労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  ソクハイ  
事件番号  東京地裁平成22年(行ウ)第433号  
原告   株式会社ソクハイ  
被告   国(処分行政庁:中央労働委員会)  
被告補助参加人   連合ユニオン東京ソクハイユニオン  
判決年月日   平成24年11月15日  
判決区分   棄却  
重要度  重要命令に係る判決  
事件概要  1 会社が、①配送員(会社と「運送請負契約」を締結し配送業務に従事)の労働者性の問題及び年末年始の稼働等を議題とする組合からの平成19年11月30日付け団体交渉申入れに応じなかったこと、②配送員であり組合の執行委員長であったX1が前記団体交渉拒否に係る救済申立事件の調査期日に出席し発言したことを理由として、営業所長から解任したこと、③X1の処遇に係る団体交渉申入れに応じなかったことが、不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、会社に対し、(1)19年11月30日付け団交申入れの議題に関する誠実団交応諾、 (2)X1に対する営業所長解任がなかったものとしての取扱い及び営業所長職の報酬と既支給額との差額の支払、 (3)これらに関する文書交付等を命じた。
 会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令を一部変更し、上記(1)は不当労働行為に該当しないとして取り消し、上記(2)は労組法7条1号及び4号に該当するとし、上記(3)は同条2号に該当するとし、報酬差額相当額の支払及び文書手交を命じた。
 本件は、これを不服として、会社が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同高裁は、会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加に係る費用を含む。)は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 労組法上の労働者への該当性(争点1)
(1) 事業組織への組込み
 〔自転車による〕メッセンジャー即配便は会社の配送サービスを支える重要な業務の一つで、会社とメッセンジャー契約を締結し、その業務遂行を担うメッセンジャーは、当該業務遂行にとって不可欠の労働力とされていた。メッセンジャーは、会社における配送員として、交通ルール、接遇等の習得が要請されるほか、会社作成に係る配送手順や伝票作成の手引き等を基に、統一的ルールの下、業務に当たるべきものとされており、各営業所では、営業所長から、会社業務部より伝達される業務内容、業務処理手順、顧客に係る注意事項、事故やクレームの情報等の伝達を受け、稼働ルールの遵守を求められ、事故防止のための注意・指導を受けるなどして業務に当たっていた。
 そして、営業所長も、メッセンジャーから選任されている者にすぎないとはいえ、現金管理や運送伝票の処理等を含む営業所管理事務のみならず、定例メッセンジャー所長会議に出席し、メッセンジャーの業務状況の評価もするほか、会社から伝達される連絡事項等をメッセンジャーに伝達し、メッセンジャーが事故等を起こした際の会社への報告に当たり、メッセンジャーに対するペナルティを課す事務も想定され、会社の営業組織・人事管理体制を支える一部として、会社の一般的な指揮の下、前記業務の事業組織に組み込まれており、メッセンジャーも、かかる営業所長の管理の下にあるものとして、会社の事業組織に組み込まれていたとみるのが相当である。
(2) 契約内容
 メッセンジャー契約の成立過程をみても、会社があらかじめ用意し、定型化された「運送請負契約書」に基づき締結しており、個々のメッセンジャーが、その契約内容について個々的に交渉に当たるなどし、これが変更された経過は見受けられない。
 また、具体的な稼働内容についても、手引きやルールのほか、個々的な業務通達により規制されており、営業所長が稼働内容等につき意見を述べ、これに応じた措置がとられることがないではなかったものの、メッセンジャーの個々的な交渉による変更の余地があったとはおよそ窺われない。報酬についても、加算歩合について、営業所長らの意見を踏まえ設けられた経緯こそあるが、そのほかに個々的交渉による変更がされた経緯もない。その契約内容は、会社が一方的に決定していたと見ざるを得ない。
