労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  阪急トラベルサポート 
事件番号  東京地裁平成23年(行ウ)第766号、同平成24年(行ウ)第284号 
第1事件原告兼第2事件参加人  株式会社阪急トラベルサポート 
第2事件原告兼第1事件参加人  全国一般労働組合全国協議会東京東部労働組合
全国一般労働組合全国協議会東京東部労働組合HTS支部
X 
被告  国 
判決年月日  平成25年3月27日 
判決区分  棄却・却下 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 組合、組合HTS支部及びX(以上三者を併せ、組合ら)は、会社が、平成21年3月18日付けで登録型派遣添乗員であるXに対するアサイン(会社が登録型派遣添乗員に雇用契約の申込みをすること) を停止したこと (本件アサイン停止)が労組法7条1号及び3号に当たり、組合らが求める関係者の同席の下での団体交渉を拒否したことが同条2号に当たるとして、①本件アサイン停止がなかったものとしての取扱い(X1の添乗業務への復帰、添乗業務復帰までの間に受けるはずであった賃金相当額の支払)、②A週刊誌の出版会社代表者を同席させる団交の応諾、③謝罪文の交付及び掲示の救済を申し立てた。
 なお、本件アサイン停止は、XがA週刊誌の取材(本件取材)に応じたところ、同誌に取材記事(本件記事)が掲載され、同記事は組合のブログにも紹介された(本件ブログ記事)が、会社は、これら記事の内容が事実に反し、会社の名誉を毀損し会社の業務を妨害するものであるとして、Xに対し事情聴取(本件事情聴取)を実施し、本件ブログ記事の削除、A週刊誌及び組合ブログに訂正記事の掲載を求めるように要求したが、Xが当該会社の要求を拒否したことにより行われたものであった。また、本件記事とは、「24時間体制で働いても、日当は新人で一日9000円ほど。15年以上のキャリアを積んで一日約1万6000円で、それ以上はビタ一文も出ない。雇用保険にも社会保険にも入れてもらえない。」と記載されたもの(本件日当等記事)、及び「添乗員になって数年経った頃、仲のよかった同僚が、仕事が原因で体調を壊し、立て続けに3人亡くなった。いずれも30代と40代の働き盛り。なのに、会社からは何の保障もなく、謝罪すらなかったという。」と記載されたもの(本件死亡記事)、である。
2 初審東京都労委は、本件アサイン停止が労組法7条1号及び3号に当たるとした上で、会社に対し、①Xの添乗業務への復帰、②同人の本件アサイン停止から添乗業務復帰までの間の賃金相当額の支払、③再発防止等を約束する文書の交付を命じ、その余の救済申立てを棄却した。会社は、本件初審命令の救済命令を不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、本件アサイン停止は不利益取扱いには当たらないが支配介入に当たると判断し、本件初審命令①の救済命令の内容を変更し、①会社が本件アサイン停止を解除し、Xを会社の登録派遣添乗員として取り扱い、②賃金相当額(1か月12日稼働、日当額を1万8300円として算出)1年間分の支払を命じた。
3 会社は国(中労委)に対し、本件アサイン停止は労組法7条3号に該当しないし、本件中労委命令の救済方法も過重であるとして、同命令の取消しを求め(第一事件)、組合らは国に対し、本件アサイン停止については労組法7条1号も成立するし、本件中労委命令の救済方法も不十分であるとして、同命令の取消しを求めるとともに、本件再審査申立ての棄却の義務付けを求めた(第二事件)。
4 東京地裁は、会社の請求については、棄却し、組合らの請求については、上記義務付けを求める部分を却下し、その余の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告会社の請求を棄却する。
2 原告組合らの訴えのうち中央労働委員会に対する命令の義務付けを求める部分をいずれも却下する。
3 原告組合らのその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、第1事件については参加によって生じたものも含めて原告会社の負担とし、第2事件については参加によって生じたものも含めて原告組合らの負担とする。 
判決の要旨  1 支配介入及び不利益取扱いの成否
