないことをうかがわせるような事情が存在したことを認めるに足りる証拠も見当たらない。
 このような状況の下では、 会社の主張するような上記プライバシーの要請を考慮したとしても、 会社が平成22年2月解約対象者に係る各解約において考慮した要素等を必要に応じて抽象化した上で説明することは可能であったものというべきであるし、 また、 上記(2)における検討をも勘案すれば、 会社は本件団体交渉1においてそのような説明をすべきであったものというべきである。
イ 本件団体交渉2においても、 本件団体交渉1におけると同様に、 組合側が本件解除予告通知の理由や会社が本件解除予告通知を行う際に参照した基準を問いただし、 かつ、 稼働時間、 稼働日数を具体的に示して本件解除予告通知の理由にしているかを再三にわたって質問していたにもかかわらず、 会社側は、 会社がメッセンジャーを削減しようとする-般的な理由及び必要性については説明したものの、 A1を上記削減の対象として本件契約を解除することとした理由については、 稼働が少ないメッセンジャーから順次声をかけているなどと説明するのみであったというのである。 そして、 稼働が少ないことを上記人選の理由の一つとしたことを説明した点についても、 本件団体交渉2において、 B5部長は、 本件解除予告通知の理由として、 A1の稼働の少なさを指摘してはいるものの、 他方、 A1又はA3が、 本件解除予告通知の理由はA1がメッセンジャーの中で一番稼働が少なかったことが理由ではないかと確認したところ、 B5部長は、 A1について何かが一番駄目だったということではないかもしれないが会社の方で判断した旨、 A1が一番かどうかというのも答える必要はないと思っている旨を回答するにとどまり、 また、 A2が、 A1以外のメッセンジャーの中には、 A1と同時期に休んでいた者や、 組合側が恒常的に稼働時間が少ないと認識している者がいるなどの事情がある中で、 他のメッセンジャーについては契約の解除がされないにもかかわらずなぜA1だけが契約を解除されるのか疑問である旨を述べたのに対し、 B5部長は、 A1一人だけではなく今後も削減を随時考えていく旨を回答するにとどまっている。 また、 一件記録に照らしても、 会社が本件団体交渉2において、 A1の具体的な稼働日数等のデータを示したり、 A1の稼働日数と他のメッセンジャーの稼働日数を比較したりするなどして、 上述の稼働の少なさが解除の理由として合理性があることについて説明を加えたことを認めるに足りる証拠も見当たらない。 このような回答内容では、 当該回答を聞く者に、 会社の指摘する稼働の少なさが本件解除にとってどの程度の重要性を持っているのかが明らかにはならず、 ひいては、 会社が真に上述の稼働の少なさを理由として本件解除を行ったのか疑義が残るものというべきであり、 実際に、 会社側は、 解除するかどうかは会社の方針で決める、 本件解除予告通知の具体的な理由を答える必要はないと考えているなどと述べているのである。
 以上判断したところによれば、 かかる会社の対応は、 労働組合の納得を得るために一般人の見地から合理的と考えられる説明を具体的な論拠を示して行うこと自体を拒否するものというべきであって、 誠実に交渉に当たるべき義務の履行としては不十分なものといわざるを得ない。
ウ さらに、 本件団体交渉3においては、 会社が、 A3との間の業務委託契約が期間の満了によって終了した後に再契約をせず、 もってA3に関して雇止めを行ったことについて、 組合側が上記雇止めを行った理由を繰り返し尋ねたにもかかわらず、 会社側は、 総合的に判断したなどと説明するのみで、 その具体的な考慮要素等については全く説明をしていないとの事実が認められる。 かえって、 B1取締役は、 会社側にはA3と契約をする意思がないのであり、 この点について会社とA3とが協議をしても解決することはない旨を述べたというのである。 かかるB1取締役の発言からは、 会社に組合側の納得を得るために努力をする意思のないことがうかがわれるものというべきである。
 以上判断したところによれば、 上述のような会社の対応は、 労働組合の納得を得るために具体的な論拠を示して合理的と考えられる説明を行うこと自体を拒否するものというべきであって、 誠実に交渉に当たるべき義務の履行としては不十分なものといわざるを得ない。
(4) 以上によれば、 会社は、 本件各団体交渉において、 会社が負う誠実に交渉に当たる義務を履行したとはいえない。 したがって、 会社の本件各団体交渉における対応は、 労組法7条2号の団体交渉の拒否に該当するものというべきである。
2 本件解除が不当労働行為に当たるかについて
