労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る] [顛末情報]
概要情報
事件名  GABA 
事件番号  東京地裁平成22年(行ウ)第661号 
原告  株式会社GABA 
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被告補助参加人  ゼネラルユニオン 
判決年月日  平成23年7月27日 
判決区分  棄却 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 語学スクールの経営等を目的とする会社に対し、英会話インストラクターとして就労する組合員らが加入する組合が団体交渉を申し入れたところ、会社は、インストラクターが労組法上の労働者に当たらないとして、団体交渉ではなく協議なら応じてもよい旨回答し協議を行ったが、その後の協議において、会社がインストラクターとの契約は業務委託契約であり雇用契約ではないので団体交渉には応じないと、団体交渉を拒否したことが、不当労働行為に当たるとして大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪府労委は、インストラクターの労働者性は認めたが、不誠実団交に当たるとまではいえないとして、本件申立てを棄却した。
 会社は、インストラクターが労組法上の労働者に該当せず、救済申立ての適格を欠いているから、初審命令は棄却でなく却下すべきであったとして、再審査を申し立てたところ、中労委は、申立ての利益を欠くとして再審査申立てを却下した。
 本件は、これを不服として、会社が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、会社の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は補助参加によって生じたものも含めて原告の負担とする。 
判決の要旨  1 本件訴えの適法性について(争点1)
(1) 会社についての原告適格及び訴えの利益の有無
 ア 行政処分の名宛人は、当然に「当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)に当たると解すべきであるから、原告適格を有する。そして、本件救済申立ての被申立人であり、本件初審命令を不服として本件再審査申立てをした会社は、本件再審査申立てに係る裁決である本件却下決定の名宛人であるから、当然に原告適格を認めることができる。
 イ なお、本件却下決定は、再審査手続において、申立人が実体審理を受ける地位を制限するものにほかならないから、直接、国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものに当たると解すべきであり、処分性が認められる。
 また、本件却下決定が本件訴訟の判決により取り消されれば、処分行政庁は、改めて本件再審査申立てについて審査しなければならないから(行訴法33条2項)、本件訴えには、当然に訴えの利益がある。
(2) 本件却下決定についての労組法27条の19第1項、第2項所定の「救済命令等」への該当性
 確かに、労組法27条の12第1項は、「救済命令等」について、「申立人の請求に係る救済の全部若しくは一部を認容し、又は申立てを棄却する命令」と定義し、文理上、申立てを却下する命令を含んでいない。
 しかし、初審命令に瑕疵があるにもかかわらず、何らかの理由で使用者の申し立てた再審査申立てが却下された場合に、使用者が当該却下決定の取消しを求める行政訴訟を提起できないのは、不合理であるし、労組法27条の19第1項、第2項所定の取消しの訴えの提起に係る使用者の原告適格を画するに当たって、「救済命令等」の中に申立てを却下する命令を含めずに解釈する必然性もない。
 なお、中労委は、「救済命令等」とは、使用者に対して救済命令の内容を履行すべき義務を制裁付きで課する命令と解釈すべきである旨主張するが、労組法27条の19第1項、第2項所定の「救済命令等」の内容をそのように限定解釈する理由も明らかではない。
 したがって、本件却下決定は、労組法27条の19第1項、第2項所定の「救済命令等」に含まれると解釈すべきである。
(3) 以上によれば、本件訴えは、適法である。
2 本件却下決定の違法性の有無について(争点2)
(1) 再審査の申立てに係る申立ての利益の要否
 ア 再審査の申立てをするに当たっては、条理上、初審命令に対して不服を主張する利益(再審査の申立てに係る申立ての利益)がなければならないと解するのが相当である。
