概要情報
事件名 |
三交タクシー |
事件番号 |
東京地裁平成23年(行ウ)第209号 |
原告 |
株式会社三交タクシー |
被告 |
国(処分行政庁:中央労働委員会) |
被告補助参加人 |
自交総連三交タクシー労働組合
自交総連なら合同労組 |
判決年月日 |
平成24年2月16日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
重要命令に係る判決 |
事件概要 |
1 組合とその上部団体である合同労組は、連名で平成21年7月27日付け労働組合結成通知を会社に送付し、同日付け、同年8月20日付け及び同月27日付けで団体交渉申入れを行ったが、会社は、組合と合同労組の関係について釈明を求めるなどして、団体交渉に応じなかったことが、不当労働行為に当たるとして、奈良県労委に救済申立てがあった事件である。
2 奈良県労委は、会社が団体交渉に応じなかったことは労組法7条2号の不当労働行為に当たるとして、会社に対し、①誠実団交応諾、②文書手交・掲示を命じた。
会社は、これを不服として、再審査を申し立てたが、中労委は再審査申立てを棄却した。
本件は、これを不服として、会社が、東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
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判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含め、原告の負担とする。
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判決の要旨 |
1 労働委員会における手続の違法の有無(争点1)
(1) 労働者委員について
労組法は、不当労働行為救済申立事件の審査等は、準司法的・判定的作用であるから、労働委員会の公益委員のみが参与し、ただし、各要件を満たす場合には使用者委員及び労働者委員は、調査及び審問を行う手続に参与できると規定(同法24条1項)しており、労働者委員の参与は必要的でない。
会社は、参与委員について除斥、忌避、回避は予定されていないのに審問に労働者委員が参与しなかったことが不公正・違法であると主張するが、これは、上述の労組法の規定に照らして、前提を欠く失当な主張である。
(2) 公益委員の構成について
〔会社は、公益委員のうち両名は、同一事務所の弁護士で、公正さを信頼できないと感じ得るから、公正さを欠き、本件命令はこの点を判断しておらず、違法と主張する。
しかし、〕会社の公益委員に関する主張は、2人の公益委員同士の関係の主張であり、具体的な事件と公益委員との間の関係を主張するものではなく、除斥事由や忌避事由(労組法27条の2、3)に該当しないし、独自の経験則及び見解に基づく主張で、採用する余地はない。
(3) 管轄違背の主張について
〔会社は、会社の営業区域、組合員が会社に届けている住所及び不当労働行為の場所は、いずれも三重県であり、三重県が管轄地として最も適切であるのに、組合らは、本件事件とは関係がなくかつ審査が極めて不公正となる(奈良)県労委に申し立てており、本件申立ては権利の濫用で、管轄違背の違法があると主張する。
しかし、〕組合らが、その所在地を管轄する(奈良)県労委に申し立てたことは管轄違背にならない(労組法施行令27条1項)し、会社が不公正と主張する内容は、憶測に基づくものだから、採用する余地はない。
(4) 審問について
〔会社は、中労委での再審査手続の証人尋問の際、組合ら代理人による反対尋問事項でない事項に関する尋問に対して、会社代理人が異議をしたのに、審査委員は、応答せず、尋問制限を行わなかったところの証人尋問手続は労働委員会規則41条の15第4項に反し違法と主張する。〕
審査委員は、尋問が既に行われたものと重複するとき、又は争点に関係のない事項にわたるとき、その他適当でないと認めるときは、これを制限できる(労働委員会規則41条の15第4項)。組合の結成直後から、割増賃金の支払を団交事項としている状況下で、総務部労務課長に対して労働基準法37条違反で是正勧告を受けたかという趣旨の組合らの反対尋問を制限する裁量権を行使しなかったことが、裁量権の逸脱、濫用に該当すると解する余地はない。
2 組合らの申立適格の有無(争点2)
労組法上の労働組合とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう(労組法2条)。