(3)ア A1は、 平成15年1月30日に会社との間で運送請負契約を締結して本件業務に従事しており、 平成22年8月10日には会社の方針に基づいて上記運送請負契約に代えて契約期間を同年9月1日から平成23年8月31日までの1年間とする業務委託契約(本件契約)を締結しているところ、 会社は、 A1に対して本件契約の締結から約2か月後である平成22年10月4日頃に本件解除予告通知をして同年11月5日付けでこれを解除しており(本件解除)、 同日付けで会社が契約を解除したメッセンジャーは他にいなかったことが認められる。
 これらの事実に照らせば、 会社は、 他のメッセンジャーとは区別し、 殊更にA1との本件契約を打ち切ろうとしたものというべきである。
イ(ア) そして、 上記争いのない事実等に記載したとおり、 A1は平成19年1月20日の組合の結成時から組合に加入し、 平成21年9月には組合の副執行委員長に就任し、 以後、 本件解除の時まで上記副執行委員長を務め、 本件団体交渉1にも出席していたというのである。
 また、 証拠によれば、 A1、 A2及びA3は、 会社に対し、 本件団体交渉1において、 会社の配車の方法についての意見を述べ、 あわせて、 組合として会社との間で配車の関係でのミーティングを持ちたい旨を述べたこと、 この中で、 A1は、 会社の配車係がメッセンジャーに対する連絡方法に係るルールを守らなくなりつつあることから、 メッセンジャーが顧客又は配車係との間で困難を感じることがある旨を述べたこと、 本件団体交渉1の後にも、 会社の配車係に営業時間中に数次にわたって電話をかけ、 荷物の大きさの連絡や料金の確定に関する不手際や配車の順番等について苦情ともとれるような内容の質問等をすることがあったこと、 所属する会社の営業所の所長から営業時間中にこうした電話をするのは好ましくない旨の指導を受けたことがあること、 上記指導の後にも同様の電話をすることがあったことが認められる。
(イ) 他方、 証拠によれば、 B1取締役は、 本件団体交渉1において、 数名のメッセンジャーが夕方から夜に電話をかけてきて会社の配車係に半分言い掛かりと思われるような文句を言う旨、 組合側が会社の配車について評価を述べても構わないが、 会社がメッセンジャーに依頼する仕事は会社が受託した仕事であり、 これをメッセンジャーにどのように依頼するかについては飽くまでも会社が裁量を持っている旨、 会社が仕事を受託するのに苦労する中で、 メッセンジャーが会社に提出する日報において上記仕事について文句を述べるのを見て、 よくこれだけ文句を言えると感心する旨を発言した事実が認められる。
(ウ) さらに、 証拠によれば、 B1取締役は、 本件団体交渉1において、 メッセンジャーは少ない報酬の中から組合に係る組合費を捻出しているところ、 組合では集められた上記組合費が適正に運用されず、 なくなってしまったなどといった話を聞いたことがある旨、 最初に組合の先頭に立っていた人はきれい事を言って組合費を集めつつ結局集めたお金でぬるま湯につかっていた旨を発言した事実が認められる。
(エ) 上記(イ)、 (ウ)において認定した各事実に照らせば、 会社は、 組合について嫌悪感を有し、 かつ、 組合が会社による配車の方法等について意見を述べることについても嫌悪感を有していたものというべきである。 そして、 会社は、 上記(ア)において認定した、 A1が組合の副執行委員長として本件団体交渉1に出席して会社の配車の方法に関して改善すべき点として意見を述べ、 また、 本件団体交渉1の後にも組合の方針に沿って配車係に電話をして意見を述べたことについても、 嫌悪感を有していたものと推認することができる。
ウ 加えて、 上記争いのない事実等に記載した各事実に加え証拠及び弁論の全趣旨によれば、 A1は、 会社に対し、 本件解除予告通知がされた後である平成22年10月8日、 会社に面談を実施するよう求め、 また、 同月12日、 本件解除予告通知の理由を書面で尋ねたが、 会社は、 A1に対し、 今回に関しては面談をする気は一切ないなどと回答し、 また、 上記理由を明らかにすることもなかったことが認められる。
 また、 会社側は、 本件団体交渉2において、 本件解除予告通知の理由については、 稼働が少ないメッセンジャーから順次声をかけているなどと説明するのみであり、 同時に、 A1について何かが一番だめだったということではないかもしれないが会社の方で判断した旨、 A1が一番かどうかというのも答える必要はないと思っている旨を回答し、 さらには、 本件解除予告通知の具体的な理由を答える必要はないと考えている旨を述べるなどしており、 本件団体交渉2においても本件解除の理由について具体的な説明を行っていない。
