労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  福原学園 
事件番号  福岡高裁平成22年(行コ)第16号 
控訴人兼被控訴人  学校法人福原学園(以下「一審原告」という。) 
被控訴人兼控訴人  福岡県(処分行政庁:福岡県労働委員会)(以下「一審被告」という。) 
一審被告訴訟参加人  福岡県私立学校教職員組合連合
自由ヶ丘高等学校教職員組合 
判決年月日  平成22年12月2日 
判決区分  棄却、却下 
重要度   
事件概要 1 高校が、①校務分掌に関し、組合員X1教諭に担当クラスを割り当てない副担任としたこと、②夏季一時金において組合員X1及びX2の査定を低く行って支給したこと、③X1が勤務時間内に職員室のFAXを利用して業務と無関係の文書を送信したとして戒告処分をしたこと、④学園の理事長等が職員朝礼等において組合活動に関する言動を行ったことが、不当労働行為に当たるとして、福岡県労委に救済申立てがあった事件である。
2 福岡県労委は、学園に対し、①夏季一時金について組合員X1及びX2に支給されるべきであった金額と支給済み額との差額の支給、②組合員X1に対する戒告処分の撤回、③組合員X1を非難する発言をしたこと等による支配介入の禁止、④文書の手交及び掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。
 これに対し、学園はこれを不服として、福岡地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、福岡県労委の不当労働行為救済命令の一部を取り消したものの、学園のその余の請求を棄却した。
 本件は、同地裁判決を不服として、学園及び福岡県労委がそれぞれ福岡高裁に控訴した事件であるが、同高裁は、学園、参加人組合らの各控訴を棄却するとともに、福岡県労委の控訴を却下した。
判決主文  1 一審原告、参加人組合らの本件各控訴をいずれも棄却する。
2 一審被告の本件控訴を却下する。
3 控訴費用はこれを2分し、その1を一審原告の負担とし、その余を一審被告の負担とし、当審における参加によって生じた費用は各参加人の各負担とする。 
判決の要旨  1 当裁判所も、本件救済命令のうち、①X2元教諭らに対して平成19年度夏季一時金の支給につき減額査定したこと、②平成19年度の校務分掌においてX1教諭にクラス担任等を割り当てなかったこと、③X1教諭に対し本件戒告処分を行ったこと、④職員朝礼等における管理職の言動のうち平成19年3月23日の職員朝礼前の管理職の言動及び平成19年8月31日から同年9月3日までの管理職の言動はいずれも不当労働行為には当たらないから、この点に関する本件救済命令は不適法であり、その余の点についての本件救済命令には一審原告主張の違法はないから、この点に関する一審原告の請求は理由がないものと判断する。
 その理由は、原判決を一部補正し、2において当審における当事者の補足的主張に対する判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第3の1ないし5のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における当事者の補足的主張に対する判断
(1) 争点(1):X2元教諭らに対して平成19年度夏季一時金の支給につき減額査定したことについて
 X2元教諭らについて問題とされている行為の内容に照らせば、平成19年度夏季一時金の支給についての減額査定が著しく不合理であり、社会通念に照らして不相当とまでは評価できず、さらに平成19年3月及び4月の管理職の言動が不当労働行為に当たることを考慮しても、その不当労働行為意思を推認することは困難である。
 そして、減額査定について合理的理由があるか否かは不当労働行為意思の存否を判断する上での重要な事情であって、X2元教諭らと管理職の対立関係等の諸事情を総合考慮しても、なお平成19年度夏季一時金の支給につき減額査定が労組法7条1号の不利益取扱いに当たるとまでは認められないことは、原判決の「事実及び理由」欄の第3の2(補正後のもの)のとおりである。
(2) 争点(2):平成19年度の校務分掌においてX1教諭に担当クラスを割り当てなかったことについて
