労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  旭包装 
事件番号  岡山地裁平成23年(行ウ)第26号 
原告  旭包装株式会社 
被告  岡山県(処分行政庁:岡山県労働委員会) 
同補助参加人  自治労全国一般岡山地方労働組合旭包装支部 
判決年月日  平成24年8月29日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社が、①組合支部の支部長X1に対し、平成21年冬季賞与を支給しなかったこと(以下「本件不支給」という。)、②22年春闘におけるベースアップ及び賞与に関する団体交渉(以下「本件団体交渉」という。)に誠実に応じなかったこと、③役職のない従業員を団体交渉に会社側として出席させたことが、不当労働行為に当たるとして、岡山県労委に救済申立てがあった事件である。
2 岡山県労委は、会社に対し①X1に係る21年冬季賞与の額を再査定の上、同人に支払うこと、②本件団体交渉に誠実に応じること、③文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、会社が岡山地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 本件不支給が労組法7条1号の不当労働行為に当たるか(争点1)
(1) 会社は、支部長X1において、協調性・責任感の欠如、会社の規律・秩序を乱すような上司や会社に対する無礼かつ反抗的な態度、不正行為の疑いがあったから、本件不支給としたのであって、組合活動を嫌悪して行ったものではなく、不当労働行為意思はない旨の主張をする。
 しかし、①X1の欠勤は、うつ状態を理由とするものであり、10日程度にとどまっている上、休暇取得手続の不備についても、直属の上司には休む旨の連絡をしており、最終的には有給休暇として処理されたことにも鑑みれば、軽微なものといえる。また、②上司による残業の提案にX1が応じなかったことがあるものの、残業命令までは出ておらず、X1が常に残業をしなかったわけでもない。さらに、③取締役経営管理部長に挨拶をしなかったとされる日も3日にとどまり、殊更上司を無視するような無礼な態度をとっていたとまでは認めることができず、④ブログ中のコメントも、匿名の上で、若干穏当を欠く表現をしたにとどまる。⑤電話の私的利用も、禁止事項ではあるが、昼休み中の1回にとどまり、フリーダイヤルであるため会社に損害までは生じていない。⑥ノートパソコンの増設メモリの発注に関しても、X1には、発注及び納品のいずれの段階においても商品の確認を怠った過失があるが、故意に発注したとまでは認められない上に、会社に与えた損害も重大なものとまではいえない。
 すると、査定期間におけるX1の勤務成績等が必ずしも良好であったとはいえないまでも、これに対して賞与の減額にとどまらず一切支給しないとする査定は、過去の不支給の例などに照らしても、著しく不合理なものであることが明らかであって、その裁量権逸脱の程度は、甚だしいものというべきであり、意図的に行われたものと推認せざるを得ない。
 また、組合と会社の関係は、本件不支給に至るまでの間に相当程度に悪化していたものと認められ、これらの事情からすると、会社において、本件不支給時に、組合及び組合活動を嫌悪していたことが十分に推認される。
 以上の事実に加え、組合との交渉に携わってきた経営管理部長が、賞与の査定に関する裁量権を掌握していたこと、X1が、組合支部の代表者であり、会社との関係において組合活動を行っていた中心的人物であったことなどの事情を考慮すれば、会社は、X1の組合活動に対する嫌悪を主たる動機とし、必ずしも良好とはいえないX1の勤務成績等を奇貨として、X1に対し、21年冬季賞与を一切支給しないという著しく不利益な取扱いをしたものと認めるのが相当である。
 他の組合員には21年冬季賞与が支給され、X1についても本件不支給の前後においては賞与が支給されているという事情は、組合支部におけるX1の地位や、1回のみの賞与の不支給によってもX1及び組合に大きな影響を与えることができることに鑑みれば、上記認定を妨げるものではない。
 したがって、会社には不当労働行為意思が認められるから、本件不支給は、労組法7条1号の不当労働行為に当たる。
(2) なお、会社は、不当労働行為意思がないことは、別訴判決で判断されて既に確定している旨の主張をする。
 しかし、別訴判決の判断が、本件訴訟における当裁判所の判断を拘束するものではなく、そもそも別訴判決の判断中、不当労働行為意思の有無に関する部分は傍論である。会社の不当労働行為意思の有無に関する当裁判所の判断は上記のとおりであり、これと同旨の本件救済命令の判断は相当というべきである。
 また、会社は、別訴判決とは別に本件救済命令が金員の支払を命ずるのは不相当である旨の主張をする。
 しかし、別訴判決がX1の会社に対する私法上の請求権を確定するものであるのに対し、本件救済命令は、使用者である会社に公法上の義務を負担させるものであって、法的性質を異にするものであるから、これらが併存すること自体に何ら問題はない。
2 本件団体交渉における会社の対応が労組法7条2号の不当労働行為に当たるか(争点2)
 組合は、本件団体交渉において、当初から一貫して会社に対し22年のベースアップ及び賞与に係る具体的な金額又は基準についての交渉に応じることを求めていたと認められる。
 それにもかかわらず、会社は、ベースアップについては、22年6月1日確認文書で、平均で有額回答となるようにする旨が確認されたことをもって、これが労使間の妥結事項であると独自に判断し、その後に組合から具体的な金額や基準についての回答やこれに関する団体交渉の開催を求められても、確認文書で確認された事項以上の回答はしないという態度に終始した上、団体交渉の開催にも応じず、一方的にベースアップを実行している。
 また、会社は、賞与についても、昨年同様を目標にする旨の一応の回答をしてはいるものの、その後に組合から具体的な金額や基準についての回答やこれに関する団体交渉の開催を求められても、就業規則で定められている内容程度の回答を書面で繰り返すのみで、団体交渉の開催にも応じず、一方的に22年夏季賞与の支給をしている。
 これらの会社の対応に鑑みれば、会社において本件団体交渉に誠実に対応したと認めることはできない。
 なお、会社は、あっせんの場において会社と組合支部との間で団体交渉中の内容につき外部に公表しない旨の合意が成立した後も、組合のブログに会社の組合対応を批判する内容のコメントが掲載されていたことなどから、組合の交渉態度の方こそ問題がある旨主張する。
 しかし、組合の交渉態度に、会社が交渉をする上での著しい不都合があったとまで認めるに足りる証拠はなく、会社において誠実交渉義務を免れ得る正当な理由は、存在しない。
 したがって、本件団体交渉における会社の対応は、労組法7条2号の不当労働行為に当たる。
3 結論
 以上によれば、本件不支給が労組法7条1号の不当労働行為に、本件団体交渉における会社の対応が同条2号の不当労働行為にそれぞれ当たるとの判断に基づいて発せられた本件救済命令を違法ということはできない。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
岡山県労委平成22年(不)第4号 一部救済 平成23年8月8日
広島高裁平成24年(行コ)第13号 棄却 平成25年2月21日
 
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