労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  ザイオソフト 
事件番号  東京地裁平成23年(行ウ)第33号 
原告  ザイオソフト株式会社 
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被告補助参加人  全国一般東京一般労働組合 
判決年月日  平成23年10月19日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社が、組合の行った賃金・退職金制度の改善等を議題とする団体交渉申入れに対し、①組合員に使用者の利益代表者である者が含まれている、②具体的日程を決める前に時間帯、出席者、議題等を明確にするよう調整を求めるなどとして応じなかったことが、労組法7条2号の不当労働行為に当たるとして東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、会社に対し、賃金・退職金制度の改善等を議題とする団体交渉について、組合員に経営会議への出席者がいること等を理由に団体交渉を拒否することなく、速やかにかつ誠実に応じることを命じた。
 会社はこれを不服として、また、組合は初審命令が誓約文の交付及び掲示を命じなかったことを不服として、それぞれ再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令を一部変更して、誠実団交を命じるとともに、文書手交を命じた。
 本件は、これを不服として、会社が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は補助参加によって生じたものも含めて原告の負担とする。  
判決の要旨  1 組合の救済申立適格の有無について(争点1)
 会社は、組合が法適合組合に当たらず、不当労働行為事件の救済申立適格がない旨主張する。
 労組法5条が労働組合の資格に関する規定を置いた趣旨は、労働委員会をして同法2条及び5条2項の要件を欠く組合の救済申立てを拒否させることにより、間接的に、組合が各要件を具備するように促進することにあるから、労働委員会は、申立組合が上記要件を具備しないと認める場合にはその申立てを拒否すべき義務を負うと解すべきである。この義務は、労働委員会が、直接、国に対し負う責務で、使用者に対する義務ではないと解すべきであるから、使用者は、組合が同法2条の要件を具備しないことを不当労働行為の成立を否定する事由として主張することにより救済命令の取消しを求め得る場合があるのは別として、単に審査の方法ないし手続に瑕疵があること若しくは審査の結果に誤りがあることのみを理由として救済命令の取消しを求めることはできないと解される。
 すると、本件訴訟で組合の救済申立適格の不備を指摘する会社の主張は、労組法2条等の資格要件に関する労働委員会の審査の結果に誤りがあることをいうものであるから、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として本件処分の取消しを求めるもので、主張自体失当である。
2 会社による団体交拒否の正当性について(争点2)
(1)ア 労働組合が法適合組合に当たるためには、労組法2条及び5条2項の各要件を充足する必要がある。具体的には、①労働者が主体となって組織されたものであること(主体性)、②労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織されたものであること(目的性)、③自主的に組織されたものであること(自主性)、④団体又はその連合団体であること(団体性)のほか、⑤規約に労組法5条2項所定の必要的記載事項を定めることの各要件を充足する必要がある。
 組合は、(ア)関東一円にある中小企業で稼働する労働者が主体となって自主的に組織された法人格を有する団体であること、(イ)労働条件の維持改善のための活動等を目的としていること、(ウ)労組法5条2項所定の規約を有していること、(エ)平成20年10月当時、結成以来48年の歴史を有し、組合員として一部上場企業を含む90社を超える企業で稼働する労働者約5200名を擁していたこと、(オ)上部団体として日本労働組合総連合会(連合)に加盟し、主な組合活動として、春闘を始め職場環境の改善等の活動に取り組み、不当労働行為事件を担当し、連合の一員である組合の役員らの中には中労委の労働者委員等を始め各種公的役職を務めている者もいることが認められる。
 以上によれば、組合は、上記①ないし⑤の各要件を充足している。
 イ なお、会社は、①主体性の要件の該当性に関し、組合の構成員の大部分が会社との間で使用従属関係にないことを問題視するが、労組法7条2号所定の「使用者が雇用する労働者の代表者」としての労働組合の法適合組合性を基礎付ける①主体性の要件について、必ずしもその構成員の大部分が使用者である会社の指揮命令を受けるべき使用従属関係にある必要性はない。
