概要情報
事件名 |
佐川急便 |
事件番号 |
東京高裁平成24年(行コ)第14号 |
控訴人 |
佐川急便株式会社 |
被控訴人 |
国(処分行政庁:中央労働委員会) |
被控訴人補助参加人 |
スクラムユニオン・ひろしま |
判決年月日 |
平成24年6月27日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 会社が、①組合に対し、労組法上の労働組合であることの証明を求めるなどして団体交渉の開催を引き延ばし、また、開催された団体交渉に誠実に応じなかったこと、②病気休職中の組合員X1に対し、職場復帰を強要したこと及び同人の休業補償給付支給請求に係る手続を遅延させたこと、③組合分会長X2に対し、傷病手当金支給申請に係る手続を遅延させたことが、不当労働行為に当たるとして、広島県労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審広島県労委は、上記①は団交拒否に該当するとして、誠実団交応諾を命じ、その余の申立てを棄却した。
会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、団交議題のうち一部は被救済利益が失われているとして、初審命令を一部変更し、残業代未払に関してのみ誠実団交応諾を命じた。
これに対し、会社は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
本件は、同地裁判決を不服として、会社が東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は、控訴を棄却した。
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判決主文 |
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
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判決の要旨 |
1 当裁判所も、控訴人の請求は、理由がないものと判断する。その理由は、後記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 団体交渉における会社の対応の不当労働行為該当性(争点1)
会社は、団体交渉で組合が会社に対して言論による批判や反論をすることなく一方的に席を立ったから、会社は団体交渉を拒否していない旨主張する。
しかし、原判決の認定のとおり、組合委員長が、会社側も出席者を事前に組合に知らせていないし、組合員X3は今日紹介したから、団体交渉を始めたいと述べたのに対し、会社側はなおX3の退席か組合の謝罪を求めて押し問答となり、その結果、組合側の出席者は席を立ったのであるから、組合は、会社に対し十分に批判や反論をしているというべきである。それにもかかわらず、会社は、団体交渉に応じなかったから、団体交渉を拒否したものというべきである。
(2) 残業代未払の議題は義務的団交事項に当たるか(争点2)
会社は、①本件命令の時点で組合の組合員に会社の従業員がいなくなった、②団交事項である残業代支払請求権は時効消滅しているから、会社に団交応諾義務はない旨主張する。
しかし、団交応諾義務の有無は、不当労働行為の成否に関わる要件であるから、団体交渉の時点を基準に判断すべきであり、団体交渉の時点で労働組合の組合員に使用者の従業員が存在していれば、使用者に団交応諾義務はあると解される。
また、仮に残業代支払請求権の消滅時効が完成しても、残業代の支払を求めて団体交渉すること自体が直ちに不当とはいえないし、時効の援用が信義則に反する等の理由により許されないこともあるから、仮に残業代支払請求権に時効消滅の要件が備わっているとしても、未払残業代を団体交渉における協議事項にすることは可能であり、使用者にはこれに関する団交応諾義務があると解される。
(3) 組合の不当労働行為救済申立て要件の有無(争点3)
会社は、組合においては、役員の無記名投票による選出がされていないし、「職業的に資格がある会計監査人」による証明書が添付された会計報告がされておらず、労組法上の労働組合としての適格に欠けるから、そのような組合からの不当労働行為救済申立ては、信義則違反であり、不当労働行為救済申立制度の濫用であるなどと主張する。
しかし、団体交渉は、労働条件に関する労働者の交渉力強化の手段であるから、労働者を代表する団体であれば、団体交渉の当事者としての適格を認めても不当ではないところ、労組法5条1項の資格審査は、労働組合が同法2条及び5条2項の要件を具備するように促進するという国家目的のための、労働委員会の国家に対する義務である。すると、労組法上の労働組合としての適格要件を一部充足しない団体による不当労働行為救済申立てであっても、当該団体に労働者を代表する実態があれば、不当労働行為救済申立て自体が、信義則違反であり、不当労働行為救済申立制度の濫用であるなどとはいえない。
また、組合に会社が主張するような事情があるとしても、組合は、団体交渉当時、会社の従業員であったX1、X2及びX3を代表していた団体であることが認められるから、組合による救済申立てが、信義則違反であり、不当労働行為救済申立制度の濫用であるとはいえない。
(4) 組合に被救済利益があるか(争点4)
会社は、①X1、X2及びX3は、本件命令の発令時までに、会社を退職し、組合の組合員に会社の従業員がいなくなった、②組合の組合員であるX2及びX3の会社に対する残業代支払請求権は時効消滅したから、組合に労働委員会の救済命令による被救済利益は存在しない旨主張する。
しかし、本件命令は、会社に対し残業代の支払に関する団体交渉に応じることを命じるものであるところ、会社の従業員であったX2及びX3はその地位を失っても会社に対し在職中に支払われなかった残業代を請求できるから、残業代の支払に関する団体交渉を命じることが、組合の組合員が会社の従業員としての地位を失ったという団体交渉後の事情変更により、救済の手段方法としての意味を失ったとまでいうことはできない。
また、前記(2)に説示のとおり、仮に残業代支払請求権の時効消滅の要件が備わっているとしても、会社には未払残業代についての団交応諾義務があると解される。
すると、組合には、未払残業代に関する団体交渉につき、労働委員会の救済命令による被救済利益を認めることができる。
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その他 |
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