概要情報
事件名 |
日本工業新聞社 |
事件番号 |
東京地裁平成20年(行ウ)第681号
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原告 |
労働組合・反リストラ・マスコミ労働者会議・産経委員会 |
被告 |
国(処分行政庁:中央労働委員会) |
補助参加人 |
株式会社日本工業新聞新社(平成20年10月1日に新設分割により設立され、日本工業新聞社の権利義務を承継。) |
判決年月日 |
平成22年9月30日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
重要命令に係る判決 |
事件概要 |
1 Y会社が、東京本社に所属していたX1に対して、平成6年2月1日付けで千葉支局の支局長への配転(以下「本件配転」という。)を内示したところ、①同年1月28日、X1は、Y会社に対し、X組合の結成を通知するとともに、団体交渉を申し入れたが、Y会社はこれに応じなかった。②同年2月1日、Y会社は、X1に対して本件配転を発令した。これに対し、③X組合は、本件配転を議題とする団体交渉を申し入れたが、Y会社はこれに応じなかった。④X1外2名が、Y会社内で組合機関紙を配布したところ、Y会社はX組合機関紙を回収した。⑤X組合は、本件配転やX1の千葉支局での業務等を議題として団体交渉を申し入れたが、Y会社はこれに応じなかった。⑥Y会社は、X1が業務指示に従わないことについて、同人を賞罰委員会に付議する旨通知したところ、X組合は、当該付議する件を議題として、団体交渉を申し入れたが、Y会社はこれに応じなかった(上記①、③、⑤及び⑥の団体交渉申入れについて、以下「本件団交申入れ」という。)。⑦Y会社は、同年9月22日付けでX1を懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という。)した。
このため、上記①、③、⑤及び⑥が労組法第7条2号・3号の、②が同条1号・3号の、④が同条3号の、⑦が同条1号・3号・4号の不当労働行為に当たるとして、X組合から東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、X組合の申立てをいずれも棄却した。
X組合は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委はこれを棄却した。
本件は、これを不服としてX組合が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁はX組合の請求を棄却した。
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判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
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判決の要旨 |
1 争点1:本件配転は不当労働行為に当たるか
(1) 千葉支局の独立と専任の支局長配置の必要性、合理性の有無について
会社が、関東総局から千葉支局を独立させ、同支局に編集出身の専任の支局長を配置することなどを内容とする組織改革の実行は、会社経営陣が、会社の直面する経営危機を打開するための方策の一つとして講じたもので、必要かつ合理的な経営上の措置と認めることができ、これを不必要又は不合理であるということはできない。
(2) 本件配転の必要性、合理性の有無について
会社が、関東総局から独立させる千葉支局にX1を選定したことについては、編集主導の都市型支局体制を目指す会社の組織改革の方針に合致するものと認めることができ、その必要性及び合理性を肯認することができる。
(3) 本件配転の不当労働行為性について
会社がX1に本件配転の内示(平成6年1月25日付け)をした後、X1から同月28日にY1社長対する原告の結成通告が、同月31日にY2常務に対する原告名義のストライキ権確立通告がそれぞれされていることが認められるが、本件配転は、本件配転の内示どおりの配転発令がされたものであることからすると、以上の各通告があった後に本件配転発令があったことが本件配転の不当労働行為性を裏付けるものとはいえない。
2 争点2:本件懲戒解雇は不当労働行為に当たるか
(1) 本件懲戒解雇事由の有無について
X1の業務懈怠ないし業務遂行拒否に係る各業務は、その内容に照らすと、いずれも支局長として行うべき重要なものであると認められるところ、X1は、再三にわたる会社からの指示又は指導を無視して、確信的に業務を懈怠し又は業務遂行を拒否したものというべきである。
X1には、千葉支局長としての業務懈怠があり、かつ、その程度は著しく重大なものというべきであり、これは、懲戒解雇事由として就業規則78条5号に定める「異動命令その他業務上の必要に基づく会社の命令を拒否したとき」に該当する。
(2) 本件懲戒解雇手続の適否について
本件懲戒解雇は、賞罰委員会の議を経て決定するという就業規則の定めに則って行われたものと認めることができる。
(3) 本件懲戒解雇の不当労働行為性について
会社がX1に対して指示した業務は千葉支局長として行うべき重要なものであり、千葉支局の筆頭者の地位にある者が行うものとされているものではあるが、それらの業務内容に照らすと、管理的業務を含めて、会社の利益を代表して行うものに当たるとは解されない。
