労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  平成タクシー  
事件番号  広島地裁平成23年(行ウ)第33号 
原告  有限会社平成タクシー  
被告  広島県(処分行政庁:広島県労働委員会) 
被告補助参加人  スクラムユニオン・ひろしま  
判決年月日  平成24年7月11日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 ①会社に組合の分会が結成されてから約1か月後に分会長X2が会社を離職したこと、②会社の社長Y1及び部長Y2が親和会(従業員の互助会、親睦会)の会合で組合への加入を規制する発言をしたこと、③Y1が組合員X4に対し、組合を否定する発言をしたこと、④Y2が組合委員長X1に対し、ビラ配布を規制する発言をしたこと、⑤会社が組合員X5について、従業員を組合に勧誘したことを理由に教育指導員から外したこと、⑥Y2が組合の副分会長X3に対し、人身事故の責任を問う発言をしたことが、不当労働行為に当たるとして、広島県労委に救済申立てがあった事件である。
2 広島県労委は、会社に対し、①教育指導の業務を命じるに当たっての、組合活動を理由とした差別的取扱いの禁止及び分会への加入を妨害する言動等による組合への支配介入の禁止、②組合への文書の交付・掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、会社が広島地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用及び補助参加費用は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 処分行政庁の審査手続における瑕疵の有無(争点1)
(1) 会社は、審査手続には、処分権主義〔注;訴訟の開始と終了、審判対象の特定等について当事者に決定権を認める原則〕、弁論主義〔注;裁判の基礎となる事実及び証拠の収集・提出を当事者の権能及び責任とする原則〕に反する瑕疵があり、それゆえ本件命令が違法であるように主張するが、労働委員会における調査、審問手続は、いわゆる準司法的な行為ではあっても、労働委員会という行政機関による救済手続であるから、厳格な意味での民事訴訟における処分権主義、弁論主義が適用されるわけではない。
 しかし、①労働委員会における審査の対象も申立ての対象となった「不当労働行為を構成する具体的事実」(労働委員会規則32条3号)に限定され、労働委員会は救済を申し立てられていない事実について命令を出すことはできないとされ、②労組法27条1項は、審問手続において使用者及び申立人に対し、証拠を提出し承認に反対尋問する十分な機会が与えられなければならないと規定する等の諸規定に照らせば、労働委員会における調査・審問手続においても不当労働行為を構成する事実が当事者双方に知らされ、右事実の認定につき当事者に十分な防御の機会が与えられることが求められているのであって、一方当事者の防御権行使の機会を奪うことは許されず、その機会を奪うことが場合によっては命令の瑕疵となって違法となる場合もあり得る。
(2) 元分会長X2の退職は、労働組合の正当な行為をしたことを理由とする不利益取扱い及び組合に対する支配介入に該当するか(本件事件争点1〔注;広島県労委で本件事件について整理された各争点をいう。〕)
 会社は、組合が、本件事件争点1について、会社による解雇が不当労働行為に当たるとしか主張していなかった(救済を申し立てなかった)にもかかわらず、処分行政庁が、組合が主張しなかった(救済を申し立てなかった)行為、すなわちX2が離職した際の合意書の作成過程における会社の行為を不当労働行為と認定したのは、会社にとって不意打ちであり、防御することが十分にできなかったから、処分行政庁の審査手続には瑕疵があり、本件命令は違法と主張する。
 しかし、組合の主張及び〔広島県労委の策定した〕審査計画における争点整理からすれば、組合の主張する不当労働行為を構成する具体的事実は、X2が解雇されたか否かという事実ではなく、X2が会社を離職するに至った経緯、事情を含めて主張し、救済を申し立てられていたことは明らかであり、会社にもそのことを前提に十分な防御の機会が与えられていたといえるから、処分行政庁が、X2が離職した際の合意書の作成過程における会社の行為を不当労働行為と認定して救済命令を発したとしても、組合の主張しない事実(救済を申し立てていない事実)を認定して救済命令を発したことにはならず、本件事件争点1について、処分行政庁の審査手続に瑕疵があるとは認められない。