 (1) 支配介入について
 ア 支部は、結成以来、組合の支援の下、会社に対し、組合が登録型派遣添乗員について適用していたみなし労働時間制を撤廃し、未払残業代の支払を求める組合活動を積極的に行っていたため、会社と深刻な対立をしていたところ、Xは、組合支部執行委員長として、会社で就業する登録型派遣添乗員の労働環境の劣悪さを外部にアピールするとともにその待遇改善を求めるなど、中心的な存在として活動してきた。 その上、組合らは、19年5月30日、会社の登録型派遣添乗員に対するみなし労働時間制の適用による割増賃金の未払が労基法違反に当たるとして、三田労基署に申告したため、同年10月1日、会社に対して是正勧告が実施された上、本件アサイン停止の前月である21年2月にも、組合らの申告に基づき割増賃金の不支給に関する2度目の是正勧告が実施されたため、会社と組合らとの労使関係は、本件アサイン停止当時、深刻な対立状態にあったことが認められる。 上記のとおりの会社と組合らとの間の深刻な労使対立の状況にかんがみれば、本件アサイン停止当時、会社がXに対して主観的な嫌悪の情を抱いても不思議ではない状況にあった。
 イ 他方、Xが会社に登録型派遣添乗員として登録してから8年以上の長期間にわたって、会社との間で派遣添乗の度に有期の労働契約を締結し、専属的かつ継続的に阪急交通社に派遣され、同社の催行するツアーの添乗業務に繰り返し従事してきたこと、また、派遣添乗員が、派遣添乗の度ごとに、会社との間で有期の労働契約を締結し、会社と阪急交通社との間の添乗員派遣契約に基づいて専属的かつ継続的に阪急交通社に派遣され、同社の催行するツアーの添乗業務に従事するものであった。そして、会社自身が派遣就業中でない時期におけるXの本件取材の際の発言を問題として、本件アサイン停止をXに通告する際に、就業規則中の懲戒事由の条項を示し、Xに対する企業秩序違反の制裁として本件アサイン停止を行っている事実によれば、会社の就業規則は、その適用対象として、派遣就業中の各労働契約期間だけを想定しているというより、労働契約が締結されておらず派遣登録のみがなされている期間も想定し、これらの期間を一体的な期間としてとらえているとみることができる。
 以上の各事実に照らせば、会社とその派遣添乗員との法律関係は、常用型の派遣に近似したものと評価でき、このような法律関係におけるアサイン停止は、派遣添乗員が会社との間の雇用契約に基づき阪急交通社に派遣されないことになる結果、派遣登録期間中であるにもかかわらず、阪急交通社における添乗業務に従事することができなくなって、生計の糧を失う結果にもなるし、アサイン停止の要件、停止期間等についての就業規則上の根拠もないから、派遣添兼員の法的地位を著しく不安定とするものであり、事実上の解雇に等しい措置であるということができる。
 ウ 会社は、本件アサイン停止の理由は次のとおりであるとする。
 ①Q記者の執筆した本件記事のうちの本件日当等記事の「それ以上はビタ一文も出ない」という記載部分は会社における派遣添乗員の待遇として記述されたものであると理解されるし、本件死亡記事の「仕事が原因で」死亡したという記載部分も会社における業務に関係して3名の派遣添乗員が死亡したとものとして記述されたものであると理解されるから、いずれも真実ということはできず、会社の名誉を棄損し、業務を妨害するものであるところ、上記各記載部分は、Xの本件取材の際の発言に依拠して記述されたものであること、②本件ブログ記事は、上記虚偽事実を含む本件記事の全文を掲載しているところ、Xの上記発言は違法なものであり、会社がXに対し、週刊金曜日へ本件記事の訂正申入れ、本件ブログ記事の削除を求めているにもかかわらず拒否したことは、アサインを受けて派遣就業中であれば、懲戒の対象ともなるべき非違行為に当たる。
 エ(ア) 本件日当等記事及び本件死亡記事は、当該記述のみをみた場合、いかにも会社の派遣添乗員の待遇が劣悪であり、会社における業務に関係して3名の派遣添乗員が死亡したもののように読める。しかるところ、本件記事は、Q記者がXに対する本件取材等の結果を総合してA週刊誌に執筆したものであって、本件日当等記事及び本件死亡記事は、いずれもXの発言を引用して記載した部分ではなく、Q記者の認識を記載した部分であるから、その内容に責任を負うべき立場にあるのは基本的にはQ記者であり、本件日当等記事又は本件死亡記事に会社についての虚偽事実が含まれていたからといって、本件取材対象とされたXが直ちに法的責任を負うものではない。そして、Q記者が本件日当等記事を執筆するに当たっては、Xに対する本件取材の結果のみならず、添乗サービス協会が17年に実施した労働条件実態調査の結果に基づき作成した「派遣添乗員の労働実態と職業意識」と題する文書のほか、過去の取材結果、新聞記事等を参考にしたことが認められ、Xの本件取材に対する発言の本件日当等記事への影響の有無・程度も不明である。