 X1教諭が推薦会議や合同会議の情報を漏洩し、そのことが原因で他の教師から抗議されたり、管理職から注意指導を受けており、学年主任等がX1教諭を自分達の学年に受け入れることに難色を示すことは不自然とはいえず、X1教諭がX3元教諭の解雇問題に積極的に取り組んでいたことから、学園が特にX1教諭に対して嫌悪の情を抱いていたことを裏付ける的確な証拠はなく、少なくとも校務分掌や担任割当てがほぼ決定されたと見られる平成19年3月23日時点において、学園の不当労働行為意思を認めることはできない。
 そして、その後、学園がX組合に対して不当労働行為意思を有するに至ったとしても、それゆえに、直ちにそれ以前に学園がX1教諭に対して不当労働行為意思を有していたと推認することはできないところ、それ以前にほぼ決定していた割当てを変更しなかったことをもって、不当労働行為意思に基づく不利益取扱いと評価することもできず、他に学園が、不当労働行為意思に基づき、X1教諭に対し、クラス担任や重要な校務分掌を割り当てなかったと認めるべき証拠はない。
(3) 争点(3):X1教諭に対し本件戒告処分を行ったことについて
 ア X1教諭のファックス送信行為が、形式的には就業規則13条7号に定める職務専念義務違反に該当することが認められるとしても、なお、特別事情がある場合には、職務専念義務違反を理由とする懲戒処分が許されない場合があることから、そのような特別事情の有無を判断する上において、施設管理権の侵害を問題とすることもできる。
 イ また、Z1教諭(非組合員)らの会議室の利用とX1教諭の本件ファックス送信行為とはその時期や態様等を異にし、一概に比較できるものではなく、特にX1教諭に関しては、それまでにも学校施設の利用に関して、管理職から注意指導を受けていたものであって、本件ファックス送信行為の態様、その後のX1教諭の対応等を総合考慮すれば、本件戒告処分には相当な理由があり、X組合らが主張するような労使関係の背景事情その他一切の事情を考慮しても、X1教諭に対する本件戒告処分がその組合活動を理由としてされたとまでは認めることができないことは、原判決の「事実及び理由」欄の第3の4のとおりである。
(4) 争点(4):職員朝礼等における管理職の言動について
 ア 平成19年3月23日の職員朝礼前の管理職の言動
  a Y1副校長による「いつ、誰に対して新組合結成を通知したのか。」などの発言や、組合ニュースを自分の机に放り投げたなどの言動は、その発言内容や行為自体から、組合ニュースの配布に向けられたものであり、また、その言動それ自体としてはやや過剰といわざるを得ない面がある。
 しかしながら、他方で、X組合による組合ニュースの配布の態様は、事前の組合結成通知や情宣紙配布に関する交渉を行うこともなくされたもので、学園の施設管理権を侵害するものであるところ、机上に置かれた組合ニュースを見た教員の中には驚きの声を発する者もいる状況下において、X1教諭は、組合ニュースについて何らの説明もせず、通常どおりの朝の挨拶をして管理職の前を通り過ぎようとしたのであり、Y1副校長は、このようなX1教諭の態度を無神経であると感じ、怒りが頂点に達したというのであって、このような経緯や状況に照らせば、同副校長の心情も理解できないではなく、上記言動が、X組合の結成及びその活動に対する嫌悪の情に基づいてされたものと認めることはできない。
  b X組合らは、上記朝礼前の管理職の言動について不当労働行為に当たらないとすることは、それに引き続く職員朝礼における管理職の言動について不当労働行為に当たることを認めることと整合しない旨主張するが、職員朝礼時には、その前のY1副校長の上記言動が終了し、それまでと状況が変わっていることや、職員朝礼の時間であるか否かや行われた管理職の言動の内容なども異なるのであるから、その判断が異なるからといって、整合性がないとはいえない。
 イ 平成19年3月23日の職員朝礼における管理職の言動
  a X2元教諭らに対して非難していたのは5、6名の教員にすぎず、管理職が本来、学校業務に直接かかわりのない組合活動についての議論を行う場ではない職員朝礼における発言を制止できなかったとは考えられず、また、専ら非組合員及びZ組合の教員らがX2元教諭らを非難するなどしていた状況の中で、Y2校長が「他に言う者はいないか。」などと発言したことを併せ考えると、上記管理職の言動は、非組合員及びZ組合の教員らのX2元教諭らに対する非難等を積極的に容認するために行われたものであり、支配介入に当たるものというべきことは、原判決の「事実及び理由」欄の第3の5(2)アのとおりである。
