労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  佐川急便 
事件番号  東京地裁平成22年(行ウ)第628号 
原告  佐川急便株式会社 
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被告補助参加人  スクラムユニオン・ひろしま 
判決年月日  平成23年12月26日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社が、①組合に対し、労組法上の労働組合であることの証明を求めるなどして団体交渉の開催を引き延ばし、また、開催された団体交渉に誠実に応じなかったこと、②病気休職中の組合員X1に対し、職場復帰を強要したこと及び同人の休業補償給付支給請求に係る手続を遅延させたこと、③組合分会長X2に対し、傷病手当金支給申請に係る手続を遅延させたことが、不当労働行為に当たるとして、広島県労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審広島県労委は、上記①は団交拒否に該当するとして、誠実団交応諾を命じ、その余の申立てを棄却した。
 会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、団交議題のうち一部は被救済利益が失われているとして、初審命令を一部変更し、残業代未払に関してのみ誠実団交応諾を命じた。
 本件は、これを不服として、会社が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 本件団体交渉における会社の対応の不当労働行為該当性(争点1)
 本件団体交渉の出席者に関する会社と組合間の合意事項は、5名以内という人数制限と、氏名・所属・役職を明らかにすることにとどまり、出席者の氏名等を事前に明らかにすることが合意されていたとは認められない。それなのに、会社は、組合員X3の氏名が事前に通知されていなかったことを問題視し、X3の退席か、組合の謝罪という合理的とはいえない二者択一を繰り返し迫ったことが認められるから、会社が、本件団体交渉の議題に入りたい旨の組合の求めを不合理な要求によって拒んだことは明らかであり、本件団体交渉での会社の対応は、誠意をもって団体交渉に当たらなかったものとして、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。

2 残業代未払の議題が、義務的団交事項に当たるか(争点2)
 使用者のいわゆる義務的団交事項は、団体交渉を申し入れた団体の構成員であり、かつ、当該使用者が雇用する労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者が決定することができるものと解するのが相当である。
 本件団体交渉当時、X2分会長及びX3は会社の従業員であり、残業代の未払という議題は、義務的団交事項に当たることは明らかである。
 会社は、本件団体交渉より後の時点で、X2分会長及びX3の残業代請求権に関する消滅時効の援用により、残業代未払という議題が遡及的に義務的団交事項ではなくなった旨主張するが、この主張は、不当労働行為の成否の問題と被救済利益の問題とを混同するものであって、採用する余地はない。

3 組合の不当労働行為救済申立て要件の有無(争点3)
 労組法5条1項の立法趣旨は、同法2条及び5条2項の要件を欠く組合の救済申立てを労働委員会に拒否させることにより、組合に上記の要件具備を促進することにあり、申立組合の上記要件具備の有無を審査し、要件を具備しないと認める場合に申立てを拒否するという労働委員会の義務は、上記目的に協力するという意味で国家に対し負うものであって、使用者の法的利益の保障の見地から使用者に対し負う義務ではないと解される。
 したがって、仮に労働委員会の上記要件具備の審査に誤りがあっても、それにより使用者の法的利益が害されるものではないから、行政事件訴訟法10条1項により、使用者は、労働委員会の上記審査の方法・手続に瑕疵があることや審査の結果に誤りがあることを理由として救済命令の取消を求めることはできない。

4 組合に被救済利益があるか(争点4)
(1) 会社は、本件命令発令時に、組合員である従業員はいなくなったから、被救済利益がない旨主張する。
 しかし、X2分会長及びX3の残業代の未払という問題は、その退職後でも、交渉による労使の合意により金銭的解決が可能な事項であるし、組合が、再び従業員を組合員として獲得する可能性がないとはいえないから、本件命令時に偶々組合員である従業員がいなくなったことだけを理由として被救済利益が失われたと解することはできない。
(2) 会社は、X2分会長及びX3の残業代請求権は、消滅時効の援用により消滅したから、X2分会長及びX3の残業代未払という議題について被救済利益がない旨主張する。
 しかし、本件命令当時、確定判決により上記請求権が存在しないことが当事者間で確定していたわけではないから、労使間の交渉による解決の余地が十分にあると認めるのが相当であり、この主張は、上記判断を左右するものではない。
(3) なお、会社は、本件団体交渉当時組合員であった従業員が、本件命令発令時までに会社を退職し、従業員である組合員が存在しなくなったことにより、組合が遡及的に「使用者が雇用する労働者の代表者」(労組法7条2号)ではなくなったかのような主張をする。
 しかし、不当労働行為の成否の問題と被救済利益の有無の問題とを混同するものである。本件団体交渉当時、組合員であった従業員は存在したのであるから、組合は使用者が雇用する労働者の代表者だったのであり、その後、本件命令発令時までに当該従業員が退職しても、組合が遡及的に使用者が雇用する労働者の代表者だった事実が覆されるものではない。

5 結論
 以上によれば、本件団体交渉での会社の対応は労組法7条2号に該当する不当労働行為であり、被救済利益も認められるから、会社に対し残業代の未払に関する団体交渉に速やかに応ずることを命じた本件命令に違法はない。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
広島県労委平成20年(不)第1号 一部救済 平成21年6月26日
中労委平成21年(不再)第23号 一部変更 平成22年9月15日
東京高裁平成24年(行コ)第14号 棄却 平成24年6月27日
 
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