労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る] [顛末情報]
概要情報
事件名  南労会(懲戒解雇・不誠実団交) 
事件番号  東京地裁平成21年(行ウ)第629号(第1事件)・平成22年(行ウ)第280号(第2事件) 
第1事件原告兼第2事件被告補助参加人  医療法人南労会 
第1事件被告補助参加人兼第2事件原告  全国金属機械労働組合港合同
全国金属機械労働組合港合同南労会支部 
第1事件被告兼第2事件被告  国(処分行政庁:中央労働員会) 
判決年月日  平成23年12月12日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 医療法人が、①デイケア事業を実施することに伴い、組合副執行委員長X1に対し、同事業に関連するリハビリ業務を担当するように業務指示を行ったこと、②この業務指示を拒否したことを理由に、同人を懲戒解雇したこと、③鍼灸治療室を縮小したこと、及び④これらの事項に関する団体交渉に誠実に対応しなかったことが、不当労働行為に当たるとして、大阪地労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪地労委は、上記1のうち、①本件懲戒解雇処分は労組法7 条1 号及び3 号に該当する不当労働行為であるとして、本件懲戒解雇がなかったものとしての取扱いを、②デイケア事業の実施等に関する団体交渉における医療法人の対応は同条2 号に該当する不当労働行為であるとして、誠実団交応諾を、並びに③上記①及び②に関する文書手交を命じ、その余の救済申立てを棄却した。
 医療法人及び組合らは、これを不服として、それぞれ再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令主文を変更し、①本件懲戒解雇処分がなかったものとしての取扱いを命じた部分を取り消し、②本件団体交渉について、不誠実団交を繰り返さない旨の文書手交を命じたほか、③その余の医療法人の再審査申立てを棄却するとともに、④組合らの本件再審査申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、医療法人及び組合らが、それぞれ東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、医療法人及び組合らの請求をいずれも棄却した。
判決主文  1 第1事件原告の請求を棄却する。
2 第2事件原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用(補助参加費用も含む。)は、第1事件について生じた部分は第1事件原告の負担とし、第2事件について生じた部分は第2事件原告らの負担とする。 
判決の要旨  1 本件団交における医療法人の対応は労組法7条2号の不当労働行為に該当するか(争点1)
(1) デイケア事業の実施、鍼灸治療室の縮小、10.22業務指示は、義務的団交事項に該当すること
 ①デイケア事業の実施は、組合員の配置転換や業務分担の変更を生じさせる可能性が高く、また、②鍼灸治療室の縮小は、これに伴って鍼灸治療室で就労している組合員らの労働環境に影響を及ぼす可能性が高いといえ、③10.22業務指示〔注;平成11年10月22日付けのデイケア事業に関するX1副委員長に対する業務指示〕によりX1副委員長の業務内容や実際に就労すべき勤務時間の変更をもたらすことは明らかであるから、デイケア事業の実施、鍼灸治療室の縮小、10.22業務指示は、義務的団交事項に該当する。
(2) 9.10要請行動、10.14訪問により団交開催の必要がなくなったとまでは言えないこと
 医療法人は、組合らの行った9.10要請行動〔注;医療法人によるデイケア事業実施を認めないよう平成11年9月10日に大阪府国民健康保険課(以下「国保課」という。)を訪れ、行った要請行動〕やX1副委員長の10.14訪問〔注;平成11年10月14日の国保課訪問による担当者に対する医療法人の業務命令に従わずデイケア事業の担当業務につかない意思の表明〕により、組合らやX1副委員長のデイケア事業を拒否する意思は明確であった以上、団交を開催する必要はなくなったと主張する。
 しかし、9.10要請行動、10.14訪問後の10月22日団交においても、組合らは、医療法人に対して、デイケア事業の実施計画等について具体的な説明を求めており、その後の10月30日にもデイケア事業について団交を求めていた状況からすると、本件においては、労使が交渉を尽くした上で、交渉が行き詰まり状態に至ったものとまではいえない。
(3) 本件団交における医療法人の対応は正当とはいえず、誠実とは認められないこと
 ①医療法人は、9月3日団交において、組合らからデイケア事業の実施に伴う組合員らの労働条件変更問題に関する協議の要求に対し、団体交渉の議題ではないとして団交を打ち切っている。②その後の10月4日団交でも、医療法人はX1副委員長の勤務内容の変更は労働条件の変更に当たらず、団交で協議する必要はないと答えるに止まっている。③10月22日団交でも、医療法人は、10.22業務指示書を組合らに手渡したものの、特段の説明を行っていない。④さらに、10月30日、支部からのデイケア事業の実施等に係る団交の開催要求に対して、追って回答するとして団交に応じるか否かを回答せず、結局デイケア事業の実施等に係る団交は開催されていない。
 すると、医療法人は、デイケア事業の実施等に伴う組合員らの労働条件変更に関して説明を行ったとはいえず、その対応は誠実とは認められない。
(4) 以上からすると、デイケア事業の実施等に関する団交における医療法人の対応は、義務的団交事項についての団交の要求に対して誠実に対応したとはいえず、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。
2 本件懲戒解雇処分は労組法7条1号又は3号の不当労働行為に該当するか(争点2)
(1) 本件懲戒解雇処分は正当であること
 X1副委員長が、デイケア事業に従事する旨の10.22業務指示を拒否していたことは明らかであり、かかるX1副委員長の行為により、国保課に対して本件免許証の提出が遅れたり、10月28日に理事が提出しようとした本件届出書の受理が国保課に拒まれる等しており、医療法人のデイケア事業の開始が遅れ、同事業に支障を生じさせたことは明らかである。
