労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東日本旅客鉄道(千葉動労) 
事件番号  東京地裁平成23年(行ウ)第530号 
原告  東日本旅客鉄道労働組合(「組合」) 
原告  個人X1~X19(組合員19名)  
被告  国(処分行政庁・央労働委員会)  
被告補助会社  東日本旅客鉄道株式会社(「会社」)  
判決年月日  平成26年7月16日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 組合が、平成18年3月10日から同月18日にかけて、列車の最高速度を10km/h減速し、回復運転を行わないという争議行為(本件争議行為)を行ったのに対し、会社が、(1) 警告を発するなどしたこと、(2) 組合所属の運転士が乗務する列車へ会社の管理者等を添乗(本件添乗)させ、現認・監視などを行ったこと、(3) 組合員らに対し、本件争議行為実施後、事情聴取(本件事情聴取)を行ったこと、(4) 組合員らに対し、戒告、訓告、厳重注意の処分(本件処分)や、これに伴う定期昇給の一部カット、夏季手当の減額を行ったことが不当労働行為に当たるとして、救済申立てのあった事件である。
2 千葉県労委は、上記のいずれも不当労働行為に当たらないとして組合の救済申立てを棄却し、中労委も組合らの再審査申し立てを棄却した。
3 これを不服として、組合らが東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、組合らの請求を棄却した。  
判決主文  1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、参加によって生じた費用を含め、原告らの負担とする。  
判決の要旨  1 争点(1)本件争議行為の具体的態様及びこれによる列車の遅延発生の有無・程度等)について
(1) 本件争議行為の具体的態様について
 本件争議行為については、 具体的方法として、減速行為と回復運転をしないという不作為とが一体のものとして指示されるとともに、その実施区間が会社千葉支社管内の全線区である旨が示されていたのであるから、本件争議行為の実施区間自体について、当然に、一定の線区のうち通常時において最高速度による運転ないしこれから時速10キロメートル未満の減速運転をしている区間という最高速度から時速10キロメートルの減速走行を行い得る特定の一部区間に限定される旨の組合らの主張は.その内容自体において不自然であるといわざるを得ず、これを裏付けるべき客観証拠が存在するものともいえない。X8ら11名が実施した本件争議行為による列車の遅延の有無・程度については、遅延発生を認めた上記「遅延現認区間」欄記載の各区間において、減速行為と回復運転をしないという不作為が取り混ぜられながら実施されたものと認定するのが、本件争議行為の実態に即し、相当と認められる。また、X9が、「遅延現認区間」欄記載の蘇我・木更津間において、本件争議行為を行ったものと認めるのが相当である。
(2)  本件争議行為による列車の遅延発生の有無・程度等について
本件争議行為の実施期間中に発生した遅延時分一覧表記載の1分から4分15秒までの間の列車の遅延は、いずれも乗客の乗降や先行列車の遅延等の他の理由によるものではなく、本件争議行為によって発生したものと認めるのが相当である。
2 争点(2)(本件争議行為の正当性)について
(1) 本件争議行為は、怠業に該当するものといえるところ、怠業は、必然的に企業の業務の正常な運営を一定程度阻害するものであるにもかかわらず、それが正当な争議行為と位置付けられているのは、その本質が、労働者において労働契約上負担する労務供給義務の量的一部分を提供しないという形態によって不完全履行をするという消極的な態様の行動であり、その争議行為としての手段方法は、労働者が団結してその持つ労働力を使用者に完全には利用させないことにあり、そのような本質及び手段方法の範囲にとどまる限りにおいて、使用者の有する業務や生産手段に対する管理・支配を排除したり、業務や生産手段に対する危険を及ぼすおそれを生じさせたりしないことから、正当な争議行為と認められると考えるべきものである。そうすると、労働力の一部の不提供を内容とする争議行為であって、形態が怠業に該当し、あるいは類似する行為であっても、上記の本質及び争議行為としての手段方法を逸脱して、不法に使用者側の自由意思を抑圧したり、その業務や生産手段といった財産に対する管理・支配を阻止するようなものであったりする場合(最高裁判所昭和24年(オ)第105号昭和27年10月22日大法廷判決・民集6巻9号857頁、最高裁判所昭和27年(あ)第4798号昭和33年5月28日大法廷判決・刑集12巻8号1694頁、最高裁判所平成元年(オ)第676号平成4年10月2日第二小法廷判決・裁判集民事166号1頁参照)、あるいは、業務や生産手段という財産に対する危険を及ぼしたり、そのおそれを生じさせるものであったりする場合には、正当な争議行為とはいえず、許されないものと解するのが相当である。
(2)  本件争議行為の態様は、組合らにおいて、意図的な回復運転を伴わない減速走行を行うことによって、故意に列車運行に対する一定の遅延を発生させるというものであり、列車の安全運行を目的として法令上要請され、会社の営業権の発現としての業務遂行体制として構築されている会社の定時運行体制を、組合ら独自の判断及び行為によって混乱させる結果をもたらすものであり、そのことは会社の定時運行体制の基礎となっている会社による運転時分の管理・支配を一時的に排除し、組合らの独自の管理・支配を設けてその下に置くことによって、定時運行体制を内容とする会社の業務について、会社が保持すべきその管理・支配を失わせしめる結果を招来するものであるというべきである。そうすると、本件争議行為は、単なる労働力の一部不提供といった消極的態様にとどまらず、不法に会社の自由意思を抑圧し、その業務ないし財産に対する管理・支配を阻止する積極的態様に及ぶものとして、 正当な争議行為の範囲を逸脱するものといわざるを得ない。
3 争点(3)(本件各処分等の不利益取扱い及び支配介入該当性)について
(1) 前記2において判断したとおり、本件争議行為は労働組合の正当な行為とはいえないから、本件争議行為を理由とする組合員19名に対する本件各処分等は、労働組合の正当な行為を理由とする不利益取扱い(労組法7条1号)には該当しない。
(2) また、本件各処分等は、根拠や不利益の程度において相当性を有するものと認められ、会社において、殊更組合の組合員を委縮させることにより、 組合の弱体化を企図したなどの事情はうかがわれないから、組合の運営に対する支配介入(労組法7条3号)には該当しない。
4 争点(4)(本件警告等の支配介入該当性)について
(1) 前記2において判断したとおり、本件争議行為は正当な争議行為とはいえないところ、これに対する会社の本件警告等は、以下の理由から、いずれも組合の運営に対する支配介入(労組法7条3号)には該当しない。
(2) 組合らは、会社の組合に対する従前からの敵対的態度等、諸々の理由を挙げて、本件警告等が、組合の活動妨害や弱体化を企図した行為である旨を主張するが、本件争議行為の違法性の内容・程度、本件警告等の目的、態様等に照らす限り、本件警告等が、組合自体への嫌悪等を動機としてなされたものであるなどと解することはできず、組合らの上記主張は失当である。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
千葉県労委平成18年(不)第1号 棄却 平成21年6月26日
中労委平成21年(不再)第22号 棄却 平成23年4月20日
東京高裁平成26年(行コ)第302号 棄却 平成27年4月14日
 
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