労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  黒川乳業(15年就業規則改定等)  
事件番号  東京地裁平成23年(行ウ)第70-2号  
原告   関西単一労働組合  
被告   国(処分行政庁:中央労働委員会)  
判決年月日  平成24年10月11日  
判決区分  棄却  
重要度   
事件概要  1 会社が、①組合分会長X1に対し、分会の加盟するA団体が行ったB市立病院への会社との取引見直し等についての要請行動(以下「本件申入れ行動」という。)に参加したことを理由として、出勤停止3日間の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)を行ったこと、②組合が就業規則全面改定について団交を申し入れたのに対し、説明するための「話合い」を行ったものの、団交には応じなかったこと、③前記②の団交に応じないまま、就業規則を全面改定し、分会員に適用したことが、不当労働行為に当たるとして、大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪府労委は、前記②は団交拒否に該当するが、就業規則が既に全面改定されて全従業員に適用されているから改めて団交応諾を命ずる実益はないとして、文書手交を命じ、その余の救済申立てを棄却した。
 組合及び会社は、これを不服として、それぞれ再審査を申し立てたが、中労委は、各再審査申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、組合が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、組合の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 本件懲戒処分の不当労働行為該当性(争点1)
(1) X1分会長の本件申入れ行動への参加は、争議行為ではなく組合活動として行われたことは、X1分会長の供述からも明らかなところ、B市立病院は、この申入れを受け、会社との取引に一定の懸念をもったことは合理的に推認でき、会社としても、同病院に赴き、説明するなどして対応を余儀なくされている。
 してみると、実際には会社との間の取引が中止には至らなかったとしても、このような申入れ行動は、同病院の会社に対する評価を低下あるいは毀損させるものであるのみならず、会社の営業を妨害するおそれの大きい、会社の事業活動を阻害する可能性を持つものであり、本件申入れ行動は、その内容・程度に照らし、正当な組合活動ということはできず、X1分会長がこれに参加したことも正当な組合活動とはいうことはできない。
(2) この点、組合は、仮にこれが組合活動であったとしても、虚偽の事実を宣伝したものではなく、会社による組合弱体化・使用者の組合破壊攻撃に向けた違法な不当労働行為を止めさせるために、会社に圧力をかけるための正当な活動などと主張する。
 しかし、本来、労使関係の問題は労使関係の場で解決すべきものといえるし、虚偽の事実がないからといって無制約に組合活動として許容されるわけではなく、会社に抗する活動であったとしても、同様、無制約に許容されるわけではないのであって、むしろ、上記説示の点に照らすと、正当な組合活動の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。
(3) そして、X1分会長に対する本件懲戒処分が、本件申入れ行動への参加を理由とすることは明らかであり、同申入れ行動への参加が正当な組合活動に該当するということはできないことは上記のとおりであるから、同処分は、労働組合の正当な行為をしたことのゆえをもって不利益な取扱いを会社が行ったものということはできない。
(4) 組合は、本件懲戒処分につき、組合破壊を目的とするものであったなどとも主張する。
 しかし、このことを認めるに足りる証拠はない。そして、会社の就業規則は、懲戒解雇を原則とし、情状によって出勤停止処分とすることを定めているところ、X1分会長に対する本件懲戒処分は、出勤停止3日間にとどまるものであって、同人が分会長であるがゆえに重い処分が選択されたとみることもできず、その他、同処分が通常会社において行われる懲戒処分に比して重いことを認めるべき事実も存しない。
 また、会社が同処分によって分会ないし組合の運営に対して支配介入したと認めるべき事情も認められない。
(5) すると、X1分会長に対する本件懲戒処分が不当労働行為に該当するということはできず、その他組合の主張を検討しても、かかる判断が左右されるものではない。