 かかるX1副委員長の行為は、就業規則の「故意による行為で業務に重大な支障を来たし、又は重大な損害を与えたとき」に該当する。
 このように、本件懲戒解雇処分の直接の原因は、X1副委員長が10.22業務指示を拒否したことにあり、かかる行為は、組合員であると否とを問わず懲戒に値するから、本件懲戒解雇処分がX1副委員長の組合活動を嫌悪して行われた不利益取扱いということはできないし、組合らの弱体化を企図したものということもできない。本件懲戒解雇処分は正当であって、不当労働行為に該当しない。
(2) 組合らの主張について
 ア 組合らは、本件懲戒解雇処分に懲戒事由が存在しないと主張し、①本件懲戒解雇処分時にX1副委員長の業務内容を変更する期日は到来していない、②X1副委員長は、組合らと10.22業務指示に従うことについて方針を検討していた、③X1副委員長は、10.14訪問の際、国保課にデイケア事業の業務に従事しないと告げておらず、団交を求める組合らの姿勢を説明しただけであるなどと主張する。
 しかしながら、①の主張については、そうであるとしても、X1副委員長が10.22業務指示を拒否する意思を明らかにしている以上、本件懲戒解雇処分の事由が存しないことになるものではない。②の主張については、X1副委員長も当時、具体的な検討には至っていなかったと述べており、その他、組合らの主張を認めるに足りる的確な証拠はない。また、③の主張も認められない。
 イ 組合らは、10.22業務指示は、医療法人の徹底した団交拒否の上で出されたものであり、不当と主張する。
 しかしながら、①医療法人は、(平成11年)8月26日、支部に対し、鍼灸治療室の縮小やデイケア事業の実施について、文書で協議を申し入れ、実際に9月3日団交が行われ、その後も組合らの求めに応じて10月4日団交、10月22日団交が行われていること、②10.22業務指示は、医療法人が9月13日にX1副委員長に本件免許証を提出するよう求めたが、すぐに応ぜず、10月13日に同免許証提出後もX1副委員長がデイケア事業への従事を拒否したことから出されたものであること、③10.22業務指示は、デイケア事業を開始するに当たり、理学療法士の資格を有するX1副委員長にデイケア事業に従事することを指示したものだから、使用者として必要な労務指揮を行ったもので一定の合理性を有することからすれば、10.22業務指示が徹底した団交拒否の上で出された不当なものとはいえない。
 ウ 組合らは、10.22業務指示は労使間で根本的な争いとなっていたX1副委員長の勤務時間等の変更を求めるもので不当と主張する。
 しかし、使用者は労働者に対して、労務指揮権を有しており、労使間で争いになっているからというだけで、およそ使用者が労働者に対して労務指揮ができなくなるとはいえない。そして、10.22業務指示の業務内容は、デイケア関連事業のリハビリ業務に毎週木曜日に従事するように指示したもので、X1副委員長に過重な業務を負担させるものとは認められない。
 エ 組合らは、10.22業務指示は府労委、中労委の救済命令に反する業務への従事を指示するもので、不当と主張する。
 しかしながら、①10.22業務指示が、当時、府労委及び中労委で不当労働行為に当たるとして救済命令が出されていた、3年変更〔注;平成3年の診療時間・勤務時間の変更〕、7年変更〔注;平成7年の週休2日制の導入・勤務時間の変更〕、11年変更〔注;平成11年の勤務時間・業務内容の変更〕を、いかなる点で前提としているのか判然とせず、また、②10.22業務指示が府労委、中労委の救済命令に一義的に反していると認めるに足りる的確な証拠もなく、さらに、③医療法人は、10.22業務指示を出すに当たって、9月3日団交、10月4日団交、10月22日団交を行っており、10.22業務指示が府労委、中労委の救済命令を無視するもので不当であるとまではいえない。
 オ 医療法人のデイケア事業の開始が遅れたのは、X1副委員長の言動が原因ではないとの主張について
 X1副委員長が、10月14日、国保課に対して、デイケア事業に従事しないという意思表示をし、そのために10月29日に理事が国保課に提出した本件届出書が受理されなかったことは明らかであり、このために医療法人のデイケア事業の実施が遅れたことは容易に推認できる。組合らの主張を根拠づける的確な証拠はない。
 カ 本件懲戒解雇処分が事前協議合意協定に反しているとの主張について
 確かに、本件懲戒解雇処分について、事前協議合意協定に基づく協議は行われていない。
 しかしながら、①事前協議合意協定の「経営計画、組織の変更等、労働条件の変更をともなう事項」との条項に照らすと、事前協議合意協定は組織変更等によって生じる全体の労働条件変更を協議の対象としたものとも考えられるから、本件懲戒解雇処分のような個別案件に係る個別の労働条件の変更についてまで協議の対象としたものであると解するには疑問が残る。また、②本件懲戒解雇処分には、懲戒処分に該当する事由が認められ、その判断に相当性が認められることからすると、本件懲戒解雇処分について事前協議合意協定に基づく協議が行われていないことをもって、本件懲戒解雇処分の不当労働行為性を基礎づけることはできない。
(3) 以上からすると、本件懲戒解雇処分は正当であり、労組法7条1号又は3号の不当労働行為に該当するとはいえない。
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪地労委平成11年(不)第93号・第96号 一部救済 平成14年 5月28日
大阪地裁平成14年(行ウ)第116号 棄却 平成15年 7月 9日
大阪高裁平成15年(行コ)第61号 棄却 平成16年 5月28日
中労委平成14年(不再)第25号・第29号 一部変更 平成21年11月4日
東京高裁平成24年(行コ)第17号 棄却 平成24年6月28日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約279KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。