(3) 親和会における、会社代表取締役Y1及び統轄管理部長Y2の発言は、組合に対する支配介入に該当するか(本件事件争点2)
 会社は、組合が、本件事件争点2について、親和会の会合におけるY1及びY2の「組合になびくな」との発言が不当労働行為に当たるとしか主張していなかった(救済を申し立てなかった)にもかかわらず、処分行政庁が、組合が主張しなかった(救済を申し立てなかった)行為(Y1及びY2は、分会の組合員〔注;組合員のほとんどはA班の乗務員〕とB班に所属する乗務員との離反を図り、分会への加入を妨害する反組合的意図をもった、「組合になびくな」と同趣旨の発言をしたこと)を不当労働行為と認定したのは、会社にとって不意打ちであり、防御することが十分にできなかったから、処分行政庁の審査手続には瑕疵があり、本件命令は違法と主張する。
 しかし、組合の主張及び審査計画における争点整理からすれば、組合の主張する不当労働行為を構成する具体的事実が、「組合になびくな」というような特定した言葉を発したか否かに限定されずに主張し、救済を申し立てられていたことは明らかであり、会社もそのことを前提に十分な防御の機会が与えられていたといえるから、処分行政庁が、発言内容を具体的に認定せずに「組合になびくな」と同趣旨の発言をしたという限度で認定して、これが不当労働行為であることを前提に救済命令を発したとしても、本件事件争点2について、処分行政庁の審査手続に瑕疵があるとは認められない。
(4) 会社が分会の組合員であったX5を教育指導員から外したことは、労働組合の正当な行為をしたことを理由とする不利益取扱い及び組合に対する支配介入に該当するか(本件事件争点5)
 会社は、組合が、本件事件争点5について、Y1によるX5を教育指導員から外すという行為が不当労働行為に当たるとしか主張していなかった(救済を申し立てなかった)にもかかわらず、処分行政庁が、組合が主張しなかった(救済を申し立てなかった)行為、すなわち、X5に対して新人乗務員への教育指導の業務を命じていないことを不当労働行為と認定したのは、会社にとって不意打ちであり、防御することが十分にできなかったから、処分行政庁の審査手続には瑕疵があり、本件命令は違法と主張する。
 しかし、①日常用語である「外す」という表現は、特定の地位から除外する意味だけでなく、ある役割を継続的に与えないことにも用いられるし、審査手続における組合の主張をみても、組合は、本件事件争点5について、教育指導員という地位から除外された趣旨で「外す」と主張していたのではなく、X5が従前は行っていた新人乗務員への教育指導の業務を行わなくなっているという状態が継続的に生じていることを主張していたことは明らかである。また、②会社は、本件事件争点5について、X5に教育指導員を命じなかったことは不当労働行為には当たらないとも反論している。
 これらのことからすれば、組合は、X5が新人乗務員への教育指導の業務を行う機会が与えられなかったことが不当労働行為に当たると主張し、救済を申し立てていたことは明らかであり、会社もそのことを前提に十分な防御の機会が与えられていたといえるから、処分行政庁が、X5に対して新人乗務員への教育指導の業務を命じていないことを不当労働行為と認定して救済命令を発したとしても、本件事件争点5について、処分行政庁の審査手続に瑕疵があるとは認められない。
2 X2が離職した際の合意書の作成過程における会社の行為は、組合に対する支配介入に該当するか(争点2ア)
 X2と会社の合意書の作成過程における会社の行為、具体的には、①X2の退職のために特別退職金を支給したり、②合意による退職であって会社都合退職ではないのに、X2にとって有利となる離職理由を「解雇」とする離職票を発行したり、③合意書についてX2に対して守秘義務を課すという一連の不可解不自然な行為は、X2の離職を利用して、分会の結成及び運営に介入し、分会の組合活動を萎縮させようとする意思のもとにされたことが推認されるから、一連の合意書作成過程における会社の不可解不自然な行為は、組合(ないし分会)の運営に対する支配介入に該当する。
3 Y1及びY2が親和会の会合において「組合になびくな」と同趣旨の発言をしたか否か、同発言をしたことは、組合に対する支配介入に該当するか(争点2イ)