 (イ) 本件死亡記事については、Q記者は、Xの発言のみに基づいて、本件死亡記事を執筆したものであること及びXは本件取材の際に、同僚が亡くなったという含みのある発言をしていたのであるから、Xにも一定の責任がある。しかし、本件取材の際のXの発言内容は、本件死亡記事については、3名の派遣添乗員が会社の従業員であるとか、その死亡が会社の業務に関係するものであると明示的に述べたものとまで認定することはできない。
 (ウ) 会社は、本件事情聴取において、Xの弁解を聴取する前に、本件取材に対するXの発言が虚偽であり、会社の名誉を棄損し、業務を妨害するものであるとの判断の下、Xに本件アサイン停止を通告する方針を大筋で固め、あらかじめ、会社の上記判断とともに、Xが添乗員としての適格性を欠くなどと記載した抗議文を用意して本件事情聴取に臨み、本件記事に関する事情聴取には、わずか10分ないし15分の時間をかけたばかりで、直ちに本件アサイン停止に及んでいる。これによると、本件アサイン停止は、本件事情聴取前に会社内で既定路線として固まっており、本件事情聴取はXの弁解を聴取する手続としてはいささか形骸化したものであったと評価せざるを得ない。
 (エ) 会社において過去にアサイン停止の措置がとられた非違行為の事例は、横領、窃盗、会社財産の無断廃棄等の刑事事件ともなりかねないものや、注意・指導にもかかわらず、接客態度が改善されなかったものであり、いずれも非違行為の内容が比較的悪質であるということができるところ、Xの非違行為として指摘されている①本件取材への対応や②その後の態度については、①が本件記事に対する責任の所在や程度が必ずしも明らかでないこと、②も本件記事の訂正申入れ及び本件ブログ記事の削除申入れをしないという不作為を問題とするものであることからすると、アサイン停止をもって対処することは、相当とはいえない。
 オ 以上を要するに、本件アサイン停止は、組合らの組合活動の弱体化を図るものであると認めるのが相当であり、本件アサイン停止は労組法7条3号の支配介入に当たる。
 (2) 不利益取扱いについて
 労組法7条1号の「労働組合の正当な行為」といえるためには、組合員の行う活動が、労働条件の維持改善その他の経済的地位の向上を目指して行うものである必要があり、目的が正当であっても、その手段・態様が社会的相当性を超えて企業の名誉・信用や平穏に事業を営む権利を侵害していると認められる場合には、その正当性が否定されると解すべきである。
 この点、Xは、本件日当等記事及び本件死亡記事が自らの発言が本件記事に必ずしも正確に反映されていないことを認識する中、本件事情聴取の際、B1支店長からA週刊誌に対する本件記事の訂正申入れ及び本件記事を含む本件ブログ記事の削除を求められたにもかかわらず、当該求めを即座に拒否し、その後もA週刊誌に対する本件記事の訂正申入れや本件ブログ記事の削除をしていない。このような組合らの行為等からすると、本件日当等記事及び本件死亡記事が会社の名誉・信用を害するものであったとしても、組合らの組合活動としてこれを容認したものと解さざるを得ず、Xの本件取材対応及びその後の組合らの態度を総合した場合、組合らの一連の行為等は、社会的相当性を欠き会社の名誉・信用等を害し、正当な組合活動の範囲を逸脱するものと認めるほかない。そうすると、本件アサイン停止が労組法7条1号の不利益取扱いには当たらないとまで認めることはできない。
2 救済方法の相当性について
 (1) 労組法27条が、労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対し、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、これを命ずる権限を委ねたものと解されることからすると、訴訟において労働委員会の救済命令の内容の適法性が争われる場合においても、裁判所は、労働委員会の前記裁量権を尊重し、その行使が前記趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではないというべきである。