組合は、平成21年7月27日に設立され、組合規約を有し、結成当初、組合員が8名程度おり、委員長が結成通知を会社に持参しており、その要求事項も、当初の基本的要求から、組合員に関する個別の問題を議題としており、会社の労働者を組合員とする労組法上の労働組合としての実体を十分に有するといえる。
会社は、組合が、組合活動や要求事項を合同労組に丸投げし、組合規約等も合同労組が一方的に作成しており、労働組合の実体を欠いていると主張し、その具体的根拠を、委員長が、団体交渉事項に対する具体的質問に対応できなかったことに求めているようである。
しかし、上記発言は、委員長が、専務に不意に本社に呼びつけられ、いきなり質問されるという状況下での発言であり、仮に委員長が頼りのない発言をしたと理解できるとしても、上記の状況に照らせば、直ちに組合が労働組合の実体を欠いていると断ずるのは、飛躍した論理で、失当な主張である。
したがって、組合には、申立適格に欠けるところはないし、組合規約の下で、上部団体として活動する合同労組も、申立適格に欠けるところはない。
3 会社の団交不応諾の有無(争点3)
会社は、専務が委員長と面談したことを予備折衝とし、団体交渉事項について質問しても、委員長が、組合ら連名の団体交渉事項の存在及び内容について把握していない様子が窺われ、組合の実態がないとの疑いを抱いたことを、団交拒否の正当な理由とするようである。
しかし、①会社は、(平成21年)7月段階から、労働組合結成通知及び組合加入通知を受領し、かつ、インターネットで合同労組の内容を認識することにより、組合が会社の従業員を組合員とする労働組合で、合同労組が組合の上部団体で、どのような活動をしている労働組合かを認識していたこと、②そのような状況下で、専務は、事前に何を協議するかを特に明示することなく、不意に委員長を本社に呼びつけ、不十分な対応をした委員長が 退席しようとするのを押しとどめて、組合ら連名の書面による団体交渉事項について、問い詰めるという態様の面談を行い、その間、団体交渉を、いつ、どのようなかたちで開催するかについては、具体的提案等を一切行っていないこと、③合同労組が、会社のこのような面談による運用に厳重抗議をして団体交渉の開催を求めたのに対し、委員長と話をすると回答して、団体交渉に関する具体的提案を、合同労組にはもとより、組合にも行っていない。
すると、会社は、組合が会社の労働者による労働組合であることを認識し、合同労組がその上部団体として活動していることを認識しながら、不意に呼びつけた委員長が頼りない回答をすることに名を借りて、団体交渉に関する具体的提案を一切拒否していると評価すべきであり、予備折衝を行っているとして団交拒否に正当な理由を見出す余地はない。
以上のとおり、会社が団体交渉の日時を提示していない点については、正当な理由がないから、会社の行為は、団交拒否として、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。
4 救済内容の裁量権の逸脱の有無(争点4)
労働委員会は、事案に応じた適切な是正措置を決定し命令する権限を有するから、不当労働行為に対してどのような救済方法を命じるかは、労働委員会に裁量がある。
組合らは、平成21年8月27日、組合員の雇用保険未加入問題を議題とする旨通知しているところ、会社は、この問題は解決していると主張するが、仮に私法上は解決ずみであったとしても、組合らが団体交渉で説明を求めたことに対して、会社が応じず、団体交渉の場で説明していない以上、これについて団交応諾を命じた本件命令が、裁量権の濫用、逸脱に該当すると評価する余地はない。
会社は、ポストノーティスの命令は、裁量権の逸脱であると主張する。
しかし、会社が、平成21年7月~同年9月の間団体交渉に応じず、組合らの本件救済申立て後も、組合らが繰り返し団交開催を要求していたのに、平成23年5月まで応じていないという状況を考えれば、今後の正常な労使関係秩序の構築を期するという観点から、同様の不当労働行為を繰り返さない旨の文書手交及び掲示を命じたことは、むしろ適切な裁量権の行使であるというべきで、その濫用を論じる余地はない。
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その他 |
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