また、X1の千葉支局赴任後の同支局への出勤状況は、不定期で恣意的な態様のものであったこと、X1は、そのような出勤状況であるのに、出勤簿には毎日定時に出勤した旨の記載をしていたことが認められるのであり、会社がこの点を問題視することに問題性は認められず、これをもって直ちに会社がX1の組合活動を嫌悪敵視していたことを裏付ける事実とすることはできない。
(4) 本件懲戒解雇が他の従業員の事例と比較して不相当に重いものであることについて
X2については、問題のない就業状況であったことが認められる。X3、X4については、原稿執筆量が少ない又はねつ造記事を掲載したという行為があったにもかかわらず処分は受けておらず、いずれも会社を合意退職したことが認められるが、この2名の事案と千葉支局長という枢要な地位にあったX1の確信的な業務懈怠ないし業務遂行拒否とは、事案を異にし、同列のものとして比較対照できないものというべきであるから、この2名の事例と単純に比較して本件懲戒解雇が不相当に重いものであると評価することはできない。
(5) まとめ
以上によれば、本件懲戒解雇は、その実体面においても手続面においても違法なものではなく、労組法7条1号、3号又は4号の不当労働行為に当たるものということはできない。
3 争点3:会社による団体交渉拒否は不当労働行為に当たるか
(1) 平成6年1月28日から同年2月3日までの間における原告の団体交渉申入れに対する会社の対応について
原告は、平成6年1月10日に設立され、会社に対して結成通告がされたのは同月28日であり、それまでの間に会社に分かるような形で組合活動をしていたことはうかがえず、また、X1は、平成4年2月に論説委員会付論説委員に発令後は組合員になれない立場にあったことも併せかんがみると、会社が、X1が代表幹事であるとする原告からの団体交渉の要求を受けた際に、原告の労働組合としての法適合性に疑義を抱いたことが不合理であるとはいい難く、その疑義を払拭するべく、組合規約等の資料の提出を求め、その提出がされて原告の労働組合としての実態の確認ができるまでは団体交渉に応じないとの態度をとったことは、やむを得ない対応であるということができるから、正当な理由がある。
(2) 平成6年2月8日から同月14日までの間における原告の団体交渉申入れに対する会社の対応について
原告と会社との間で団体交渉を開催できなかった原因は、原告が一方的に①開催場所を会社内とすること、②双方の代表者が押印する議事録を作成することを、開催条件として要求し、これらを会社が受け入れない限り団体交渉に臨まないとの強硬な態度を固持したことにあり、会社が上記の条件提示に藉口して原告との団体交渉を拒否していた事情をうかがわせる証拠はない。
(3) 平成6年3月3日から同年8月29日までの間、及び同年9月8日から同月15日までの間における原告の団体交渉申入れに対する会社の対応について
原告と会社とが団体交渉を開催できなかった原因は、上記(2)の期間におけるそれと同様のものと認められる。
(4) 中立保持義務違反の有無について
会社とZ組合との間で、原告が開催条件とした2事項が実施される団体交渉が行われていることを認め得る証拠はなく、また、会社とZ組合との間の労働条件等に関する交渉は、労働協約に基づく労使協議会として行われているものと認められる。そして、原告と会社との間で本件労働協約のような労使協定が締結されていないことについて、会社側に一方的な原因があることをうかがわせる証拠もない。
そうすると、労働条件等に関する原告と会社との間の交渉状況とZ組合と会社との間の交渉状況とが異なることをもって、直ちに会社の中立保持義務違反ということはできない。
4 争点4:本件組合機関紙回収は不当労働行為に当たるか
組合活動として行う組合機関紙の配布も、会社の施設内で行われる場合には、会社が有する施設管理権による一定の制約を受けることは免れない。X1ら3名は、会社の就業規則に則った手続を執らずに、会社の許可を得ないで、多数の従業員が就業中の会社内で本件組合機関紙配布を行ったものであり、また、配布された組合機関紙は床に落ちているものもあったというのであるから、会社役員が、本件組合機関紙配布を制限し、また、配布された組合機関紙を回収したことは、施設管理権の行使として許容される範囲内の対応である。
また、X1ら3名が本件組合機関紙配布を行ったのは、原告が会社に対して未だ会社との間で組合活動に関する基本ルールを定める手続が執られていない状況であったばかりか、会社においては、原告が法適合性のある労働組合であるかどうかについて疑念を抱いていた時期の出来事であったことも併せ考慮すると、会社役員による本件組合機関紙回収を原告に対する支配介入に当たると断ずることはできない。
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業種・規模 |
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掲載文献 |
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評釈等情報 |
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