 かかる事実から、 会社は、 A1に対して、 本件解除を行った理由を明らかにすることを殊更に回避していたものとみるべきである。
エ 以上の認定及び検討に照らせば、 会社は、 A1が組合に所属し、 組合の方針に沿った活動をしたことを決定的な動機として、 本件解除を行ったものと推認するのが相当であり、 この認定を覆すに足りる証拠は見当たらない。
(4)ア この点に関し、 会社は、 本件解除を行った理由として、 A1の稼働実績が乏しかったことを挙げる。
 しかるに、 本件団体交渉2において、 A2が、 本件契約が解除されるのはA1が会社が定めた稼働の仕方を無視したということなのかと尋ねたところ、 会社側は、 メッセンジャーに対して何時間以上働いてほしいとのオーダーをしたことは一切ない旨、 A1の稼働スタイルに問題があると言うつもりはない旨を回答したというのである。 また、 証拠によれば、 メッセンジャーの中には、 稼働日数又は稼働時間数が限定されているにもかかわらず、 平成23年9月30日まで、 会社との契約が存続していた者も複数いたとの事実が認められる。
 以上に照らせば、 会社の上記主張によって、 上記(3)エにおける判断が左右されるものではない。
イ(ア) 会社は、 本件解除を行った理由として、 A1が業務時間中に会社の配車係に連絡して苦情を述べる、 会社からの連絡事項に対しても「そんなの、 やってらんないよ」といった発言を公然とするなど、 本件業務に対する理解の欠如や非協力的姿勢が見られるといった問題があったことを挙げる。
(イ) 確かに、 A1が会社の業務時間中に会社の配車係に電話をして苦情を述べ、 所属する営業所の所長から指導を受けていることは、 上記(3)イ(ア)において認定したとおりである。
 もっとも、 荷物の大きさの連絡や料金の確定の不手際に関しては、 証拠及び弁論の全趣旨によれば、 A1は、 荷物が本件業務において取り扱うことができない大きさであった場合や、 代金が未確定であった場合について相談するために、 上記配車係に電話をかけていたこと、 上記荷物の大きさや代金の額は本来会社の配車係がメッセンジャーに連絡をする前に確認しておくべき事柄であったことが認められる。 そうすると、 A1は、 荷物の大きさや代金が問題となり必要に迫られて会社の配車係に電話をかけていたのであって、 そうした行動もやむを得ないものというべきである。
 また、 配車係が行った配車の順番等についての苦情ともとれるような内容の質問等を営業時間中に行うことの適否が一応は問題となり得るものの、 A1によるこうした電話の頻度、 具体的態様等は証拠上明らかでない。 こうした点を勘案すれば、 A1の配車係への電話があったことを理由にして、 上記(3)エにおける判断が左右されるものではないというべきである。
 なお、会社側は、 本件団体交渉1の時点で、 組合が会社の配車の方法について否定的な評価をしていたこと、 そして、 A1が配車係に電話をし、 そこで指摘した内容が組合の方針に沿ったものであることを認識していたものというべきである。
(ウ) さらに、 A1が会社からの連絡事項に対して「そんなの、 やってらんないよ」といった発言を公然としたとする点についても、 仮にかかる事実が認められたとしても、 それによって会社の業務にどの程度支障が生じたのかは必ずしも明らかではなく、 会社とメッセンジャーとの間の本件業務に係る基本契約に当たる本件契約を、 期間の中途で解除する理由・根拠として説得力のあるものとはいい難い。
(エ) 以上に照らせば、 会社の上記(ア)の主張によって、 上記(3)エにおける判断が左右されるものではないというべきである。
(5)ア 以上によれば、 会社は、 不当労働行為意思をもって本件解除を行ったものというべきである。
  そうすると、 会社は、 本件解除を行うことにより、 労組法7条1号の禁止する不利益取扱いを行ったものというべきである。
(6) また、 以上検討したところによれば、 本件解除は、 組合の副執行委員長であるA1を本件組合から排除し、 もって組合を弱体化させるものというべきである。
  したがって、 会社による本件解除は、 組合に対する支配介入(労組法7条3号本文)にも該当するものというべきである。  
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成22年不第22号・第116号、同平成23年不第98号 一部救済 平成26年3月4日
東京高裁平成27年(行コ)第354号 棄却 平成28年2月24日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約207KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。