2 就業規則全面改定案に関する団交拒否に係る救済方法(争点2)
(1) 組合は、会社に団交応諾が認められるべきであると主張する。
 しかし、組合は、「抗議並びに申入書及び質問書」の記載内容からは、団体交渉を求める目的が就業規則の個々の条項等の質問に対する回答を求めるものというよりは、就業規則全面改定案の撤回及び徹底協議を前提とし、これらを目的として団体交渉を申し入れていたとみるのが相当であって、就業規則の個々の改定内容について、今後における改善を求めたものとは認められない。
 してみると、就業規則の改定手続自体が完了している本件において、初審命令のとおり文書手交を命じることとした判断には相応の合理性を認めることができ、その判断に裁量権を逸脱した違法があるとは認められない。
(2) 組合は、就業規則の改定手続自体が完了していたとしても、団体交渉を認めることで改訂された各条項の内容に関する労使協定が締結されることもあり得るから団交応諾が認められるべきとも主張する。
 しかし、今後組合が改定後の就業規則に関し団体交渉を求める場合にその応諾が認められるべきことは格別、組合の上記主張を採用することはできない。
3 就業規則の全面改定及び改定後の就業規則の分会組合員への適用(争点3)
(1) 組合は、就業規則の全面改定及び改定後の就業規則の分会組合員への適用が労組法7条3号の支配介入に該当すると主張する。
 会社は、組合に対する申入れと同じ頃に、各事業場において従業員の過半数以上を組織している別労組にも、団体交渉の申入れを行った上で同労組の意見を聴き、同労組の意見書を添えて労働基準監督署長に届出を行っているところ、その改定手続に、労働基準法所定の手続に違反する点があったとは窺われない。
 他方、会社は、組合からの団体交渉申入れに対して、説明のための団体交渉は行う旨回答したが、組合が就業規則全面改定案については絶対反対であるなどとして、改定案の撤回を求める旨の申入れを行ったことから、団体交渉を行わなかったものである。会社のこのような団体交渉に関する態度が、労組法7条2号が禁止する団交拒否に該当するとしても、就業規則全面改定案については、会社は、別労組と組合に対して同じ頃に意見聴取の申入れを行っていたのであり、就業規則改定の手続において、会社が、団体交渉の開催に関し、組合と別労組との間で異なる対応をとっていたとみることはできない。
(2) 組合は、就業規則の全面改定及び改定後の就業規則の適用が、組合の組合活動を抑圧・制約することを第一の目的とするものであった旨主張する。
 組合と会社の関係は、就業規則の全面改定図られた当時においても、相応に見解に対立のある状況にあったとみることはできる。
 もっとも、適用される就業規則自体は、別労組の組合員にも適用されるべきものである上、就業規則全面改定案の内容をみても、組合指摘の服務・懲戒等に関わる条項も含まれはするものの、その余の点についても広く改定を試みるものであり、組合指摘の条項の内容をみても、会社の施設管理権や企業秩序の維持といった観点からされる一般的な内容にとどまるものとみることができ、ことさらに組合の運営に対する支障を来たしめる意図の下、作成された条項があると認めることは困難である。
 この点、組合は、ビラ配布やストライキ時の構内集会、本件申入れ行動等を実施してきたところ、かかる行動が上記条項により禁圧されることになるなどと主張する。
 しかし、前記条項の内容が会社の施設管理権や企業秩序の維持といった観点からされる一般的な内容にとどまるものである以上は、分会組合員のその時々における個別の行為に対する就業規則の適用が不当労働行為となり得る場合があることは格別として、就業規則そのものが支配介入の意図をもって作成されたとみることは困難である。そうである以上、労働基準法所定の適式な手続を履践して改定手続を経た就業規則を、別労組の組合員を含めた全従業員に適用することとしたとしても、そのことから直ちに支配介入に当たる不当労働行為があると認めることはできない。
 結局、就業規則の全面改定及び改定後の就業規則の分会組合員への適用が支配介入に当たるということはできない。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成15年(不)第54号・平成16年(不)第40号 一部救済 平成18年 4月 7日
中労委平成18年(不再)第26号・第28号 棄却 平成22年4月21日
 
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