(3) 労務提供に対する対価
 メッセンジャーの報酬は、メッセンジャー各自の売上額の一定割合が報酬となる出来高払いを基礎とするといえるが、他方、初審当時、加算歩合制度が採られ、所長評価による加算、会社指定の一定日以上の稼働への加算がある一方、欠勤等には減額されることが認められ、労務供給における労働の質・量に対する会社の評価が報酬と一定程度結びつく仕組みが採られていた。
 また、加算歩合に係る部分以外の部分についても、出来高払いであったものの、メッセンジャーの業務内容は、会社作成の手引き等の各種規定により極めて定型化され、むしろ、会社は、質の高い配送サービスを提供できるようにするため、統一的・画一的な稼働内容を想定していたことが窺われ、出来高が、労働量(時間)に依存する側面があったといえる。
(4) 個々の業務依頼に関する諾否
 メッセンジャー契約の規定内容によれば、契約書の体裁上、配送依頼があった場合に拒否し得ることは何ら規定されていない。そして、現実の運用状況に照らしても、最終的にはメッセンジャーが配送依頼を拒否した事例があったとしても、メッセンジャーは概ね配送依頼を引き受けており、会社の業務部係長は、基本的に承けていただくとの認識であった旨述べている。
 してみると、実際上、配送手配の依頼を拒否することができないではなく、拒否した場合に直接的な不利益が課されることが実際にはなかったにしても、迅速性を尊ぶメッセンジャー即配便の配送サービスの性質に照らし、基本的には引き受けるべきものとされていたとみるのが相当である。
(5) 労務供給の時間・場所・態様
 メッセンジャー契約上、メッセンジャーは、事前に稼働予定を営業所長に申告することとされ、一定日以上の稼働には皆勤手当が交付される反面、遅刻や欠勤等には報酬減額の不利益も予定され、当日に営業所長により把握される稼働予定の下、稼働開始・終了のメールを配車係に送信することにより稼働を行っていたから、基本的には予定どおりに稼働することが想定されていたといえる。
 メッセンジャーは、会社が設定した特定の営業地域内で、待機場所に待機し、会社の配車係の配送依頼により書類等を届け終わると届先付近で待機し、あるいは移動を求めるメールを受信し、さらに配送依頼を待つことを繰り返し行っていたこと、稼働予定をあらかじめ所属の営業所長に申告する必要があり、稼働した際には、遅くともその翌日までに営業所に立ち寄り、伝票ないし受領した運賃を交付する必要があり、適宜の方法により営業所長から業務連絡等の伝達を受けることとされていたことからすると、メッセンジャーの稼働について、一定程度の場所的拘束はあるとみるのが相当である。
 労務供給の履行内容についても、手引きや業務連絡等による一般的な指揮があったとは見得るところであり、また、メッセンジャーは、会社から書類バッグと名札が貸与され、書類バッグの表面には会社名が大きく表示され、名札には、メッセンジャーの氏名、所属(営業所名)、会社名等が記載され、独自の商号等による顧客対応は予定されていず、会社が選定したメッセンジャーにより配送業務が会社の責任の下、行われることを顧客等に顕示するものとされていたとみるのが相当である。
 してみると、メッセンジャーは、その履行すべき業務内容の場所・時間・態様の各面にわたり、一定程度に拘束を受けている。
(6) 事業者性
 会社はメッセンジャーの兼業を禁止しておらず、実際にも兼業をする者がいるとはいえる。また、メッセンジャーは、配送手段の自転車や携帯電話機を自ら所有し、これらに係る経費を自ら負担した上、報酬については事業所得として確定申告しており、会社から、物的設備や第三者に対する損害賠償に備え、その負担の下、保険への加入が義務付けられ、交通事故があった場合もメッセンジャーの責任において処理されていることが認められる。
 しかし、配送手段を所有し、経費等を負担していたことは、会社の採用時の説明に基づく結果と見ることもでき、むしろ、配送経路の選択以外は、メッセンジャーが、各人の裁量・才覚により特段顕著な相違を生じさせ、利得する余地は乏しいと評価せざるを得ず、第三者への再委託を禁じられ、他人を使用することにより利得する余地もなかったことにも照らすと、メッセンジャーの事業者性が高いとは評価し難い。
