労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  クボタ 
事件番号  東京高裁平成23年(行コ)第145号 
控訴人  株式会社クボタ 
被控訴人  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  全日本港湾労働組合関西地方大阪支部 
判決年月日  平成23年12月21日 
判決区分  棄却 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 会社は平成19年1月26日、工場で就労している派遣労働者を、同年4月1日を目途に直接雇用すること(以下「直雇用化」という。)を決定し、その後、組合は、直雇用化実施前の2月1日に会社に団体交渉を申し入れたところ、会社は2月26日に1度は団体交渉(以下「第1回団体交渉」という。)に応じたものの、2月28日、3月14日及び3月23日付けの4月1日以降における組合員の労働条件等に係る団体交渉申入れ(以下「本件団体交渉申入れ」という。)に対して、直雇用化が実施されるまでの間、応じなかった。
 このため、会社が、①2月1日の団体交渉申入れに対して2月23日の団体交渉開催を提案する一方で、それ以前の2月16日に、組合に事前通知することなく組合員らに対し、直雇用化後の労働条件についての説明会を実施したこと、②組合からの本件団体交渉申入れに応じなかったことが、それぞれ労組法7条3号、同条2号の不当労働行為に当たるとして、大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪府労委は、①会社が第1回団体交渉開催以降、直雇用化実施までの間に本件団体交渉申入れに応じなかったことは、労組法7条2号の不当労働行為に当たるとして、会社に対し文書手交を命じ、②その余の申立ては棄却した。
 会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令主文1項を一部訂正(今後の労使関係の運営において、適切な時期に団体交渉が実施されることを期するという趣旨を明確にするために、手交する文書の内容を一部訂正)した上で、棄却した。
 これに対し、会社は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は会社の請求を棄却した。
 本件は、同地裁判決を不服として、会社が東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は控訴を棄却した。
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。  
判決の要旨  1 当裁判所も、会社は労組法7条にいう「使用者」に該当し、本件団体交渉申入れには労働条件に関する義務的団体交渉事項が含まれるところ、会社は正当な理由なくこれを拒んだものであって、不当労働行為(労組法7条2号)に該当し、救済の利益も認め得るから、本件命令は適法であって、会社の請求は、理由がないと判断する。その理由は、以下のとおりである。
2 本件団体交渉申入れに係る会社の使用者性(争点1)
(1) 労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意した場合には、賃金の確定額等労働条件の内容について合意に至っていない事項があるときでも、労働契約の成立は妨げられない。
 したがって、会社と本件組合員ら7名は、平成19年4月1日以降、本件組合員ら7名が会社に使用されて労働し、会社がこれに対して上記金額の賃金を支払うことを合意したと認められ、平成19年2月28日時点で、同年4月1日を就労の始期とする労働契約が成立したと認められる。
(2)ア これに対し、会社は、本件組合員らが会社の提示した労働条件のうち、有期雇用である部分及び有期雇用契約の更新回数の制限を設けた部分について異議をとどめ、承諾していないことを明言し、交渉の内容次第では、本件組合員らが会社と労働契約を締結しないことを示唆していたと主張し、本件組合員ら7名及び組合は、会社が提示した条件のうち、有期雇用であること、更新回数が制限されていることについて、変更を求めて交渉する意思を有していたことが認められる。
 しかし、最大2年間の有期雇用契約である限り労働契約を締結することを確定的に拒否する旨を述べるものとは認めるに足りないし、本件組合員ら7名が「契約社員の採用申し込みを受け、自分の意思により、平成19年4月1日より契約社員として入社します」との記載がある「同意書」に加除訂正を加えることなく署名・捺印して会社に提出しており、その後本件組合員らが会社に提出した文書においても、本件「同意書」を撤回、修正する旨の記載がないことに照らすならば、前記(1)判示の内容で労働契約を締結することを前提として、雇用期間についての契約内容の変更を交渉の対象とする意向を示したにとどまると認められ、前記(1)判示の内容の労働契約が成立したとの前記認定判断を左右するには足りない。
 イ 会社は、前記同意書を提出した本件組合員ら7名に対し、平成19年3月14日付けで「契約社員労働条件通知書」を交付し、また、X1は平成19年3月28日付けで、X2、X3、X4は同月29日付けで、会社に対し、「契約社員労働契約書」を提出したことから、会社と本件組合員ら7名との間で労働契約が成立したのは、同時点以降であるとも主張する。
 しかし、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意した場合には、賃金の確定額等労働条件の内容について合意に至っていない事項があるときでも、労働契約の成立は妨げられないというべきところ、会社と本件組合員ら7名は、平成19年2月28日の時点で、同年4月1日以降、本件組合員ら7名が会社に使用されて労働し、会社がこれに対して賃金を支払う旨の合意をしたばかりでなく、労働条件についても、本件労働条件等に関する書面記載の内容の合意をしたと認められることなど前記(1)判示の各点を総合すれば、労働条件の詳細までが定まった平成19年3月28日ないし29日の時点で、「契約社員労働契約書」を作成したことをもって、同年2月28日の時点で、前記(1)判示の内容で労働契約が締結されたとの前記認定判断を左右するには足りない。