(1) Y1及びY2が親和会の会合において「組合になびくな」と同趣旨の発言をしたか否か
 Y1及びY2が、親和会の会合において、分会への加入について何らかの発言をしたことは会社も自認するところであるが、同会合は組合が不審に思って警戒していた会合であり、組合及び分会は、会社に対して、親和会の会合の翌日に、Y1及びY2の発言について抗議文を送付していることが認められる。
 また、その当時、会社代表者は、第2回審問において、「組合になびくな」というような発言を否定しながらも、発言内容が、会社と分会が敵対的関係にあるかのような印象を与える内容であったことは否定していないから、これらを総合すると、Y1及びY2が、分会の組合員とB班に所属する乗務員との間の離反を図り、分会への加入を妨害する反組合的意図をもったと解される「組合になびくな」という趣旨の発言をしたと十分推認できる。
(2) Y1及びY2が親和会の会合において「組合になびくな」と同趣旨の発言をしたことが不当労働行為に当たるか
 ①Y1及びY2の上記発言は、分会が結成されたわずか1週間後の発言であり、勤務時間外とはいえ、私的な会合とはいえない従業員の親睦会である親和会の会合において、ほとんどが分会の会員ではないB班の乗務員に対してなされ、しかも、②Y1及びY2の上記発言は、分会への加入を働きかけられているB班の乗務員からの質問に対してなされたものであることからすれば、Y1及びY2の上記発言の背景には、B班の乗務員が分会へ加入することを阻止し、分会の活動及びその影響力が拡大することを妨げようとする意図があったことは推認でき、③その後も、分会の組合員のほとんどがA班の乗務員にとどまり、B班の乗務員の分会への加入がほとんどなかったことも併せ考慮すれば、Y1及びY2の上記発言は、組合(ないし分会)の運営に対する支配介入に該当する。
4 X5に対して新人乗務員への教育指導の業務を命じていないことは、労働組合の正当な行為をしたことを理由とする不利益取扱い及び組合に対する支配介入に該当するか(争点2ウ)
(1) X5に対して新人乗務員への教育指導の業務を命じていないことは、労働組合の正当な行為をしたことを理由とする不利益取扱いに該当するか
 Y1は、分会の活動や分会が影響力を拡大させることに対して敵対的な感情や嫌悪感を抱いていたと認められる。そして、①Y1は、X5が分会への加入を勧誘したことを知っていたこと、Y1が上記勧誘を知った日に近接した日から、X5が新人乗務員に対する指導を担当しなくなったこと、③X5が新人乗務員に対する指導を担当しなくなったことについては合理的な理由が全く見当たらないことなども併せ考慮すれば、Y1は、X5が分会への加入を勧誘したことを理由として、新人乗務員への教育指導の業務を命じないことにしたと認められる。
 また、新人乗務員に対する教育指導の業務を命じられなくなったとしても、必ずしも経済的な不利益を被るわけではないが、①新人乗務員に対する教育指導は、一応の重要性がある業務であったことがうかがわれること、②X5は、新人乗務員に対する指導を担当することについて自尊心を抱いていたことなどからすれば、新人乗務員に対する教育指導の業務を命じないことは、労働者に対する不利益取扱いに当たるといえる。
 これらのことからすれば、X5に対して新人乗務員への教育指導の業務を命じていないことは、労働組合の組合員であることの故をもって、労働者に対して不利益な取扱いをすることに該当する。
(2) X5に対して新人乗務員への教育指導の業務を命じていないことが、組合に対する支配介入に該当するか
 Y1は、X5が分会への加入を勧誘したことを理由として、X5に不利益を被らせたから、組合活動を萎縮させ、その拡大を阻もうとした意図があったことは明らかである。すると、X5に対して新人乗務員への教育指導の業務を命じていないことは、組合(ないし分会)の運営に対する支配介入に該当する。
5 以上のほか、救済方法の選択について、処分行政庁に裁量の逸脱濫用があったとは認め難いから、本件命令には取り消すべき違法はない。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
広島県労委平成22年(不)第3号 一部救済 平成23年7月12日
広島高裁平成24年(行コ)第18号 棄却 平成24年12月25日
 
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