(7) 以上検討してきたとおり、①メッセンジャーは営業所長の管理の下、会社の事業組織に組み込まれていたといえること、②契約内容を会社が一方的に決定していたといえること、③メッセンジャーの報酬は本来出来高払い制であるもののその出来高は労務提供(労働量)に依存する側面があること、④メッセンジャーは個々の業務依頼を基本的には引き受けるべきものとされていたこと、⑤メッセンジャーの稼働について、時間・場所・態様の各面につき、一定程度の拘束があるとみるのが相当であること、⑥メッセンジャーの事業者性が高いとは評価し難いことなどの諸点に、⑦労組法の目的(同法1条1項)を総合考慮すると、メッセンジャーは、労働契約又は労働契約に類する契約によって労務を供給して収入を得る者として、同法3条所定の労働者に当たる(会社との関係では同法7条の「雇用する労働者」にも当たる)と認めるのが相当である。
2 X1委員長の処遇に関する団交申入れに係る不当労働行為該当性(争点2)
(1) ①営業所長は、運送伝票の処理等を含む営業所管理事務のみならず、会社から伝達される連絡事項等のメッセンジャーに対する伝達等に当たり、会社の営業組織・人事管理体制を支える一部として前記業務の事業組織に組み込まれていたとみることができ、これらの業務は、会社の明示的な指揮命令や容認により行われていたとみることができる。そして、②各営業所長の担当する業務内容に特段の差異があるとは認められず、各営業所長は、伝票管理や当日の稼働予定の本社への報告を含め、所長業務を行うに当たり一定の時間的・場所的拘束を受けていると評価することが相当であること、③報酬については初審当時は営業所の売上総額に一定比率を乗じたものとされたが、だからといって、直ちに労組法上の労働者性を阻害する要素になるということはできず、④事業者性を肯認し得る事情も特段顕著ではないことに照らすと、営業所長は、労組法3条所定の労働者に当たると認めるのが相当である。
(2) そして、営業所長は、会社の利益を代表する者と認めるまでの権限は与えられていないというべきところ、20年1月24日付け団交申入れの時期及び内容に照らすと、組合らが、X1委員長らの都労委の調査期日への出席は個人的な行動ではなく組合らの活動に関するものであって、これを理由に同委員長らに対する不利益な取扱いがなされないように同申入れを行ったものと推認でき、同申入れに係る議題は、労組法上の組合員と認められるX1委員長個人の待遇に当たるものとして、義務的団交事項に該当すると認めるのが相当である。
 しかるところ、会社は、X1委員長らに対する呼出しが正当な理由のある呼出しであるとするのであれば、団体交渉においてそのことを説明し、納得を得るよう努めるべきであったといえ、会社は、団体交渉の議題ではないとして20年1月24日付け団交申入れに係る交渉に応じることを拒否しているのであって、正当な理由なく団体交渉を拒否したものとして、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。
 20年1月31日付け団交申入れもX1委員長の所長解任について交渉を求めるものであるところ、これも同委員長個人の待遇に関する事項として義務的団交事項に当たるから、その拒否も、正当な理由なく団体交渉を拒否するものとして同条同号の不当労働行為に該当する。
3 X1委員長に対する所長解任に係る不当労働行為該当性(争点3)
(1) 会社は、平成20年1月28日、X1委員長に対し、①同月23日は雪の降った日であり、不測の事態に備えるべきであるのに会社に事前の報告もなく遅刻するのは営業所長として問題があること、②注意勧告のための面談を拒否する姿勢では円滑なコミュニケーションが取れず、所長業務は任せられないこと、③メッセンジャーとしての稼働実績が少ないことを理由として、同月31日付けで営業所長を解任する旨を口頭で通告した。