 本件中委命令第1項は、会社に対し、本件アサイン停止措置を解除し、同人を同社の登録型派遣添乗員として取り扱わなければならないとしたものであるところ、本件アサイン停止は支配介入の不当労働行為に当たるから、本件アサイン停止によって生じた状態を是正する必要があり、本件アサイン停止措置を解除することにより、これを是正して正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図ることができるというべきであって、同項の救済方法の定めについて、中労委に与えられた裁量権の逸脱、濫用があるということはできない。また、本件中労委命令第2項は、会社に対し、Xが派遣添乗員として就労していたならば受けるはずであった1年分の賃金相当額(月12 日稼働、日当額1万8300円で算出)を支払わなければならないとしたものであるところ、Xの本件アサイン停止直前の日当額は1万8300円であったことに加え、本件記事掲載に至った経緯、会社の本件記事訂正申入れ要求に対するXの対応等も考慮すれば、本件中労委命令第2項の救済方法の定めについて、中労委に与えられた裁量権の逸脱、濫用があるということはできない。
 (2) 組合らは、Xは本件アサイン停止後も登録型派遣添乗員の身分を有しているとして、Xを登録派遣添乗員として取り扱うと命じるだけでは意味がなく添乗業務への復帰を命じるべき旨を主張する。しかし、本件中労委命令1項は、アサイン停止措置を解除することも命じているし、これを超えて、Xを添乗業務に復帰させることを定めることは、救済命令申立ての被申立人でない派遣先たる阪急交通社に対し、Xを指揮命令して添乗業務を行わせるよう命じるものにほかならないから、会社のみではなし得ず、他方で、Xに対するアサインが行われれば、本件アサイン停止を行ったことによって生じた不正常な集団的労使関係秩序は原状に回復されるのであるから、組合らの主張は採用できない。さらに、派遣先である阪急交通社がXの派遣受入れを拒否することは、労働者派遣法26条7項の特定行為に反するのであるからXの派遣を受けた派遣先はXの派遣を受け入れることに努めなければならず、中労委命令主文において、添乗業務の復帰まで定める必要はないというべきである。
 また、組合らは、本件中労委命令が賃金相当額を1年分に減額したことが相当ではない旨主張する。しかし、以下の事情を考慮すれば、本件中労委命令に裁量権の逸脱、濫用を認めることはできない。
 a 会社とXとの間には、常用型の派遣に近似した関係があると評価することはできても、両者間に期限の定めのない雇用契約が成立しているとまではいうことができないから、Xの地位は、本件取材に係る一連の経緯がない場合であっても、会社の業務受注の状況、財産の状況等によっては、アサイン停止等もあり得る地位であったということができる。
 b 少なくとも真実と異なる本件死亡記事の掲載についてXにも責任の一端があると解さざるを得ないことは、上記1(1)エ(イ)のとおりである。
 c Xは、自らが受けた本件取材等に基づいて本件記事が執筆され、会社から訂正申入れをするよう要求されたにもかかわらず、本件事情聴取において、会社の本件記事に関する訂正申入れ要求を即時拒否したほか、その後も、A週刊誌や組合に対して、本件記事や本件ブログの訂正要求をしていない。
3 義務付け訴訟の原告適格について
 組合らは、国に対し、会社の再審査請求を棄却するとの裁決の義務付けを求めているが、本件のようないわゆる申請型義務付け請求の原告適格を有するのは、法令に基づく審査請求をした者であり (行訴法37条の3第2項)、これは、本件においては中労委に対して再審査請求をした会社であるから、組合らは原告適格を欠くというべきであって、組合らの前記義務付け請求は、不適法というほかない。 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成21年(不)第46号 一部救済 平成23年1月11日
中労委平成23年(不再)第5号 一部変更 平成23年11月16日
東京地裁平成24年(行ク)第74号 緊急命令申立ての認容 平成25年3月27日
 
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