概要情報
事件名 |
住友ゴム工業 |
事件番号 |
大阪高裁平成21年(行コ)第11号 |
控訴人 |
兵庫県、兵庫県労働委員会 |
控訴人(補助参加人) |
住友ゴム工業株式会社 |
被控訴人 |
ひょうごユニオン |
判決年月日 |
平成21年12月22日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
X組合は、Y会社の元従業員2名(X1及びX2)及び死亡した元従業員X3の妻1名(X4)が加入する労働組合であるところ、X組合が、Y会社に対し、Y会社における石綿使用実態を明らかにすることなどを求めて団体交渉に応じるよう求めたが、Y会社がこれを拒否したことが、不当労働行為に当たるとして争われた事件である。 兵庫県労働委員会は、X組合に加入するY会社の元従業員らはいずれも労組法7条2号の「使用者が雇用する労働者」に該当しないとして却下決定をした。 X組合は、本件命令を不服として、神戸地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、本件命令は違法であるとして、これを取り消した。 本件は、この神戸地裁判決を不服として、兵庫県労働委員会が、大阪高裁に控訴した事件である。
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判決主文 |
本件控訴を棄却する。(兵庫県労委がなした却下決定を取り消した神戸地裁判決を維持) |
判決の要旨 |
① 「使用者が雇用する労働者」の意義ないし使用者の団体交渉応諾義務について 団体交渉を通じ、労働条件等を調整して正常な労使関係の樹立を期するという労組法の趣旨からすれば、使用者がかって存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争として、当該紛争を適正に処理することが可能であり、かつ、そのことが社会的にも期待される場合には、元従業員を「使用者が雇用する労働者」と認め、使用者に団体交渉応諾義務を負わせるのが相当であるといえる。その要件としては、①当該紛争が雇用関係と密接に関連して発生したこと、②使用者において、当該紛争を処理することが可能かつ適当であること、③団体交渉の申入れが、雇用関係終了後、社会通念上合理的といえる期間にされたことを挙げることができる。そして、上記合理的期間は、雇用期間中の労働条件を巡る通常の紛争の場合は、雇用期間終了後の近接した期間といえる場合が多いであろうが、紛争の形態は様々であり、結局は、個別事案に即して判断するほかはない。 ② Y会社の団体交渉応諾義務について X1及びX2は、Y会社との雇用関係が存在した間に、その業務に従事したことによって石綿を吸引したことにより、健康被害が発生している可能性があると主張し、参加人に対し、石綿の使用実態を明らかにするとともに、石綿による被害が生じている場合にはその補償を求めている。両名は悪性中皮腫に罹患して死亡したX3と同様に石綿暴露の可能性のある業務に従事していたもので、Y会社の業務に従事したことによって、健康被害が発生している可能性があり、X2は健康管理手帳(石綿)の交付を受けていることからすると、本件は従来の雇用関係と密接に関連して発生した紛争であるということができる。 また、上記のことからすれば、Y会社は石綿の使用実態を明らかにしたり、健康被害の診断、被害発生時の対応等の措置をとることが可能であり、かつ、それが社会的にも期待されるといえる。 次に、本件の団体交渉申入れが合理的期間内にされたといえるかを検討するに、上記認定の事実経過によれば、石綿関連疾患は非常に長い潜伏期間があり、長期間経過した後に症状が発生するものであること、X4は平成17年7月にX1及びX2を代理人として、Y会社に対し、X3の職場歴と胸膜悪性中皮腫との関係を調査してくれるよう依頼したこと、当初Y会社はX3の悪性中皮腫と業務との関係は不明であると主張していたこと、厚生労働省が平成18年に作成した手引きにおいては、X1及びX2が従事していた業務で使用したタルクに不純物として石綿が混入している場合があると指摘されていること、同年10月6日にX1、X2及びX4がX組合に加入して分会を結成し、Y会社に対し、団体交渉を求めたことなどの事情が認められる。 このような事情からすれば、X1及びX2がY会社を退職してからの相当の期間が経過しているものの、その責をX1らに帰することは酷であり、石綿被害の特殊性を考慮すれば、社会通念上、合理的期間内に団体交渉の申入れがされたと解するのが相当である。 したがって、X1及びX2は、労組法7条2号の「使用者が雇用する労働者」であり、X組合は上記両名を代表する労働組合と解するのが相当であり、本件に関し、Y会社には団体交渉を拒否する正当事由があると認めることもできない。したがって、Y会社には団体交渉応諾義務があるというべきである。 |