労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  福原学園 
事件番号  福岡地裁平成20年(行ウ)第66号 
原告  学校法人福原学園 
被告  福岡県(処分行政庁:福岡県労働委員会) 
被告訴訟参加人  福岡県私立学校教職員組合連合
自由ケ丘高等学校教職員組合 
判決年月日  平成22年4月21日 
判決区分  一部取消、棄却 
重要度   
事件概要  1 高校が、①校務分掌に関し、組合員であるX1教諭を担当クラスを割り当てない副担任としたこと、②夏季一時金において組合員X1及びX2の査定を低く行って支給したこと、③X1が勤務時間内に職員室のFAXを利用して業務と無関係の文書を送信したとして戒告処分をしたこと、④学園の理事長等が職員朝礼等において組合活動に関する言動を行ったことが、不当労働行為に当たるとして、福岡県労委に救済申立てがあった事件である。
2 福岡県労委は、学園に対し、①夏季一時金について組合員X1及びX2に支給されるべきであった金額と支給済み額との差額の支給、②組合員X1に対する戒告処分の撤回、③組合員X1を非難する発言をしたこと等による支配介入の禁止、④文書の手交及び掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、学園が福岡地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、福岡県労委の不当労働行為救済命令の一部を取り消したものの、学園のその余の請求を棄却した。
判決主文  1 福岡県労働委が、福岡県労委平成19年(不)第4号事件について、平成20年11月28日付けでした命令のうち、主文1、2項、3項(1)及び(6)並びに同4項のうち同1、2項、3項(1)、 (6)及び「平成19年度、組合員X1に対し、副担任としての担当クラスを割り当てなかったこと」に関する各掲示命令部分をいずれも取り消す。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、訴訟参加によって生じた部分はこれを4分し、その1を原告の、その余を被告訴訟参加人らの負担とし、その余の費用はこれを4分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
判決の要旨  1 争点(1):平成19年度夏季一時金において原告がX2元教諭らに対して減額査定をしたことが不利益取扱いに当たるか
 X2元教諭らの減額査定の個々の理由には、中には個々の事実だけでもそれなりの責任を問い得る性質のものも含まれており、査定に関する使用者の広汎な裁量を前提とする限り、少なくとも認められる諸事実を総合すると、これらの事実をもって減額査定の理由とすることについては、少なくとも、これが著しく不合理で社会通念上許容し難いと断ずる程度に達しているということはできない。
 平成19年度夏季一時金において原告がX2教諭らに対して減額査定をしたことが、労組法7条1号の不利益取扱いに当たるということはできないから、これを当たるとした本件救済命令は、違法である。
2 争点(2):原告が平成19年度の校務分掌においてX1教諭に担当クラスを割り当てなかったことが不利益取扱いに当たるか
 ①平成19年3月22日に組合が結成され、同月23日に組合が組合ニュースを配布した後にX1教諭を主要な校務分掌や担任から外すことが決定されたものと推認することはできず、かえって、組合が結成される前に同決定がされたことがうかがわれること、②平成18年度においてX1教諭が推薦会議や合同会議の情報を漏洩したことを理由として管理職から注意指導を受けたり、生徒Kに対する指導が不十分であったことを理由として他の教員から批判されるとともに、管理職から注意指導を受けていること、③高校においては当該年度に担任を担当していた教員が翌年度に学年全体又はクラス担当の副担任を担当することはよくみられることであり、平成15年度から平成20年度までの間に学年全体の副担任で部長・副部長が割り当てられていない教員又は校務分掌が一つしか割り当てられていない教員が一定数いることなどからすれば、原告が平成19年度においてX1教諭に担当クラスを割り当てなかったことは、労組法7条1号の不利益取扱いには当たらないというべきであるから、これを当たるとした本件救済命令は、違法である。
3 争点(3):原告のX1教諭に対する本件戒告処分が不利益取扱い及び支配介入に当たるか