 しかし、会社は、前日行った連絡で、営業所長に対し所長本人の営業所での待機までは指示しておらず、営業所長本人の待機を要する旨の規定等があったわけでもないこと、また、会社は、X1委員長が副所長を置いていることを承知していたこと、当日の降雪により、X1委員長が在席しないことによって、配送業務に支障が生じたとも認められないこと、他方、都労委の調査期日はあらかじめ定まっており、会社も組合代表者であるX1委員長が出席することは当然予想し得べきものであったといえること、従前、X1委員長が、営業所長としての職務において、特段の問題を生じさせた経過があるとは窺われず、むしろ、メッセンジャー即配便に係る配送業務に関し、積極的な姿勢を見せていたと評価できることを指摘できる。
 してみると、X1委員長が営業所を不在にしたことは、稼働表の記載と食い違っていた点があるとはいえ、直ちに所長解任を肯認するに足りる程の重大な任務懈怠とは解し難く、上記①の理由は首肯し難い。
(2) 上記②については、X1委員長への呼出しは、都労委の調査翌日の同月24日に行われたのを皮切りに、同月28日にX1委員長が応じるまで4回行われたものの、その間わずか4日余りが経過しているにすぎない。しかも、同月24日の1回目呼出しでは呼出しの理由を告げられず、会社への問い合わせ及び同日午後の2回目呼出しの際に、呼出しの理由は、X1委員長が降雪の日に営業所を留守にしたことに対して厳重に注意するためとされ、そこで組合らは、同委員長個人としては対応せず、組合として団体交渉で対応することとしたとみることができる。他方、X1委員長の営業所長としての職務において、他に業務遂行上コミュニケーション不足に伴う支障を生じた経過があったとも証拠上窺われない。
 してみると、X1委員長の同月24日及び25日の2日間の3回の呼出し拒否をもって、直ちに営業所長の業務遂行上コミュニケーションが取れないと評価することは相当ではなく、この点においても所長解任の合理的理由があったとは認め難い。
(3) 上記③については、会社は、それまでX1委員長の稼働実績について問題にしたという証拠はなく、かえって、同委員長の稼働報酬はほぼ毎月一定しており、会社が、平成20年1月に至り、突如としてメッセンジャーとしての稼働実績が少ないことを問題としたことには疑問があり、この点を同委員長に問題視した経過があるとも証拠上認められない。
 してみると、上記③の理由も首肯し難い。
(4) 以上のとおり、いずれの理由も直ちに営業所長の職から解く合理的理由は見出し難く、会社もその旨認識していたというべきところ、都労委の調査には、X2副委員長も出席しており、同副委員長は、営業所長の業務で本社に出向いた際、係長から口頭で注意を受け、営業所長を解任されることはなかった。X1委員長に対する所長解任はX2副委員長に対する取扱いに比して均衡を欠くといわざるを得ない。
(5) 組合がその結成後、都労委に救済申立てをするに至るまでの間は、会社と組合間の団体交渉は、概ね特段の問題なく開催されていたとみることができるところ、組合が救済申立てをして、19年11月30日付け団交申入れに係る申入れ事項につき団体交渉を求めるようになった後に、所長解任通告がされている。
 そして、営業所長から解任されることは、それ自体、メッセンジャーに対する指導・評価等を行う地位を失い、指導・評価等を受けるメッセンジャーとしての立場のみになるということであるから、この点だけでも不利益な処分と評価するに十分である。
(6) 以上の諸点に照らすと、X1委員長に対する所長解任は、同委員長が都労委の調査期日に執行委員長として出席し発言したことの故になされた労組法7条1号及び4号の不当労働行為に該当すると認めるのが相当である。
4 救済方法
 以上によれば、X1委員長らの処遇に関する団交申入れに対する会社の団交拒否は労組法7条2号に、同委員長に対する所長解任は同条1号及び4号に該当するが、中労委が、X1委員長につき、平成21年5月12日、メッセンジャー契約の解除がされ、これに伴いメッセンジャーとしての地位を喪失していると見ざるを得ないことを踏まえ、会社に本件命令主文Ⅱ2のとおり文書手交を命じることとしたことには合理的理由があるから、かかる救済方法による救済命令を命じたことは相当である。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成19年(不)第94号・平成20年(不)第9号 全部救済 平成21年6月2日
中労委平成21年(不再)第21号 一部変更 平成22年7月7日
 
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