労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る]  [顛末情報]
概要情報
事件名  クボタ
事件番号  東京地裁平成21年(行ウ)第550号
原告  株式会社クボタ
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会)
被告補助参加人  全日本港湾労働組合関西地方大阪支部
判決年月日  平成23年3月17日
判決区分  棄却
重要度  重要命令に係る判決
事件概要  1 会社は平成19年1月26日、工場で就労している派遣労働者を、同年4月1日を目途に直接雇用すること(以下「直雇用化」という。)を決定し、その後、組合は、直雇用化実施前の2月1日に会社に団体交渉を申し入れたところ、会社は2月26日に1度は団体交渉(以下「第1回団体交渉」という。)に応じたものの、2月28日、3月14日及び3月23日付けの4月1日以降における組合員の労働条件等に係る団体交渉申入れ(以下「本件団体交渉申入れ」という。)に対して、直雇用化が実施されるまでの間、これに応じなかった。
 このため、会社が、①2月1日の団体交渉申入れに対して2月23日の団体交渉開催を提案する一方で、それ以前の2月16日に、組合に事前通知することなく組合員らに対し、直雇用化後の労働条件についての説明会を実施したこと、②組合からの本件団体交渉申入れに応じなかったことが、それぞれ労組法7条3号、同条2号の不当労働行為に当たるとして、大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪府労委は、①会社が第1回団体交渉開催以降、直雇用化実施までの間に本件団体交渉申入れに応じなかったことは、労組法7条2号の不当労働行為に当たるとして、会社に対し文書手交を命じ、②その余の申立ては棄却した。
 会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、手交文書の内容を一部訂正(今後の労使関係の運営において、適切な時期に団体交渉が実施されることを期するという趣旨を明確にするために、初審命令主文1項を訂正。)した上で、これを棄却した。
 本件は、これを不服として、会社が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決の要旨  1 本件団体交渉申入れに係る原告の使用者性(争点1)
(1) ①不当労働行為救済制度の目的が、労働者が団体交渉その他の団体行動のために労働組合を組織し運営することを擁護すること及び労働協約の締結を主目的とした団体交渉を助成することにあることや、②団体労使関係が、労働契約関係又はそれに隣接ないし近似した関係をその基盤として労働者の労働関係上の諸利益についての交渉を中心として展開されることからすれば、不当労働行為禁止規定(労組法7条)における「使用者」は、労働契約関係ないしはそれに隣接ないし近似する関係を基盤として成立する団体労使関係上の一方当事者を意味し、労働契約上の雇用主が基本的に該当するものの、雇用主以外の者であっても、当該労働者との間に、近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する者も、該当すると解すべきである。
(2) ①組合員は、本件派遣契約締結前から長期間にわたり、原告の工場でA商会の従業員又は派遣労働者として就労していたこと、②原告は、工場で勤務している派遣労働者を派遣している各社に対して直雇用化の予定を通知するなどしたこと、③直雇用化に当たっては、希望すれば原告の契約社員として採用されることとなっていたこと等の事実によれば、遅くとも本件団体交渉申入れが行われた平成19年2月28日、3月14日及び3月23日の各時点においては、原告は、近い将来において組合員らと労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する状態にあったものであり、当該時点において、労働契約関係ないしはそれに隣接ないし近似する関係を基盤として成立する団体労使関係上の一方当事者として、本件団体交渉申入れに応ずるべき労組法7条の使用者に該当していたものというべきである。
2 本件団体交渉申入れに応じなかったことの不当労働行為該当性(争点2)
(1) 本件団体交渉申入れの交渉議題は、①契約社員の就業規則、②平成19年4月以降の組合員の賃金、③契約社員の雇用期間の根拠と契約更新の具体的条件、等いずれも直雇用化後の組合員の重要な労働条件に関するものである。
 また、組合にとって、直雇用化後の雇用期間に関して従前と比較して不利益が生じ得ることが、重大な関心事となっており、この点について特に交渉する必要に迫られていたものと認められる。
 そして、雇用期間等の労働条件については、直雇用化実施前の段階で、本件団体交渉申入れに係る交渉事項について団体交渉を開催する必要性は十分に高かったと認めることができる。
(2) 他方、本件団体交渉申入れに対する原告の態度は、①平成19年2月1日に団体交渉申入れを受けた際、既に直雇用化の方針を決定していたが、これを組合に対しては通知せず、②2月16日に開催された説明会で、直雇用化後の労働条件を初めて明らかにしたが、同説明会の開催及び内容について組合に対しては事前に全く通知せず、③2月28日付け団体交渉申入れに対し、3月中に団体交渉を持つことは考えていない旨回答するなど、原告の一連の対応を全体的に観察すれば、原告は、直雇用化後における雇用期間等の労働条件について、直雇用化実施前に組合と協議する姿勢を有していなかったものといわざるを得ない。
 原告は、直雇用化実施前に組合と協議・調整する姿勢を有しており、かつ、3月中の団体交渉に応じなかったことには正当な理由があった旨主張するが、しかしながら、①第1回団体交渉を開催したからといって、3月中の団体交渉に応じないことについての正当化理由になるものではなく、②4月1日の直雇用化までの時間的制約は原告が一方的に設定したもので、組合との協議に基づくものではないこと、仮に時間的制約の存在を認めるとしても、団体交渉の時間が減少した大きな要因として原告の態度が挙げられること、③使用者の団体交渉義務には、一般に、誠実に対応することを通じて合意達成の可能性を模索する義務(誠実交渉義務)が含まれることからすれば、組合において直雇用化実施前の段階で団体交渉を開催する必要性が認められたことにも鑑み、原告としては、団体交渉において、当該労働条件の設定に至る検討状況や将来的な見直しの可能性等について、説明や資料提示をするべきであったというべきであること、以上によれば、このような時間的制約をもって、原告が3月中の団体交渉に応じないことを正当化する理由にはならない。
 さらに、原告が第1回団体交渉における組合の指摘を踏まえて労働条件の修正を行っているとしても、組合が、特に直雇用化後に雇用期間について従前と比較して不利益が生じ得ることについて交渉する必要に迫られていたのであるから、原告には雇用期間等の労働条件に係る交渉事項について団体交渉に応じるべき義務があったといえる。
(3) 以上によれば、原告の行為は、正当な理由なく、本件団体交渉申入れに係る団体交渉を拒んだものとして、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。
3 本件に係る救済利益の存否
 直雇用化後の組合と原告との間の団体交渉で、組合員の雇用期間等の問題について妥協点を見出せておらず、現時点でも、今後の原告と組合との間の団体交渉に関し、原告が労組法7条の使用者性や同条2号の「正当な理由」について適切に判断することにより適切な時期に団体交渉が実施されることを期するという観点から、本件の救済方法として、本件不当労働行為に関する原告の責任を明確にした上で、原告に対し今後本件と同様の不当労働行為を繰り返さない旨の文書手交を命じる必要性(救済利益)があるというべきである。
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成19年(不)第11号 一部救済 平成20年10月27日
中労委平成20年(不再)第41号 棄却 平成21年9月2日
東京高裁平成23年(行コ)第145号 棄却 平成23年12月21日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約247KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。