  b なお、使用者側の言論の自由には一定の限界があり、その内容や行われた状況等に照らして、不当労働行為が成立することがあり、本件の具体的状況に照らして、上記管理職の言動は不当労働行為(支配介入)に当たる。
  c 管理職は、他の教職員の面前で組合ニュースの配布を厳しく叱責しているのであり、およそ組合ニュースの回収を命じないことによって配布を追認したような状況になるとは考えられず、回収を要求した者が数名にすぎないにもかかわらず、100名もの教員がいる中で、X2元教諭に組合ニュースを回収するよう命ずることは、X組合に対する管理職の姿勢を他の教職員に示し、X組合の今後の活動を萎縮させるものであり、不当労働行為(支配介入)に当たると解すべきことは、原判決の「事実及び理由」欄の第3の5(2)イのとおりである。
 ウ 平成19年3月27日の職員朝礼における管理職の言動
 Y2校長の「皆様方、よろしくお願いします。」との発言は、同発言がされた経緯に照らせば、Z1教諭の呼びかけたX組合に対する抗議文への署名活動について協力を要請したものと解すべきことは、原判決の「事実及び理由」欄の第3の5(3)のとおりである。
 Z1教諭の発言が協力依頼であるとしても、これに協力するようにとの発言は、管理職の立場からされる場合、単なる協力依頼にとどまるものではなく、X組合に対する管理職ひいては学園の姿勢を示し、X組合に対する抗議活動を助長、奨励するものであって、不当労働行為(支配介入)に当たる。
 エ 平成19年3月29日の朝礼における言動
 同日のY2校長の「言語道断」との発言は、一連の言動がされた状況や経緯に照らせば、これらの言動が、非組合員及びZ組合の教員らによるX組合に対する非難等を助長、奨励するものであり、不当労働行為(支配介入)に当たると解すべきことは、原判決の「事実及び理由」欄の第3の5(4)のとおりである。
 また、管理職の各発言は、当時の具体的状況に照らして、単なる意見表明や協力要請にとどまるものとはいえない。
 オ 平成19年4月24日の職員朝礼における管理職の言動
 労働組合又は組合員であるからといって、使用者の許諾なく当然に企業の物的施設を利用する権限を有しているということはできないものの、使用者が当該施設の利用を拒否する行為を通して労働組合の弱体化を図ろうとする場合には、不当労働行為が成立し得る。
 そして、Y2校長が、組合ニュースを同校長席の机上に置き、組合員以外の教員に取ってもらうよう指示したことは、これによりX組合による情宣紙の配布等の組合活動を萎縮させるために行われたものと推認され、労組法7条3号の支配介入に当たると考えられることは、原判決の「事実及び理由」欄の第3の5(5)のとおりである。
 カ 平成19年8月31日から同年9月3日までにおける管理職の言動
 管理職の言動が、個人情報の管理に責任を負う者の立場として理解できる範囲のものか否かは、管理職の不当労働行為意思の有無を判断する上での重要な一事情となることは明らかであり、それまでのX2元教諭ら及びX組合らと学園との一連の経過を踏まえ、管理職の言動の内容や当時の状況、さらには管理職が個人情報の管理者としての責任を負う立場にあることをも考慮しても、職員住所録の使用に関する管理職の言動が労組法7条3号の支配介入に当たらないことは、原判決が「事実及び理由」欄の第3の5(6)に判示するとおりである。
3 一審原告の請求は、本件救済命令のうち、主文1、2項及び同3項中の(1)、(6)並びに同4項の掲示を命じた事項のうち同主文(主文1、2項及び同3項中の(1)、(6))及び「平成19年度、X組合の組合員X1に対し、副担任としての担当クラスを割り当てなかったこと」に関するものについて各掲示を命じた部分の取消しを求める限度で理由があるから、認容すべきであり、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は正当であり、一審原告及び参加人らの各控訴はそれぞれいずれも理由がないから棄却し、一審被告の控訴は、参加人らの控訴に遅れてされており、二重控訴に当たるから(民訴法297条、142条)不適法として却下する。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
福岡県労委平成19年(不)第4号 一部救済  平成20年11月28日 
福岡地裁平成20年(行ウ)第66号 一部取消、棄却  平成22年 4月21日 
 
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