労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  鴻池運輸 
事件番号  福岡地裁平成24年(行ウ)23号・同25年(行ウ)34号 
第一事件及び第二事件原告  福岡地区合同労働組合(「組合」) 
第一事件被告及び第二事件被告  福岡県(処分行政庁・福岡県労働委員会) 
第一事件及び第二事件被告補助参加人  鴻池運輸株式会社(「会社」) 
判決年月日  平成26年7月16日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件の第一事件は、会社が、①組合員A1に対し、雇用契約期間満了通知を発し、契約を更新しなかったこと、②組合との事前協議約款締結の約束を反故にしたこと、③団体交渉において、短時間で退席したこと、④組合に対し、団交ルール設定に関する交渉は改めて行うつもりはありませんと回答し、団交ルール設定についての協議に応じなかったこと、⑤営業所長C1を団体交渉に出席させなかったこと、及び⑥団体交渉において、組合の質問に対し、「答えたくない。」等と言って不誠実に対応したことが、不当労働行為に当たるとして、申立があった事件である。福岡県労委は、上記③、④及び⑥の申立てを認容し、その余の申立てを棄却ないし却下した。組合は、これを不服として福岡地裁に行政訴訟を提起した。
2 また、本件の第二事件は、会社が、申し入れのあった団体交渉に関し、⑦団交ルールの設定については、中央労働委員会の再審査命令を待って対応する、⑧A1の雇用期間満了は撤回しない、⑨雇用契約不更新についての他の事例との比較については、個人との個別労働契約に関わるものであるため開示しない、と回答したことが、不当労働行為に当たるとして、申立てのあった事件である。福岡県労委は、組合の申立てを棄却した。組合は、これを不服として福岡地裁に行政訴訟を提起した。  
判決主文  1 原告の訴えのうち、処分行政庁に対する命令の義務付けを求める部分をいずれも却下する。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、原告の負担とする。  
判決の要旨  (1) 本件雇止めの不当労働行為該当性について
ア 会社は、社内機密漏えい事件を機に、情報の適正な管理を行うこととして情報セキュリティ管理規程において一般的な法令遵守及び機密情報の保持等を誓約することを内容とする本件誓約書への署名提出を義務付け、これに基づいてA1を含む従業員らに対して本件誓約書の提出を要請したのであって、会社には、情報の適正管理を徹底しなければならない具体的必要性があったといえる。また、労働者と使用者は互いに信義に従い義務を履行しなければならず(労働契約法3条4項)、この信義誠実義務には本件誓約書が対象とする営業秘密等の保持義務が含まれると解される。したがって、会社が本件誓約書の提出をA1を含む従業員らに要請したことには必要性があり、信義誠実義務の履行がされることを確認したに過ぎないとみられることからしても相当な行為であったといえる。
イ 会社が本件雇止めをした理由について検討するに、前記アのとおり、会社にしてみれば、本件誓約書の提出を従業員らに要請することは合理的なものであって、鳥栖流通センターにおいて勤務していたA1を除く全ての従業員は、本件誓約書を提出したものであるところ、A1は、本件誓約書の提出とは関連性のない3項目要求を持ち出し、3項目要求に対する説明がされない限り本件誓約書を提出しないなどと主張し、C1らが一定の対応をした後も、それに一切納得しようとせずに、本件誓約書の提出を拒絶し続けたのであって、こうした事実関係に鑑みれば、会社による本件雇止めの理由は、正当な理由なく本件誓約書の提出を拒絶し、会社に対して本件誓約書とは無関係な要求を繰り返すA1の態度にあったものというべきである。
ウ 第1回団交において事前協議約款が締結されたものとは認められないし、仮に本件誓約書提出留保合意の存在が認められ、かつ、組合が何らかの抗議活動を行っていたものであるとしても、会社が、基本的に組合からの団体交渉開催要求に対して応じる姿勢を見せていたことも踏まえると、会社が組合の組合活動を嫌悪していたと推認することはできないから、組合の主張は採用できない。
エ 以上より、本件雇止めは、会社の不当労働行為意思によるものであると認めることはできないから、不当労働行為に該当しない。
(2) 事前協議約款を締結する合意の有無について
ア 会社は、第1回団交に先立ち、A1の地位、賃金及び労働条件に関しては、その内容及び状況に応じて対応する旨回答し、第1回団交の冒頭においてもその旨述べていたところであり、会社側は、当初、組合との間で、事前協議約款を締結する意思はなかったといえる。
イ また、第1回団交の終了間際に組合側が会社側に文書によって提示した確認書の原案には、「口頭で示された案にはなかった「(組合の)合意を得た上で」という文言が挿入されており、文案自体が定まっていなかったことも、事前協議約款の締結が完了していなかったことをうかがわせる事情である。勤務部理事B2らは、第1回団交の場において、事前協議約款の確認書に直ちに調印することを避け、持ち帰って検討することとし、会社社内での検討の結果、組合側が求める事前協議約款の締結はできないとの結論に至った。結局、組合と会社との間で、事前協議約款に関する何らかの書面が取り交わされることはなかった。
ウ 以上の経緯からすれば、第1回団交の場において、会社側が、組合側が提示した事前協議約款の案をその場で了承したものと認めることはできず、組合と会社との間で事前協議約款を締結する旨の合意があったとはいえないから、会社の対応は、不当労働行為に該当しない。
(3) 会社がC1を団体交渉に参加させなかったことの不当労働行為該当性について
 組合との団体交渉の権限を有する担当者を誰にするかは、会社が決定すべき事項であり、C1が出席しなかったことが原因となって団体交渉に支障が生じたとも認められない。会社がC1を団体交渉に出席させなかったことが、組合に対する不誠実な対応に当たるとはいうことはできず、会社の対応は、不当労働行為に該当しない。
(4) 第1命令のうち組合のC1に対する申立てを却下した部分の適法性について
C1は、鳥栖流通センターの所長を務めていた者であって、会社の構成員にすぎず、本件労使関係について、法律上独立した権利義務の帰属主体であるとはいえないから、C1は、救済命令の名宛人とはなり得ず、C1を被申立人とする救済命令申立ては不適法であり、却下されるべきである。
(5) 第2事件回答の不当労働行為該当性について
ア 会社は、第2事件回答の回答書に、会社の提案する団体交渉の候補日を記載しており、その後も同様に、回答書を発し、組合から送付されてきた書面の内容に対する回答を示すとともに、団体交渉の候補日を記載していた会社は、組合が要求してきた事項について、組合との団体交渉を拒絶しようとしていたわけではなく、むしろ、団体交渉を開催した上で、団体交渉の場において、要求事項について、組合と議論をしようと考えていたものと推認される。
イ 会社は、一貫して、団体交渉に応じる姿勢を見せており、組合の団体交渉開催要求を拒否したわけではなかったのであるから、会社の対応が不当な団体交渉の拒否に当たるということはできない。
ウ 以上より、会社による第2事件回答は、不当労働行為に該当しない。
(6) 義務付けの訴えについて、
 行政事件訴訟法3条6項2号の義務付けの訴えは、処分行政庁の命令が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であるときに限り、提起することができるものであるところ(同法37条の3第1項2号)、第1命令及び第2命令はいずれも適法であって取り消されるべきものではなく、また、無効若しくは不存在であるともいえない。したがって、組合の訴えのうち、処分行政庁に対する命令の義務付けを求める部分は、訴訟要件を欠く不適法なものであるから、これを却下すべきである。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
福岡労委平成22年(不)第3号 一部救済 平成23年10月21日
福岡労委平成23年(不)第14号 棄却 平成24年10月26日
 
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