 高校の職員室に設置されたファックス機を利用して送信行為を行った時間に関するX1教諭の弁明には一貫性がなく、昼休み中であったことを裏付ける資料もないことからすれば、X1教諭は、当初の弁明どおり勤務時間中にファックス送信行為を行ったと認めるのが相当である。そして、原告がX1教諭によるファックス送信行為を許諾していた事実は認められない。
 したがって、X1教諭によるファックス送信行為は、就業規則13条7号(「労働時間中に業務に関係ない行為をして業務に支障を与えてはならない。」)が定める職務専念義務に違反する。
 また、X1教諭は、管理職から組合活動のために学校施設を無断で使用しないよう注意されているにもかかわらず、ファックス送信行為を行ったものであり、さらに、管理職から勤務時間中に組合活動をしていたことに関して注意されているにもかかわらず、勤務時間中にファックス送信行為を行うなどの経緯等に照らせば、X1教諭がファックス送信行為を行ったことに対して一定の処分をもって臨むことも、あながち不相当とはいえない。
 そして、戒告は懲戒処分の中で最も軽い処分であり、X1教諭によるファックス送信行為の態様、従前の管理職の注意指導の状況、ファックス送信行為後におけるX1教諭の対応等の事情を総合考慮すれば、本件戒告処分を行ったことは相当でないとはいえず、他に就業規則違反を理由として懲戒処分をすることは許されない特別の事情を認めるに足りない。
 以上のとおりであって、原告がX1教諭に対して行った本件戒告処分は、労組法7条1号の不利益取扱い及び同条3号の支配介入には当たらないから、これらに当たるとした本件救済命令は、違法である。
4 争点(4):職員朝礼等における管理職の言動が支配介入に当たるか
(1) 平成19年3月23日の職員朝礼前におけるY1副校長の言動について
 Z組合は、従前、原則として所属組合員の机上にのみ情宣紙を配布しており、X組合と原告との間でこれと異なる合意がされた事実やX組合が原告に対して情宣紙の配布方法について団体交渉等を申し入れた事実はうかがわれないから、X組合が原告に対する組合結成の通知をせず、情宣紙配布に関する原告の許諾を得ないまま、全教職員の机上に組合ニュースを配布したことは、原告の施設管理権を侵害する等の事情を総合すると、Y1副校長のX1教諭に対する言動は、X組合の結成及びその活動に対する嫌悪の情に基づいてされたものとまでは認めることはできない。
 したがって、Y1副校長の言動は、労組法7条3号の支配介入に当たるとはいえない。
(2) 平成19年3月23日の職員朝礼における管理職の言動について
 非組合員及びZ組合の教員らとX2元教諭らとの対立状況に直面した管理職としては、組合活動に関する言動を制止し、通常どおり職員朝礼を行うべきであった。
 管理職が同非難等を制止せずに放置したこと、及びその後のY2校長による「他に言う者はいないか。」という発言は、非組合員及びZ組合の教員らのX2元教諭らに対する非難等を積極的に容認するために行われたものと推認するのが相当であり、労組法7条3号の支配介入に当たる。
 また、Y2校長のX2元教諭に対する組合ニュースの回収指示は、X組合による組合ニュースの配布等の組合活動を萎縮するために行われたものと推認するのが相当であり、労組法7条3号の支配介入に当たる。
(3) 平成19年3月27日の職員朝礼におけるY2校長の言動について
 Y2校長の「皆様方、よろしくお願いします。」という発言は、Z教諭らのX組合に対する抗議活動を助長し、奨励するために行われたものと推認するのが相当であって、労組法7条3号の支配介入に当たる。
(4) 平成19年3月29日の職員朝礼における管理職の言動について
 福岡県私立学校教職員組合連合(以下「私教連」という。)の役員らが事前連絡なく校舎内に入ってきたことについて、職員朝礼においてY2校長があえて私教連の名称を挙げ言語道断などと発言したことは、嫌悪の情に基づくものと推認すべきである。そして、管理職としては、Z教諭らによる私教連に対する非難等を制止し、通常どおりの職員朝礼を行うべきであったところ、Y1副校長は私教連に対する批判とも受け取れる発言をする等の事情を総合すれば、管理職らの各言動は組合の運営に介入し、非組合員及びZ組合の教員らによる私教連に対する非難等を助長、奨励するものと推認するのが相当であり、労組法7条3号の支配介入に当たる。
(5) 平成19年4月24日の職員朝礼における情宣紙の配布方法の制限指示について