 ウ ところで、会社は、③の自主性の要件に関し、経営会議への参加資格のあるマネージャー分会員らは利益代表者に当たるから、同要件を欠く旨主張する。
 しかし、(ア)マネージャー分会員らは、本件団体交渉申入れの当時、経営会議には参加していなかったこと、(イ)経営会議とは、就業規則上、「月例会議」にすぎず、会社には、その組織上の位置付けや権限についての明確な定めはない上、主に月次決算、製品の不具合等の日常的問題について各部署から報告されていたにすぎないこと、(ウ)会社の意思決定機関は、取締役会であったことが認められるから、必ずしもマネージャー分会員らが機密事項に接していたということはできない。また、マネージャー分会員らについて、「その職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接てい触する」(労組法2条ただし書1号)と認めることもできない。
 以上によれば、マネージャー分会員らは、利益代表者に当たるということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 エ すると、組合は、法適合組合に当たるということができるから、会社が組合の法適合組合性を否定して団体交渉を拒否することには正当の理由がない。
(2)ア 本件分会員らの加入する組合は、会社に対し、「現行の賃金制度について、具体的な資料を基に説明すると同時に、次の事項を改善されたい」として、「開発部の総額人件費を現行の2倍とし、分配されたい」等とする要求事項などをもって、本件団体交渉申入れをし、その後も団体交渉に応じるように繰り返し求めていたことが認められる。
 以上によれば、組合の求める団体交渉議題は、労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを内容とし、会社が団体交渉に応じることが可能である程度に特定されており、会社も、組合の求める要求事項等の内容及び団体交渉に向けての姿勢等を十分に理解していたということができる。
 イ そして、会社は、組合による本件団体交渉申入れの当初から、同人との通信を書面に限ることを求め、法適合組合性のほか団体交渉事項等に疑義を呈するとともに、団体交渉の日時・場所等について業務上の支障というほかには具体的理由を示さないまま、事実上、団体交渉の開催を拒否し続けたにもかかわらず、自らは代案を提案しないなどの態度に終始していることが認められる。
 さらに、会社は、団体交渉に本件分会員らのみが出席すべきと主張して組合の役員の出席を拒否したため、団体交渉は実施されなかったが、本件分会員らとの間の団体交渉において、本件分会員らの加入する法適合組合である組合の役員の出席を拒否することはできない。
(3) 以上によれば、会社の団体交渉拒否には正当の理由がない。
3 救済方法の相当性について(争点3)
(1) 会社の団体交渉拒否には正当の理由が認められず、その態様も、業務上の支障のみを理由に拒否し続ける一方、自らは日時・場所等の提案を一切せず、団体交渉議題にも疑義を呈するなど悪質なものである上、約4年もの間、団体交渉が実施されず、組合の役員の参加を理由に団体交渉を拒否するに至っており、極めて不誠実な対応に終始していると評価せざるを得ない。
 以上のような本件団体交渉申入れ及びその後の経緯における会社の態度等にかんがみれば、会社は、組合の団体交渉権を故意に否定するに等しい対応をしていると評価できるから、会社に対しては、法適合組合である組合の地位及び立場を正確に理解し、団体交渉に適切かつ誠実に応じるように自覚を促す必要性が高い。
(2) そして、団体交渉応諾命令と共に発令された本件文書手交命令によって手交を命じられた文書の内容は、会社に対して組合に対する謝罪等を命じるものではなく、労働委員会の事実認定を受けて会社が今後の行動を改めることを表明するというものにとどまっているし、その態様も、組合への手交を命じるもので、掲示等までは命じていない。
(3) すると、処分行政庁が会社の不当労働行為責任を明確にした上で当該不当労働行為の再発を防止し、正常な労使関係の確立を図るために、諸般の事情を考慮した結果として、本件初審命令の主文に加えて本件文書手交命令を発令したことは、被害救済措置として適切でないということはできず、その裁量を濫用又は逸脱したものということはできない。
 したがって、本件処分の救済方法は、相当である。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成20年(不)第3号 全部救済 平成21年8月4日
中労委平成21年(不再)第32号・第33号 一部変更 平成22年11月10日
東京高裁平成23年(行コ)第377号 棄却 平成24年2月23日
最高裁平成24年(行ツ)第186号・平成24年(行ヒ)第220号 上告棄却・上告不受理 平成24年8月29日
 
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