労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  鈴蘭交通  
事件番号  札幌地裁平成23年(行ウ)第38号 
原告  鈴蘭交通株式会社 
被告  北海道(処分行政庁:北海道労働委員会) 
被告補助参加人  鈴蘭交通労働組合
全自交北海道地方連合会 
判決年月日  平成24年7月12日 
判決区分  棄却・却下 
重要度   
事件概要  1 会社が(1)グループ会社への営業車両10台の事業譲渡を理由に、組合の副執行委員長ら組合員を含む34名の嘱託乗務員を雇止め(以下「本件雇止め」という。)したこと、(2)本件雇止めにつき、いわゆる経営事項として団体交渉の議題とならないことや組合の交渉員に適格性がないことを理由に団体交渉に応じないこと、(3)組合費等のチェックオフを廃止すると一方的に通告したり、組合の執行委員長の経歴に係る誹謗的な発言をしたり、過去の組合役員の不祥事などに係る発言をしたこと等が、不当労働行為に当たるとして、北海道労委に救済申立てがあった事件である。
2 北海道労委は、会社に対し(1)組合の申し入れた本件雇止め等に関する団体交渉への誠実応諾、(2)組合に対する団体交渉拒否、組合の執行委員長の経歴に係る誹謗的発言等による組合への支配介入の禁止、(3)文書掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、会社が札幌地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、会社の請求を棄却ないし却下した。
判決主文  1 原告の請求第1項〔注;本件救済命令の取消請求〕を棄却する。
2 原告の請求第2項〔注;組合らの申立ての却下請求〕に係る訴えを却下する。
3 訴訟費用は、各補助参加によって生じたものも含めて原告の負担とする。  
判決の要旨  1 Y1常務らの発言①ないし④が労組法7条3号(支配介入)に該当するか(争点1)
(1) 使用者のある言動が支配介入に該当するか否かは、その言動の時期、場所、内容及び方法等の具体的事情を総合的に考慮して、当該言動が労働組合の結成や運営に対する使用者の干渉ないし組合弱体化行為といえるか否かを判断すべきである。
(2) Y1常務らの発言①ないし④〔注;発言①組合委員長が前職場で問題を起こしたかのような指摘等する発言、②組合が資金を不正流用し、組合役員らに貸し付けているのではないかと指摘する発言、③組合の元財政部長の組合資金横領につき刑事告訴しないのはおかしいのではないかと指摘する発言、④組合経理に不正があるかのような指摘をし、監査実施を迫る発言〕は、いずれも賃金引下げをめぐる会社と組合間の緊張関係が継続している状況下なされたといえる。
 しかし、発言①ないし④は、組合委員長が、Y1常務らからの質問に対し、組合において一部の組合員に貸付けをしている旨、貸付けについては組合の決算報告書に計上されていないことを認める回答をしたにもかかわらずなされたことに加え、発言①ないし④が、いずれも組合の経理運営の健全化を促すといった限度を超えた、同組合の組織運営や活動を萎縮させ、弱体化させる使用者の干渉・介入行為と評価されるべきことは明らかである。
 よって、発言①ないし④は、いずれも労組法7条3号(支配介入)に該当する不当労働行為であると認められる。
2 本件雇止めに関する団体交渉申入れへの会社の対応が労組法7条2号(団体交渉拒否)及び3号(支配介入)に該当するか(争点2)
(1) 組合の会社に対する一連の団体交渉申入れは、いずれも本件雇止めを団体交渉事項とし、本件雇止めに関する事項が、組合員である労働者の労働条件その他の待遇に関する事項であって、使用者に処分可能なものであることは明らかであり、義務的団交事項に該当すると認められる。
(2) なお、組合が、会社に対し、団体交渉において、本件雇止めに関する事項の判断を第三者機関(処分行政庁や裁判所)にゆだねているので団体交渉事項ではないことを確認していた旨の会社主張事実は、これを認めるべき証拠がない。
(3) また、組合副委員長は、会社を雇止めされた後も、雇止めの効力を争いつつ、組合の副執行委員長として、組合から団体交渉権限の委任を受けた地位にあると認められるところ、その間、他社で稼働した事実があったとしても、自らの雇止めの効力を争う一方で、現実の収入を得る必要からなされたというべきで、他社での稼働の事実をもって、組合副委員長の交渉担当者としての地位(労組法6条)を否定すべき理由はない。
(4) 以上によれば、会社が、本件雇止めに関する事項について、一連の団体交渉申入れに応じないことは、いずれも正当な理由のない団体交渉拒否として、労組法7条2号(団体交渉拒否)に該当する不当労働行為であると認められる。
(5) さらに、会社が、一連の団体交渉申入れに正当な理由なく一貫して応じない態度を継続し、その際、組合員である労働者の労働条件その他の待遇に関する義務的団交事項であることが明らかな事項について、使用者の持つ経営権の本質に関わる経営事項であるとの不合理な見解を一貫して表明しつつ、組合側の特定の人物を団体交渉の場から排除することに固執する態度を示していたことに照らせば、会社の態度は、同時に、組合の活動を弱体化させるべく行われた使用者の干渉・介入行為であると認められる。
 よって、会社が一連の団体交渉申入れに正当な理由なく応じないことは、労組法7条3号(支配介入)にも該当する不当労働行為であると認められる。
3 組合の資格審査における瑕疵の有無が本件救済命令の取消しの可否に影響を与えるか(争点3)
(1) 処分行政庁が、組合の資格審査を行い、適格決定を行っている事実は明らかであるところ、会社は、本件救済命令の取消事由として、組合の資格審査における手続上及び実体上の瑕疵がある旨主張している。
 しかし、仮に資格審査の方法又は手続に瑕疵があり若しくは審査の結果に誤りがあるとしても、使用者は上記瑕疵や誤りの存在のみを理由として不当労働行為の救済命令の取消しを求めることはできない。
(2) なお、会社は、組合らによる本件救済申立てが本来却下されるべきであるとして、当裁判所に対し、本件救済申立てを却下するよう求めているが、処分行政庁に対する行政処分の申立てにつき、裁判所に対して一定の行政処分を行うことを求めるものであり、不適法であるし、仮に、これを義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項、37条の2、37条の3)をするものと解したとしても、訴えの提起の要件を欠くもので、不適法であって、却下を免れない。
4 結論
 以上によれば、本件救済命令は適法であり、会社の請求第1項は理由がないから棄却し、請求第2項に係る訴えは不適法であるから却下する。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
北海道労委平成21年(不)第33号 一部救済 平成23年7月22日
札幌高裁平成24年(行コ)第22号 棄却 平成25年1月25日
 
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