労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  育良精機大阪工場 
事件番号  東京地裁平成25年(行ウ)666号 
原告  株式会社育良精機大阪工場(「会社」) 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被告補助参加人  なかまユニオン(「組合」) 
被告補助参加人  個人Z 
判決年月日  平成27年1月15日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社が、組合員Zに対し、プレス板金担当の他の従業員に比して、22年特別一時金、同年夏季一時金及び同年年末一時金(「本件一時金」)について、それぞれ低い額を支給したことが不当労働行為であり、グループ内別会社の株式会社育良精機製作所(「製作所社」)も「使用者」としてこれを行ったとして、組合が両社を被申立人として、救済を申し立てた事件である。
2 大阪府労委は、会社らはZに対し、本件一時金について、本件工場の製造グループに属するプレス板金を担当する従業員(一部の者を除く)の一時金平均額と既支給額との差額支払い及び文書手交を命じた。会社社らは、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、製作所社はZの労組法上の使用者に当たらないとして、製作所社に係る救済申立てを棄却し、初審命令主文を変更した。
3 会社は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、会社の請求を棄却した。  
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用を含め、原告の負担とする。  
判決の要旨  1 平成22年各一時金の支給についてZに対する不利益取扱いがあったか
(1) 不利益取扱いの有無
 平成22年各一時金の支給額において、プレス板金担当の従業員のうち、C9を除く7名の中で、Zは常に最低額であり、かつ、その余の6名に対する支給額との間の差額も小さいとはいえない。支給額が同額である者がいることや、本件工場の従業員にZよりも支給額が低額な者がいることは評価を直ちに左右しない。Zに対する平成22年各一時金の支給額をみると不利益な取扱いと認められる
(2) 一時金の支給額の査定方法について
 会社は、平成22年各一時金の支給額は公正かつ的確な査定により導き出された合理的なものであり、Zに対する支給額については、同人の業務内容の専門性が低く、時間外労働時間数も少ないこと等が根拠となって決定されたものである旨主張する。
 この点について検討すると、一時金の支給額の査定方法についてのB4工場長の供述・証言はいずれも的確な裏付けを伴っているとはいえず、B4工場長が行った査定や報告がどのようなもので、それがいかなる形で一時金の決定に反映されたかという点については具体性を欠いた内容にとどまっている。そして、供述・証言するとおり、実際に査定されていたのであれば、組合に対しても容易に説明が可能であるところ、1年以上にもわたって説明はもとより団体交渉そのものを拒否するなどの対応を継続していたことに照らせば、前記のような査定が行われていなかったことが強く推認されるというべきである。
(3) Zと他の従業員との勤務の同等性について
ア 会社は、労組法7条1号の不利益取扱いの要件充足性を判断するに当たり、不利益な取扱いを受けたと主張する組合員と組合員以外の者とを比較する場合は、両者が能力や勤務成績等において同等であることが必須の前提となり、この点について中労委に立証責任がある旨主張する。そしてZと〔比較対象とした〕3名との間には能力や勤務成績等が同等とはいえない旨主張する。
イ しかしながら、使用者において、一時金の支給額の決定に当たり、労働者の能力や勤務成績等を基準とした公正な査定が一般的に行われている場合には、能力や勤務成績等が同等であることを前提として、初めてその額の差異について取扱いの不利益性を観念することができるのに対し、そもそもその決定に当たり、能力や勤務成績等を基準とするルールが存在しておらず、又は、そうした基準を公正に適用した査定が一般的に行われていないものと認められるような場合においては、能力や勤務成績等が同等であっても、それが基準となり一時金の支給額の決定において同等の取扱いがされることが担保されていないのであるから、能力や勤務成績等が同等であることは取扱いの不利益性を判断する上での前提となるものでないというべきである。
 会社において、平成22年各一時金の支給額の決定に際して、能力や勤務成績等を基準とするルールが存在し、かつ、その基準を公正に適用した査定が一般的に行われていなかったものと推認できる。また、会社は、組合に対し、一時金の決定方法等について、査定上の考慮要素に言及した以上の説明があった事実はうかがえない。そうすると、能力や勤務成績等の違いを理由としてZの一時金の支給額が定められ、他の従業員よりも低い金額になったとは認め難いというほかない。
