労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る]   [顛末情報]
概要情報
事件名 南労会(10年度及び11年度賃上げ等)
事件番号 東京地裁平成20年(行ウ)第30号
原告 医療法人南労会
被告 国、中央労働委員会(処分行政庁)
補助参加人 全国金属機械労働組合港合同、全国金属機械労働組合港合同南労会支部
判決年月日 平成21年12月14日
判決区分 全部取消
重要度  
事件概要 本件は、病院が、①平成10年度及び同11年度賃上げについて、誠実な団体交渉を行わなかったこと、組合が新賃金体系に同意しなかったとして支部組合員にのみ定昇を実施しなかったこと、②平成10年度夏季及び年末並びに同11年度夏季の各一時金について、未実施の賃上げを実施しないまま算定したこと、支部組合員に対し遅刻早退控除をしたこと、③支部組合員X1及びX2に対して処分等を理由に平成10年度夏季一時金を減額したこと、④平成11年8月、誠実な団交を行うことなく、新賃金体系の支部組合員への適用を強行したこと、過去の未実施賃上げ分を実施しないまま新賃金体系への移行を強行することにより、支部組合員をそれ以外の南労会の従業員に比べて不利益に扱ったことがそれぞれ不当労働行為であるとして争われた事件である。
 大阪府労委は、①平成10年度及び平成11年度分賃金について、労使間で誠実に協議した上で、それぞれ4月から定期昇給相当の賃上げをすること、②新賃金体系の移行について誠実に協議すること、新賃金体系への移行にあたっては過去の未実施の賃上げ相当額を精算する等、支部組合員がそれ以外の病院職員と比較し不利にならないよう誠実に協議すること、③遅刻早退を理由とした平成10年夏季及び年末並びに同11年夏季の各一時金の減額について、変更前の勤務時間に基づいて遅刻早退回数を計算して各一時金の減額分を算定し直し、既払額との差額を支払うこと、④上記に関する文書の手交、を命じ、その余の申立てを棄却した。
 労使双方はこの命令を不服として、中労委に再審査を申し立てたところ、中労委は、①平成11年8月に実施した新賃金体系について、組合との間で誠実に団交を行うべきこと、②平成10年度及び平成11年度分賃金について、それぞれ4月から定期昇給相当の賃上げをすること、③未実施の賃上げ相当額を精算すること、④遅刻早退を理由とした平成10年夏季及び年末並びに同11年夏季の各一時金の減額について、変更前の勤務時間に基づいて遅刻早退回数を計算して各一時金の減額分を算定し直し、既払額との差額を支払うこと、⑤賃上げ相当額を基準にして、平成10年夏季及び年末並びに同11年夏季の各一時金の支払額を算定し、既払額との差額を精算すべきこと、⑥上記に関する文書の手交を命じ、その余の申立てを棄却した。
 病院が、この命令を不服として提起したのが、本件である。
判決主文 中労委が、中労委平成14年(不再)第15号及び第19号併合事件につき、平成19年12月5日付けでした命令の主文第Ⅰ項の1から6までを取り消す。
判決の要旨 1 争点(1)(平成10年度及び平成11年度賃上げの条件とした新賃金体系移行に関する団体交渉における病院の対応は、労働組合法7条2号に当たるか。)について
 労働組合法7条2号は、使用者が雇用する労働者の代表者との団交を正当な理由がなく拒むことを不当労働行為として禁止している。同号は、労使間の円滑な団交関係の樹立を目的とするものであるから、使用者には、合意を求める労働組合と誠実に団交にあたる義務があり、この義務に違反したと認められる場合も、団交の拒否として不当労働行為となる。そして、使用者が誠実交渉義務を果たしたかどうかは、労働組合の合意を求める努力の有無、程度、これに応じた使用者の回答又は反論の提示の有無、程度、その回答又は反論の具体的根拠についての説明の有無、程度、必要な資料の提示の有無、程度等を考慮して、使用者において労働組合との合意達成の可能性を模索したといえるかどうかにより判断するのが相当である。
 本件各賃上げにかかる団交までに、病院は、組合に対し、新賃金体系移行について、一定の資料を提示しながら、その時点での具体的な説明を行っていたと評価できる行動を採っていた一方で、組合の交渉態度は、病院の提案する新賃金体系について反対を表明し、更なる協議を求め、具体的な資料の提出を要求しながら、病院との合意を模索するような姿勢を著しく欠いたものといわざるを得ない。
 病院は、新賃金体系移行に関する団交において、組合との合意達成の可能性を模索したと認めるのが相当であるから、病院が誠実交渉義務を尽くしていないとはいえず、労働組合法7条2号に当たるとはいえない。