 イ この点、再審査の申立てに係る申立ての利益とは、再審査申立人が初審命令においてその求めていたところの全部又は一部が排斥された場合に認められるものであり、その求めていたところが排斥されたか否かは、当該初審命令の主文を基準に判断すべきである。
 したがって、初審命令の理由中の判断に不服があるにすぎない場合には、再審査の申立てに係る申立ての利益はないと解すべきである。
(2) 本件再審査申立てに係る申立ての利益の有無
 ア 本件初審命令は、実体審理を経た上で、組合の本件救済申立てを棄却しているから、会社は、少なくとも本件救済申立てを棄却する内容の本件初審命令の主文上の判断によって、何ら法的な不利益を受ける余地はない。
 したがって、会社には、本件初審命令に対して、その取消しを求めて再審査申立てをする利益(本件再審査申立てに係る申立ての利益)を観念することができない。
 イ この点に関して、会社は、本件初審命令が理由中の判断の中で本件インストラクターの労働者性を認めたことによって、本件インストラクターに労働者性があることを前提に組合の求める団体交渉への対応を余儀なくされる不利益があるから、当該不利益を除去するために本件再審査申立てに係る申立ての利益が認められるべきである旨主張する。
 しかし、本件初審命令によって本件インストラクターの労働者性が公権的に確定されるわけではないから、会社の主張する不利益は、事実上の不利益にとどまり、法律上の不利益に当たらないから、本件再審査申立てに係る申立ての利益を基礎付けるものではない。
 ウ また、会社は、組合による本件救済申立てには、申立適格の欠缺等の却下事由があるにもかかわらず、本件初審命令がこれを看過したから、改めて本件救済申立ての却下を求めるために本件再審査申立てをする利益が認められるべき旨主張する。
 この点、不当労働行為救済申立てに対する却下決定は、申立要件を欠き不適法な場合に不当労働行為性についての実体審理をしないまま申立てを排斥するのに対し(労働委員会規則33条1項参照)、棄却決定は、実体審理をした上で救済を理由がないとして申立てを排斥するものである(同規則43条1項)。
 そして、労働委員会規則33条1項の「申立てが次の各号の一に該当するときは、委員会は----その申立てを却下することができる。(以下略)」との規定によれば、被申立人には、申立要件の欠缺を主張して却下決定を求める申立権までは認められず、当該申立ては、労働委員会の職権発動を促しているにすぎないと解すべきであるから、被申立人が不当労働行為救済申立てに対する却下決定を求めている場合に、労働委員会が棄却決定をしたとしても、被申立人の申立権を排斥したものと解することはできない。
 すなわち、被申立人が却下決定を求めている場合であっても、これは、労働委員会に対して、申立人の申立てを却下するという職権の発動を促すものにすぎないから、労働委員会が却下決定を行わず、実体審理の上で棄却決定を行ったとしても、被申立人の却下決定を求める申立権なるものが観念できない以上、それを排斥したということもできない。
 したがって、労働委員会の棄却決定に対する被申立人の不服の利益を認めることはできない。
 加えて、実質的に考察しても、会社は、本件初審命令(棄却決定)において、実体審理の上、その行為の不当労働行為性が否定され、救済は理由がないとの判断を受けたのであるから、不当労働行為性についての実体審理に入らないまま申立要件の欠缺を宣明する却下決定を求める利益を認める必要はない。
(3) まとめ
 ア 以上のとおり、再審査申立てに係る申立ての利益が必要と解すべきであり、本件初審命令において被申立人として棄却決定を受けた会社は、本件再審査申立てをする利益を欠いている。
 そして、本件却下決定は、本件再審査申立てに係る申立ての利益を欠くことを理由に再審査の申立てを却下したものであるから、本件却下決定には何ら違法事由はなく、その取消しを求める会社の請求には理由がない。
 イ なお、本件再審査申立てに係る申立ての利益の有無は、本件訴えの利益(訴訟要件)に係る事由ではなく、本件却下決定の違法の有無(本案)に係る事由であるから、裁判所が当該申立ての利益を欠くと判断する場合の判決の主文としては、本件訴えを「却下」するのではなく「棄却」すべきものと解する。  

[先頭に戻る]


顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成20年(不)第35号 棄却 平成21年12月22日
中労委平成22年(不再)第1号 却下 平成22年10月6日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約151KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。