ウ なお、会社が指摘する最高裁判決及び下級審判決(前記第3(争点及び当事者の主張の要旨)の(会社の主張)1(1)イ(ア))は、組合員に対する不利益取扱いを認定する場合につき、具体的な事案を離れた一般論として、組合員と比較対象である組合員以外の者の能力及び勤務成績等における同等性を中労委が立証しなければならないことまで判示したと解することはできず、一時金の支給額の決定に当たり、労働者の能力及び勤務成績等を反映した公正な査定が行われているとは認められない本件事案にはそのまま当てはまらないというべきである。
エ 会社は、ほとんどの企業では、従業員個々人について能力や勤務成績等を評価し、その結果に基づき処遇を決定しているという経験則があるから、能力や勤務成績等に応じて人事評価を行っているといえるかどうかが不明な場合であっても、そうした人事評価を行っていない場合と同列に扱うことはできないとも主張する。
 しかしながら、前記(2)において判断したところによれば、平成22年各一時金の査定にあっては、会社が主張するような人事評価が行われているか否かが真偽不明であるというにとどまらず、そうした人事評価が行われていないことが積極的に推認できるというべきであるから、この点に関する会社の主張は理由がない。
(4) 小括
 以上によれば、Zに対する平成22年各一時金の支給は不利益取扱いに当たり、そうした取扱いをする合理的根拠も見当たらないというべきである。
2 会社の不当労働行為意思の有無
(1) 不当労働行為意思の有無について
ア 組合が分会に改組した後の平成22年各一時金が支給された平成22年12月までの間、10回にわたり、一時金の支給額の格差解消等を要求事項とする団体交渉の申入れがあったにもかかわらず、会社は団体交渉に応じなかった。
イ また、会社が従業員に対し実施した本件アンケートの質問項目には、「組合活動をするZ氏を…どのように(どのような存在と)見ていますか(どのように考えていますか)?」等の質問が含まれている。
ウ 前記ア、イの事情に照らせば、会社において、平成22年各一時金の支給時に、組合嫌悪の意思を有していたことが推認できるというべきである。
(2) 会社の主張について
ア 会社が参加人ユニオンの申入れに係る団体交渉に応じなかった理由について
 会社が理由とする、①救済命令に従って算出した結果、是正額が生じないこと、②不当労働行為救済命令申立手続が係属・進行中であること、③救済命令の履行は団体交渉において協議すべき性質のものではないし、平成22年各一時金に関する組合の見解に合理的根拠がなく、賃金データ等の開示が個々人のプライバシー保護の観点から回避されるべきものと判断した等の事情は、団体交渉を拒否することを正当化するものとはいえない。度重なる団体交渉拒否の事実をもって組合嫌悪の意思を推認することには、十分な合理性があるというべきである。
イ 本件アンケートについて
 会社は、本件アンケートは、本件初審命令に係る不当労働行為救済命令申立てを受けて、同申立てに係る手続における会社の防御のために行ったものである旨を主張する。しかしながら、会社は、同手続において、Zに対する平成22年各一時金の支給額が不利益取扱いに当たるといえないこと及びそれがZが組合員であること等を理由とした不利益取扱いとはいえないことについて主張・立証することを要するものの、 Zが組合活動を行っていることや「時間外労働をせず協力しない」ことについて、他の従業員の意見・感想を聴取する必要性は乏しいものである上、誘導的な質問項目であることは否定できず、会社においてZに対する消極的評価を記載した回答を期待する意図を有していたことを強く推認させるものというべきであって、これをもって組合嫌悪の意思を推認することには合理性がある。この点は、たとえアンケートの実施対象が限定されており、任意の回答を求めるという方法によったとしても変わりはない。したがって、この点に関する会社の主張も理由がない。
(3) 小括
 以上によれば、会社において、平成22年各一時金の支給時に、組合嫌悪の意思を有していたものと認められ、これを覆すだけの事情は見当たらないというべきである。
3 まとめ
 前記1及び2で判断したとおり、Zに対する平成22年各一時金の支給は不利益取扱いに当たり、会社において当時組合嫌悪の意思を有していたところ、Zが組合員であり、組合活動を行っていたこと以外に上記不利益取扱いの理由を見いだすことはできない。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成23年(不)第22-1号 全部救済 平成24年7月24日
中労委平成24年(不再)第38号 一部変更 平成25年9月4日
 
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