(3) 以上によれば、本件団体交渉申入れ時点で、会社は労組法7条の「使用者」に該当し、組合は同条2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」に該当することは明らかである。
(4) のみならず、平成19年2月28日の時点で、本件組合員ら7名と会社との間で同年4月1日を就労の始期とする労働契約が成立したとまでは認められないと判断する余地があるとしても、労組法7条にいう使用者には、当該労働者と近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性の存する者もこれに該当すると解すべきところ、本件団体交渉申入れが行われた各時点において、会社は、本件組合員らと近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性の存する状態にあり、同法7条にいう使用者に当たると解すべきであり、その理由は、原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」1に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 本件団体交渉申入れに応じなかったことの不当労働行為該当性(争点2)
(1) 当裁判所も、会社が本件団体交渉申入れに応じなかったことは不当労働行為に該当すると判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」2に記載のとおりであるから、これを引用する。
(2) 原判決に、以下のとおり加える。
「 これに対し、会社は、組合が申し入れた交渉議題が義務的団体交渉事項に当たらないと主張する。
 しかし、会社の主張は、本件団体交渉申入れ時点で会社と本件組合員ら7名間の労働契約が成立していないことを前提とするものであるところ、会社と本件組合員ら7名との間で平成19年2月28日に同年4月1日を就労の始期とする労働契約が成立していたと認められることは前判示のとおりであり、本件団体交渉申入れ時点において会社と本件組合員ら7名は、既に労働契約関係にあったから、上記労働契約に係る労働条件は義務的団体交渉事項であると認められる。
 また、仮に上記労働契約が成立したとまでは認められないと判断する余地があるとしても、本件団体交渉申入れが行われた時点において、会社が、本件組合員らと近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性の存する状態にあり、同法7条にいう使用者に当たると解すべきことも前判示のとおりであり、本件団体交渉申入れの議題が、同法7条にいう使用者たる会社と本件組合員らの直雇用化後の労働条件に関するもので、直雇用化実施前の段階で団体交渉を開催する必要性が十分に高かったことなど前判示の各点に照らせば、上記議題は義務的団体交渉事項であると認められ、会社の主張は採用できない。」
4 本件に係る救済利益の存否(争点3)
(1) ①会社の本件団体交渉申入れを拒む行為は労組法7条2号の不当労働行為に該当することは前判示のとおりであるが、会社は、不当労働行為に当たることをなお否定している。その上、②会社と本件組合員らとの間では、雇用期間等の問題について現時点においても妥協点を見出して合意するには至っていないこと、③会社と本件組合員らとの労働契約は平成21年3月31日をもって終了とされているが、会社と本件組合員らとの間では、本件口頭弁論終結時においても雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める訴えが係属中であること、④組合は、現在においても、本件組合員らと会社との間の紛争を団体交渉により解決する意向を有していることが認められる。
 以上の点を総合すれば、労働委員会において、会社が労組法7条の「使用者」に該当すること、会社の本件団体交渉申入れを拒む行為が同条2号の「正当な理由」がないことについて判断を示して、本件団体交渉申入れを拒んだ会社の責任を明確にした上で、同様の不当労働行為を繰り返さない旨の文書を手交させる必要性はなお認められ、救済利益は失われていないと認められる。
(2) これに対し、会社は、①組合との間で、平成19年4月19日には第2回目の団体交渉を行い、本件命令がされた平成21年9月2日までの間、合計23回の団体交渉を行っており、団体交渉を実質的に行っていること、②本件命令がされた時点において、会社と本件組合員らとの間に労働契約は存在していない上、会社が本件組合員らに対して、労働契約の申込みを行うという事態は想定できず、将来、同様の事態が発生することを予防する必要性は認められないことから、救済利益がないと主張する。
 しかし、①会社は、本件団体交渉申入れを正当な理由なく拒み、団体交渉を行うべき時期に拒否する不当労働行為をしたが、これが不当労働行為に当たることをなお否定しており、直雇用化後の団体交渉を通じても会社と本件組合員らとの間では妥協点を見いだして合意に至っていないこと、②組合が今後も団体交渉による解決を望んでいることなど上記判示の各点に照らせば、会社が将来団体交渉を正当な理由なく拒むことを予防する必要性がないとは認めるに足りず、会社の主張は採用できない。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成19年(不)第11号 一部救済 平成20年10月27日
中労委平成20年(不再)第41号 棄却 平成21年9月2日
東京地裁平成21年(行ウ)第550号 棄却 平成23年3月17日
 
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