 組合ニュースの配布にメールボックスを利用することを禁止する趣旨のY2校長の発言は、使用者の施設管理権に関するものとして使用者の許可又は労使間の合意が必要であるところ、合意はなく、また、組合間の均衡にも配慮すると、このことだけで直ちに組合活動への不当な制約になるということはできない。
 しかしながら、所属組合員の机上に配布した残りの組合ニュースを校長席の机上に置き、所属組合員以外の教員に自由に取ってもらうようY2校長が指示した点については、情宣紙の配布等の組合活動を萎縮させるために行われたものと推認するのが相当であり、労組法7条3号の支配介入に当たる。
(6) 平成19年8月31日から同年9月3日までにおける管理職の言動について
 ① 平成19年8月31日及び同年9月1日における管理職による事情聴取について
 組合ニュース等が約70名から90名という多人数の教職員に郵送されたという事実からすれば、管理職が職員住所録を使用されたと疑うことも相当の理由があるものというべきであって、これを前提として管理職が平成19年8月31日にX3教諭に対して、同年9月1日にX2元教諭に対して事情聴取をして注意指導を行ったことは、一概に不適切であったとまでいうことはできない。
 また、職員住所録は教職員間における緊急時の連絡、時候の挨拶などの目的のために作成されたものであり、教職員の中には同目的以外の目的で使用されることを望まない教職員も一定数いるものと考えられる。そうすると、管理職が職員住所録の作成者・管理者として、教職員の個人情報の保護について万全の注意を払い、目的外使用の疑いが生じた場合には、その事実関係の調査確認については一定程度厳しい態度で行うことが当然の責務と考えることは自然であるといえる。
 さらに、その間の教職員のX3教諭及びX2元教諭に対する発言は、主として職員住所録の目的外使用の有無に関するものであって、その郵送された文書の性質や組合ニュース等の内容に及ぶものではない。
 ② 平成19年9月3日の職員朝礼におけるY1副校長の言動について
 Y1副校長が、教職員に対し、上記文書の郵送に対して教職員から苦情があったこと、これについて事情聴取と注意指導を行い、今後このようなことがあった場合には毅然とした態度を取るなどと述べたことについては、管理職が個人情報の管理の責任を負う立場として、職員住所録の目的外使用に注意を払うべきことは当然であり、その調査内容に基づく教職員に対する注意喚起を管理職が行うこと自体を非難することはできない。
 Y2校長が個人情報の取扱いについて慎重を期するよう注意喚起を行うに際し、管理職が事情聴取をして注意指導を行ったことを前提に、その事実関係と調査内容等を踏まえて、職員住所録の目的外使用が禁止されていることを説明することは、これがその郵送文書の内容等と関連させることなく行われる限り、直ちに不適切な発言ということはできない。
(7) まとめ
 本件救済命令のうち、平成19年3月23日の職員朝礼前におけるY1副校長の言動を不当労働行為と認めた部分、同年8月31日から同年9月3日までにおける管理職の言動を不当労働行為と認めた部分については、いずれも違法である。
5 結論
 本件救済命令の取消しを求める原告の請求は、①平成19年度夏季一時金において原告がX2元教諭らに対して減額査定をしたことを不当労働行為と認めた部分(本件救済命令の主文1項及び同4項のうちこれに関する部分)、②原告が平成19年度の校務分掌においてX1教諭に担当クラスを割り当てなかったことを不当労働行為と認めた部分(本件救済命令の主文4項のうちこれに関する部分)、③本件戒告処分を不当労働行為と認めた部分(本件救済命令の主文2項及び同4項のうちこれに関する部分)、④平成19年3月23日の職員朝礼前におけるY1副校長の言動を不当労働行為と認めた部分、同年8月31日から同年9月3日までにおける管理職の言動を不当労働行為と認めた部分(本件救済命令の主文3項(1)及び(6)並びに同4項のうちこれらに関する部分)については、いずれも理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却する。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
福岡県労委平成19年(不)第4号 一部救済 平成20年11月28日
福岡高裁平成22年(行コ)第16号 棄却、却下 平成22年12月2日
 
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