労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  西日本旅客鉄道(訓告処分等)  
事件番号  東京地裁平成23年(行ウ)第286号  
原告   組合員X1  
被告   国(処分行政庁:中央労働委員会)  
参加人   西日本旅客鉄道株式会社  
判決年月日   平成24年10月31日  
判決区分   棄却  
重要度  重要命令  
事件概要  1 会社が、組合員X1に対し、①勤務時間中の組合バッジ着用を理由として、訓告処分を行うとともに、訓告処分に伴い夏季手当を減額したこと、②管理者らが、X1に対し、組合バッジを外すよう繰り返し注意・指導したことが、不当労働行為に当たるとして、大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
2 大阪府労委は、前記会社の行為を不当労働行為と判断し、①X1に対する訓告処分がなかったものとしての取扱い及び夏季手当の減額分の支払、②文書手交を命じた。
 会社は、これを不服として再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令を取り消し、救済申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、組合員X1が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、X1の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、参加によって生じた費用を含めて、原告の負担とする。  
判決の要旨  1 組合バッジの着用を理由とする訓告等が不利益取扱い(労組法7条1号)又は支配介入(同3号)の不当労働行為に当たるか(争点1)
(1) 不利益取扱いの不当労働行為の成否
 ア 会社の就業規則3条1項が、従業員に職務専念義務を課し、その具体化として、同20条3項が、「社員は、勤務時間中又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。」と規定しているところ、同23条が、「社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。」と規定し、勤務時間内におけるX1の組合バッジの着用は、形式的にいえば、就業規則3条1項、20条3項、23条に違反し、勤務時間中の組合活動を禁止した労働協約6条にも違反する。
 もっとも、就業規則の解釈・適用に当たっては、憲法28条が労働者に労働基本権を保障する一方、憲法29条が使用者に財産権を保障している趣旨にかんがみ、団結権と財産権との調和と均衡を図るべきであるから、形式的に各規定に違反するようにみえる場合でも、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である。
 イ 本件についてみるに、X1の組合バッジの着用は、自らが組合員であることを対外的に示すとともに、その思想を共有する組合員との間の団結・連帯の意識を向上させ、一定の思想を外部に表明する行為である。他方で、一般私企業で、従業員は、労働契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において、かつ、企業秩序に服する態様において、勤務時間中に行動することが認められている。
 すると、組合バッジの勤務時間中の着用は、従業員としての職務の遂行には直接関係のない行為であることが明らかであるし、当該行為の趣旨・意味合いを考えた場合、職務専念義務に違反するばかりでなく、ほかの従業員の意識が組合バッジに注がれることよって、勤務時間中に心理的影響を受けるおそれもある。しかも、X1の従事した車両の検査修繕作業においては、事故防止のために所持品の落下に細心の注意を注ぐ必要があり、作業に不必要な物を現場に持ち込むことが禁止されていたことを認めることができる。
 ウ 以上によれば、組合バッジの着用は、企業秩序を乱すおそれのある行為であるから、実質的にみても、就業規則に違反する。
 したがって、就業規則違反を理由とする各訓告は違法ではなく、各訓告等は、不利益取扱いの不当労働行為には当たらない。
(2) 支配介入の不当労働行為の成否
 ア 使用者の人事上の措置が、従業員の就業規則違反を理由としてされたものであっても、労働組合に対する団結権の否認ないし嫌悪の意図を決定的な動機として行われたと認められるときは、例外的に、その使用者の行為を全体的にみて、支配介入に当たると解するのが相当である。
 イ 本件についてみるに、①各訓告は、就業規則違反を理由とするものであり、懲戒処分に至らない人事上の措置にとどまるものであるし、それが、厳重注意よりも重く期末手当の減額を伴うものであったとしても、会社が、株式上場を控え、職場規律の是正の徹底を図るという背景事情の下、組合バッジの取外しの注意・指導に一向に従わず、厳重注意を繰り返し受けていた違反者につき、より重い訓告の選択を決定したことには、相応の合理性があり、決定に至る手続も適正であったことを認めることができる。また、②厳重注意、訓告に至るまでの注意・指導は組織的かつ厳格に実施されており、恣意性はうかがわれない一方、訓告に当たっては、昇格欠格要件に該当することを回避するように配慮するなど謙抑的運用が図られていた上、厳重注意・訓告後の苦情申告の手続も用意されていた。そして、③訓告を受けた場合に期末手当が減額されることは、就業規則上の関係規定に基づくものであって、それが、金額・方法等に照らして不相当ということもできない。
 ウ 以上によれば、各訓告等が、労働組合に対する団結権の否認ないし嫌悪の意図を決定的動機として行われたと認めることはできないし、ほかにこれを認めるに足りる証拠はないから、各訓告等は、支配介入の不当労働行為にも当たらない。
2 組合バッジの取外しの注意・指導がその強要として支配介入(労組法7条3号)の不当労働行為に当たるか(争点2)
 就業規則違反の行為を繰り返し、注意に対して挑発的態度をとるなどしたX1に対する管理者らの注意・指導の態様は、全体として相当なものであったということができるから、会社がX1に対して組合バッジの取外しを強要したと評価することはできない。
 したがって、組合バッジの取外しの注意・指導は、労働組合に対する団結権の否認ないし嫌悪の意図を決定的動機として行われたと認めることはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠もないから、組合バッジの取外しの注意・指導が支配介入の不当労働行為に当たるということはできない。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成13年(不)第47号 全部救済 平成20年10月3日
中労委平成20年(不再)第39号 全部変更 平成22年10月6日
 
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