2 争点(2)(本件各賃上げの際、組合が新賃金体系移行に同意しなかったとして定昇を実施しなかったことは、労働組合法7条1号、3号に当たるか。)について
 労働条件に関する団交において、いつどのような内容で妥結するかは、使用者と労働組合の自由意思で決すべき事項である。使用者が、提示した条件を労働組合が受諾すればその要求を受け入れるという提案をした場合、労働組合が受諾しないことの結果としてその要求が受け入れられなくなっても、それは、労働組合による自由意思によってその結果を選択したことによるものであるから、使用者が条件付き提案をしたことや労働組合からの要求を受け入れないことが、直ちに不当労働行為に該当するものではない。もとより、条件提示の事情や交渉経緯から、当該条件自体が不当又は合理性を欠くのに、使用者がその条件に固執し、一体としてでないと交渉を妥結しないという態度に出た場合、それに起因する不利益取扱いが不当労働行為と認定されることもあり得るものである。
 病院が提示した新賃金体系移行への同意という本件各賃上げの条件は、その条件が提示された事情や交渉経緯からみて、不当であるとも合理性を欠くような場合であるともいえないから、本件各賃上げが妥結しなかったのは、病院からの説明を受けても新賃金体系移行に反対した組合の選択の結果といわざるを得ない。本件各賃上げに関し、組合が新賃金体系移行に同意しなかったとして、定昇を実施しなかったことが、従前から新賃金体系導入に反対してきた組合を嫌悪し、支部組合員を経済的に不利益に取り扱ったとも、組合の運営に支配介入しその弱体化を企図したもであるということもできず、労働組合法7条1号、3号に当たるということはできない。
3 争点(3)(新賃金体系への移行に際し、組合が求める過去の賃上げ分の精算に応じなかったことは、労働組合法7条1号、3号に当たるか。)について
 新賃金体系移行に関する団交における病院の対応は不誠実とはいえず、支部組合員とそれ以外の病院の職員との間に生じた基本給の格差は、病院が提示した条件を受諾しないとした組合の選択の結果によるものというべきであることなどからすると、病院が、新賃金体系の移行により賃金と賃金体系の問題は終わったとの対応に終始し、組合らが求める過去の未実施賃上げ分の精算に応じなかったからといって直ちに支部組合員とそれ以外の病院職員との間に生じた賃金格差を固定させ、支部組合員を経済的に不利な状況に留めようとしたものとみることはできない。
 新賃金体系への移行に際し、組合が求める過去の未実施賃上げ分の精算に応じなかったことは、従前から新賃金体系導入に反対してきた組合を嫌悪し、支部組合員を経済的に不利益に取り扱ったものとも、また、組合の運営に支配介入しその弱体化を企図したものともいうことはできず、労働組合法7条1号、3号に当たるとはいえない。
4 争点(4)(平成10年度夏季及び年末並びに平成11年度夏季の各一時金について、平成3年及び平成7年の勤務時間等の変更に基づく遅刻早退控除により、支部組合員の本件各一時金を減額したことは、労働組合法7条1号、3号に当たるか。)について
 病院による、平成3年及び同7年における診療時間及び勤務時間の変更の一方的実施が不当労働行為に当たるとはいえないことによれば、支部組合員が、組合の指示によって同変更に従わず、組合ダイヤに基づく勤務を行ったことは、債務の本旨に従った労務の提供ということはできないし、また、不当労働行為への対抗措置としてやむを得ないものであったとはいえないから、労働組合の正当な行為であるともいえず、違法な行為であるといわざるを得ない。してみれば、職員が遅刻や早退をして、これに相応する労務の提供がない場合に、それを考慮し、一時金を減額することは不当とはいえないし、減額の内容自体も不合理とはいえない。  病院が遅刻早退控除を本件各一時金支給の条件とし、実施したことが、支部組合員に経済的打撃を与え、組合の運営に支配介入して弱体化を図ったものということはできず、労働組合法7条1号、3号に当たるとはいえない。

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成11年(不)第46号、同年(不)第105号、平成12年(不)第30号 一部救済 平成14年3月29日
中労委平成14年(不再)第15号・第19号 一部変更 平成19年12月5日
東京地裁平成20年(行ク)第244号 緊急命令申立ての却下 平成21年12月14日
東京高裁平成22年(行コ)第23号 棄却 平成23年9月30日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約283KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。